| 年と共に減るモノは補給すれば良いという誤解(例えばCoQ10について) |
サプリの広告には、「○○は年と共に減少し、○○の弊害が生まれるので補給しなければならない」という「共通脅し文句」が踊っています。試しに「年齢とともに減少する」という語句で検索すると、出るわ出るわサプリの広告の洪水となります。
列挙してみると今流行のCoQ10(これは「仕掛けられた品薄、品切れ」という作戦さえも使った)を始め、コラーゲン、ヒアルロン酸、ルテイン、メラトニン、グルコサミン、乳酸菌、SOD、MSMなどなど。
人間は「過剰なもの」には無頓着な反面、「不足なもの」には神経質という傾向があります。常に食糧不足に悩まされてきた動物の「遺伝子のなせる技」と言えるでしょう。しかし現代は「不足」より「過剰」に気をつけなければならない時代であることは、肥満、糖尿病、高脂血症などの病気の多さからも実感できます。(今回はこの問題には触れません)。
かつて大衆薬メーカーのドル箱だった「総合ビタミン剤」は既に凋落し、メーカーは「次のドル箱」探しに躍起にならざるを得ませんでした。「ビタミン不足」という脅し文句が通用しなくなったためです。また「今までは不足していた栄養成分」を添加して差別を図ってきた食品メーカーも同じ悩みを持っていました。
そこで成長過程や健康状態を維持するために必要な、「外から補給する栄養素」ではなく、「年をとると自然に減少する成分の探求競争」が始まりました。分子生物学をはじめ生化学、分析学の進歩もあり、大学やメーカーの研究所が、時には産学協同で探求を始めました。そして次々と「年をとれば減少する成分」が見つかり、次いで「減少すれば起こりうる健康被害の仮説」も次々と提出されて来ました。これらが今ブームになりつつあるサプリ業界活況の裏事情なのです。
人間は年齢とともに「生産能力」も低下するわけですから、色々なものが減少して当たり前です。たまたま上に掲げたような成分が研究者の「網にかかった」だけなのです。「○○の減少により、○○の弊害が生まれる」というのも、一部は確認されているかも知れませんが、きちんとした証明がなされていないものも多いのではないでしょうか。
それよりも「自然に減少したものを過剰に補ってしまった弊害」は考慮にいれなくても良いのでしょうか。老化に伴い自然に減少するものには、「減少する必然性(合理性)」がある筈です。
それをCoQ10を例として考えてみましょう。このサプリは業界の「仕掛け」がうまく効を奏した「最近のサプリのヒット商品」で、多くのメディアで宣伝されているので、「補給する必要性?」についてはご存知の方も多いと思います。宣伝文句を列挙すると、「エネルギーを作る」、「抗酸化作用がある」、「老化を遅らせる」などがあります。またCoQ10は「老化と共に減少し、食物から補うことは困難なのでサプリで補給する必要がある。」と脅し文句を並べています。
そもそもCoQ10(正式名:ユビデカレノン)は、1974年に薬価基準に収載された医療用医薬品で、エーザイからノイキノンという商品名で販売されました。効能効果として「基礎治療施行中の軽度及び中等度のうっ血性心不全症状」が記載されています。医薬品ですから、消化器系統や過敏症の副作用も記載されています。ただ現在では循環器の医者もあまり使わないため、販売量も少ないそうです。(要はたいして効かなかった?)。
ところがサプリ王国アメリカで1994年にサプリとして発売され、うまい宣伝が効を奏しサプリとしてのトップ商品に踊り出ました。日本では純然たる医薬品を、サプリにすることは出来なかったのですが、アメリカの規制撤廃の強制?を受け、2001年にサプリとして販売されるようになったのです。その裏には御用学者を使ったメーカーの働きかけがあったと思われます。
CoQ10の主な働きに「エネルギーを作る」というのがあります。食べ物と酸素からATP(アデノシン三りん酸)というエネルギーを作る際の補酵素です。
このエネルギー産生システム(細胞内のミトコンドリアにあります)には3つの回路があります。解糖系、TCAサイクル、電子伝達系といいますが、CoQ10は最もATPを作る電子伝達系に働く補酵素です。(したがって最も活性酸素を生成します)。ですからCoQ10を補給すれば確かにエネルギー産生は増えるでしょう。しかし別項に書いたように、この回路では活性酸素も産生されるのです。CoQ10の別の効能に、活性酸素を分解する(抗酸化作用)というのがありますが、「マッチポンプ」ではないでしょうか。(ただしミトコンドリアで産生された活性酸素には、発がん性がないという意見もあるようです)。
