経済先進国の国民の免疫システムがこの数十年でメチャクチャになった理由

  一生涯、30年から40年という長期間にわたって、免疫学に携わったある有名な老免疫学者が「私はただの一人も免疫病患者を治すことができなかった」と嘆いています。(西原克成著 「免疫病は怖くない」65頁)。

 免疫学はこの数十年で目を見張る進歩を遂げ、利根川博士をはじめとして多くのノーベル賞学者が生まれました。それなのになぜ病人を治せないのか。それは学問の進歩よりも、もっと急速に免疫システムが低下しているからなのです。

 その原因として環境とか食品の汚染など色々議論されていますが、もっと根本的な原因があるのではないかと思います。それが「食べ物のとりすぎ」にあると考えると納得がいきます。

 それを生物の進化から考えてみましょう。35億年前に地球に誕生した単細胞生物は進化を遂げ、約10億年前に多細胞生物になって「治癒システム」を獲得しました。そして9億年という途方もない時間が経過した約1億年前、爬虫類から鳥類に進化した段階で、始めて免疫システムを作り出しました。それ故、治癒システムに比べ免疫システムは、まだまだ「進化の途中」であり、「やわなシステム」であることは別項に詳述しました。

 その「やわなシステム」に追い討ちをかけたのが、人類の「間違えた進化?」なのです。

 では次に人類の進化から考えてみましょう。類人猿から人類が誕生したのは数百万年前といわれています。その後農耕、牧畜など食物を得る技術を人類が獲得したのは、僅か1万年前なのです。この数百万年の間、人類は1日のほとんどを「食料獲得」のためだけに費やしていた筈です。それは「文明」が生まれたとされる、4000年前頃には、ある程度の「余裕」が生まれたといっても、それは貴族など一部の支配階級だけのもので、一般の庶民は、やはり1日のほとんどを食料獲得に費やさざるを得なかったと思います。18世紀半ば(僅か250年前!)の産業革命により、「余裕」は多少庶民の間にも生まれたとは言え、その状態に大きな変化がなかったことは歴史をひもとけば理解できますし、現在のアフリカ、アジアの開発途上国の庶民の生活を見てもわかると思います。

 では一般庶民も「食べたいだけ食べられる」ようになったのは、いつ頃なのでしょうか。欧米と日本では多少違うでしょうが、戦争体験を持つ私の経験から考えると、それは僅か数十年前と言えると思います。

 長々と生物や人類の歴史を書いてきたのは、数百万年という「飢餓の期間」と僅か数十年の「飽食の期間」の対比を考えて欲しいからなのです。これは免疫疾患や成人病が激増してきた、この数十年を考える上で非常に重要なことなのです。

 動物は数千万年にわたる「飢餓の時代」の体験から、「食べ物が手に入ったら食べられるだけ食べておこうという本能」が遺伝子に刷り込まれています。これは動物の食行動を観察すれば理解できます。人類にも数百万年にわたる、この 「刷り込み」が行なわれています。しかし人類から「文明を持った」人間になった時に、さらに言えば「食べたいだけ食べられる」ようになった数十年前に、人間はこの「刷り込みの呪縛」から、「知性」によって開放されなければならなかったのです。

 この障害になったのが、欧米流「プラス」の栄養学です。「何をどれだけ食べなければ健康を維持できない」という「恐怖の」理論です。これが「遺伝子刷り込み本能」をくすぐり、現在の「飽食」の時代を作り、免疫システムをメチャクチャにし、半健康人間を作り上げてしまったのです。

 別項(これを先に読んで下さい)に書いたように、免疫システムは主戦場である「体内の本格的免疫システム」と、その前線基地である「腸管免疫システム」で構成されています。飽食によってこの「腸管免疫システム」が、まずメチャクチャにされてしまい、さらに前線基地が破綻した結果、主戦場までが「おかしく」なってしまい、さらに重要なことは、免疫システムを支える治癒システムまでもが「機能低下」を起こしてきてしまったのです。

 すなわち免疫システムは、数百万年の間の「飢餓の期間専門」のシステムであり、現在の飽食の時代に適合できるようには進化していないのです。

 そこで提案するのが「マイナス」の栄養学です。「人間の知性によって本能をコントロールし、現在の食べ物の絶体量を減らし、最低限の穀物、栄養素さえ食べていれば、ゴチャゴチャ考えなくても生きて行ける」という「余裕の」理論です。実際、アフリカ、アジアの開発途上国の庶民の食生活と健康状態を見ていると、この理論が「間違っていない」ことが納得できる筈です。たしかに乳幼児死亡率や感染症死亡率は高いのですが(これは衛生観念の問題)、細菌への免疫システムが確立した成人の健康状態は、経済先進国の成人よりはるかに良いと言われています。(私自身ネパールの山岳地帯を旅した時の経験から、それを実感しています。)

