■2005年5月29日(日) 東京文化会館
牧阿佐美バレヱ団『ドン・キホーテ』
[演出・振付]アザーリ・M・プリセツキー、ワレンティーナ・サーヴィナ(プティパ、ゴルスキー版による)
[作曲]レオン・ミンクス [音楽監督・指揮]堤俊作 [管弦楽]ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
前日に仕事が入り、結局、打ち上げまで付き合って朝帰り。さすがに徹夜は辛いので(そういう年齢になりました)、一眠りして出掛ける。おまけに、このところず〜っと頭を悩ませている仕事上の懸案もあって、何かストレス。せっかくの菊地研バジル・デビューを、こんな気分で迎えなければならないとは……。トホホ。
【プロローグ】【第1幕 スペインの広場〜居酒屋】

キトリ        佐藤朱実
バジル        菊地研
ドン・キホーテ    本多実男
サンチョ・パンサ   山内貴雄
キトリの友だち    橘るみ、青山季可
街の踊り子      坂西麻美
エスパーダ      イルギス・ガリムーリン
ガマーシュ      保坂アントン慶

酒場の踊り子     坂西麻美                    他

最初にキャストを聞いた時、「佐藤朱実がキトリ? 彼女にはもっと相応しい演目があるンじゃ?」と、思ってしまったが、案の定、勝気さや色気が足りん。ただ、そのあたりは無理に演じられても却って興醒めだし、自分の持ち味と相談したうえでの役作りならこれもありかな、と。それに、キトリがややおっとり風味だったせいか、バジルの菊地研とのバランスが案外よかったのだ。佐藤の方が先輩だし、下手すると、最初から最後まで尻に敷かれたままではなかろうか? と、心配していたが、そんなこと全然なし! ってゆうか、すっかり頼もしくなっていてビックリ。ここ最近の舞台に感じていた物足りなさが、キレイサッパリ払拭されたぞ。

菊地は超絶技巧の持ち主ってわけではないから、テクニック的には「う〜む」な部分も確かにあった。サポートにしても、見せ場の片手リフトがビシッと決まらず爽快感に欠けたり、ピルエットでパートナーの身体が傾いだり、ま、いろいろやらかしていた。ンが、それでもなお魅力的だったのは、彼の持つ華やかな雰囲気が『ドン・キホーテ』の祝祭感と巧くマッチしていたからだと思われ。
ワタクシ的には、居酒屋の狂言自殺が意外とツボ。黒いマントを羽織って出てきた時の過剰なまでの悲壮感、それが一転、音が聞こえるぐらい派手な投げkissをして背中から勢いよく倒れ込む。あはっ、可愛い。

キトリの友達の橘るみ、出てきた瞬間の輝きがダントツ。最後の一音まで疎かにしない踊りも美しい。ここはもう、濃厚なアイメークには目を瞑ろう。
街の踊り子と酒場の踊り子の両方を踊った坂西麻美が、これまた惚れ惚れするほどの鮮やかさ。それなのに、マタドールたちが……。短剣しっかり突き立てンかいっ! それより何より、ムレタ100回振ってこいっ!(怒)
エスパーダのイルギス・どすこい・ガリムーリン、ベテランだけあって、自分の見せ方はよくわかっている。ンが、身体も踊りも重い重い(わざわざゲストに呼ぶ必要があったのか?)。

プログラムが買えなかったので(完売したそうな)、今回の演出・振付にどういう意図があるのか不明だが、かなり変わっている。1幕で居酒屋の狂言自殺までやってしまったら、後はもう結婚式しかないじゃん。これなら2幕はいらないっしょ。

【第2幕 ジプシーの野営地〜ドン・キホーテの夢】

キトリ        佐藤朱実
バジル        菊地研
ドン・キホーテ    本多実男
サンチョ・パンサ   山内貴雄

ジプシーの首領    山本成伸
ジプシーの女     吉岡まな美

ドルシネア姫     佐藤朱実
森の女王       伊藤友季子
3人のドゥリアーダ  小橋美矢子、青山季可、橘るみ
4人のドゥリアーダ  坂西麻美、金澤千稲、竹下陽子、橋本尚美
キューピッド     小松美帆                    他

