海の物語 〜Jemi Story〜



          碧(あお)一色の世界に包まれて。


今まで潜ってきた世界各地の海をテーマに
短い散文を書き綴ろうと思っています。
今後、少しずつアップデートをしていきます。



魚たちに見守られたカテドラル(十字架) 〜フィリピン・アニラオ

マニラから陸地移動で3時間。アニラオは古くからのダイビングポイントとして知られているが、穏やかで安定した海況と珊瑚礁の美しさは、水中世界を楽しむという原点を思い出させてくれる場所だ。
中でも「カテドラル」というポイントは、その名の通り、海底に十字架が沈められているアニラオの名物スポット。
魚が餌付けされており、朝食の残りのパンやウインナーを細かくちぎって海中に巻けば、一瞬にして色とりどりの魚たちに周囲を覆いつくされてしまう、とても賑やかな場所である。
しかし、どうみてもこの十字架は墓標だ。誰の墓標なのだろう?
現地人ガイドに尋ねてみると、カタコトの英語で
「何代か前のフィリピン大統領の墓標なんだよ。本物のお墓はもちろん陸地にあるけれど、こよなく海を愛する人で、もし自分が死んだら海底にも墓標を建ててくれと遺言があったらしい」と説明してくれた。
ダイビングを始めた当初、1つ思ったのが「ダイバーは海で死んではいけない」ということだった。
ダイビング事故で死ぬと、多くの人に迷惑をかけるうえ、他のダイバーにとっても美しい海が悲しみの場所になってしまう。
だけど、自分が天命を全うした後ならば、こういう墓標を作ってもらうのも素敵なことかもしれない。
大統領の海底の墓標の周囲には、幾種類ものカラフルな魚たちが群れ集い、まるでお墓に手向けられた花束のように、華やかに散っては舞い踊っていた。



極楽鳥の鳴く島で 〜パプアニューギニア・マダン

いつものように気ままな1人旅で、ダイビング器材を抱えて飛行機に乗り込んだのが1999年の暮れ。2000年を迎えるのだから、ちょっと変わった場所で過ごしたいという気持ちでパプアニューギニアの地に立った。
息苦しくなるほどの濃い群青の海には、今まで見たこともないような巨大なチャコールグレーのテーブルサンゴが重なり合うように群生している。
まだダイバーたちの手垢にまみれていない、自然そのままの海。
陸地は極楽鳥やフルーツコウモリ、世界最大のアゲハ蝶といった希少種の宝庫であり、ジャングル地域では精霊信仰の名残りを残す。
プリミティヴな風土と環境に色濃く包まれたこの国は、現代文明と融合しながらも、「決して文明の毒気には侵略されないぞ」という大自然の意思が、海にも陸地にも、そして人にも残っているかのようだ。
元旦の夜明け、海辺を散歩していると1人の現地人の男性と出逢った。「Happy new year」の挨拶から始まったひとときの会話の後、
「僕の村では新しい年の最初に出逢った人に、贈り物をする習慣があるんだ。あなたにこの帽子をあげよう。僕がこの帽子をかぶっているとき、山で極楽鳥を見たから、これを持っていればきっとあなたにも幸せが訪れるよ」と褐色の大きな手で、彼の毛糸で編まれたレゲエ帽をかぶせてもらった。
思いがけない新年のプレゼントに驚きながらも、元旦のダイビングはその帽子をかぶったまま海に潜ることにした。
きっともう2度と会うことのない人からもらった、「極楽鳥を見た人は幸せになれる」という伝説のお裾分け。ダイナミックな自然に満ちたパプアニューギニアの海を思い出すたび、今もタンスにしまってあるあの帽子を取り出して眺めてみる。あの素朴な笑顔の青年も、きっと幸せな人生を送っていることだろう。



海中のサンクチュアリ(聖域) 〜フィリピン・アポ島

小さな無人島を含めて、7000以上もの島々からなるフィリピンは、何度訪れても決して飽きさせない、魅力にあふれたダイビングポイントを幾多も抱えている。
ビサヤ諸島のネグロス島近くにある、アポ島。
ここは、いわゆるサンクチュアリと呼ばれる漁業禁止区域がある。
国によって手厚く保護されている海域のため、1日あたりの入島制限人数はあるものの、ダイビングは可能だ。
また、他の島にもサンクチュアリは多く存在するが、アポ島のサンクチュアリはクマノミ城とよばれるイソギンチャクの根が無数にあり、カクレクマノミやセジロクマノミ、ハマクマノミとカラフルなクマノミたちが海中を華やかに賑わわせていて、ダイバーの心をなごませてくれる。
しかし、このポイントは潮流が突然激しくなることが多い。さっきまでゆったり海中散歩を楽しんでいたはずが、いきなり川の流れのような潮流にのまれ、ダイバーは自力ではどうすることもできずに、ただ流されながら浮上を始める。
まるで鯉のぼりのような状態で海面を目指しながら、サンクチュアリの光景を見下ろすと、クマノミたちは激流の中でも相変わらず、棲み家のイソギンチャクの周囲をチョコチョコと出入りしている。アポ島のサンクチュアリは、多くのダイバーを魅了しながらも、決して人間に踏み込ませない聖域としての威厳を、激しい潮流によって守り続けているのかもしれない。


 

jemi storyは随時追加していきます。
ときどき覗いてくださいね!







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