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揺れる配偶者ビザの行方
家族の再統合の原則は未だ確立されず

国際結婚を考える会99年3月号他(予定稿)

 結婚間もない国際カップルの相談を受けるようになって4年がたつ。それほど経歴としては長くはない僕が強く感じていること、それは、この残り少なくなった98年度は、オーバーステイ歴を持つパートナーのビザの発給について、ひとつの転換点となりそうだということである。ここでは、具体的な変更点を挙げながらこの1年の変化を見ていくことにする。
 具体例を見ていくと、やや饒舌になることもあるので、まず結論から述べておきたい。今年度中にあった、配偶者ビザの運用の変化を総体でとらえると次に様にまとめられる。『国際結婚が「良い」国際結婚と「悪い」国際結婚とに区別され、前者へのスムーズな発給が進められるという恩恵こそ存在するものの、「悪い」と認定される基準が全く不鮮明かつ不合理であり、さらに、ひとたび「悪い」と認定された国際家族には過酷な処遇を覚悟しなければならなくなるだろう。』
 このような変化の大きな原因は、そろそろ件数が増えて10年になり結論が必要であるという「時代」的な要請と、日本の法務大臣としては珍しく、ある観点から合理的な線を引こうとする現大臣の方針の二つであるだろう。
 僕自身の活動の拠り所は「たとえ国籍や出身地を異にしようともすべての家族は共に暮らすべきである」という「家族の(再)統合」の原理原則である。しかしながら、この大切な原理原則を、現大臣や政府には認めさせられなかったことを、現時点で急に悔やみだしたのは、じつはこの春に予定されている入管法改正案で悪影響を受ける大半のケースが、オーバーステイがらみの国際結婚カップルのものとなるだろうと悲観しているからである。
 今回の法改正については「悪質で繰り返される違反を取り締まるため」と説明されているが、実際影響を受けるのはオーバーステイ歴のある日本人のパートナーで、「意図せざる犠牲者」といってもよい。「家族の(再)統合」の原理がもし重視されるならばこのような議論はあり得なかったのに!

1年で審査が終了する在留特別許可

 在留特別許可は、日本人と結婚したオーバーステイのパートナーが、日本に滞在しながらビザをとろうとするときの唯一の手段となっている。日本人と法的な婚姻関係にあって偽装でなく、同居生活を営んでいれば、92年頃からはほぼ例外なくこの許可の対象となった。ただし、審査には時間がかかり、東京入国管理局では、通常2〜3年を要していた。ようやくこの原則は96年7月30日に通達の形で外部に公表され、「1年以内の審査」が目標値として掲げられたが、1年で審査をしていた大阪入管は全国的に見れば例外的。多くはやはり従前と同様に審査には時間がかかっていた。
 ところが98年10月ごろから東京や横浜の入国管理局で変化が見られ、98年4月に申請されたもののうち、「問題ない」とされたケースについては1年以内でビザを発給する運用になった。ただしなんらかの疑いが持たれるケースについては、これと別扱いになっている。ようするに申請時にAクラスとBクラスに分類され、優良なケースのAクラスは従来より簡便な審査で済ませ、1年以内にビザが発給されることになり。Bクラスでは、まだ結果が出る時期ではないので不明だが、おそらく従来の2〜3年の審査期間となるのであろう。僕自身はまだ確認していないが、仙台、名古屋や福岡の入管もこれに続くことになるのではないだろうか。

摘発と裁判後の帰国
前進し、また後退する
呼び寄せのビザ取得

 オーバーステイのパートナーがいったん帰国した場合、「1年のペナルティ期間」の後にビザを取って呼び寄せることができる。これは恋愛結婚を前提とすれば、現状ではそれほど難しいことではない。ところが、おなじオーバーステイでも、摘発を受けて裁判を経て帰国した場合だけは全く別の扱いになる。
 これは入管法の条文として入国させるべきでない人を列記している部分に、「1年以上の・・・刑に処せられたことのある者」(同法第五条の4)があり、これに該当するとされているからである。入管では、もしビザを出すにしても「麻薬歴のあるビートルズやマラドーナと同じぐらい、高度な判断が必要になる」と説明している。
 それでは摘発を受けた人のうち、どんな人が起訴を受けてどんな人が起訴を受けないかというと、これがまた明確な基準がない。実感では担当する警察官の時間が許す場合には検察に送られ、忙しいときは入管に送られているというところである。先日も27人が一斉摘発された一件のことだが、このうちの1人であったオーバーステイ歴25年(!!)のフィリピン人男性が検察に送られなかったことがあった。一斉に捕まえると起訴もよほど大変なのだろう。一応の目安と言われている超過年数より、やはり実務面での手数の都合の方が優先されているのである。
 というわけで捕まるか捕まらないかが運しだいなのとおなじくらい、起訴されるか起訴されないかは運しだいなのである。先に挙げた入管法の第五条の4を適用する合理性は極めて怪しいというか、合理性がない。入管の内部ですら、この違いを意識できていたのは発給する審査部門だけなのか、摘発取締部門である十条の第二庁舎の係官ですらこの差異を知らず。「1年たてば帰って来れるから大丈夫だよ」と別れを嘆くカップルを慰めているくらいである。
 裁判後に帰国したパートナーはどうなるのか。たいてい3〜4年の執行猶予期間がつくが、この期間はまず再入国ができていない。98年2月に東京入国管理局でようやく発給されたパキスタン人男性ケースがあるが、これに続くケースを聞かない。担当する弁護士が弁護士会に人権救済の申立をする直前まできて、ようやく発給されたというやや特殊な経緯があった。
 執行猶予期間が終了したケースについては、「特段の情状すべきことがあれば」出ないことはない・・。という状況だろうか。相談を受ければ、みっちり分厚い資料を作る作業が不可欠だろう。そうでもしなければあっさり、「条文にある拒否事由にあたる」と蹴られるのが関の山である。
 ところが昨年の暮れから、十分資料を提出したつもりの執行猶予終了後のケースまで拒否され続けている。また、この2〜3年の積み上げで獲得した到達ラインが後退する兆しを見せている。