ドルシネア姫の佐藤朱実、キトリよりいいだろうと思っていたが、ここまでいいとは予想していなかった。ふんわりとした雰囲気にうっとり〜。しかも、「ドルシネアはドン・キホーテの夢の中にのみ存在する“麗しの姫君”である」ということが、こちらにきちんと伝わってくる。素晴らしい。
それに比べると、森の女王の伊藤友季子はまだまだっす。確かにキレイだが、それだけ。“女王”としての品格がまったく感じられない。
キューピッドの小松美帆は、可もなく不可もなく。

ここでもやはり、橘るみの存在感が頭ひとつ抜け出た感じ。
キャスト表では別の日の出演になっていたが、4人のドゥリアーダに笠井裕子がいたような。優雅で上品な踊りが目を引いた。
青山季可が意外と目立たなかったな。1場でジプシーの女を踊った吉岡まな美もイマイチ印象薄かったし。

ドン・キホーテにタイトルロールとしての存在感があるなら別だが、そうでないと、この《居酒屋〜ジプシーの野営地〜夢の場》という流れは無理がある。とは言え、《夢の場》はやはり美しい。コール・ドたちの淡いグリーンのチュチュ、清々しくて可憐。

【第3幕 公爵の城の前庭】

キトリ        佐藤朱実
バジル        菊地研
ドン・キホーテ    本多実男
サンチョ・パンサ   山内貴雄
キトリの友だち    橘るみ、小橋美矢子
ボレロ        柄本奈美、塚田渉                他

いやいやいやいや、3幕のグラン・パ・ド・ドゥはすんごい興奮しちゃったよ。
前回の公演(第47回 大阪国際フェスティバル2005 牧阿佐美バレヱ団『ノートルダム・ド・パリ』)でも感じたが、菊地研は全幕を踊り切るためのペース配分がすんごく巧くなった。終始、踊りが安定している。ってゆうか、余裕すら感じられた。ンで、それは何故なのかしらん? と、考えた結果、無理をしていないのがよかったのかな、と。
これは佐藤朱実にも言えるが、ふたりとも初役に挑む勢いは充分感じられるのに、妙な気負いはまったくないのよ。たぶん、ふたりでじっくり時間をかけて準備してきたのではないかしらん? そのプロセスが自信に繋がり、リラックスしているように見えたのでは? しかも、そうした心持ちが結婚式に相応しい晴れがましさを際立たせ、より一層の高揚感が生まれたような。

今回は菊地研のプロポーションがと〜ってもよく見えたの。衣装のおかげかしらん?(をいをい)
あまり大きな声では言えないが、長身の割にはプロポーションがイマイチなのよね。そのうえ、最近は大腿がパンパンに張ってきて、ますます微妙な状態に(まだ過渡期でもあるわけで)。ンが、バジルの衣裳は上着の丈が短くて、脚が長くスッキリ見える。特に、結婚式の黒い衣裳はメチャメチャ素敵。キトリの赤い衣裳とのコントラストも抜群だし。そうそう、髪の色をいつもより落ち着いたブラウンにしていたのも正解。颯爽として、しかも上品。
ヴァリアシオンが終わった後の、ちょっと格好つけたレヴェランス。ありがちと言えばありがちだが、そんな仕草も可愛かった。

美術と衣裳が素敵(庶民の物語にしては、やや贅沢過ぎる気も……)。クレジットを確認できないのが残念。しっかし、しょっちゅう完売していないか?>プログラム
前売状況でだいたいの来場者数は読めるンだから、ちゃんと作っておいてくれよ。主催者はこういうところでケチるものじゃありません。

あぁ、それにしても、若々しいスピード感に品格(それは、バレエの文脈で語られる“ノーブル”とは違うが)まで具わり、実に魅力的なバジルでございました。過剰な色気を振りまく太々しい菊地研もいいが、華やかな雰囲気をストレートに表出した菊地研も、案外、いいのね。あとは、テクニックのさらなる精進を望む、ってことで。