■2005年3月4日(金) ゆうぽうと簡易保険ホール
牧阿佐美バレヱ団『三銃士』
[芸術監督]三谷恭三 [演出・振付]アンドレ・プロコフスキー [原作]アレクサンドル・デュマ
[音楽]ジュゼッペ・ヴェルディ [編曲]ガイ・ウールフェンデン [美術装置]アレクサンドル・ワシリエフ
[音楽監督・指揮]堤俊作 [管弦楽]ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
私の『三銃士』の知識など、遥か昔に読んだ子供向け翻案書といくつかの映画によるものに過ぎない。ってことで、「いい機会だし、大デュマの原作を読んでみようかしらん?」と、探してみたらあまりにも長いのでやめた(をいをい)。
【プロローグ】

ダルタニヤン      デニス・マトヴィエンコ
コンスタンス      伊藤友季子
ミレディ        田中祐子
アンヌ王妃       草刈民代
三銃士ポルトス     菊地研
   アトス      今勇也
   アラミス     アルタンフヤグ・ドゥガラー
バッキンガム公爵    逸見智彦
リシュリュー枢機卿   本多実男
ロシュフォール     塚田渉
国王ルイ13世     小嶋直也                     他

舞台は17世紀初頭、ルイ13世治下のフランス。国王付き銃士隊に入ることを夢見てパリにやって来た青年ダルタニヤンは、アトス、ポルトス、アラミスの三銃士と出会い、生涯の友情を誓う。悪化する英仏関係に、権謀術数渦巻く宮廷。果たして、ダルタニヤンと三銃士は王室の危機を救うことができるのか?!

幕が開くと、主要登場人物が並んでいる。国王ルイ13世を中心にアンヌ王妃とコンスタンス、彼らを守る三銃士。少し離れた場所に、衛兵を従えたバッキンガム公爵の姿。道ならぬ恋に落ちる王妃とバッキンガム公爵。続いて、リシュリュー枢機卿とミレディ登場。リシュリューの護衛隊員も加わり、皆で何事かを企む。同じ頃、スペイン国境近い片田舎・ガスコーニュ出身の若者ダルタニヤンは、しょうもないロバを引き連れ、一路パリを目指していた……。
主な登場人物を最初に紹介してしまうことで、観客をすんなり物語世界に入り込ませる。この導入はなかなか巧い。

ミレディの田中祐子、登場シーンから妖艶な悪女ぶり。なんつーか、「企みは脚に宿る」とでも言わんばかりの雄弁で独特なパも目を引く。目を引くと言えば、ロバの着ぐるみ(?)も目を引いた。可愛い。前後の足をふたりのダンサーで担当。歌舞伎の馬などはよく見かけるが、バレエにもあるのね。

【第1幕 マーケットの広場〜ルーブル宮の庭〜アンヌ王妃の部屋】

ダルタニヤン      デニス・マトヴィエンコ
コンスタンス      伊藤友季子
ミレディ        田中祐子
アンヌ王妃       草刈民代
三銃士ポルトス     菊地研
   アトス      今勇也
   アラミス     アルタンフヤグ・ドゥガラー
バッキンガム公爵    逸見智彦
リシュリュー枢機卿   本多実男
ロシュフォール     塚田渉
国王ルイ13世     小嶋直也

リシュリューの護衛隊員 邵智羽、武藤顕三、徳永太一、高橋章、
            保坂アントン慶、中島哲也
6人の娼婦       金澤千稲、佐藤朱実、小橋美矢子、笠井裕子
            橋本尚美、吉岡まな美               他

人々が集まるマーケット広場。そこに現れる三銃士。地味だ……。せめて、例のブルーの外套(十字架と国王の頭文字を描き入れた青羅紗のカサック外套)ぐらい着せてやれよ。私の席が前過ぎたせいか、どうも舞台全体がごちゃごちゃしていて、せっかくのタイトルロール登場も全然目立たなかった。続く乱闘シーンにしても、もう少し後方や2階席の方が、フォーメーションがハッキリ見えて楽しめたかも。

思うに、バレエの『三銃士』って、香港アクション映画のような。お笑い満載の勧善懲悪冒険活劇。まさに、それっぽいシーンもあったし。ほら、よくあるでしょう。こちらにその気はないのに、何故か敵が倒れている、ってのが。振り上げた剣が、偶然、敵に当たるとか、相手が襲いかかる瞬間に屈んで難を逃げるとか、その手のベタベタなギャグを、ポルトスの菊地研と護衛隊員の保坂アントン慶が繰り広げていたわけで。
キャラクター設定にしても、悪者は最後まで悪者、正義の味方は最後まで正義の味方で、その手の基本をしっかり押さえている。だからこそ、キャラはきちんと立っていないと。
ンが、よりによって三銃士が弱い。登場シーンに続くそれぞれの見せ場も、3人のキャラが立っていないから、正直、誰が誰だかよーわからん。一応、最年長でリーダー格、冷静沈着なアトス、大男で豪快、ちょっぴり見栄っ張りなポルトス、聖職者志望の優男、物静かなアラミス、といった基本(アトスとミレディの関係まで描くのは難しいかしらん?)は押さえておいて欲しいぞ。

