――今日もビバップ号ではのんびりとした時間が流れていた。
このところマシな賞金首情報がないせいで、ここ3日間というもの、ずっと火星に停泊中なのである。
ジェットは新しい盆栽を探しに、月に一度開かれる盆栽市へエドを連れて出かけていった。
何故エドが一緒なのか――ジェット曰く、エドの独創的なものの見方が、何やら盆栽の「ワビ」とか「サビ」とかいうのと通じるものがあるのだそうだ。
アインも喜んでその後に続いたのは言うまでもない。
スパイクも昨日まではどこへやら出かけていたのだが、もう行くところがなくなったのか、金が底をついたのか、今日はソファでごろ寝中だ。
「またこんなところでゴロゴロして。自分の部屋ってのがあるでしょうが!」
甲高い声が響く。
風呂あがりらしくバスローブ姿のフェイが眉をしかめながら入ってきた。
「うるせえな、お前に言われたかねえよ。第一何も迷惑かけてないだろ!」
「目障りなのよ!十分迷惑!」
言いながらフェイは落ちている雑誌をひょいと取り上げた。
「…何、これー!?あんたこんなの読んでんの!?」
表紙には肌もあらわな女性が挑発的なポーズで微笑んでいる。
パラパラとめくると、もっと過激な写真が目に入った。
四つん這いになった全裸の女性が、高く上げた自らの股間を手で隠していたり、男女が絡み合っている「そのもの」の写真もあったようだ。
「何バカなもん見てんのよ、あんたは」
「うるせえな。それこそお前に何にも迷惑かけてねえだろ!」
「大体さあ、近くにこんないい女がいるってのに…哀れな男よねえ…」
「いい女ぁー!?どこにいんだよ、そんなもん」
「ハッ…!あんた…もしかしてあたしでこんな想像してんじゃないでしょうね!?いやぁっ、ケダモノ!」
わざとらしくバスローブの襟を閉じ合わせるフェイを見て、かみ合わない会話にいい加減うんざりしたスパイクが言い放った。
「バーカ。おまえなんかじゃ勃たねえよ。いくらそんなカッコでうろつかれてもな」
「…なんですって!?」
フェイの額にピクピクと青筋が浮かぶ。
「言ってくれるじゃない」
「勃たねえもんは勃たねえんだよ」
寝返りを打ってフェイに背を向ける。
「じゃあ、ホントに勃たないかどうか、試してみる?」
「やれるもんなら、やってみろ」
首だけをフェイに向けて言ってから、戻して再び寝る体制に入ろうとする。
「…!」
絵に書いたような売り言葉に買い言葉、だがここで引き下がるわけにはいかない。
『あたしに女としての魅力がないとでも!?』
なぜかメラメラと闘志が湧き上がった。
「じゃあ、そんなところに寝てないで、ちょっとここに座りなさいよ」
「…何だよ…」
渋々ながらも言われるままにソファに座るスパイク。
その足元に膝立ちになったフェイが言う。
「あんた、もしその気になったらどうすんのよ」
「ならねえったらならねえよ」
余裕のあるその言葉に、フェイの眉間のしわが深くなる。
『くっそーっ、どこまでもムカつく奴!』
だが今は何も言わず、フェイは座っているスパイクの足を開かせ、その間に身をおいて見上げる。
手を伸ばして、上着のボタンをはずし、ネクタイも解いてシャツのボタンもはずす。
そのまま伸び上がって襟元に両手を差し入れ、背中へ手を滑らせて上着ごと脱がせると、袖口のボタンが止まっていなかったシャツと上着はそのままするりと両腕を抜けた。
硬く引き締まった肩に手をかけて、首筋に唇を落とす。
「…!」
スパイクの背筋をゾクリと何かが滑り降りる。
フェイの両手が肩から腕へと下がっていき、それとともに唇の位置も下がっていく。
胸に留まった唇が、他と色の違うその部分をついばみ、舌の先で転がす。
「…っ…!」
『おい…なんでこれくらいでゾクゾクしてんだよ、俺は?思春期のガキじゃあるまいし』
努めて平常を保とうとする。
フェイはそんなスパイクの腕を両手で掴み、その人差し指をゆっくりと口に含む。
「…!?」
予想外のその行為に、思わずじっとその口元を見つめてしまう。
舌の感覚に集中するためか目を閉じて、自分の指を舌で愛撫しているその表情。
まるで間に愛情が存在するかのような錯覚に陥ってしまう。
そして。
指先に加えられる刺激に、つい、別のところを愛撫されるところを想像してしまった。
ねっとりと動く舌が、指の根元から先端まで、やわらかく舐め上げてくる。
口の中まで使って全体で指を吸い、捕らえて、舌をうごめかせる。
指先を甘噛みして、爪と指の間を舌でそっとくすぐる。
これが、もし…違う場所だったら…!
