肥満患者の福音となるか、食欲抑制ホルモン「レプチン」 |
肥満学会はじめ「肥満」をターゲットとする産業界が、熱い視線を送っているものに「レプチン」があります。1994年に遺伝性肥満マウスの遺伝子の研究から発見されたホルモン(蛋白質)で、動物の脂肪組織から分泌され、強力な 「食欲抑制作用」と「エネルギー消費増大作用」を持っています。
すべての蛋白質は特定の遺伝子により作られます。(遺伝子がコードすると言います)。レプチンをコードする遺伝子が正常であれば、体重はその人の遺伝的に定められた一定値に保たれるようなっています。(これを「体重のセットポイント説」と言う)。
一時的に過食などで体脂肪が増えると、脂肪組織からのレプチン分泌が増え、それを脳が感知すると、脳は食欲抑制とエネルギー消費増大によって脂肪量を減らそうとします。すなわち体脂肪量の変化を脳に知らせるシグナルがレプチンなのです。
肥満患者ではレプチンをコードする遺伝子が正常に働いていないために、この分泌が少なく、(体重のセットポイントが高く設定され)、食欲抑制、エネルギー消費増大が働かず、肥満しやすいという理論が成り立つかのように考えられます。
すでに国際肥満学会などでは、レプチンを患者に投与して、「体重減少効果」が認められたとの報告もあり、米国では臨床検査が進行中とのことであります。
ところが現実はそう甘いものではなく、肥満患者にとって救世主のごときレプチンにも問題がいくつかあることがわかってきました。
肥満患者のレプチン量を調べてみると、決して少なくはなく、かえって「高レプチン血症」であることがわかりました。すなわち肥満患者でも95%の方では遺伝子に異常はなく、レプチンは多量に分泌されているのです。それでもやせないのは、レプチン量を感知する脳の視床下部のレセプターそのものか、それ以後の伝達経路に問題があることが推測され、レプチンの「効き目」が悪くなってしまっていることに原因がありそうです。(これをレプチン抵抗性と言う)。
またレプチンにはこの「主作用」のほかに、生殖機能維持作用、糖代謝亢進作用、血圧上昇作用、免疫調節作用などが「副作用」としてあり、すべての肥満患者に使用してよいのかという議論も盛んになっています。
レプチンもそうなのですが、人間の体内で自然に作られている物質(ホルモン、蛋白質、酵素、神経伝達物質など)を「直接体内に入れ」たり、その物質の生成や阻害を「直接コントロールする」薬品を使用することは、別項の精神安定剤の例に示したように、特別な注意が求められ、決して安易に使われるべきではありません。
タイトルにも「肥満患者」と書いたように、レプチンは若い女性がダイエットの目的で飛びつくようなものではないのです。(別項、別項参照)。
健康面での老後の準備は何才から必要か |
国の年金財源、健康保険財源、少子化問題などから将来の経済的不安を抱え、最近若い人の間で「老後の経済的準備」を実践し始める方が、増えてきているようです。「老後にはどのくらいの貯金が必要か」などという、記事がそれを助長しているようです。
たしかに将来の不安を考えると、これらの記事に書かれているような、経済的準備は必要と思いますが、ただこのような「予測」は、「将来とも健康である」という条件で算出されていることを考えなくてはなりません。
「健康であるか、何か病気を抱えているか」とでは、長期にわたる中年以後の経済的負担には、数倍の違いが生ずるのではないでしょうか。したがって「老後の準備」とは「経済的準備」以上に、「健康を保つための準備」が必要です。
病院や漢方薬局を訪れる方の大半は、すでに検査結果で異常が出たり、病名がつけられている段階で「完全に治すには遅すぎる状態」になっているのが残念でなりません。その点から考えても「治療より予防が大切」ということがおわかりいただけると思います。また治療に必要な経済的負担にくらべ、予防に必要な費用は極めてわずかなものなのです。
別項に書いたように、人間の免疫システムは18才をピークに低下がはじまり、30才以後にはその能力は極端に衰え(この年齢で「低下した免疫システム」の監視の目をくぐりぬけ「ガン細胞」が分裂を始め、10年から20年経て「がん」となって発見される)、「爬虫類以前」の防御システムでもある「治癒システム」によりやっと健康状態を支えることになります。(別項参照)。この重要な治癒システムも30才を過ぎると徐々に低下が始まり、40才を過ぎると低下の勾配は急激になります。
これらを考えると「理想的には30台後半、遅くとも45才」が、「健康な老後」のための準備を始めなければならない年齢と言えるでしょう。
ところがこの年齢では、仕事や育児、子供の進学問題などの忙しさに紛れて 「健康問題」などを考える余裕はないのが実情でしょう。しかし何かの拍子に、ふと「年だな」と感じる瞬間が必ずある筈です。この幾つかの「瞬間」を感じたときこそが、「準備」をスタートする時なのです。
