|
マニラから陸地移動で3時間。アニラオは古くからのダイビングポイントとして知られているが、穏やかで安定した海況と珊瑚礁の美しさは、水中世界を楽しむという原点を思い出させてくれる場所だ。 中でも「カテドラル」というポイントは、その名の通り、海底に十字架が沈められているアニラオの名物スポット。 魚が餌付けされており、朝食の残りのパンやウインナーを細かくちぎって海中に巻けば、一瞬にして色とりどりの魚たちに周囲を覆いつくされてしまう、とても賑やかな場所である。 しかし、どうみてもこの十字架は墓標だ。誰の墓標なのだろう? 現地人ガイドに尋ねてみると、カタコトの英語で 「何代か前のフィリピン大統領の墓標なんだよ。本物のお墓はもちろん陸地にあるけれど、こよなく海を愛する人で、もし自分が死んだら海底にも墓標を建ててくれと遺言があったらしい」と説明してくれた。 ダイビングを始めた当初、1つ思ったのが「ダイバーは海で死んではいけない」ということだった。 ダイビング事故で死ぬと、多くの人に迷惑をかけるうえ、他のダイバーにとっても美しい海が悲しみの場所になってしまう。 だけど、自分が天命を全うした後ならば、こういう墓標を作ってもらうのも素敵なことかもしれない。 大統領の海底の墓標の周囲には、幾種類ものカラフルな魚たちが群れ集い、まるでお墓に手向けられた花束のように、華やかに散っては舞い踊っていた。
|