そんな想像を。
「…はぁ…っ…」
思わず声を伴ってしまう吐息。
フェイはそれに気づいたのかどうか、人差し指を口から離す。
そして次は中指に。
妙に想像力が豊かになっているスパイクは、その間にもまた違う想像をめぐらせていた。
『こいつ…こんなこと、どこで憶えたんだ?』
…あのウィットニーとかいう男に教えられたとか…。
それとも、他の男…?
もしかして………ジェットかっ…!?
顔の見えない男と抱き合うフェイの姿が、脳裏に浮かんだ。
想像の中のフェイは、いつも見せる気の強そうな表情から一変して、快感を素直にその表情に表している。
『やべっ…!』
そんな想像のせいか、スパイクの体に異変が起きていた。
「おい、わかった、わかったから、これくらいにしとこうぜ」
あいた手で慌ててフェイの体を押しやる。
「…何よ急に?」
指から唇を離してスパイクを見つめるフェイの瞳が少し潤んでいて…スパイクの中で最後の何かがぷつりと切れたのは、その時かもしれなかった。
「まだまだこれからなのにー」
不服そうにスパイクを見上げる。
「こんなことしたって、何にもなんねえだろ」
スパイクがフェイを押しやったまま、立ち上がろうとした時。
「…?あーっ、あんた、もしかして…?」
フェイの手が、ちょうど近づいてきたスパイクの股間にそっと伸びて、スパイクは逃げようとあわててもう一度ソファに座りなおす。
「おい、やめろっ!仮にも女がそんなところを…」
「何言ってんのよ!?けんか売ってきたのあんたでしょ?」
構わずなおも手を伸ばし、キュッと掴む。
「やめろってばっ!」
掴んだままフェイはスパイクを見上げ、にやりと笑う。
「そんな気になったら…どうするって?」
「う…うるせえな」
スパイクは険しい顔で横を向き、トントンと足先を踏み鳴らす。
「ねえ、どうすんのよ?」
なおも言い募る。
「どうするって…こうするしかねえだろうが」
いきなりフェイの腰に手を回して引き寄せ、抱え上げる。
「ちょ、ちょっと!何すんのよ!」
「何って、決まってんだろ」
「いやあっ!離してよっ、このレイプ魔!」
「レイプじゃねえだろ!」
スパイクの声のトーンが上がり、フェイの背中をソファに押し付けて、覆い被さる。
「これをレイプって言わずになんて言うのよ!」
フェイはスパイクの腕を掴み、足をばたつかせる。
「合意の上ならレイプじゃねえ!」
今度はスパイクがフェイのバスローブの襟をはだけていた。
「いつ誰が合意したってのよ!…っ!」
言葉でもなお抵抗するフェイの口を、スパイクの唇が塞ぐ。
「んー!!んんっ…!」
唇を閉じ、なおも足をばたつかせて抵抗を続けるフェイ。
その時、スパイクの指があらわになったフェイの胸のいただきを捉えた。
「んあっ!」
思わず開いてしまった唇から、スパイクの舌が侵入する。
そして…。フェイが意識するより早く、その舌に自分の舌が絡んでしまっていた。
『…やだ…』
自分の意識よりも深いところでスパイクを求めてしまった気がして、フェイは少しあせる。
なのにその思いとはまた裏腹に、唇を重ねるスパイクの腕を掴むその手の動きは、押しやらずに引きつけてしまっている。
「合意だろ?」
唇を離し、口の端だけを上げてにやりと笑うスパイク。
「…違うわよ…!」
顔をそむけて、つぶやいた。
―つづく―
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