■2005年7月20日(水) Bunkamura オーチャードホール
《エトワール・ガラ》特別オープニングガラ
公演名の「エトワール」って、パリ・オペラ座を象徴する意味で使われているのかしらん? 実際、エトワールと呼ばれるダンサーはマリ=アニエス・ジロとレティシア・プジョルのふたりだけなわけで。う〜む、看板に偽りあり? ンが、若手を揃えたコンテンポラリー中心のプログラム構成が面白そうだし、バレエ公演には珍しいビジュアル戦略にも興味あるし……ってことで、当日券でオープニングガラを観る。
【第1部】

『ルビー』
[振付]ジョージ・バランシン [音楽]イーゴリ・ストラヴィンスキー

エレオノラ・アバニャート、バンジャマン・ペッシュ

「あれれ、最初はバランシンだったよね?」と、思わずプログラムを確認してしまうぐらいバランシンには見えなかった。全然、音楽的じゃない。でも、ま、幕開けはダンサーも手探り状態のところがあるしね。
しっかし、バンジャマン・ペッシュって、こんなにプロポーション悪かった? 衣裳のせい?

『リーベン・ラインズ』 *日本初演
[振付]ジェレミー・ベランガール [音楽]ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン、パーカッション

ジェレミー・ベランガール

長年フリージャズを聴いているので、こういうマスターベーション的自作自演ソロには十二分に耐性がある。とりあえず、舞台にいるのが若くてキレイなダンサーってだけで許される。むさ苦しいおやぢがピアノ壊しそうな勢いでぶっ叩いている姿より全然いいじゃん。いや、そういうことじゃなくて。
自作自演のソロ、おまけに「内面のモノローグとして構築されたソロ」ともなると、客観的な視点がないから、あれもこれもと盛り込んで、結果、つまらない作品になっちゃうンだよね。ま、これはそれ以前のレベルのような気もするが、観客の視線から気づくことも多いと思うし、頑張ってね。>ベランガール
音楽のセンスは一昔前の現代音楽のような。リミックス感覚なのか?

『身近な距離』 *日本初演
[振付]イリ・ブベニチェク [音楽]オットー・ブベニチェク

マリ=アニエス・ジロ、イリ・ブベニチェク

イリ・ブベニチェクが兄オットーの音楽に基づき振り付けした「愛の3つの情景を表現しようとした」作品で、第3の情景〈対立〉のパ・ド・ドゥ。あはっ、そのまんま(笑)。わかりやすいぞ。>ブベニチェク
黒いパンツスーツ姿のマリ=アニエス・ジロがメチャメチャかっちょえー! 長い手脚が描く軌跡、完璧なボディ・コントロール。男前だ。
ちなみに、残りふたつの情景は〈愛そのもの〉と〈あなたにとって恋しい人〉だそうな。

『シルヴィア』
[振付]ジョン・ノイマイヤー [音楽]レオ・ドリーブ

シルヴィア・アッツォーニ、エルヴェ・モロー

シルヴィア・アッツォーニはハンブルク・バレエ団のプリンシパルだけあって、ノイマイヤーの作品を踊らせたら、さすがに巧い。ただ立っているだけでもドラマが感じられる。
ンが、ワタクシ的には、エルヴェ・モローだわ〜。踊りはちょっともっさりしているが、茫洋とした存在感がかなりツボ。全幕を観たことがないので、果たして、それが役柄として正しいのかどうかはひとまず保留。

『ニュアージュ』
[振付]イリ・キリアン [音楽]クロード・ドビュッシュー

エレオノラ・アバニャート、ガエル・ランビオット

男性のサポート頼みの作品なのに、ガエル・ランビオットがまったくもってダメダメ。エレオノラ・アバニャートが踊り難そう。ンが、彼女が随所で見せる不穏な存在感──静謐さの奥に熱情を秘めたような──は印象に残る。ってゆうか、ただ単にヘタレなパートナーに怒っていただけか?

『感情の囚われ人』 *日本初演
[振付]イリ・ブベニチェク [音楽]畑中正人、アルヴォ・ペルト

ジェレミー・ベランガール、イリ・ブベニチェク

「双子であるというのはどういうことか?」をテーマに、双子の兄オットーと共に創作された作品。それなら、オットーとふたりで踊ってくれればよかったのに。だって、ベランガールとブベニチェクでは、身体そのものが放つ存在感や動きのひとつひとつが持つ説得力に違いがあるンだもの。

【第2部】

『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』
[振付]ウィリアム・フォーサイス [音楽]トム・ウィレムス、レスリー・スタック

マリ=アニエス・ジロ、ガエル・ランビオット

すんごい楽しみにしていたが、こちらの想像とまったく対極なものを見せられてしまったような。なんつーか、淡々と踊っているだけ。そういうアプローチなのか? 「クラシック・バレエの脱構築をしたと評されるフォーサイス作品」も、今じゃもう“クラシック”なのかしらん? もしかして、皮肉としてやっている?……などと思っていたら、あら、途中で終わっちゃったよ。どちらにしても、もうちょっと長く観ていたかったわ。

