「んっ…はあ…っ」
暗い部屋に、フェイの吐息がだけが響いている。
ベッドに横たわるフェイに覆い被さりながら、スパイクはその裸身に愛撫の手を這わせていた。
シャワーを浴びて部屋に戻ってきたフェイを、待ち伏せて一緒に部屋に滑り込み、バスローブも下着も取り去ってベッドに押し倒した。
最近何度もそんな風にして身体を重ねている。
そんなスパイクを、フェイは訳も聞かず黙って受け入れるのだった。
「ふあっ…!ああんっ」
スパイクの指が胸の頂きに触れると、フェイが小さく身体を震わせた。
そのまま手を滑らせて下腹部を探る。閉じたままの足に構わず、亀裂に指を忍び込ませると、そこは既に暖かい潤みで溢れていた。
スパイクの指が、受け入れの意志を探るようにゆっくりとフェイの中に沈む。
「んんっ…!」
その刺激にフェイは身をよじり、それ以上のスパイクの指の動きを制して言った。
「十分その気よ…。あんただってもう入れたいんでしょ?…もう、こんなに…」
布地越しに、屹立しきったスパイク自身をフェイの手が柔らかく包み込む。感触を確かめるように上下に擦ってから、下着ごと脱がせて、今度は直接触れてきた。
「いいわよ。…来て…」
そのまま自分の中に誘(いざな)った。
導かれるままスパイクは再び覆い被さり、フェイの内部にうずめていく。
「あ…んっ…」
奥まで届かせると、フェイの唇から吐息がもれた。
全体を暖かく締め付けられる感覚に、スパイクはたまらず動く。
引き抜き、もう一度奥まで突き入れると、全体に行きわたった蜜が程良い摩擦を伝えてきた。
中の襞がキュッと引き締まる。
「ああんっ…いいっ…」
スパイクの背中に足を絡みつけ、フェイは仰け反って喘ぐ。
スパイクが打ち込むたびに、その声はどんどん高くなっていった。自らの手で胸を揉みしだく。ただ、目の前の快感に没頭するかのように。
劣情と呼ぶに相応しいこの感情の赴くままに、フェイの身体をむさぼる自分を唾棄すべきものと軽蔑していながら、スパイクは自らの暴走を止めることができない。
素直に快感を表しているフェイに少しは気が楽になりながら、スパイクはなおもその内部の感触を荒々しく味わう。
「あっ…やああっ…いっちゃう」
フェイの腰がグッと持ち上がった。スパイクの背中に爪を立てる。
スパイクの欲望の固まりが、幾重にも引き絞られるように締め付けられた。
「出す…ぞ…」
「んんっ…!いいわ…中…に…」
フェイの腰を掴む力が強く、動きが早くなる。粘膜ごと引き出されるような感覚に、フェイが大きく喘いだ。
「ああんっ…!ダメっ…いくっ…!!」
「…っ…フェイ…!」
フェイの体が大きく跳ねると同時に、スパイクも熱い奔流を解き放った。どくどくとフェイの中に注ぎ込む―――。
「すまねえ」
上がっていた息が整ったころ、スパイクは今日も、罪悪感を拭いきれない表情でそう呟いた。
フェイと自分との間に、何の約束があるわけでもない。自分が抱きたくなったときに抱く、ただそれだけの、自分に都合のいい関係でしかない。
毎回、行為を終えたときには決まって「今回限りにしよう」と決意するものの、しばらくするとまたフェイを抱きたい誘惑に駆られ、最後にはいつもその誘惑に負けてしまうのだ。
その度に、フェイは困ったような悲しいような顔をしてスパイクを受け入れる。
ちょうど、今彼女がしているような表情で。
「あたし、シャワー浴びてくる」
フェイは床に落ちたままのバスローブを掴んで言った。
終わった後、フェイは決まってそう立ち上がる。行為の名残を一刻も早く流し去ってしまいたいからなのか…。
スパイクは部屋を出ていくフェイを今日も黙って見つめていた。
無理やり抱いているわけではない。言葉も、身体も、いつもスパイクを受け入れてはいる。
だが、心から許しているわけでもない。
―――当然のことだ。
自分だって、フェイの心を求めているわけではないのだし、もとより、そんな資格があるはずもないのだから―――。
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ほんの今まで、どちらの汗か判らなくなるほど、身体が溶け合うくらい抱き合っていたのに、フェイの頭上から降り注ぐ温水は、それを何事もなかったように洗い流していく。
「んっ…」
股間に、スパイクの名残の液体があふれ出すのを感じた。
『フェイ…』
その感触に、スパイクの声が耳によみがえる。その瞬間の、その表情も一緒に思い出させる声。
―――あの男はセックスの時だけ自分を名前で呼ぶ…いつも。
まだ生々しく残る甘い感覚に、フェイの身体はまた新たな蜜を沁みださせ、さっきまで埋め込まれていたスパイクの存在を思い起こすかのように収縮した内部が、スパイクの名残をなおも押し出してしまった。
―――コールドスリープするより前。最初に男女のそういう関係のことを知ったとき、そこには必ず「妊娠」という可能性もつきまとっていた。
だが今は違う。「合理性」という言葉のもとに進歩した薬のせいで、普段は妊娠しないようにしている女性が多く、子供はほとんどが体外受精などで人工的に作られる。
「だから、深く考えることなんてないんだわ」
セックスが愛の行為だなんていうのは、まるで人類がまだ地球から出られなかったころのようなアナクロな考え方だ。
少しの心の痛みを我慢しさえすれば、万事丸くおさまる。
スパイクは肉体的な渇望から救われるのだろうし、自分はそれでスパイクを「救ってあげられている」かのような満足感を得られるのだ。
『満足感』?
そこまで考えて、フェイは自問する。
…この、心の中で砂が軋むような思いのどこが満足なのか。
その砂は足元にも降り積もっていて、足首まで埋もれながら歩いても歩いても、柔らかな草の上に出ることはない。
身体を重ねたその一瞬、その砂が潤うような錯覚に陥ったとしても、そんな都合のいい幻想に酔い続けていられるほど幼くはなかった。
水が通り過ぎれば、砂は砂に戻っていくのだ。
関係を重ねるごとに、身体はスパイクに馴染み、刻まれる快感は深くなっているというのに、心の傷はますます深くなっていく。
身体を重ねている間だけ、その快楽に没頭することはできても、その後にやってくる空虚さから逃れる術はない。
すぐ隣に今まで抱き合っていた相手がいるのにもかかわらず、一人でいるときより深い孤独を感じて、フェイはいつもそこから逃げ出してしまう。
いつまでもそばにいれば、その孤独に耐えかねて、つまらないことを聞いてしまいそうだから。
『何で、あたしを抱くの?』
だが、フェイは気付いてしまっている。
今まで気付かないふりをしていたけれど。
スパイクが自分の名前を呼ぶのは、後ろに誰かの影を見ているから。
名前を呼ぶことで、「今抱いている女は別の女だ」と確認しているから。
あの男は、フェイのことなど見てはいない。
自分はただ、今そばにいない女の代わりにすぎない。
だから。
スパイクはいつも、あんな表情で謝罪を口にするのだ。
―――それでも、スパイクを拒めない。たとえ一瞬でも、身体だけでも、繋がれることを心が望んでいるから。
そして残されるものはいつも、後悔―――。
降り注ぐ飛沫は、立ちつくすフェイの涙も次々に洗い流してくれる。だが、シャワーを止めるまでにはまだしばらく時間がかかりそうだった。
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次の日。
フェイはビバップを後にした。
たどり着いたのは、極寒の星、カリスト―――。
―つづく―
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