(ただ国連食糧農業機関はアフリカ、アジアには8億人におよぶ「飢餓状態」の人々がいると報告しています。また全世界の食糧生産量の半分が世界人口の25%といわれる先進国だけで消費されているという「分配」の問題と共に、これから非常に重要な問題になることと思います。)

 「いつか食糧危機によって、必然的に食べ物の摂取量が減り、経済先進国の国民の健康が回復した」などというSF小説が生まれるかもしれませんが・・・・ 

家族、特に子供の健康を守るために是非読んで欲しい本

 私は常々、団塊の世代より若い世代の精神的、肉体的弱体化は、その原因をつきつめると、前者はテレビ(特にCM付きの民放テレビ)に行き着き、後者はジャンクフード(特にファストフード)の蔓延に行き着くと考えています。社会評論は、私の領分ではないので、いつか後者について警世の意味を込めて書いてみたいと思っていました。

 ところが最近、私の考えを代弁してくれる本が出版されましたので、健康を守ろうと考える多くの方に、是非読んで戴きたいと思い紹介する次第です。

 「ファストフードが世界を食いつくす」 エリック・シュローサー著
                    楡井浩一訳
                    草思社 1600円

 週刊誌の書評によると、この本は「あまりにも影響が大きい」という理由で、アメリカの大手出版社は出版を断念し、やっと中小の出版社から出版されたと言います。しかしファストフードの蔓延に危機感を感じる多くのアメリカ人から、絶大な賞賛を浴び、ベストセラーになったようです。

 内容は是非読んでいただきたいので、ここには紹介しませんが、本の帯から引用してみます。

 「ファストフード産業は、いまや環境や健康を、自営農民や労働者を、そして国家の権威と文化の多様性を侵食する巨大企業体である。」(アトランタジャーナル)。

 「本書に浮ついた表面だけの批判などない。ファストフードのもたらした産業構造がいかにいびつなものであるかを見事に浮かび上がらせる。食をテーマにするだけの書ではなく、自由市場主義への過度の信奉を批判するすぐれたノンフィクションである。」(ニューヨークタイムズ)。

 「シュローサー氏の告発によって、マグドナルドやケンタッキーフライドチキンなどのレストランチェーンの経営手法が、いかに狡猾であるか明らかになった。」(USウィークリー)。

 日本でもついに狂牛病が発生してしまいました。この病気の原因は、細菌でもウイルスでもなく、牛の体の中に期せずして生まれた「異常タンパク・・・プリオン」と言われており(そのために治療方法がない)、発生原因については、まだ分からないことが多いようです。しかし「胃が4つもあり、反芻する草食動物である牛に、長期にわたり、言わば(共食い)をさせるような(牛骨粉)を飼料として使っていたため」という説には説得力があります。

 一方ユニクロ現象という「安さの追求」の流通革命が、ファストフード、牛丼チェーン、ファミリーレストラン、コンビニ業界に広がりを見せています。「安さの追求」が、流通経費、人件費の削減だけにとどまるだけならば、目くじらを立てるほどではないのですが、「原料費」の削減となると、こと「食」に関しては、看過することができません。

 本書に書かれているように、この業界では「飽和状態」の消費を、いかに「更に増やすか」を追求し、腸管免疫システムが未完成な子供たちや、経済的に貧しいマイノリティーにも触手を伸ばそうと、「安さの追求」に走りました。そのために「悠長な放牧飼育」を廃し、「肥育」という「だだ肥らせる」ためだけの、ホルモン注射、動物性たんぱく質飼料、牛舎内飼育が行なわれ、昔からのカウボーイが象徴する、アメリカ式牧場経営が壊滅してしまいました。

 日本のあるファストフード会社の社長が、「我が社のハンバーガーとポテトを1000年間食べ続ければ、日本人も背が伸び、色が白くなり、髪もブロンドになるだろう」と言ったそうです。(本書 322ページ)。

 数百万年前、人類は発生したアフリカから食物を求めて、あるグループは緯度の高いヨーロッパへ移動し、寒冷地で穀物ができないため狩猟民族となり、あるグループは温暖なアジアへ移動し、農耕民族になりました。日本人も農耕民族として、その食生活に適応した進化をしてきました。(例えば穀物の消化に適応するように腸が長くなった。)

 この長期間にわたる「適応」を無視した食生活が、この数十年という短い間に一気に襲ってきたのです。狩猟民族であるアメリカ白人の健康さえも脅かす食生活が、農耕民族である日本人に与える影響は、想像をはるかに超えると思います。その影響は、既に子供と若者の「肥満とアレルギーと成人病」の激増に現れています。(前項と別項参照)