『ロミオとジュリエット』
[振付]ジョン・ノイマイヤー [音楽]セルゲイ・プロコフィエフ

シルヴィア・アッツォーニ、バンジャマン・ペッシュ

あちゃー、サポートに必死のペッシュ。いや、確かに、リフトとか難しそうだものね。ノイマイヤーの作品は好きだから、楽しみにしていたのに……。
アッツォーニが10代の少女のようにキュートだったから、ま、いいか。

『カジミールの色』 *日本初演
[振付]マウロ・ビゴンゼッティ [音楽]ドミトリー・ショスタコーヴィチ

エレオノラ・アバニャート、ジェレミー・ベランガール

イタリア人のコレオグラファーですか。割と普通なコンテンポラリーっすね。ンが、衣裳の配色は普通じゃなかった。
ってことで、この“カジミール”って、カジミール・マレーヴィチ(シュプレマティズムを提唱した20世紀初頭のロシア・アヴァンギャルドを代表する画家)のこと? ちなみに、私はワシリー・カンディンスキーが好き……って、関係ないですね。時間が経つとバレエそのものの印象が薄れ、つい違う方向に走ってしまう。すみません。

『ホエアアバウツ・アンノウン』 *日本初演
[振付]イリ・キリアン [音楽]チャールズ・アイヴズ

マリ=アニエス・ジロ、イリ・ブベニチェク

ジロとブベニチェクは瞬間瞬間に説得力があり、初めて観る作品でも居心地の悪さを感じることはまったくない。
しっかし、作品を観る度に思うが、キリアンって、ホント、喰えない人だわ。

『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』
[振付]ジョージ・バランシン [音楽]ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

レティシア・プジョル、エルヴェ・モロー

踊りのタイプがまったく違うので、アダージオはお互いの良さが出ないまま終わる。ふたりとも、ヴァリアシオンからエンジン全開。
ほおぉ、レティシア・プジョルは本当にテクニックのあるダンサーなのね。なんつーか、“メリハリある踊り”とか“強靱なテクニック”といったコメントが浮かんできそうだ。あまりにも規格通りで面白味に欠けるが、これはこれでありかな、と。
モローは見た目も美しく(まさに、正統派のダンスール・ノーブル)、と〜っても爽やかな印象。でも、どこか踊りはもっさりしているのが、却って微笑ましかったり。そのアンバランスなところに惚れたかも。

【フィナーレ? カーテンコール?】

ラストがお洒落。黒い幕を半分だけ下ろし、そこにクレジットやダンサーの写真を映していく。映画のエンドクレジットみたい。ンで、下半分は紗幕になっていて、黒いシルエットのダンサーたちがミニコント(?)を演じる。こういうお遊びは、肩の力が抜けていて私は好き。
ってことで、終わってみれば、案外、楽しかった。これってたぶん、数日前に、ヨーロッパで開催されたジャズ・フェスティバルのライヴ録音を聴いて、ノリノリの観客(どんなにヘタレな演奏でも、どんなに前衛的な内容でも、とにかく楽しむ、貪欲なまでに楽しむ)に感化されたからだと思われ。なんつーか、妙に前向きな精神状態だったのよ。

ただ、客席全体を見渡せば、「クラシックが観たい」だの、「よくわからない」だの、「退屈」だの、ぼやいている人は多く、ダンサーがやりたいものと観客が観たいものとが一致していなかったことは明らか。それに、この日に限って言えば、パフォーマンスの内容がチケットの値段に見合っていたかは疑問が残るし、“特別オープニングガラ”というタイトルに相応しい特別感もなかった。
とりあえず、いろんな意味でもう少し大人になろう。

ここからは雑談。
本公演のきっかけは、一昨年の『ローラン・プティの世界』だと思われ。あの時、ゲストで出ていたペッシュやベランガールと何かやりましょう……って流れで、企画が始まったンじゃないかしらん? 次世代を担う若手と一緒に新しいことにチャレンジしようというBunkamuraの姿勢、しかも、彼らの好きにさせるという度量の広さ、さらに、プロモーションにおけるビジュアル・イメージの統一をここまで意識して展開したことなど、ワタクシ的には、評価は高い。

そもそもバレエのチラシと言えば、クオリティの低いアーティスト写真やセンスの悪いコピーが並び、手に取るのも恥ずかしいものばかり。最初は、内容に自信があるからチラシなどに余計なお金をかけないのかと思っていたが、結局、バレエをやっている子供やその家族、関係者などである程度の集客が期待できるから、新しい観客を開拓しようという意識がないだけ。要するに、怠慢なのだ。公演毎に役者の写真を撮り、テーマに添った世界観を提示する演劇の世界を少しは見習えよー!

今回のようなビジュアル戦略を展開するには、協賛があるとは言え、経済的にはたいへんだと思う。ンが、Bunkamuraには今後もこの路線を邁進し、有名ダンサーに“おんぶにだっこ”のありきたりなガラ公演とは違う、もっとワクワクするような斬新な企画を打ち出していって欲しいぞ。