COWBOY BEBOP

 12      DOUBLE TAKE
 
ナノマシンの事件が一段落して、ビバップにもようやく普段どおりの生活が戻ってこようとしていた。
 
 …がここに、まだ納得のいかない男が約一名…。
 
 
 
 スパイクが、部屋に戻ろうとするフェイを呼び止めた。
「何よ?」
 フェイが振り返る。
「お前……その……」
 この男にしては珍しく、言葉の歯切れが悪い。元々気の長い方ではないフェイがイライラして言った。
「言いたいことがあるんだったら、はっきり言いなさいよ」
「……お前、あの時…あの男に何されたんだ?」
「…はあ?」
 その言葉の意味がわからず、フェイはきょとんとしている。
「お前が、あの男に捕まってたときだよ」
 そこまで言われて、フェイにもようやくスパイクの言いたいことがわかった。
「…ああ…」
 一瞬の間、『あの時』に想いを巡らす。そんなフェイを見ながら、スパイクは眉間にしわを寄せた。
「そんなにいろいろされたのかよ」
「…あんた、どんな想像してんのよ」
 逆にフェイがスパイクをにらみつける。
「どんな、って…」
 その一瞬に自分が想像したことを思い返して、スパイクは口ごもる。
「…どうせろくでもないこと想像してたんでしょ」
「『ろくでもないこと』って…何も想像なんかしてねえよ」
 少し焦ったようなスパイクを見て、フェイは言った。
「…何にもなかったわよ」
「『何にも』?」
「…そう、何にも」
 ――「キスされた」、と言えば、「それだけじゃなかっただろ」とかなんとか言われるに決まってる。それなら、何にもなかったって言っとくのが良策よね…。
 そう、フェイは思っていた。
「ボタン飛ばされといて、何も、かよ」
 ――あんな状態で何もなかったなんて…あるわけがない。なのに、「何もない」と言い張るってことは…とても俺には言えねえことがあったってことだ…。
 スパイクはそう思った。
 
「だって、何もなかったもんは何もなかったんだもの」
 変わらぬフェイの言葉に、スパイクは苛立つ。
「お前、正直に言えよ。あの状況で、何もないわけないだろうが」
「しつこいわねえ。何にもなかったって、何度言えばわかるのよ」
 これ以上この話題を続けたくないフェイは、無理に会話を終わらせようとした。そんなフェイにスパイクは違和感を覚える。
「そうか。どうしてもお前が何にもなかったって言い張るんなら、あの場の状況を再現してきちんと説明しろ」
「どうしてあたしがそんなこと…」
「説明できねえのかよ」
「そういうわけじゃないけど」
「じゃあ、できるよな?」
 半分無理やりに、フェイはスパイクの部屋へと連れて行かれたのだった。
 
「さて」
 部屋に入るなり、スパイクは言った。
「あの男の部屋で、ナノマシンにやられたんだったよな」
「そうよ」
「そして、気を失った、と」
「…そうよ」
「気がついたら?」
「後ろ手に、それから足も縛られて、床に転がされてたのよ」
 フェイがふと見ると、スパイクの手に縄が握られている。
「あんた、ほんとに縛る気?」
「当たり前だろ。再現なんだから」
「っていうか、なんであんたがそんなもん持ってんのよ」
「そんなことは俺の勝手だろ?」
 そう言いながら、フェイの手足を縛っていく。
「それにしても…お前はいつカウンターナノマシンを体内に入れたんだ」
「…それは…」
「お前、もしかして…無理やり、しゃぶ…」
「ちょ、ちょっと、変な想像しないでよっ! キスされただけ…っ…あ…!」
 慌てて口を押さえたが、時既に遅し。
「ようやく白状したな」
 スパイクがニヤリと笑った。
「…あんた…わざと…」
「さあ、それはどうかな」
 スパイクはとぼけた。
 
 
 
