COWBOY BEBOP

 8      昼下がりの密事
 
 「ふわああ。よく寝た」
 頭を掻きながら、スパイクが自室からリビングへと向かっていた。
 昼寝にしては少し長く寝過ぎたかとは思ったが、金星から火星へ戻るまでの間は、操縦を船のコンピューターに任せてしまえば後はほとんどすることもない。
 わざわざ仕事を探してまで働く気もないスパイクが、空いた時間を寝て過ごそうと思ったことはごく自然な流れとも言えた。
 
 
 リビングの手前まで来ると、中にいるらしいジェットとフェイの声が洩れてくる。
 気のせいか、囁きに近いその声はどこか秘めやかな空気を醸し出していた。
 
「…っ! フェイ…お前、なかなか…」
「フフ。気持ちいいでしょ…?」
「あ…ああ。久し…ぶり…だ」
「溜めてちゃ、体に毒よ」
「分かっちゃいるんだが…あっ…! お前そんなとこを…」
「自分じゃできないでしょ?こんなこと」
 
 スパイクの足がその場で止まった。
『アイツら…一体何やってんだ!?』
 一瞬脳裏に浮かんだ映像を、スパイクは必死で打ち消した。
『ま…まさか…そんなわけねえよな。あの二人に限って…』
 
 そうは思っても、そこから一歩を進めることができない。
 ―――もしも、想像していたとおりの情景が繰り広げられていたら。
 そう思うと、今は息をひそめてリビングの様子を伺うしかできないスパイクだった。
 
 その間にも、リビングの二人の行為は続いているようだ。
「ダンナ…こんなに…凄い…」
「フェイ…お前がこんなにツボを心得てるとは…正直驚いたぜ」
「フフッ。まあね」
「じゃ…今度は攻守交代と行くか」
「えっ? やっ!」
 ソファががたつく音がして、同時にフェイの言葉が遮られた。
「ほら、動くな」
「だって…恥ずかしい…」
「ま、たまにはいいじゃねえか」
「でも……。あっ!いきなり…そんな奥まで…」
「でも結構気持ちいいだろ?」
「ちょっと…痛いけど…それが結構…あっ…!」
 
 
 ゴクリ。
 スパイクは自分のつばを飲む音で我に返った。
 
『俺は一体、ここで何をやってるんだ?』
 この状況を俯瞰で見れば、自分はとても滑稽な立場にいるのだろうとスパイクは思った。
 ―――隠れるべきはあの二人であって、自分ではない。
 そう思っても、スパイクはどうしてもその場から動くことができなかった。
 
 その時、リビングからもう一人の声が聞こえてきた。
 
 
「いいなー。フェイ、気持ちよさそう〜。エドも〜」
 
 
『エド…!? エドもいるのか?』
 予想外の展開に、スパイクは息をのむ。
『ジェットの野郎…!いくら自分の船だからって、こんな爛れた関係を昼間っから…!』
 たまらずスパイクは、リビングへ駆け込んだ。
 
 
「ジェット!お前…!」
 
 スパイクの目に飛び込んできたのは、リビングのソファに座ったジェットと、その膝枕で横になっているフェイだった。
 ジェットの手には「耳掻き」が。
 もちろんその光景だって普段から見ればショッキングには違いないのだが、自分が想像していたものとは全く違っていたために、スパイクは拍子抜けしたようにただ呟いた。
「お前ら…何、やってんだ…?」
 慌ててフェイが身体を起こす。
 入ってきたときのスパイクの剣幕に、驚いたように目を見開いていたジェットだったが、スパイクの表情の変化を見てニヤリと笑った。
「何だお前、妬いてんのか?」
「そんなんじゃねえ!」
 次に矛先をフェイに向けた。
「大体何でお前もおとなしくジェットの膝枕なんかで…」
「あらやっぱり妬いてんの?」
 フェイにまでニヤニヤと笑われ、スパイクの心の余裕はどんどん少なくなっていく。
「妬いてねえ!!」
「そんなに怒鳴らなくても…。何となく、事のなりゆきなんだから」
 煩わしそうに眉を寄せて、フェイは事ここに至るまでの説明を始めた。
 
