船に戻る途中、不意にレッドテイルの通信機の呼び出し音が響く。
スパイクからだ。
「現在地は?」
繋いだとたん、そう問いかけられる。
通信機の中のその表情に、フェイは質問の意図をくみ取り、先回りして答えた。
「…10分くらいで着けるわ」
「先に行っててくれ」
通信の切れる音。
それきり黙りこくった通信機を無表情にしばらく眺めてから、フェイは旋回して進路を変えた。
いつもの場所にレッドテイルを停め、いつものように小さなフロントで部屋の鍵を受け取る。
部屋まで歩くあいだ中、つやのない廊下の床板が、靴音と共にぎしぎしと音をたてた。
* * *
スパイクがドアを開けると同時に、椅子に座ったフェイが投げやりに足を組み替えた。
「自分から呼び出したくせに、どれだけ待たせんのよ」
フェイはその手に煙草をくゆらせている。
「この前はお前が待たせただろうが」
「あら。あんたそんなこと覚えてるんだ」
笑いを含んだフェイの言葉へは答えず、代わりに煙草を取り上げて吸う。
それが合図のように、フェイは立ち上がってスパイクのネクタイを緩め、外す。
スパイクが今手にしたばかりの煙草を灰皿に押しつける。
フェイはシャツのボタンも一つずつ外すと、上着と一緒に脱がせて床に落とした。
空いたスパイクの手も動く。
フェイを抱き寄せ、唇を重ねた。両足の間に膝を割り入れて身体を密着させる。
お互いの吐息が漏れるのすら許さないほど深く、口づけた。
フェイもその感触を十分に味わってから、冷ややかな笑みを浮かべた。
「がつがつしないでよ」
「お前だって負けてないだろ」
「…冗談」
なおも笑い飛ばそうとするフェイをスパイクはベッドに押し倒し、簡単に上着のボタンを外してその胸を押し開いた。
たわむ乳房を両手で包み込む。
艶やかな磁器を思わせるその肌は、絶妙の弾力でスパイクの掌に吸い付いてくる。その手触りを味わうように指先に力を入れ、そのふくらみの形を変える。
「んんっ」
フェイが眉を寄せた。
それを見ながら、桜色の蕾を指でつまみ上げる。
「あっ…んんっ」
フェイは大きく声を上げ、快感に潤む瞳をスパイクに向ける。
さっきまでの様子から打って変わって、いとも簡単に自分の愛撫に堕ちるこの女を蔑む気持ちと同時にある種の衝動がわき上がってくる。
この媚態がこの女の計算だと分かっていても、高ぶっていく自分を抑えられない。
柔らかなふくらみを掴む片手は残したままで、ためらうことなくもう一方の頂きに吸い付く。
音をたてて舐めしゃぶってやると、フェイの声がひときわ甘くなった。
「あふっ…んっ…ん」
スパイクの背に回した手は、少しずつ指先に力が入ってその甘美感ををスパイクに伝える。
身を捩るたびにせり上がる膝をスパイクは押さえつけ、そのまま押し開いた。
「やっ…」
閉じようとする力に逆らってなおも大きく開かせ、フェイの秘められた部分へと指を滑らせる。
蜜の滲み出るその場所を無遠慮に嬲ってからその源泉を探った。
内側の襞を確かめるように、ゆっくりと指をうごめかせると、フェイの腰が浮き上がる。
「はあっ…んっ…」
「そんなに気持ちいいのか。俺の指を締め付けてるぜ」
「んんっ…言わないで」
フェイの蜜にまみれた指を、その口元へ押し込むと、フェイは躊躇なく舌を這わせる。
スパイクの性器を舐めているかのようにフェイは手を添え、唇で扱きながら、スパイクを上目遣いに見る。
安易な誘い方だと分かっていても、その誘いを無視する理由がスパイクにはない。
それでも、誘い通りに唇を犯さず、代わりにフェイの足を開かせ、その中心に怒張をあてがった。
待ちかねたように蜜を溢れさせているその部分を怒張でなぞると、フェイが小さく喘ぎを漏らした。
フェイの身体を、一気に貫く。
柔らかな襞に押し入るたびに、征服感に満たされる。
それは、この女を汚していることに他ならない。
少しの罪悪感と、それを上回る愉悦とともに、スパイクはフェイを陵辱する動きを強めた。
スパイクに貫かれ、一杯に満たされる。
浅ましい欲望に身を灼かれ、より深い快感を求めてスパイク自身を求め続ける。
スパイクが動くたびに大きく喘ぎ、はしたない言葉でその快感を訴える。
何も考えずに、ただ身体を重ねることでしか、自分たちを支えられない。