「で、ボタンをナイフで飛ばされたってわけか」
 スパイクはフェイの後ろ手を縛ったままベッドの上に横たわらせた。身体の側面がベッドに着いている状態だ。
「…そうよ」
 フェイはスパイクを見上げて言った。その返事を確かめてから、スパイクはナイフを手にしてフェイの胸元に近づける。
「まさかそれもホントにやるわけ?」
「当たり前だろ。まあ、さっきまで嘘をついてたお仕置きってとこかな」
「やっ…」
 再現とはいえ、真剣な表情のスパイクにフェイが少し怯えた目を向ける。
「あの時も、そんな顔してたのか」
 スパイクの表情に、ますます真剣みが増していく。そして、ナイフでボタンを止めている糸をプツリと切った。
「…!」
 フェイが声にならない声を上げる。胸を押さえつけていた布地が少しゆるんで、その動きとともにぷるんと揺れた。
「まさか、このままってことはないよなあ」
「…ったって、ほんとにこれだけだったんだって…」
 もう、フェイの言葉に嘘はない。だがスパイクは既に聞く耳を持っていなかった。
「お前の言葉は、信用できないからな」
 本当のところは、もう事実などどうでも良くなってきていたのだが。
 
「ちょっと…何すんのよ」
 フェイが怯えた声でスパイクに言うのも無理もなかった。かろうじて胸を隠しているフェイのシャツをスパイクがナイフの先でずらそうとしていたからだ。
「だから、再現だろ」
「こんなこと、されてないってば」
 もちろん、スパイクは耳も貸さずにナイフを動かす。
「…っ…やぁっ…」
 いとも簡単に胸を露わにされたフェイは、小さく抵抗の声を上げた。ナイフが肌に近すぎて、身をよじることもできない。柔らかな、それでいて張りのある質感の二つのふくらみがスパイクの目の前に晒されている。
「普通はこうだろう」
「だから…されてないって…」
 フェイの抗議を遮るように、スパイクはナイフの先で露わになった胸の頂をつついた。
「っ…ああっ…!」
 金属のひんやりとした感覚が、敏感な先端部分から身体の奥へと通り抜ける。
「まさかお前、こんなことされて感じてんのか?」
 スパイクが口の端だけを上げて笑った。だが、瞳の奥までは笑っていない。
「…違…っ…」
 スパイクが自分を傷つけるはずがない、それがわかっているからこそ身体が反応してしまうのだ。そうじゃない相手に同じことをされて、同じ反応をしたとは限らない。だが、それをスパイクに上手く説明できず、ナイフが離れた隙を見てフェイは身をよじった。
「何が違うんだよ。乳首こんなに固くしやがって」
 スパイクはナイフを持たない方の手でフェイの蕾をつまみ上げた。
「くっ…んんっ…」
 フェイが眉根を寄せる。明らかに感じているその表情を見てスパイクは何故か嫉妬にかられ、エナメル地のパンツにつながるサスペンダーをナイフでプツリと切った。
「ちょ…ちょっと…」
 慌てるフェイに構わず、スパイクはフェイの腰を少し引き上げてパンツとショーツに手をかける。
「何すんのよっ」
 フェイは必死に身をよじって逃れようと試みる。 が、手足を縛られたままでは思うように動けなかった。結局抵抗らしい抵抗もできず、スパイクは苦もなく太股までのストッキングだけのフェイの下半身を目前にすることになった。さっきまでその部分を隠していた衣服が、縛ってある足の手前で固まっている。
「まさか、濡れてなんて…いないよなあ?」
 そう言って、ナイフの柄をフェイの秘部にゆっくりと近づける。
「や…スパイク…やめてっ…」
 その柄が湿った音をたてた。スパイクは、フェイの顔をのぞき込む。
「『あの時』も、こんなに濡らしてたのかよ」
「だから…」
 『何もなかったんだってば』と言おうとしたフェイだったが、そんなセリフに意味がないことに気付いて黙り込んだ。ナイフの柄の固くひんやりとした異物感に、フェイは感じまいと眉根を寄せて目を閉じた。
「こんなもんで感じたりも、しないよな?」
 スパイクは意地悪く笑い、ゆっくりとナイフを動かした。
「…くっ…」
 フェイは声を抑えようと、唇を噛みしめた。それでも漏れ出る声はとどめられず、吐息とともにこぼれ出る。
「感じてんのか? お前」
 自分の意のままにならない身体を持て余すフェイを見ながら、スパイクが意地悪く笑う。
「…んんっ…」
 スパイクの思い通りになっていることが悔しくて、フェイは顔を背けた。
 
 
 