 
 フェイの説明による再現はこうだ。
 
 
 今を遡ること10分。
 今日も念入りに爪を磨き立てていたフェイが、ずっと小指で耳の穴を探っているジェットを見かねて、つい口を出した。
「ダンナ、さっきから何やってんの?」
「耳の奥が痒くて…耳垢かな。もう少しで取れそうなんだが」
「いつまでもそんなことやってないで、耳掻き使えば?」
「…いんだ」
「え? 何か言った?」
「怖いんだよ!あんな棒を耳の中に入れるなんてな」
「う…うっそでしょう!?」
 いい年をした男の言う台詞とも思えず、フェイはマジマジとジェットの顔を見た。
 そして次の瞬間、あることに気付く。
「じゃ、ジェット…もしかして耳掃除なんて…」
「ここ何年したことねえよ」
「信じらんない…」
「お前が信じようと信じまいと勝手だが、オレが耳掃除をするもしないも勝手だろうが」
「そうはいかないわよ!あたし、他の何は許せても、耳掃除しないのだけは許せないのよ。自分でも、他人でも!」
 そう言いながら、ジェットの手を引き、ソファに横たわらせたその頭を強引に膝に乗せた。
 そして小振りのトレンチケースに爪磨きをしまい込み、代わりに耳掻きを取り出した。
 
 
 
「…というわけ」
 その説明を聞いて頭では納得したものの、何故かスパイクの口調はとげとげしい。
「それにしてもこんなところで、二人っきりで…!」
「エドもいるよ〜?」
「分かってるよ!」
 だが正直、何に対して腹を立てているのかスパイク自身にも分からなかった。
 そんなスパイクを見て、ジェットが楽しそうに言う。
「なにムキになってんだよ」
「ムキになんてなってねえ!」
「お前もフェイに耳掃除してもらうってのはどうだ? こう見えて結構繊細な手つきだったぜ?」
「余計なお世話だ!」
 即座にそう答えながら、まだニヤニヤしているジェットをスパイクは睨み付けた。
「これからジェリコの手入れしなきゃならねえんだよっ」
 
 
 
 スパイクは足跡も荒々しくリビングを後にした。
『なりゆきだったらいいのかよ』
『もしアイツの代わりに俺でもおんなじようにしたってのか』
『あのまま俺が入っていかなくても、何もなかったって言えんのかよ』
 心の中で次々にそんな悪態をつきながら…。
 
 
 
−おわり−
 
 
 
 
 
あとがき。
 
何とも言えない話が出来上がってしまいました(笑)。
根本的にジェットとフェイがこんなことやってること自体
かなりあり得ない気もするんですが…
私的に面白かったので見逃してやってください(汗)。
 
でもこれって、ジェット×フェイと見せかけたスパフェイ?
それともジェスパ?
もしかしたらスパエド?(驚)
それぞれのカップリングで続き書けそうな気が(笑)。
いやまあ普通に、仲間はずれにされたスパイクが
可哀想なお話で終わっておいてもいいわけですけど…。
 
ちなみに私的な続きはこんな感じ?
1.スパフェイの場合
1-1スパイク「何でお前がジェットの耳掃除なんか…」
  …とか言いつつジェラってもつれ込む
(どこに?笑)ってパターンとか。
1-2聞いていただけで妄想が爆発したスパイクが
ガルルルル…な感じでやっぱりもつれ込む(笑)。
2.ジェスパの場合
後で二人っきりになって、スパイクがジェットの前で
拗ねたりしてそう…いや、何となく(笑)。
3.スパエドの場合
うーん…。
私の想像力ではちょっと無理でした(汗)。
(なら言うな)
 
 
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