CoQ10は体内で合成される(「体内では合成されない」というのがビタミンの定義ですから、CoQ10をビタミンQというのはおかしい)ばかりではなく、食品からも補給され、特に魚からたくさん摂取できます。魚を主な食糧源とするイヌイット(エスキモー)と日本人との血清中CoQ10を比較した論文が、CoQ10のメーカーのサイトに掲載されています。イヌイットの方が血清中CoQ10濃度が高いそうです。ただイヌイットという民族が他の民族より短命だという事実は書かれていません。
では「年とともにCoQ10が減少する」のはどういう合理性があるのでしょうか。あくまで推測ですが、基礎代謝を下げるためと考えると納得がいきます。人間が生活するために必要な最低限のエネルギーを基礎代謝と言います。年齢とともに運動量が減り、エネルギー必要量も減ります。省エネ体質になるのです。(そのため若い時と同じカロリーを取れば「中年太り」になります。)これは必要以上のエネルギーを作る時に必然的に生まれる「活性酸素」の害から、生体を守ろうという生体防御の仕組みではないでしょうか。
活性酸素については、まだまだわからない事が多いのです。東北大学未来科学技術共同研究センター 客員教授の河野雅弘博士は、研究者の立場から次のように書いています。
「(前略)活性酸素という言葉が使われ始めてから約20年が経過し、最近になって、健康、生活習慣病の予防や老化、炎症などとの関係からテレビや雑誌で取り上げられることが多くなりました。その内容をよく調べてみますと、“活性酸素を除去することが体によい”とされる間違った情報に踊らされているような気がします。(中略)これらの活性酸素種は、体の中で組織や細胞、蛋白質や酵素、DNAに損傷や障害を与えますが、その作用機構(反応機構)の全容には多くの謎があって、未だ解明されていません。しかし、最近では、その謎ときが進んでいます。」(中略)
「それでは、人体で活性酸素は生成させたらよいのでしょうか、除去したらよいのでしょうか、専門家でも意見の分かれるところです。残念なことに、現在の科学技術では、体内で生成する活性酸素を直接測定する手段がありません。そのため、どちらかの結論を導くに至っていません。ただ、体内の活性酸素生成を計測することができたら、病気を一掃できるのではとの夢を描く研究者はたくさんいます。(後略)」
このようにCoQ10ばかりでなく、年と共に減少するモノには、「減少する必然性」がある筈です。ですから「減少するものは補給すれば良い」と単純に考えることは、意外に「生物の掟」に反しているかもしれません。また生体反応は多くの物質(成分)が「ある一定の比率」で存在している時に効率よく働きます。それを一つの物質(成分)だけを補給しても、効率良い反応は期待出来ないのです。
もし本当に「自然に減少するものを補う必要」があるのなら、はたして何百種類のサプリを飲めばよいのか途方にくれてしまいますね。
CoQ10だけでなく、アルファリポ酸、L-カルニチン等、最近「アンチエイジング」を標榜するサプリが蔓延しています。これらは、「老馬を無理やりに走らせるための鞭(むち)」と思いませんか。
| やっと緒につき始めた日本の疫学研究 |
「肉を多食すると大腸がんになりやすい」とか、「緑黄色野菜をたくさん食べるとがんになりにくい」等よく見聞きします。これ以外にもさまざまな「食べ物とがん説」が各種のメディアにはびこり、食品や薬品メーカーが「我田引水の説」を掲げ、食品やサプリの販売にしのぎを削っています。現在でも「食べ物とがんとの因果関係」はほとんどわかっておらず、いい加減な情報のみが一人歩きしています。
国民の健康を守る立場の厚生労働省も、信頼出来るデータがないために、口を濁しています。例えば2000年3月31日に策定し、2010年を目標とする「21世紀における国民健康づくり運動」(通称「健康日本21」)や、厚生労働大臣、文部科学大臣が策定し2004年度から実施されている「第3次対がん10か年総合戦略」の中にも、「食べ物とがん」に関する情報は、次の通りで「お茶を濁している」と言われても仕方がない現状です。
