| キンリョウヘンがニホンミツバチを誘うしくみ |
キンリョウヘンにニホンミツバチが誘引される現象は、3つに分けて考えなければなりません。■1.働きバチの訪花行動
多くの花は、ミツバチが好む匂いを出し、そして同時に甘い蜜の分泌でミツバチ誘います。ミツバチは花の香と姿をおぼえ花を訪れます。また有名なミツバチダンスにより仲間に花が咲く場所を教えるので、多くのハチが花を訪れることになります。このような行動をミツバチの訪花行動と呼びます。花はミツバチのおかげで受粉が出来るのです。ミツバチに花粉媒介をしてもらっている多くの花はこのようにミツバチを誘うのです。
ところが、キンリョウヘンの蜜腺は、花外蜜腺と言って花の外にあります。これはアリを誘います。花を食べる動物が花に近づけないようにアリを誘うと言われています。それでも、ミツバチはキンリョウヘンを訪れ、体を花に挿入します。きっと他の花と同様ハチにとっていい匂いがしているのでしょう。しかし、人には臭いません。ハチは花粉塊(ポリニア)を背中に付け巣に帰ります。
私は、キンリョウヘン以外に、ニホンミツバチの訪花を受けるランがあるかどうか調べました。次の表がその結果です。カンラン、シュンラン、シラン、スルガラン、カンポウランにミツバチは訪花しました。これらのランには、働きバチが花を訪れます。しかし、キンリョウヘンのように群が集まってしまうことはありません。
種名 学名 結果 カンラン Cymbidium Kanran + シュンラン Cymbidium virescens + ソシンラン Cymbidium Gyokuchin var.Soshin - スルガラン Cymbidium ensifolium + ホウサイラン Cymbidium sinense - カンポウラン Cymbidium dayanum + セッコク Dendrobium monile - フウラン Neofinetia falcata - トキソウ Pogonia japonica - シラン Bletilla striata + エビネ Calanthe discolor - ナゴラン Aerides Japonicum -
カンラン シュンラン シュンラン スルガラン ■2.オバチの訪花行動
雄バチがキンリョウヘンに集まる現象は奇妙です。もともと雄バチは花粉を集めたり蜜を集めたりはしません。もっぱら女王バチと交尾をするために巣箱を飛び立ちます。オバチは、交尾が行われる場所(大きな樹の樹冠上)を飛び回り巣にもどります。他のことを何もしないので雄バチのことを英語ではdrone(怠け者)というくらいです。
このオバチがキンリョウヘンに誘引されるのです。しかも、オバチは、花に頭を突っ込みます。そこで、オバチの背中に花粉が付き、結果的にオバチが花粉媒介をしてしまうことになります。しかし、キンリョウヘンの花に来たオバチの行動は働きバチの行動と少し違います。
右の表は花をつけたキンリョウヘンを巣箱の近くに置き、花にくる働きバチとオバチの行動を一日観察した結果です。働きバチはすぐ巣箱に帰るのに、オバチは長く花の上にいます。その結果、中にはエネルギ−切れになり地上に落下するオバチもありました。こんなオバチを誘引するには、花から何かが出ていなければならないでしょう。
オバチは交尾する時に女王バチの出すフェロモンによって女王バチの近くに集まります。分蜂時に多くのハチは、巣から出て分蜂蜂球を作ります。分蜂蜂球にはオバチも含まれます。分蜂蜂球は働きバチの出す集合フェロモンによって形作られます。だから、オバチもこの集合フェロモンに誘引されることになります。オバチを花に集めるためには、女王バチの出すフェロモンか働きバチの出す集合フェロモンをキンリョウヘンの花が出さなければなりません。
キンリョウヘンにくるニホンミツバチの観察
(1997.5.4 快晴 最高気温25度)
●花粉を付けたハチ ○花に来たハチ ↓花にいた時間時間 働きバチ 雄バチ 10:35 10:50 11:05 11:20 ●●●●●●●●●● 11:35 ● ● 11:50 12:05 ● ○ 12:20 12:35 ●●● 12:50 ●● 13:05 ● ○
↓13:20 ●
↓13:35 ●○○○
↓↓↓↓13:50 ●●●●●●● ●○○○
↓14:05 ●●●●● ○ 14:20 ●●●●●●●● 14:35 ●●●●●● ○○
↓14:50 ●●● ○ 15:05 15:20 ● 15:35 ■ 3.分蜂群や逃亡群が集結
キンリョウヘンにはニホンミツバチの分蜂群や逃亡群が集結します。分蜂が起こりハチが空を飛び回っているとき、花の咲いたキンリョウヘンを群れの近くに置くと多くの場合キンリョウヘンにハチが集結します。しかし、いつでも集結するとはかぎりません。分蜂群誘導板や樹の太い枝に集結する場合もあります。
観察していると、集まりだしたハチ達が飛んでいるハチに「ここに集結しよう」とでも言っているように見えます。着地したハチは、腹部を上げナサノフ腺フェロモンを放出します。多くのハチが集まると多くのフェロモンが放たれ最終的には一ヶ所にすべてのハチが集まります。キンリョウヘンに集結するかどうかは、キンリョウヘンの匂いがハチの集団の出す匂いより誘引力があるかどうかできまると思えます。■ 実験
ところで、キンリョウヘンはハチの集合フェロモンと同じ物質を出しているのでしょうか?これはまだよく解っていません。この問題を解決しようと次の実験を試みました。
■ 1.ハチが集まってくれるのを待つのではなく、キンリョウヘンがあれば必ず集まるようにするため次のようにしました。
90×90pのベニヤ板を庭に用意し、花の咲いたキンリョウヘンを鉢ごとそのベニヤの上端におき、巣板上のハチをベニヤ板の上に落下させました(200〜300個体)。結果は写真のとおりです。ハチは歩いてキンリョウヘンに集まります。
キンリョウヘン(赤褐色花)に集まるハチ キンリョウヘン(黄色花)に集まるハチ ■ 2.キンリョウヘンの花は、蕊柱、唇弁、花弁・ガクからできています。これらのどの部分が出す物質にニホンミツバチの群れは誘引されるのでしょう。それぞれ分けてハチに提示してみました。その結果は全く予想外でした。花の中心部を形成する蕊柱や唇弁には全く集まらず、花弁とガクに集まりました(拡大写真)。この実験を通して花弁やガクから実際に出されているであろう物質の性質についても知見を得ていますが、まだ物質が何なのかは明らかではありません。
花弁・ガクに集まるハチ 花弁、ガク両方に集まるハチ
ハチの訪花行動が見られるシランを使って同じ実験を試みました。キンリョウヘンのようにシランの花弁・ガクにはハチは集まりません。この事実は、ハチの訪花行動を誘う物質とハチの群れを集結させる物質が違うものであり、シランは前者を放出するが、後者を放出しない。キンリョウヘンは両方を放出すると思われます。