スパイクに身体を引き起こされ、フェイは向かい合うスパイクにしがみつく。
繋がっている部分からは絶え間なく快感が突き上がってくる。
「あっ…いいっ!…もっと突いて…奥まで…!」
わざと言葉に出して、自分と相手の官能を煽る。
頭と身体が、快楽だけを求めている。
このまま狂ってしまいたい。
快感に我を忘れたまま、息絶えてしまえればいい。
「いやらしいな、お前」
腰をうごめかせるフェイを見上げてスパイクは嘲る。
交わりから生み出される原始的な快美感に追いつめられていくフェイを見ながら、スパイクも高ぶっていく。
もっと。
もっとこの女を思うままに。
不意にスパイクが動きを止めた。
「…?」
訝しむフェイが、快感にとろける視点をゆっくりとスパイクに合わせる。
「後ろ向けよ」
スパイクは自らを引き抜き、フェイの身体を裏返した。
腰を持ち上げてそのまま後ろから貫く。
「やっ…こんな格好…」
「嘘つけよ。さっきより締め付けてるじゃねえか」
「違っ…ああんっ…」
恥ずかしそうに身を捩るフェイのその台詞もポーズに過ぎないのかもしれない。
それでも、それでお互いが高ぶっていることには間違いなかった。
自らの欲望の固まりを、湿った音とともにフェイの深奥へ捻り込む。
一度収めてからギリギリまで引き抜くと、蜜にまみれた怒張と、それににまとわりつく襞は視覚からもスパイクを愉しませた。
何度も肉の凶器に責め立てられて、かろうじて上半身を支えていた両腕の力も抜け、フェイがシーツに顔を伏せた。
フェイの掌で握りしめられた枕が、大きく形を変える。
肉と肉がぶつかる乾いた音に合わせて、フェイの喘ぎが高くなる。
スパイクの息づかいも荒くなっていた。
一気にお互いの身体をむさぼっていく。
何かに飢えているかのように。
あるいは、「現在(いま)」のことだけ考えていられるように。
ただ、本能に身を任せている。
「やっ…はあっ…んんっ!」
スパイクのリズムに合わせて漏れる、フェイの喘ぎに余裕がなくなる。
言葉にならないそれは、スパイクの官能をも煽る作用があった。
最後のリミッターが外れて、暴力に近い激しさでスパイクはフェイを責め立てる。
「ううっ…あふっ!」
身体全体を大きく揺さぶられるたびに、フェイの喉から苦悶するかのような呻きが漏れる。
スパイクの怒張が沈み込むそこから身体の中心へ、快感がマグマのように蓄積されて、噴き出す瞬間はその律動ごとに近づいてくる。
フェイが望んだ通り、快楽に何もかも忘れられる瞬間が。
リズミカルな締め付けを振り切って、ぶつけるように腰を打ち付けると、限界が近いのかフェイが背中を大きく反らせた。
スパイク自身も欲望を解き放つために最後の動きを強める。
フェイの内部がきゅうっと引き絞られ、その身体が跳ねた。
「は…くうっ…ああんっ…!」
フェイが達したのを見届けて、スパイクもその奥深くに自らの欲望をしたたかに吐き出していた。
* * *
煙草に火を点けるスパイクのライターの音が、まだ余韻を残すフェイの意識を現実へ引き戻す。
1本煙草を吸い終えてから、スパイクは部屋を出ていく。
これもいつものことだった。
この数分がスパイクにとってどんな意味があるのか、フェイには分からない。
少しでも時間を共有してくれているのか。
あるいは普段の自分たちの関係に戻る、クールダウンのための時間なのか。
それを確かめる気は、今のフェイにはなかった。
* * *
のどの渇きに耐えかねて海水を飲んでしまった漂流者のように。
またひどく渇いてはお互いを求めるのだ。
それが今以上の渇きをもたらすことを知っていながら。
「何故あたしなの?」
それを聞けば、何かが壊れてしまいそうな気がした。
「何故こんな簡単に身体を預ける?」
それを聞けば、何かが変わってしまう気がした。
空虚な関係に、心が音をたてて軋む。
それでも。
『今以上のしがらみを、持つわけにはいかないのだから』。
そう心に言い聞かせながら、スパイクは部屋を後にする。
『今以上のつながりを、持つわけには行かないのだから』。
そう心を納得させながら、フェイは出ていくスパイクを見送った。
−おわり−
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