成人病(生活習慣病)、慢性疾患に関する予防法には、ストレスをためないとか、栄養に気をつけるとか、睡眠を十分とるとか、適度の運動をするとか、ごく当たり前のことが言われます。もちろんこれらも基本的には重要でしょう。しかし私が特に言いたいのは、「両親(家系)の持っている病気」に注目することです。これら病気は遺伝的要素が非常に多いものです(別項参照)
例えば「がん」、「肝臓病」、「高血圧」、「自己免疫疾患」、「糖尿病」、「脳血管障害」、「ぼけ」などそれぞれの予防法は違いますので、まずこれらの予防法の情報を集め、実践することです。忙しさの中でも心がけさえすれば、実践出来ることはいくらでもあるはずです。
何よりも大切なことは、生体防御システム(3つのシステムと治癒システム)(別項参照)の乱れと低下を防ぐことです。ストレスの解消、食事、過労の防止、睡眠、運動などが基本的に大切です。実践が難しい場合には、次善の方法として免疫システム、治癒システムなどの乱れや低下を防ぐ、薬や健康食品などを取り入れることも、手軽でかつ確実なお勧めできる良い方法です。
しかし薬や健康食品には、いかがわしい物もたくさんあります。通信販売などより信頼のおける専門家のいる薬局などで、相談されることが大切です。たった一人の「学者?」の「個人的」研究から、「がんが治る」などと書物で宣伝しているものではなく、少なくとも「複数」の大学、研究機関で研究され、多くの論文などで研究内容が公表されているかを確かめることが大切でしょう。
なぜ心臓に「がん」が出来ないか?・・・活性酸素の恐ろしさ |
心臓は死ぬまで動き続ける宿命を持った臓器で、エネルギー代謝も他の臓器にくらべ、非常に活発です。そのため心筋の細胞には、あとから述べるエネルギー製造装置「ミトコンドリア」がたくさん存在します。エネルギー代謝が盛んということは、これもあとから述べる「活性酸素」の生成量も多くなり、そのために「がん」の発生が多くなる筈です。ところが不思議なことに心臓には、滅多に 「がん」が出来ません。
なぜでしょうか。その理由としていろいろな説がありますが、心筋には「活性酸素の傷害に対する抵抗力がある」という説が有力です。逆に言いますと「活性酸素」こそが「がん発生の大きな要因になっているのではないか」ということです。そこで今回は、「がん」をはじめとする「老化」が関係する、いろいろな病気の原因と考えられる「活性酸素」について書いてみたいと思います。
話は46億年前の「地球誕生」にさかのぼります。このころの地球の酸素濃度は現在の1万分の一という微量でしたが、海中に生まれた植物が「光合成」により作った酸素をはきだすようになり、6億年前には現在の100分の一程度にまで増加してきました。(パスツール点という)。
それまでの生物は、酸素を利用しないでエネルギーを獲得するものだけ(嫌気性細菌)でしたが、パスツール点を過ぎると、「呼吸」という酸素を使ったエネルギー獲得方法をとる生物が生まれてきました。それはエネルギー効率が19倍も高い方法でしたから、生物の進化は爆発的に進み、現在に至っているのです。ところがエネルギー効率と引き換えに、生物は「活性酸素」という「危険物」を背負い込んでしまいました。
活性酸素には大きく分類すると次の6種類があります。すなわち細胞のミトコンドリア内で、食物の中のエネルギー源(水素)と、呼吸による酸素からエネルギーを生成する過程(これは少々難しいので最後に簡単に記します)で出来る3種類
@ヒドロキシラジカル (・OH)
Aスーパーオキシドアニオンラジカル
B過酸化水素
と、ある色素の存在下で酸素に光照射すると生ずる、C一重項酸素と、ミトコンドリア内で出来た@やAが体の構成成分である「不飽和脂肪酸」に作用して出来る、D「過酸化脂質」と、E「過酸化脂質ラジカル」があります。(なお活性酸素とフリーラジカルを混同するむきもありますが、「不対電子を持つ原子、分子」をフリーラジカルと言うので、BCDはフリーラジカルとは言いません)。
前置きが長くなりましたが、活性酸素の働きを説明しましょう。活性酸素には「有益な」面もあります。例えば酵素反応を促進する、細胞内情報伝達のメッセンジャーになる、細菌を殺す等があります。すなわち活性酸素は、生体とのバランスが保たれている時には有益なのですが、過剰になると毒性を発揮するのです。そのため進化の過程では、多くの「種」が活性酸素のために絶滅してしまったと言われています。
進化の過程で、生物はこの有害な活性酸素を消去する物質を作り出してきました。代表的なものがAを消去する酵素SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)、Bを消去する酵素、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼです。ところが最強の活性酸素であるヒドロキシラジカル(・OH)を消去する酵素は、まだ生物は作り出していないのです。(もし作り出すことが出来れば、「不老不死」が実現するかもしれませんが、それは自然が許さないでしょう)。
