【資料15 在留特別許可に関する照屋議員質問書/政府答弁書(99.05.21)】

0.解説
 パスポートを持たずに成田にやってきた人気映画俳優シュワルツネッガーに上陸特別許可を与えた際に、大臣宛に書かせた自筆の反省文が、なぜか大臣の自宅に保管されていたことが露見。これをきっかけに、99年3月、中村法務大臣は議会の追求を受け、辞任に追い込まれることになった。有名人への特別な恩恵措置はともかく、この大臣は著しく家族の結合権を軽視し、この権利の観点からすれば、公平性を欠く決裁を繰り返したことこそ問題であったのである。中村前大臣が拒否した在特案件は52件に及ぶことが明らかになったが、このうち少なからず従前なら許可された事例において、まったく不当な不許可処分が行われていた。
 このような大臣の姿勢が表面化したのは、98年年末のことであった。慌てたのは申請者やその相談を受けている者だけではない。良かれ悪しかれ前例に則って「公平に」審査を遂行してきたといえる入国管理局内でも、大臣がより多くの案件を自ら審査し、前例に反する無軌道な裁決がなされてしまうことに困惑が広がっていた。人気俳優の一件がなぜ露見することになったか定かではないが、その情報源を考えると、こうした官僚側の反発もかなり深いものがあったと思われる。
 さて、この資料は前大臣が下した在留特別許可に関する不許可裁決の処理をめぐる、照屋議員の質問書と、内閣官房による答弁書である。質問書にもあるとおり、不許可裁決を受けた案件では、本人は収容され強制退去令状が交付されたため、やむを得ずこれを受け入れ帰国したものもあるが、不服を訴え行政訴訟に進展しているものも少なくない。入国管理局では大臣決裁の在り方については前大臣以前の状態に戻すという姿勢を固め、後任の陣内(じんのうち)法務大臣もこれに添っているようだ。
 訴訟が係属しているものについて、身柄を解放するように求めているが、政府はあくまで「適切な処置であった」という立場をとり、仮放免に応じようとはしていない。
 また、答弁書で新しく明らかになったのは、平成11年4月16日付けの通達の存在とその内容である。在留特別許可の案件のうち、どこまでを各地方入国管理局の専決とし、どこまでを本省への実質的な進達案件とするかの基準を変更するものであるかを定め、「政治、外交、治安等に影響を及ぼすおそれがあるなど重要な案件以外のもの」を各地方管理局長の専決としている。在特の事例に詳しい大貫憲介弁護士によれば、「申請者の犯した違反の、営利性、組織性、常習性への言及がなくなった。従来はこれに該当すれば進達となったが、今回の通達はよほどの重要なケース以外は、各入国管理局で決することができるようになっている」という。
 なお、この秋から一連の行政裁判の一審判決が下されようとしている。
(99.08.21 渋谷次郎)


質問第17号


在留特別許可に関する質問主意書


右の質問趣意書を国会法第七十四条によって提出する。

平成十一年四月二十二日
照屋寛徳

参議院議長 斎藤十朗殿

 去る三月十七日、参議院予算委員会における在留特別許可(以下「在特」という。)についての私の質疑に対し、陣内孝雄法務大臣は、中村正三郎前法務大臣(以下「前法務大臣」という。)の取り組みの結果を十分に分析し、検討する旨答弁した。また、陣内法務大臣は四月八日、法務大臣室にて右結果についての私の質疑について、要旨、以下のとおり説明した。
(1)前法務大臣の決裁については、妥当であったかどうか検討中である。
(2)入国管理局の所管する事務に関する通達や内部基準については、公開を積極的に検討する。
(3)法務大臣決裁に関する諸通達については、見直しを指示している。
(4)前法務大臣が直接決裁した不許可処分に関する行政訴訟の原告についてのカリ方面、特別放免は司法判断を待って検討する。