今季通常国会に提出される
国際結婚のパートナーを狙い撃ち

 今年の予算審議は例年になく急ピッチで進んでいる。3月中旬からは、各種の法案審議にとりかかることになるだろう。今年の法案の中には10月に中村法務大臣の発言の形で報じられてはいる入管法の改正がある。今回の改正の目玉になっているのは、「ペナルティ期間の延長」。もう一つの目玉である「不法滞在罪」が一般にわかりにくいこともあって、新聞やテレビの見出しやテロップになるのはペナルティ期間の延長の方だろう。現行の1年から3年か5年になると思われる。結婚生活を決意しながら1年は待てても、3〜5年間の別居生活が強いられることになりそうだ。
 延長の理由は、繰り返される不良外国人の再入国を防ぐためというものだが、これが全くの筋違い。そもそもオーバーステイ歴のある外国人に、再入国が許されることは現在でもまずあり得ないのだ。再入国してオーバーステイを繰り返している人は、偽名や別人や他の国のパスポートを使っているから再入国できるのであり、万が一オーバーステイ歴が分かれば、即刻ビザは発給拒否になる。ペナルティ期間が1年だろうが5年だろうが、実態には全く影響を与えないだろう。
 現在1年後の再入国が許されているのは、ほとんど例外的に特別な事情がある人にだけである。そしてその大半は日本人と結婚したパートナーだ。
 法改正の趣旨が取り締まり強化にあり、その報道陣受けを考えれば「ペナルティ期間の延長」は有効な手段なのかも知れぬが、その陰で国際結婚した夫婦の「家族の(再)統合」の権利が犠牲になろうとしている。

慣例主義から原則と合理性の
重視する法相

 この原因は日本の法務大臣としては珍しく、ある観点から合理的な線を引こうとする現大臣の方針によると思われる。裁判後の帰国者を呼び寄せるケースなどは大臣が実際に直接決裁して、拒否しているという関係者の証言もある。在特でも摘発を受けた後のケースなど、じっさいに大臣が決裁する場合があって拒否の事例が報告され始めた。合理的な線引きに基づく明快な運用という方針には好感すら覚えるのだが、ことオーバーステイ歴の絡む国際結婚のケースについて、許可・不許可の判断基準は、これまでの前例を覆し、僕から見れば不可解なものとなった。
 これまでは認められていたはずの国際結婚パートナーのビザが拒否されるようになり、いつ日本で共に暮らせる日が来るのかわからないカップルを目の当たりにするにつけ、国籍や出身国をお互いに異にする家族、つまり国際家族が共に暮らす権利、「家族の(再)統合」の原則は未だ公認されておらず、他の観点から線が引き直されようとしている。ペナルティ期間の延長はその代表例と見るべきだろう。
 日本の入管行政は従来において、慣例や前例にのっとってのみ、非常にスローなペースでしか変化しないという特質を持っていた。僕自身、これまで、原理や原則を訴えることなく、前例からほんの少し外側にはみ出す案件を、世間的な情に訴える手法でビザを取らせることを繰り返し、少しずつどんな国際カップルにも共に住める権利を実現できる日がいつか来るのではないかと考えていた。
 しかし、どうやらこれまでの考えは少し甘かったのかも知れない。思えば時代は、人的な大量移動が始まって10年を経過し、新たな原則が検討される時代にさしかかっているのである。不況という背景は保守的、国粋的な考えに追い風となり、僕らには向かい風に働くが、それでも正面から「家族の(再)統合」を人々が国境を超えて活動する社会には必要な原理原則として訴える必要性を痛感するのである。

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