■2005年6月25日(土) 新国立劇場 オペラ劇場
新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』
[振付]マリウス・プティパ、アレクサンドル・ゴルスキー [作曲]レオン・ミンクス
[台本]マリウス・プティパ(ミゲル・デ・セルバンテスの小説による)
[改訂振付]アレクセイ・ファジェーチェフ(芸術アドバイザー/ゲストバレエマスター)
[指揮]ボリス・グルージン [管弦楽]東京フィルハーモニー交響楽団
レオン・ミンクスによるバレエ曲『ドン・キホーテ』は、必ずしも名曲ではない。名曲ではないが、スペインの雰囲気を適度に(ここ大切)取り入れた軽快な音楽は、聴く者の心を自然と沸き立たせる力を持っている。だから、ついつい観たくなるのよね。
【プロローグ〜第1幕】

キトリ            スヴェトラーナ・ザハロワ
バジル            アンドレイ・ウヴァーロフ
ドン・キホーテ        長瀬信夫
サンチョ・パンサ       奥田慎也
ガマーシュ          ゲンナーディ・イリイン
街の踊り子          真忠久美子
エスパーダ          イルギス・ガリムーリン
キトリの友達(ジュアニッタ) 遠藤睦子
キトリの友達(ピッキリア)  西山裕子                  他

ドン・キホーテという人物は、騎士道物語に心酔し、理想の騎士たらんとするあまり現実との間に軋轢が生じてしまうだけで、別にボケ(最近は認知症と言うのか?)老人ってわけではない。長瀬信夫扮するドン・キホーテには、そうした高い理想に向かって突き進んでいく高潔さが感じられて、なかなかGood。

陰鬱なプロローグから一転、陽光溢れるバルセロナの港町。をを! 衣裳の色合いがすんごくキレイで、一気に舞台が華やぐ。先月の『眠れる森の美女』では、意外とつまらなかったスヴェトラーナ・ザハロワと、そこはかとなくお疲れモードだったアンドレイ・ウヴァーロフ。今回はふたりとも好調なり。

キトリのザハロワがとにかく可愛いっ! 小気味よさはイマイチだが、撓り具合がツボだ。確かに、勝気さや色気より“品”の方が勝っているが、お淑やかな新国立劇場バレエ団の中に入れば、むしろ調度いいぐらい。ホント、こんなにハマるとは思わなかったわ。あとは、視線の使い方かな。ひとつひとつにもう少し意味を持たせられたら、さらによくなると思われ。

ザハロワの調子がいいと、ウヴァーロフもサポートに専念しなくて済むから、かなりハジけていたような(舞台袖に向かって投げたタンバリンは、一体、どこまで飛んでいったの?)。演技もお手本のような的確さだし、何より、キトリに対してちゃんと“俺の女”感が出ていたのが素敵。多少、粗雑に扱っても、根底には愛が感じられるのよ。

見せ場の片手リフトは、ふたりとも余裕の笑顔。にこやかにタンバリン振り鳴らしているザハロワ。さすがだ。

先月の牧阿佐美バレヱ団『ドン・キホーテ』に続いて、イルギス・ガリムーリンのエスパーダ再び。ムレタの扱いは巧かったが、あれでは引退したマタドールだってば(とは言っても、他に踊れるダンサーがいないからなぁ)。トレアドールは短剣をきちんと床に突き立てていたので、とりあえず、よしとしよう。
街の踊り子の真忠久美子、押し出しもケレン味も全然足りない。
キトリの友達の西山裕子がザハロワに負けない美しさで印象に残る。
ガマーシュのゲンナーディ・イリインもいい味出しておりました(一瞬、日本人扮する付け鼻の怪しい外国人かと思ってしまったが……)。