 大切な子供、孫、そして自分自身のために、私たちは、真剣に考えなくてはならない段階にさしかかっています。本書の最後の一節を引用してこの項を終わりにします。

 「ガラスの扉をあけて、ひんやりとした一陣の空気を肌に受け、列に並ぶ。そして、周りを見てほしい。調理場で働く若者たち、席に座った客たち、最新のおもちゃの広告を見て、カウンター上部の、バックライトに照らされたカラー写真をしげしげと見つめて、これらの食べ物がどこから来るのか、どこでどのように作られているのか、ファストフードを買うという行為のひとつひとつが、何を引き起こしているのか、近くで遠くで、どんな波及効果を及ぼすのか、考えてほしい。そして注文をする。あるいは、後ろを向いて扉から出ていく。今からでも遅くはない。このファストフード国家で暮らしていても、あなたは、自分の好きなように行動することができるのだから。」

コレステロール値は下げなくてはならないという誤解

 今年6月、日本動脈硬化学会は、動脈硬化症の新しい「診療ガイドライン案」を発表しました。これは血清脂質に関する、日本では類を見ない大規模研究(約5万人を対象に、6年間にわたる研究・・・Japan Lipid Intervention Trial;略してJ−LIT)をもとに、制定されました。
(非常に専門的ですので、敢えてリンクは貼りませんが、「日本動脈硬化学会」「J−LIT」で検索すると、その詳細文献を見ることができます。)

 これは従来の高脂血症の投薬基準値を、大きく「緩和」すると同時に、患者個々の 「絶対リスク」(年齢、糖尿病、高血圧、喫煙)に基づく、脂質管理の指標を示した点において画期的なものと思います。

 従来のガイドラインと新ガイドラインの主要な検査値を書いてみます。

                     従来値  新ガイドライン値
 総コレステロール 
 (TC)     高TC血症     220以上   240以上
          境界域       200以上   220以上
 悪玉コレステロール
 (LDL−C)  高LDL−C血   140以上   160以上
          境界域      120以上   140以上
 中性脂肪
 (TG)     高TG血症     150以上   同左

 すなわちJ−LITでのデータ解析から、「心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患の発症リスクが、総コレステロール値で240以上、悪玉コレステロール値で160以上になって初めて有意に上昇する」ということが判明したために投薬基準値を大きく緩和したのです。

 ということは、今までそれぞれの値が220以上、140以上になると、「高脂血症」として扱われ、コレステロールを下げる薬(画期的高脂血症治療薬として登場し、現在最も頻繁に使われているスタチン系高脂血症薬)が投与されていたのは、「過剰投与」だということになるのです。

 しかもこの薬は、年間3000億円も使われていただけではなく、筋肉の成分が血中に溶け出る「横紋筋融解症」という副作用のため、一部は2001年8月に自主的に回収され、残った薬についても、厚生労働省が「副作用を患者によく周知させるための説明文の配布」を製薬会社に指示した薬なのです。

 またJ−LITでは、一部の高脂血症治療薬には、大切な「善玉コレステロール」まで下げてしまい、日本人に多い「高善玉コレステロール値」(この値は高い方が良い)の人には、「逆効果になってしまう」ということも指摘しています。
 さらにJ−LITでは、「コレステロール値を180未満まで下げすぎると、死亡率が有意に高まり、死因には癌が多くなる」と警告しています。

 特に女性の場合、更年期を過ぎると、「自然に」コレステロールが増えることは「当たり前」(女性ホルモンは悪玉コレステロールを減らす作用があり、男性ホルモンは増やす作用があります)なのです。そのため総コレステロール値が200を越えると、 「自動的に」高脂血症治療薬が投与されていたのは、明らかに「行き過ぎ」と指摘する「良心的な医者」もいました。

 もうひとつ「新ガイドライン」で画期的なことは、患者の生活習慣別の「危険リスク」を数値で示したことです。年齢(男性45才以上、女性55才以上)、糖尿病、高血圧、喫煙という4つの危険因子(私は「肥満」も加えるべきであったと思いますが)の組み合わせ毎に、リスクを1倍から24倍まで規定し、それをもとに「脂質管理目標値」を示しています。

 したがって、これらの薬を服用しているか、服用を勧められている方は、本当に服用が必要なのかどうか、担当の医者と相談するか、上記のホームページなどを参考にして、自分でリスクを勘案して、判断することが必要なのではないでしょうか。これからは自分の健康や病気は、全てを医者まかせにするのではなく、「自分でも責任を持つ」という自覚が必要な時代だと思います。

 以上述べてきた事実を考えると、従来の「基準」が「何だったか」ということになります。これも別項に書いたように、「欧米べったり」の「基準値の決め方」に問題があったのではないでしょうか。

 現在の日本人の「危険群」である筈の60才以上の方の冠動脈疾患は、過去と比べてもあまり増えていません。和食文化が主な要因でしょう。近年これらの年齢の方の総コレステロール値も、脂肪摂取が増えたせいか、190前後になっています。しかし米国の同世代ではまだ220位あります。(過去には250レベルだった。)

 問題は現在の日本人の30代、40代です。この世代に限ると米国の同世代と、変わらなくなってきてしまっているのです。この世代が60才を越える年代になった時のことを考えると、危惧を感じざるを得ません。