酸素そのものにも「酸化力」がありますが、活性酸素には「さらに強力な酸化力」があり、DNA、細胞膜、蛋白質等に傷害を与えます。これを生体への「酸化ストレス」と呼びましょう。この「酸化ストレス」こそが活性酸素の「猛毒」たる所以なのです。(今まで述べてきた、体内で発生する「内因性」活性酸素以外にも、酸化ストレスを生ずるものとして、放射線、発がん物質、医薬品、アスベスト、食物、環境汚染など「外因性」のものもありますが、最終的にはこれらの物質も、体内で活性酸素を発生させるので酸化ストレスとなります)。
次にこの「酸化ストレス」が人体に与える「害」について、「老化」と「がん」について述べてみたいと思います。「老化学」という学問は、比較的新しいもので、まだ多くの学説が乱立している状態と言われています。その中でも比較的 「有名な」学説に「プログラム説」、「分子傷害説」、「フリーラジカル説」があります。
「プログラム説」というのは、寿命を決定する遺伝子が存在し、老化はこの遺伝子に書き込まれたプログラムによって進行するというものです。しかし極く下等な生物に「それらしき遺伝子」が発見されているだけで、人間にはまだ見つかっていません。
「分子傷害説」というのは、DNA、蛋白質、細胞膜、コラーゲンなどの体を構成しているものの分子が傷害を受け、時間の経過とともに機能が衰え「老廃物」となって老化を進めるという説なのですが、これら分子に傷害を与える「原因」について、「統一的」に解釈できない欠点があります。
「フリーラジカル説」(活性酸素説)というのは、1956年に登場するのですが、1969年に前に述べた活性酸素消去酵素「SOD」が発見され、ミトコンドリア内でのエネルギー生産過程で発生する活性酸素の重要性が認識され、さらにそれらが細胞膜に傷害を与えて生ずる、過酸化脂質や過酸化脂質ラジカルも、生体に有害な作用を及ぼすことがわかったために、多くの学者の賛同を集めるようになりました。これは前の「分子傷害説」の「原因」の部分を「統一的」に説明できるために、現在「主流の学説」になっています。
つぎに活性酸素と「がん」について考えてみます。その前に「老化とがんの原因は同じではないか」ということを考えてみましょう。「この数十年の間にがんが急速に増えている」といわれていますし、実感としても肯定できます。
ところが実際には増えていないのです。単に「がん年齢」である「65才以上の老人」が増えているだけなのです。(年齢訂正死亡率でみると、一部の「がん」には例外もありますが、この20年間にはほとんど増えていません。)それは 「がん」が年齢に対して、指数関数的(N剩に比例、N=5〜6)に増えるからなのです。例えば40才の方に比べ、60才では11倍、65才では何と18倍、がんの発生の確率が増えます。
がんの発生にはDNAの塩基配列を変えてしまう、イニシエーションと、その後長期間にわたる、プロモーションの段階がありますが、活性酸素は両方に関係するようです。
以上述べてきたように、酸素呼吸を続けるかぎり活性酸素の発生を防ぐことは出来ないし、一番害になるヒドロキシラジカル(・OH)は、消去する酵素さえないことを考えると、「酸化ストレス」を軽減することが、「がん」をはじめとする「老化病」防ぐ上で、大切なことがおわかりいただけたと思います。
「酸化ストレス」を防ぐ方法は、前に述べた「外因性」のもの(発がん物質、放射線、環境汚染等)を体内にとりこまないこと、(消極的であるが)ビタミンC,ビタミンEなどの「酸化防止剤」を服用することなどがありますが、もっと大切なことは、活性酸素で傷つけられた細胞の「傷」を修復する「治癒システム」の機能低下を防ぐことではないでしょうか。(生物は呼吸をやめるわけにはいかないのですから)。
最後に「食物と呼吸による酸素からエネルギー(ATP)を生成する過程」を簡単に説明します。
まず細胞の中のミトコンドリア内で、食物というエネルギー源から水素を取り出し、一旦NADHという形で蓄え、その後水素の持っている電子を呼吸鎖に送ります。(第一段階)。その電子を4段階に分けて酸素に与え、酸素は還元されて水になります。(第二段階)。この時に前にのべた活性酸素の内、@ABが発生します。この時には水素イオン(プロトン)も発生し、これがミトコンドリア内の二重になっている膜の内膜から、外膜の間の膜間空間に移動します。そしてその結果生ずる「電位差」と「pH勾配」による駆動力により、ATP合成酵素が燐酸とADPを用いて、エネルギーATPを合成します。
高温で物質と酸素を燃やせばエネルギーが生まれることは、何の抵抗もなく納得できるのですが、体温というはるかに「低温状態」でエネルギーを取り出す、生物のエネルギー獲得のシステムは驚嘆に値しますね。私たちは、毎日何気なく食べ物を食べ、呼吸をしているのですが、細胞内では何と複雑で精緻な化学反応が起きているのかと感動しませんか?。