【第2幕】

キトリ            スヴェトラーナ・ザハロワ
バジル            アンドレイ・ウヴァーロフ
ドン・キホーテ        長瀬信夫
サンチョ・パンサ       奥田慎也
ガマーシュ          ゲンナーディ・イリイン
エスパーダ          イルギス・ガリムーリン
メルセデス          湯川麻美子
キトリの友達(ジュアニッタ) 遠藤睦子
キトリの友達(ピッキリア)  西山裕子
ギターの踊り         大森結城

ジプシーの頭目        市川透
二人のジプシー        グリゴリー・バリノフ、吉本泰久

ドゥルシネア姫        スヴェトラーナ・ザハロワ
森の女王           川村真樹
キューピッド         さいとう美帆
3人の妖精          寺島まゆみ、鶴谷美穂、丸尾孝子
4人の妖精          高橋有里、中島郁美、難波美保、大和雅美   他

あら、キトリだけお召し替え? 衣裳が黒になっているわ。ザハロワには赤の方が似合うと思うが、出てくる度に衣裳が違うのも、それはそれで嬉しいかも。
バジルの狂言自殺、ウヴァーロフは間の取り方が絶妙。笑える。

同じ《居酒屋〜ジプシーの野営地〜夢の場》という流れでも、牧バレヱのように違和感がないのは、居酒屋でキトリとバジルが結婚を許された後、ドン・キホーテとサンチョ・パンサのふたりだけが野営地に行くから(あちらは、中途半端にキトリとバジルを出しちゃうからダメなのよ)。そこで風車に突っ込んでいくドタバタがあり、夢の場になる。版によっては、《ジプシーの野営地〜夢の場〜居酒屋》という流れもあるが、ドン・キホーテを物語の軸として強調するには、今回の方がいいような。

二人のジプシーを踊ったグリゴリー・バリノフと吉本泰久、後ろの4人とは、踊りのキレが格段に違う。ってゆうか、後ろの4人、もうちょっと頑張れよ。

森の女王の川村真樹、儚げでありながら温かみがあって、と〜っても素敵。
ザハロワのドゥルシネア姫も悪くはないが、イマイチ奥行きに欠ける。なんつーか、「ドン・キホーテの夢にのみ存在する」というあたりが曖昧なのかしらん?
キューピッドのさいとう美帆が愛らしくて優雅。しっかし、ピンクのヅラは如何なものか?

【第3幕】

キトリ            スヴェトラーナ・ザハロワ
バジル            アンドレイ・ウヴァーロフ
ドン・キホーテ        長瀬信夫
サンチョ・パンサ       奥田慎也
ボレロ            楠元郁子、マイレン・トレウバエフ
キューピッド         さいとう美帆
第1ヴァリエーション     寺島ひろみ
第2ヴァリエーション     本島美和                  他

ガマーシュを踊っていたイリインが、いきなり公爵で登場(笑)。ガマーシュの出番が少ないとは言え、他にいなかったのか?
ボレロのマイレン・トレウバエフ、踊りはともかく、定規で引いたような眉は何? 我が目を疑いましたよ。

長身同士のグラン・パ・ド・ドゥは見栄えがしていいわ〜。ンが、ここにきて、ウヴァーロフに忍び寄る疲れの気配(ヴァリアシオンはかなりヘロっていたような)。あと少しだ、頑張れ!
もしかして、ザハロワは回転系が苦手? フェッテにダブルを入れるのはいいが、どんどんズレていくぞ。それならシングルできっちり回ってくれた方がいいのに。う〜む、残念。
第1ヴァリエーションの寺島ひろみ、今までちゃんと観た記憶がなかったが、ラインの美しいダンサーですなぁ。

タイトル・ロールの存在感がそれなりにあるし、エスパーダの造型も物語の進行にはほとんど影響しないし(時代背景を考えれば、マタドールと床屋が友達なんて有り得ないわけで)、この版に対する評価はかなり高いのだが、全員で踊るフィナーレがないのよ。
ドン・キホーテとサンチョ・パンサを見送る前に、もうひと盛り上がりあるとメチャメチャ嬉しいぞ。あの大団円こそ全幕を観る醍醐味じゃん。