「健康日本21」の目標の内「がん」について:
1:たばこ対策の充実
2:食塩摂取量の減少
3:野菜の摂取量の増加
4:1日の食事において、果物類を摂取している者の増加指標の目安
5:脂肪エネルギー比率の減少
6:飲酒対策の充実
7:がん検診の受診者の増加
「第3次対がん10か年総合戦略」の内「がん予防の12ヶ条」:
1:バランスのとれた栄養をとる。
2:毎日、変化のある食生活を
3:食べ過ぎを避け、脂肪はひかえめに
4:お酒はほどほどに
5:たばこは少なくする。
6:適量のビタミンと繊維質のものを多くとる。
7:塩辛いものは少なめに、熱いものは冷ましてから
8:こげた部分は避ける。
9:かびの生えたものに注意
10:日光に当たりすぎない。
11:適度にスポーツをする。
12:体を清潔に
ところが1990年から実施されていた大規模疫学研究のデータが、10年を経過したために少しずつ発表され始め、最近(2005.2.16)では「コーヒー摂取と肝がんの発生率との関係について」という報告がマスメディアで紹介されました。
結論を簡単に紹介します:
「コーヒーをほとんど飲まない人と比べ、ほぼ毎日飲む人では肝がんの発生率が約半分に減少し、1日の摂取量が増えるほど発生率が低下し、1日5杯以上飲む人では、肝がんの発生率は4分の1にまで低下していました。発生率の低下は男女に関係なく見られていました。」
これはJPHC(Japan Public Health Center-based prospective Study)が発表したものです。これはJPHC Study と呼ばれ、厚生労働省がん研究助成金による指定研究班「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」(主任研究者 津金昌一郎 国立がんセンターがん予防・検診研究センター予防研究部長)において全国11保健所と国立がんセンター、国立循環器病センター、大学、研究機関、医療機関などとの共同研究として行われています。
ここに記載されている「コホート研究」とは、「ケースコントロール研究とコホート研究」という対比で考えられる手法ですが、前者は「Retrospective Study、すなわち、解析を行う時点で解析は過去に向かって行われ、後ろ向きでありWhat happened?を問う研究といえる」というのに対し、後者は「解析を現在から未来への向き、つまり前向きに行われるProspective Studyである。What will happen?を問う研究といえる」ということです。
この疫学的研究は、別項に書いた「J−LIT」(血清脂質に関する日本では類を見ない大規模研究(約5万人を対象に、6年間にわたる研究)に次ぐ、日本では珍しい大規模なもので、その概略は次ぎの通りです。
「1990年と1993年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県柏崎、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2004年現在)管内に住む40〜69歳の男女約9万人についてアンケート調査をし、その後2001年まで追跡した調査結果に基づいて、コーヒー摂取と肝がんの発生率との関係について調べた。」
現在までにJPHC Study が公表した「成果」には次のようなものがあります。
飲酒と死亡
喫煙と死亡
肥満指数と死亡
飲酒とがん死亡
喫煙と肺がん罹患
アンケート回答有無と死亡
喫煙・飲酒と胃がん罹患
野菜・果物摂取と胃がん罹患
大豆イソフラボン摂取と乳がん罹患
飲酒・喫煙と大腸がん罹患
食塩塩蔵食品と胃がん罹患
飲酒と脳卒中罹患
食生活パターンと胃がん
喫煙とがん全体の発生率
野菜・果物摂取量と肺がん
緑茶飲用と胃がん
肥満度(BMI)とがん全体の発生率
喫煙と脳卒中
魚・n-3脂肪酸摂取と大腸がん
飲酒と2型糖尿病の発症について
喫煙・受動喫煙と乳がん発生率
飲酒とがん全体の発生率
たばこと自殺について
