■2005年4月29日(金)&30日(土) 東京文化会館
シルヴィ・ギエムの《愛の物語》Aプロ
シェイクスピア好きとしては、『真夏の夜の夢』は観ないわけにはいかないでしょう。ってことで、2日続きで観てしまったよ。戯曲について考察できたし、おまけに、シルヴィ・ギエム、ニコラ・ル・リッシュ、アンソニー・ダウエルまでついてくる贅沢さ。ワタクシ的には得した気分。ンが、ギエム目当ての観客にしてみたら、どうなんでしょう???
【真夏の夜の夢】東京バレエ団初演

[振付]フレデリック・アシュトン [演出]アンソニー・ダウエル、クリストファー・カー
[音楽]フェリックス・B・メンデルスゾーン [編曲]ジョン・ランチベリー [美術]デヴィッド・ウォーカー
[指揮]アレクサンダー・イングラム [演奏]東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
[合唱]TOKYO FM 少年合唱団

タイターニア      斎藤友佳理/吉岡美佳
オベロン        木村和夫/後藤晴雄
パック         古川和則/中島周
ボトム         平野玲/高橋竜太
ハーミア        小出領子/高村順子
ライサンダー      後藤晴雄/古川和則
ヘレナ         井脇幸江/長谷川智佳子
デミトリアス      高岸直樹/木村和夫
村人          野辺誠治、氷室友、長瀬直義、横内国弘、松下裕次/
            鈴木淳也、辰巳一政、小笠原亮、宮本祐宣、田中俊太朗
エンドウの花の精    高村順子/高木綾
蛾の精         門西雅美/奈良春夏
蜘蛛の精        長谷川智佳子/乾友子
カラシナの精      西村真由美/大島由賀子               他

神秘的な森を舞台に、アテネの貴族社会と職人たち、さらに、森を統べる妖精たちが繰り広げるシェイクスピアの夢幻劇を、ロイヤル・スタイルの代名詞にもなっている振付家フレデリック・アシュトンが、「ヴィクトリア朝の絵本にも似た詩情豊かで美しいバレエに創り上げ」たそうな。
う〜む、その時点で何か間違っているような。そんなロマンティックな話じゃないっしょ。ってゆうか、バレエの原題が『The Dream(夢)』に変えられていることを考えると、シェイクスピアと切り離して観た方がいいのかも。

幕開きは深い森の中。妖精たちが次々に現れる。あいたたたた。東京バレエ団のコール・ドって、どうしてこう元気がいいンでしょう。上半身と下半身もバラバラだし、相変わらず足音も高い。妖精じゃないのか?

2日続けてみると、ついついキャストを比較してしまうわけで。「初日はファーストキャストだけのことはあったのね〜」と、しみじみすること小一時間。
まず、タイターニアの斎藤友佳理。他のダンサーが慣れないアシュトン・スタイルに手こずっているなか、彼女だけきちんと踊りこなしていた。ロバの頭を被った職人ボトムに惚れ込んでしまう滑稽さも、どうしてなかなか哀れで美しい。吉岡美佳はふらついたり流れたり、とにかく踊りが不安定。ただ、戯曲が持っていた性愛の世界を彷佛させるコケティッシュな雰囲気、取り分けボトムとの絡みで見せた色気は捨て難い。
対するオベロンは木村和夫と後藤晴雄。正直、どちらも力不足。特に、後藤は序盤からフラフラのヘロヘロ。見せ場のパ・ド・ドゥでは王冠までずり落ちる始末。妖精王としての威厳を云々する以前の問題っす。ところで、この役を初演で踊ったアンソニー・ダウエルの写真がプログラムに載っていたが、その貴族的な風貌だけで妖精王の存在感バリバリ。あれでまだ21歳だなんて……。

パックは古川和則と中島周。とりあえず、古川は跳躍も回転も見事だった。あと、パのひとつひとつがすんごいクリア。中島は笑顔がメチャメチャ可愛かったが、踊りのキレはイマイチ。ふたりともパックらしさは全然なかったなぁ。ああした存在(祝祭の本質を体現するような)を表現するのは、ホント、難しい。身軽さや愛嬌だけじゃないからね。
ボトムの平野玲と高橋竜太はそれぞれの持ち味が出た。振付の美しさを精確に再現していた平野と、「とてつもねえ幻」を見た衝撃を一瞬の表情で表わしてみせた高橋。ふたりともポワント・ワークが素晴らしかった!