ダルタニヤンのデニス・マトヴィエンコ、田舎の若者らしいのびのびとした可愛らしさはよく出ていたと思うが、賢さも欲しかったような。しっかし、彼は日本のバレエ団に普通に馴染むね。
コンスタンスの伊藤友季子、主役の割には出番も少なく目立たないが、今時の若い娘らしさが、王妃のために尽力しながらダルタニヤンと恋愛しちゃうようなちゃっかりしたところと巧く結びついて、意外な効果を生み出していた。

ポルトスの菊地研、三銃士の中では踊りも一番安定していたし(コンスタンスを救い出すシーンでは、あまりのかっちょよさに気絶しそうだったわ)、貫禄というか、妙なおやぢ臭さというか、ある種の落ち着きを漂わせていたのは立派。ただ、ワタクシ的には、お尻のあたりから大腿にかけてすんごく張っていたのが気になって気になって。ややもすると出っ尻に見える。う〜む、これで上半身に筋肉がつけば、バランスよくなるのかしらん?……てなことばかり考えていたのだ、ぢつは。
アトスの今勇也とアラミスのアルタンフヤグ・ドゥガラーには、それぞれのキャラ(これは演出の問題もあるかも)をはじめ、銃士としてのダイナミックさ、大人の男としての品格などがまだまだ足りない。これがないと、ダルタニヤンとの対比が出てこないからね。

アンヌ王妃の草刈民代、憂いに沈む風情が抜群に美しい。バッキンガム公爵の逸見智彦も、美貌と気品を併せ持つこの役にピッタリ。そして、ルイ13世の小嶋直也が、ふたりの恋に説得力を持たせるキャラに加え、王室を皮肉る視線も感じさせて好演。

【第2幕 イングランド〜酒場〜アンヌ王妃の部屋】

ダルタニヤン      デニス・マトヴィエンコ
コンスタンス      伊藤友季子
ミレディ        田中祐子
アンヌ王妃       草刈民代
三銃士ポルトス     菊地研
   アトス      今勇也
   アラミス     アルタンフヤグ・ドゥガラー
バッキンガム公爵    逸見智彦
リシュリュー枢機卿   本多実男
ロシュフォール     塚田渉
国王ルイ13世     小嶋直也

リシュリューの護衛隊員 邵智羽、武藤顕三、徳永太一、高橋章、
            保坂アントン慶、中島哲也
6人の娼婦       金澤千稲、佐藤朱実、小橋美矢子、笠井裕子
            橋本尚美、吉岡まな美               他

舞台変わってイングランド。バッキンガム公爵のお屋敷。ここはもう、田中祐子の独壇場。王妃の首飾りをバッキンガム公爵と奪い合うシーンの迫力、なかなか死なない公爵を前にしての悪態ぶり(「早く死なんかいっ!」みたいな)、せっかく奪った首飾りをダルタニヤンに騙し取られロシュフォールに八つ当たりする様など、恐ろしくもあり、でも、どこか憎めない滑稽さもあり、お見事。
ところで、ダルタニヤンはロシュフォールに変装してミレディを騙すのだが、デニス・マトヴィエンコと塚田渉? ありえねー!

ダルタニヤンと三銃士たちは護衛隊員の刃をくぐり抜け、無事、首飾りを王妃の元に届ける。最後はダルタニヤンとコンスタンスのロマンティックなパ・ド・ドゥで、めでたしめでたし……と思いきや、フィナーレで改めて物語の流れをサクッとおさらいしてくれるンだ、これが。ま、ミレディに殺されたバッキンガム公爵が元気に踊るのもどうかと思うが(しかも、再びご丁寧に殺される)、観客に最後まで楽しんでもらおうというサービス精神は嬉しい。このあたりも香港映画のエンドクレジットに流れるNG集に通じるような。

終わってみれば、「主役は誰っすか?」と、訊きたくなるぐらいミレディの印象が強い(タイトルを『妖婦ミレディ』とかに変えたい)。それだけ田中祐子が素晴らしかったわけだが、ダルタニヤンのデニス・マトヴィエンコや、三銃士の菊地研、今勇也、アルタンフヤグ・ドゥガラーの存在感が弱すぎ、って気もしないでもない。こういう作品は、丁寧かつ大仰にやって、そのバカバカしさを観客に楽しんでもらわないとね。今回は初役だったし、次回、もっと頑張れー!

そうそう、6人の娼婦の金澤千稲、佐藤朱実、小橋美矢子、笠井裕子、橋本尚美、吉岡まな美がと〜っても素敵。皆さん、お色気系もイケるのね。
あと、コメディアンぶりを遺憾なく発揮していた護衛隊員の保坂アントン慶。ベタベタなギャグを照れずにやっているのがいい。やっている方が照れてしまうと、観ているこちらも照れてしまうからね。

段差を多用したアレクサンドル・ワシリエフの美術装置は、監視する者とされる者の関係を浮かび上がらせ、陰謀渦巻く宮廷の雰囲気を巧く伝えていた。また、乱闘シーンでは、ダンサーが段差(駄洒落じゃありません)を昇降する動きによって、より一層の躍動感が出た。