今回は「食べ物とがん」という情報について書きましたが、マスメディアから流される「情報」は玉石混淆です。「新聞に載っていたから」とか「テレビで言っていたから」とかだけで、「正しい情報」と考えるのは大変危険です。それが健康とか病気の情報だとしたらなおさらです。現在のようにテレビ広告があふれる社会やネット社会は、情報を入手しやすくなった反面、情報の質を判断する「資質」も要求されるようになったのです。新聞やNHKはさすがに「公共メディア」としての矜持を保っていますが(といっても全て信用出来るものとは言えない)、民放テレビの健康番組は、全くの「不健康番組に堕落」しています。そしてすばらしいことばかりを列挙する「メーカー情報」は、まず「眉につばをつけて」「真偽を確かめ」すぐには飛びつかない慎重さが必要です。
今後のJPHCの発表に注目したいと思います。
| 「健康」や「医療」が「産業」と結びつく不幸 |
別項に私の子供時代の・・・終戦後数年・・・衛生事情、特に寄生虫と花粉症、アトピーとの関係等を書きました。今の中年以下の年代の方には想像も出来ない時代だったと思います。今回はそんな時代の健康や医療を、現在との対比で書いてみましょう。
ツベルクリンやBCG接種のおかげで結核は影を潜めてきましたし、ペニシリンを始めとする抗生物質の進歩で、感染症も少なくなってきた時代です。とは言っても1950年の死亡原因の1位は、まだ結核であり、3位に胃腸炎(腸チフスなど)、6位に肺炎が、当時の厚生省人口動態統計に示されています。(ちなみに2位は脳血管疾患、4位は「がん」、5位は心臓疾患)。
10歳前後だったと記憶していますが、私と妹、弟が相次いでひどい下痢になりました。多分伝染性の胃腸炎(腸チフス?)だったのでしょう。かかりつけのお医者さんが毎日のように往診に来てくれ、命を救われました。戦争で片足をなくした「元軍医」でしたが、義足で杖をついて往診してくださる姿は、まるで「神様」のようでした。この頃のお医者さんは、皆このように信頼され、国民から尊敬される存在でした。
当時の平均寿命は60才前後でした。(1950年で男59.57才、女62.97才)。2005年4月WHO発表の「日本人、世界一の平均寿命・・・82才」と比べると、「早死に」見えますが、当時の平均寿命の低さは、乳幼児死亡率の高さによるものであり、現在の平均寿命の高さは、「人間の尊厳」を無視した「延命のための延命策」による「嵩上げ」によるものだと推測されます。
しかし健康状態は、現在の「ストレスのかたまりの半健康状態」に比べ、肉体的にも精神的にも「より健全」であったと思います。加工度の少ない食品、汚染度の少ない空気と水、ストレスの少ない仕事と生活、車がないための適度の運動、テレビがないための「ゆったりとした時の流れ」などなど、現代が捨て去ってしまった「健康の素」が、ぎっしりと詰まっていた時代でした。
その後武見太郎氏が医師会会長になり、1961年に国民皆保険制度が出来ました。彼はその後「保険医総辞退」などの強行策を駆使し、当時の厚生省と渡り合い「けんか太郎」の名を轟かせました。この国民皆保険制度が、その後の日本の医療を大きく方向転換したのですが、私はこれこそが「医療の荒廃」と「医師の権威喪失」の引き金になったと思います。「タダの治療」と「出来高払い制度」が、「乱診乱療」、「金儲け医者」を生むことは、当時でも識者の間で予想されていた筈ですが、その良識がなぜ生かされなかったのか、残念に思います。経済の高度成長に目がくらんだとしか考えられません。(もちろん国民が、「低い負担で平等に医療を受けられるようになった」という点は評価します)。
一時は医者の全盛時代、国民の医療への信頼が築けた時代もあったと思います。しかし「出来高払い」という悪い制度が浸透してくると、徐々に医療がおかしくなってきました。医療にマネー資本主義が侵入してきたのです。
そして人間の体全体を丁寧に観察して診察、治療するという本来の医療が、「くすりと検査」だけの医療に堕落し、医薬業界、検査機器、医療機器業界だけが「この世の春を謳歌し」、医者は権威と尊敬を失い、患者だけが「路頭に迷う」という「医療砂漠」が現実のものになってしまいました。
この現実から国民は医療に見切りをつけ、「自分で自分の体を守る」という選択肢を選んだまでは良かったのですが、「指導者」を間違えてしまいました。本来なら学識豊かな学者や、より身近な医者、薬剤師、看護師、栄養士などが、指導者になるべきであったのに、国民は「見切りをつけた医療関係者」である彼らより、「消費者の味方という仮面をかぶった」マスコミを、指導者として選んでしまったのです。この時マスコミに良識がありさえすれば、国民は救われたのですが、残念なことにマスコミそのものが堕落してしまっていたのです。