 在特は、在留資格のない外国人であっても、日本人と婚姻している等の特別な事情のある場合は、右事情を考慮し、当該外国人に対し、「日本人の配偶者等」等の在留資格を与える処分であるが、右のような特別事情を有する外国人の人権、「日本も加入する「市民的および政治的権利に関する国際規約」第十七条によって保護されることが国際的に認められている家族的結合および外国人と結婚した日本人の婚姻生活を送る権利に鑑みれば、偽装結婚は別として、日本人と結婚した全ての外国人に特権が与えられるべきである。現に、前法務大臣就任前には、それらの外国人に対し、一九九六年には千五百九十八件、一九九七年には千五百五十一件の在留許可処分がなされている。前法務大臣の思いつきで在特の運用を後退させてはならないのであって、今後、国際結婚をした過程を従来以上に保護することが望まれる。
 また、前法務大臣は新聞報道にもあるとおり、事件記録も十分に検討せず、大量の在特不許可処分(出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)四十九条三項の「異議の理由がない」との裁決)をした疑いが強い。その結果、多数の行政訴訟が提起されているところ、そのほとんどの原告が身柄を収容されたままである。収容の継続は当該外国人の権利を損ない、その配偶者である日本人の生活を破壊しかねないものである上、行政訴訟の遂行に支障を来し、当該外国人及びその配偶者である日本人が在特不許可処分を争う機会を奪いかねない。現に、右の不許可処分を受けた外国人の多くは、身柄拘束による拘禁反応のため本国送還を受け入れ、多数の婚姻生活が破壊された。以上に鑑みれば、少なくとも行政訴訟が係属している事例については、本案訴訟の判決が確定するまで身柄を解放すべきである。右の措置は入管実務上特段の問題はなく、かえって入管法五十二条六項の趣旨に添うものである。
 さらに、裁判所による送還停止決定のあった事例については、長期にわたる訴訟期間中、結論を留保して当該外国人及び日本人の婚姻生活を不安定な状態に留まらせることは人道上大きな問題があるので、前法務大臣がした不許可処分を撤回し、在特処分を行うことにより早期救済を図るべきである。伝え聞くところによると、入管内部でも早期救済に前向きな意見もあるが、訴訟担当者が早期救済に反対しているとのことである。

よって次の点について質問する。

一、在特に関する全通達及び内部基準を明らかにされたい。
二、現在検討の対象とされている通達及び検討の方向を明らかにされたい。また、検討の終了したものについては、その検討結果を明らかにされたい。
三、在特手続き(退去強制手続)における審判の結果につき一九九八年中に法務大臣宛に提出された異議の件数及び在特不許可処分の件数を明らかにされたい。
四、前法務大臣が直接決裁した在特不許可の件数及び各案件についての不許可の理由を明らかにされたい。
五、現在係属中の入管法上の処分に関する行政訴訟の件数及び右のうち前法務大臣の在任中の処分にかかわる訴訟件数を明らかにされたい。
六、前法務大臣が、直接決裁した在特不許可処分の当否に関する調査結果を明らかにされたい。
七、在特不許可処分に関する行政事件が係属中の案件につき、どのような基準で仮放免ないし特別放免を行うのか、また、現在何件が仮放免ないし特別放免中であるのか明らかにされたい。
八、在特不許可処分に関する行政事件が係属中の案件につき、どのような基準で、再度、在特を許可する法務大臣決裁を行うのか、各案件につき再度の法務大臣決裁の可否及びその理由を明らかにされたい。

右質問する。



内閣参質一四五第一七号
平成十一年五月二十一日

内閣総理大臣 小渕恵三


参議院議長 斎藤十朗殿
参議院議員照屋寛徳君提出
在留特別許可に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