4人の恋人たちは両日とも芝居が段取りっぽいうえに、もともと直截なマイムが多く、何だかあまり笑えなかったわ。4人のバランスの良さでは初日(小出領子、後藤晴雄、井脇幸江、高岸直樹)に軍配が上がるが、きっちり芝居をリードしていた2日目の男性陣(自分のマントを思いっきり踏んでいた古川和則と一途な男がハマる木村和夫)も印象に残る。しっかし、ヘレナのピンクの衣裳はすんごいわ。あの垢抜けなさが、そのまま彼女のキャラクターになっていたり。
そして、何気に目立つカラシナの精の大島由賀子。

シェイクスピアの戯曲『真夏の夜の夢』は三つの世界から成り立っている。その三つとは、アテネの大公シーシュースとアマゾンの女王ヒポリタの貴族世界、職人たちの世界、オベロンとタイターニアの妖精の世界である。その三つの世界を行き来するのが職人ボトムであり、彼は仲間たちと一緒にシーシュースとヒポリタの婚礼の余興として芝居を演じる。どこかの貴族の婚礼の祝宴で演じられたであろう『真夏の夜の夢』の中で、さらに劇中劇が演じられる。繰り返される喜劇。しかも、演劇的解釈としては、オベロンはシーシュースの、タイターニアはヒポリタの分身であり、一人二役で演じられることも珍しくない。そうしたメタシアター的構造を有する戯曲を、こんなあっさりした一幕物のバレエ作品にしてしまったアシュトンって、ある意味、勇者。
ってなことを考えずに観れば、気楽に楽しめる作品だと思われ。またひとつ、東京バレエ団に魅力的なレパートリーが増えたのではないかしらん?

【マルグリットとアルマン】

[振付]フレデリック・アシュトン [音楽]フランツ・リスト
[オーケストラ用編曲]ダドリー・シンプソン [美術]セシル・ビートン
[指揮]アレクサンダー・イングラム [演奏]東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
[ピアノ]フィリップ・ギャモン

マルグリット      シルヴィ・ギエム
アルマン        ニコラ・ル・リッシュ
アルマンの父      アンソニー・ダウエル
公爵          ルーク・ヘイドン
マルグリットの取り巻き オリヴィエ・シャヌ、マシュー・エンディコット
            アンドレア・ヴォルピンテスタ、ギャビン・フィッツパトリック
            マシュー・グラハム、平野玲、ダンカン・ヒューム
            トーマス・サプスフォード
メイド         シモーナ・キエザ
マルグリットの影    ニコール・ランズリー

私はマーゴ・フォンテインとルドルフ・ヌレエフの映像(それも妙な映像処理された)しか観たことなかったので、結構、楽しみにしていたのよ。ンで、実際、期待に違わぬ佳品でした。

プログラムには、「死に至る病の終末期にある椿姫が彼女の悲劇的な人生に起きた出来事を回想する」とある。いやいやいやいや、まさにその通り。死の床にあるマルグリットが恋人アルマンを回想するプロローグに始まり、ふたりの出会い、田舎での逢瀬、偽りの別れと恋人の侮辱、そして、再び戻って来た恋人の腕の中で彼女が息絶えるまでが、45分という短い時間の中に描かれる。簡潔でありながら濃密。

マルグリットのシルヴィ・ギエムは圧倒的に美しく、それと意識させない完璧なテクニックと豊かな感情表現も素晴らしい。ただ、マルグリットって、風情で見せる役という気もしないでもない。
アルマンのニコラ・ル・リッシュ、何はともあれ、遠慮のないパートナー扱いがいいっ! 迸る激情が感じられる。髪も短くなって、前より若々しくなったような。ラスト、静かな客席に響く彼の息遣いが印象に残る。
アルマンの父のアンソニー・ダウエル(カーテンコールでは、一際、拍手が大きかった)と公爵のルーク・ヘイドンが好演。

ギエムと言えども、連日満席になるわけじゃないのね。30日は上階ガラガラ。4階で観ていた私は、ひとりで1列借り切り状態(笑)。いや、主催者にとっては笑い事じゃないか。