「さて、と。俺なら次はどうするかな」
「『俺なら』って…あんた、最初の目的と変わってきてんじゃないのよ」
 少し息を乱しながら、フェイがスパイクを軽くにらんだ。
「そうだったか?」
 スパイクがとぼけて答えた。
「だってそうじゃない。『確かめる』とか言っといて…」
「確かめたじゃねえか」
「…?」
「キス、されたんだろ?」
 言うなりスパイクはフェイの腕を掴んで身体を引き起こし、唇を重ねた。
「…! んっ…」
 フェイの意志にはお構いなく、スパイクはその口の中をゆっくりと蹂躙する。
「こんなふうにか?」
 唇を離して、スパイクはフェイに問う。フェイは黙って、スパイクを怒りのこもった視線で見つめていた。
「…俺なら、そんな風にはしねえけどな」
 スパイクの唇が、フェイの耳から首筋に柔らかく落ちた。
「ひっ…」
 予想もしていなかったその行為に、思わずフェイの口から声が漏れる。スパイクはそんなフェイの身体を抱き起こしたまま、当たり前のようにその形のいい胸の先端へと口づけた。
「あっ…」
 初めは柔らかだった蕾が、舌の先でだんだん存在を主張しはじめるのをスパイクは感じた。それとともに、フェイの吐息も乱れてくる。
「くっ…んんっ…」
 『これくらいで、さっきまでのことを許してなんてやるもんか』…そう思ってはいても、そんな決意はいともたやすく身体の奥底から淡く溶けていった。スパイクの舌が押しつけられ、唇でつままれ、歯で甘く噛まれているその部分から、鋭い快感が身体中を走り抜ける。
「背中に、力入ってるぜ」
 スパイクの笑いを含んだ声に、フェイが返せたのは視線だけだった。
 
「なあんか、そそるよな。縛られてるのって」
「この、変態」
「…お前だって、感じてるくせに」
 スパイクが、フェイの腰を引き寄せる。
「でもなあ…やっぱり、これは取っちまうか」
 スパイクが、独り言めいた言葉をつぶやく。
「…?」
 フェイが不審に思うより早く、スパイクはナイフでフェイの足の縄を切っていた。
「気が変わったの?」
 挑戦的な瞳のフェイに、スパイクは受け流すように言った。
「邪魔だろ? こうするのに」
 言い終わるより早くフェイの身体を再び四つん這いにして、後ろからいきなり突き入れた。
「く…んんっ…!」
 肩と頬で身体を支えるフェイが身を震わせる。
 そんなフェイの腰を両手で引き上げて、スパイクは奥深くまで侵入していった。さほどの抵抗がないだろうことは予想していたのだが、思った以上にそこは滑らかにスパイクを受け入れる。
「やっぱり、感じてたんじゃねえか」
 スパイクは、奥まで埋めたものを入り口近くまで引き抜きながら言った。
「…違…うっ…」
 言葉では否定しながらも、フェイは自分がスパイクを締め付けてしまっていることに気付く。そして、自分の感じ様をスパイクに知られてしまったことで、よりいっそう快感が深まったことも事実だった。もちろん、スパイクにもそれは伝わっている。
「何が違うんだよ。こんなに嬉しそうに締め付けときながら」
 再び奥まで突き入れ、そのままスパイクは大きく腰を使い始めた。
「やっ…そんなこと…っ…ああんっ…!」
 一番深いところで感じる衝撃に近い快感に、反論の言葉もすぐに喘ぎ声に変わっていく。
「その声、もっと聞かせろよ」
 スパイクが動きを強めた。
「ひあっ…ああっ…やっ…」
「言うとおりにするなんて、なかなか素直じゃねえか」
「…違…っ…ああんっ…」
 少しでも声を殺そうと、フェイはベッドに顔を伏せる。
「それじゃ聞こえねえだろ」
 スパイクはフェイの身体を起こし、繋がったままベッドの端に腰掛けてフェイを膝の上に乗せた。まだ足の先に引っかかっていたフェイの衣服を床に落としてその両足を抱える。
「やっ…やめてよっ…」
 足を開かされる格好になったフェイが抵抗の声を上げた。が、この体勢で手を縛られていてはどうしようもない。スパイクの思い通りに身体を上下させられ、わき上がる快感にその抵抗の声も封じられることになる。
「いやっ…ああんっ…」
 スパイクが下から突き上げると、フェイの身体が前方へぐらりと倒れる。とっさにそれを片手で受け止めて、フェイの耳元で囁いた。
「気持ちよさそうだな」
「あんっ…そういうこと…言わないで…」
 動きを少し弱めたスパイクをフェイは振り向く。
「だって、気持ちいいんだろ?」
 スパイクは、両手でフェイの腰を少し浮かせて、またストンと落とす。
「んあっ…やっ…スパ…イク…」
「正直になれって…ほら」
 フェイの身体を上下させながら、スパイクは自らも動いてフェイを奥まで責める。快感が、フェイの身体を突き抜けた。
「ああんっ…そうよ…! たまんない…たまんないの…お願い…もっとっ…」
 その言葉とともに、フェイの中の襞がキュッとスパイクに絡みついた。
「俺も、結構たまんねえ感じ…」
 そしてスパイクは再びフェイをベッドに倒し、後ろから深くまでねじ込んだ。
「あっ…すご…いっ…」
 フェイの声が高くなる。スパイクも本能のままに腰を打ち込む。
「やっ…ダメっ…」
「何が…ダメなんだよ」
 もちろん動きを弱めるはずもなく、スパイクはフェイを責め立てながら言った。
「だって…あたし…もう…!」
 手を縛られてのたうつその痴態と、ベッドに頬を付けたまま振り向いて自分を見るフェイの上気した表情を目にして、スパイクはフェイと繋がるその部分に全身の血液が集まってくるような感覚にとらわれた。
「とか言われてやめられる訳ねえしな。…お前もだろ?」
 フェイの腰に両手をかけて引きつけ、スパイクは容赦なく律動を繰り返す。中を引っ掻くその動きに、フェイは快感のあまり身体が子宮から溶けていきそうになる。
「ああんっ…! やっ…いいっ…!」
 幾重にも絞られる感覚に、スパイクの声にも吐息が混じる。
「くっ…すげぇ…そんなに…いいのかよ…」
「いいっ…いいの…! あんっ…もう…イっちゃう…!」
 断続的な締め付けが、スパイクを襲う。
「俺…も…」
 スパイクの最後の動きの激しさが、フェイにとどめを刺した。
「んんっ…! やっ…イくっ……!」
「……っ…!」
 そんなフェイの一番奥に、スパイクはその欲望を吐き出していた。
 