参議院議員照屋寛徳君提出在留特別許可に関する質問に対する答弁書


一について
 出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号。以下「入管法」という。)第五十条に規定する法務大臣の裁決の特例による在留の許可(以下「在留特別許可」という。)は、入管法第二十四条第一項各号の一に該当する外国人について、法務大臣が入管法第四十九条に規定する異議の申出に理由がないと認める場合でも、当核外国人が
ア 永住許可を受けているとき
イ かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき
ウ その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるときに、その者の在留を特別に許可することができる制度である。
 在留特別許可に関する通達としては、平成十一年四月十六日付け法務省入管管理局長通達「出入国管理及び難民認定法に基づく上陸又は在留に関する異議の申出に対する法務大臣の裁決の特例による許可の一部を地方入国管理官署の長に専決させることについて」が存在するところ、当核通達は、在留特別許可を希望して法務大臣に対し異議の申出がなされる案件の取扱いについて検討した結果、政治、外交、治安等に影響を及ぼすおそれがあるなど重要な案件以外のもので、日本人等と婚姻しており、その婚姻の信ぴょう性及び安定性が認められるものなどについて、行政の簡素化を図るため地方入国管理官署の長が在留特別許可について専決できることとしたものである。
 なお、在留特別許可の許否は、在留を希望する理由、経歴、家族関係、生活状況、素行その他諸般の事情を総合的に考慮した上で個別的に決定されるものであり、これらの事情は個々の案件ごとに異なるため、在留特別許可に関する一般的基準というようなものは存在しないが、右通達からも明らかなように、日本人等との婚姻、家族関係にある者などについては、その事情を十分考慮しているところである。

二について
 在留特別許可に関する法務大臣の裁決について改めて検討した結果、例えば、日本人との婚姻を理由として在留を希望する案件については、婚姻の信ぴょう性及び安定性を判断する際の例示として、具体的に、実子を現に監護、養育していること、送還忌避の手段として婚姻したものでないことなどを挙げ、これが認められるときは地方入国管理官署の長が在留特別許可について専決できることとするなどの整備をした上、一についてでお答えしたとおり、平成十一年四月十六日、地方入国管理官署の長に通達した。

三について
 平成十年中に法務大臣が受理したお尋ねの異議の申出の件数は二千九百七十九件であり、また、同年中に法務大臣が在留特別許可を行わずに異議の申出が理由がないと裁決した件数は百四十一件である。

四について
 中村前法務大臣が異議の申出のなされた全事件について直接裁決をすることとした平成十年十一月二十八日から同法務大臣が辞職した平成十一年三月八日までの間に、同法務大臣が在留特別許可を行わずに異議の申出に理由がないとした件数は五十二件である。その裁決の理由は、日本人との婚姻の信ぴょう性に疑義があること、本国に妻子がいるなど本邦に生活基盤がないことなどであるが、個別事案の理由は、プライバシーにかかわる事項であり、答弁を差し控えたい。

五について
 入管法上の処分に係る行政事件訴訟(執行停止申立事件を除く。)で、平成十一年四月二十二日現在において係属しているものの件数は四十八件であり、そのうち、中村前法務大臣在任中の平成十年七月三十一日から平成十一年三月八日までの間になされた処分に係わるものは二十件である。
六について
 中村前法務大臣においては、関係資料に目を通し、事務当局に説明を求めるなどして在留特別許可の許否を決定していたものであり、事務処理には問題がなかったと考えている。

七について
 入管法第五十四条に基づく仮放免については、収容されている外国人等からの請求により又は職権で、その者の情状及び請求の理由となる証拠並びにその者の性格、資産等を考慮して総合的に判断の上、その許否が決定される。
 また、入管法第五十二条第六項に基づく放免(特別放免)は、送還することができないことが明らかになった被退去強制者に対してなされる措置である。
 なお、退去強制令書発付処分に係る行政事件訴訟(執行停止申立事件を除く。)で、平成十一年四月二十二日現在において係属しているものの件数は十一件であるが、そのうち、仮放免を許可している案件は四件であり、特別放免をしている案件はない。

八について
 法務大臣が在留特別許可を行わずに異議の申出は理由がないと裁決する処分及びこれに続く主任審査官の退去強制令書を発付する処分は、入管法の規定に基づき適性を期して行っているものであり、これらに対して退去強制令書発付等取消請求訴訟が提起されても、原則として裁決を再度行うことはない。しかし、事案によっては、判決によって法務大臣の裁決等が違法であると判断された場合はもちろん、審理の過程において、新たな事情が判明するなどした場合には、当核裁決等を見直し、在留特別許可の可否について再検討することもある。


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