新聞、雑誌などの「書き手」は、「医療の本質」を見極めなくてはならないのに、それを怠り、「御用学者」や「マスコミにおもねる医者」の言うがままの記事を書き連ね、広告収入で生きているテレビは、広告主のご機嫌を損ねないような「仕掛け番組」を垂れ流しています。「面白おかしく作られた健康番組」に、国民は洗脳され続けています。得体の知れぬ健康食品(サプリ)に、年間1兆円という膨大な金額を注ぎ込んでいます。つまり「健康」と「医療」が、「産業」という「マネー資本主義」に毒されているのです。
マスコミの多くが、マネー資本主義に侵されているのに対して、ネットの情報は、まだまだ「清潔さ」を維持しているものがたくさんあります。企業ではなく、良心的な個人の発信が多いためでしょう。これからの時代は、これら玉石混交のネット情報から、いかに「より正しい医療情報」を選択するかという「資質」が、国民に要求されるのではないでしょうか。
| 検査項目を増やせば、「病気ではない異常」も見つかってしまう |
日経新聞(2005.5.12)「長寿ニッポン・・からだ異変(下)」の冒頭に二つのデータが載っています。
データ1:「2003年に定期健康診断を受けた約1180万人のうち、何らかの異常を指摘されたのは47.3%。1990年の23.6%から増え続け、10年余りで倍増した」。(この数字は、厚生労働省の用語で「有所見率」と言うらしい)。
データ2:「食生活や運動などに目標値を設けて、生活習慣病の予防を目指す厚生労働省の健康日本21プロジェクトは、昨年10月時点で、53項目のうち4割近い20項目で悪化した」。
記事では「年々健康が蝕まれている」ことを、このデータで示そうとしているのですが、「本当にそうなのかなあ」と思います。(記事の趣旨は「治療より予防」ということで大賛成です)。
なおこの記事の「定期健康診断」のデータは、厚生労働省(労働基準局)の発表のようですから、企業における健康診断のデータと考えられます。
昔の人間ドックというのは、富裕層の「徹底した健康診断」のために生まれた、「治療のためではない検査」だったのですが、80年代後半の成人病検診の「義務化」から、大企業の「検診代行業」(健康保険組合が費用を負担する)として病院に併設されるようになり、「より受診に誘導しようとする意図を持つ検査機関」になりました。(健診専門のクリニックもありますが、特定の病院と提携している場合が多い)。また中小企業では、人間ドックより簡便な「総合健診制度(旧自動化健診制度)」を利用しています。
少し脱線しますが、この総合健診制度は、「日本総合健診医学会」からの認定を受けた病院が、企業の健診を請け負うという制度ですから、人間ドックと同様に、「学会、病院、健保組合(企業)がからんだ利権組織」の上に成り立っているのです。(日本総合健診医学会は、2003年4月に、独禁法容疑で公正取引委員会の調査を受けました)。
それにしても、「何らかの異常を指摘された人が50%近くもいる・・・二人に一人が病人」ということは、どう考えても「異常」です。そこで「異常な有所見率」を示す、このデータの「裏」を考えてみましょう。
早期受診を薦める手段として、別項に書いた「コレステロール値」、「血圧」、「透析に入るべき基準値」など、「正常値」を意図的に低く設定する方法のほか、「検査項目を増やす」、「より高感度な検査項目を導入する」等が、「病気のより早期の発見を目指す」という美名のもとに、画策されているのではないでしょうか。
その最たるものに「脳ドック」があります。特定の検査以外にあまり使い道がない、1台数億円という高価なMR(磁気共鳴)装置の「機器購入費の償却手段」を思いつき、さらにその検査名、「脳ドック」を考えた人の「頭の良さ」に感服します。
脳ドックでは、この高価なMR装置を使ってMRI(磁力線による断層撮影)やMRA(磁力線による脳血管撮影)が行われます。MRIによる脳の断層撮影は、無症候性脳梗塞を多数発見し、またMRAによる脳血管撮影は、小さな脳動脈瘤を多数発見しました。ところが前者は、本当の「梗塞」ではなく「脳の小さい血管周囲の浮腫」だということがわかったのですが、患者には「小さい脳梗塞があります、ぼけの予防が必要です」ということで、以前には脳循環改善剤(メーカーが自主的に生産中止)が、現在はアスピリン、抗血小板剤が予防的に投与されるようになりました。(予防効果があるというデータはありません)。