 
 
「昨日は、よくもいろいろとやってくれちゃったわね」
 次の日の朝――というよりもう昼に近かったが――フェイはスパイクをつかまえて言った。
 
 あの後、不覚にもスパイクの部屋で眠り込んでしまったのだが、朝起きてみるとスパイクは部屋にいなかった。リビングまで出てようやくソファで眠るスパイクを見つけ、フェイは詰め寄った。
「…あ?」
 ゆっくりとスパイクが目を開く。
「あたしもあんたに聞きたいことがあるんだけど」
「…何だよ」
「あんたの方はあの女と、どうだったのよ」
「あの女?」
 両手を腰に当てて自分を見下ろすフェイを、顔をしかめながら見上げた。
「あの製薬会社で、一緒に捕まってたんでしょ?」
「…ああ…」
 スパイクにも、ようやく話が見えてきた。
「じゃ、『独房プレイ』ってのもいいわねえ」
「…………! な、何だよそれ…」
「それとも、モップに手足縛り付けられたい?」
「お前、それ普通のプレイ超えてるんじゃ…」
 そんなツッコミを入れているような場合ではなかった。フェイはスパイクの腕を取って引き起こし、再びすたすたとスパイクの部屋へ連行していった。
 
 果たしてその後、スパイクは首尾良く逃れられたのか、あるいは立場を逆転することができたのか…。
 
 それはまた、別の話。
 
 
 
−おわり−
 
 
 
 
 
 
 
あとがき。
 
ビバップオンリーの時に、最後の最後の土壇場で書き上げた裏スパフェイです。
完売してしばらく経つのでアップしてみました。
当時の日記とかを読み返すと、これ、3,4日で完成したようです(笑)。
そう思って見ると、粗が結構目立ったりもしてますが、
まあ、時間を掛けたところできちんと書けたかどうかは謎なわけで…。
 
そして、この後日談を十六夜さんのご協力もいただいて
「SPECIAL」の方にアップしてみました。
よろしければそちらもどうぞ♪
 
 
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