後者では、発見した「何の症状もない、小さな脳動脈瘤」を危険(手術による死亡率:約1%、手術後の障害発生率:約5%)を冒(おか)してまで手術すべきかが問題となり、最近では、患者に判断を任せるといった「無責任状態」のようです。
「脳ドック」という検査は、遺伝子診断と同じで、「診断」が「治療や予防」より先に進んでしまった悲劇であり、今まで何の症状もなかった人に、「ぼけになるかもしれない」、「くも膜下出血になるかもしれない」という「恐怖を与えるだけ」という結果になってしまいました。脳を検査して、「安心を得よう」と思ったばかりに、逆に不安を背負い込んでしまったのです。この不安がストレスになり、交感神経緊張状態(顆粒球増加)が続き、別項に書いたように、多くの病気をも背負い込む危険さえ生まれるのです。要するに「脳ドック」の有用性はなく、病院側の「経営戦略」だけなのです。
市町村が行う健康診断で「異常なし」だったのに、人間ドックだと「要精密検査項目」がいくつも指摘されます。「もっと精密な健康診断をして欲しい」という要望と、「治療に持ちこもうとする」診療側の「思惑」が一致し、年々検査項目が増え、必然的に「必要性がない高感度の検査項目」も採用されてきました。典型例が別項に書いたPSA検査(前立腺肥大と前立腺がん特異抗原)ですが、そのほかにもいくつか例を挙げてみましょう。
肺がん喀痰検査
「意味がない」と自治体の「がん検診」でも中止になったことでも有名です。
肝嚢胞(肝シスト)
人間ドックの「腹部超音波検査」や「CT検査」で頻繁に発見される、肝臓の中にある「袋状の空洞」で、リンパ液が入っていることが多い。(先天的なものがほとんど・・・実は私も持っています)。ほとんどは病気ではなく、「経過観察」だけで良いのですが、こんな名前を突きつけられると、びっくりしてしまいます。
尿潜血反応試験
腎臓の異常を見つけるには、本当は尿を遠心分離し赤血球を調べるのですが、試験紙で「高感度かつ簡単に」調べられるようになり、小学校の検診にも使われています。その結果、一つのクラスに数人の陽性が見つかり、再検査が要求されるようになりました。激しい運動などで壊れた、わずかな赤血球を検出してしまうためで、10%から20%の「病気でない病人」を作りだしてしまいます。
尿タンパク試験
これも同様で、早朝ジョギングなどでは30%くらいの人が陽性に出ます。生理的タンパク尿で治療の必要はないものです。
LDH(乳酸脱水素酵素)試験
心臓、腎臓など色々な細胞に含まれている酵素で、高い値は「細胞が壊れている」ことを意味します。この検査だけが異常値になる方は結構多く、聞きなれない名前のため心配してしまいます。例えば採血の時、何度も注射針を刺されたり、採血した血液を保存する試験管を振動させた時などに起こる「溶血という赤血球の破壊」で高くなるだけなのです。
かように健康診断には「本当に有効であるか否か」という検討がなされないまま、医療制度として定着してしまった感があります。これは戦後の集団検診により結核が撲滅できたという「幻想」(集団検診、ストレプトマイシン、BCG接種のおかげではなく、衛生状態、栄養状態改善が、「結核撲滅の本当の理由だ」という「衛生学上の有名な事実」)が、原因と言われています。
もし「あなたは健康診断を受けなさい」、「あなたは受けてはいけません」という「くじ引き」試験を15年も続けたら、「健康診断が有効か否か」が判明するのでしょうが、そんなことは倫理的に出来ませんね。
健康診断は「明らかに体調が異常の時」や、「病後の回復の指標を得たい時」などに受ければ良いのであって、何の異常も感じない時に、受けるメリットはほとんどありません。多くの先駆的な医師が、「健康診断への疑問」を提唱するようになりました。
フィンランド保険局が、15年の長期にわたり行った、大規模な疫学調査の結論を思い出して下さい。(別項「フィンランド症候群」)。
人間ドック、まして脳ドックなどには「近づかないほうが身のため」と思いませんか。「二人に一人は病人である」ということは決してありません。