スワニルダ ルシア・ラカッラ(15日)/本島美和(20日)
フランツ シリル・ピエール(15日)
レオニード・サラファーノフ(20日)
コッペリウス ルイジ・ボニーノ
コッペリア 人形
スワニルダの友人 遠藤睦子、さいとう美帆、西山裕子
寺島まゆみ、丸尾孝子、寺田亜沙子(15日)
湯川麻美子、真忠久美子、厚木三杏
西川貴子、川村真樹、堀口純(20日) 他
街の広場では、女たちが衛兵に夢中になっている。そこに現れるスワニルダ。彼女は、恋するフランツがコッペリウス邸の窓辺に座る若い娘に惹かれているのに気づき、コッペリウスが落とした鍵を拾うと、友人たちを誘って屋敷に忍び込む。
コッペリウスにルイジ・ボニーノがキャスティングされた時点で予想していたが、映像で観た時の印象とはまったくの別物。何が違うって、コッペリウスの造型が全然違う。プティにあったダンディさや威厳は失われ、コミカルな面ばかりが強調されたボニーノお得意のチャップリンもどき。踊りもやや簡略化されていたというか、ボニーノ風にアレンジされていたというか。
ただ、客席では大きな笑い声が何度も上がっていたし、連れも「楽しかった!」を連発していたので、これはこれでありなのかな。
……と、15日に観た時は思ったが、20日に改めて観た時は、このコッペリウスは絶対違うと確信。
とにかく、笑わせることが目的になってしまっている。特に2幕。コッペリウスは人形とテーブルを囲み、シャンパングラスを傾け、ワルツを踊る。ボニーノは、そのシーンの人形扱いがメチャメチャぞんざいで、それで笑いを取っている。“彼女”の頭から大袈裟にシャンパンをこぼす、無理矢理振り回す、挙げ句の果てには張り倒す。しかも、その度に「ほら、困ったもんでしょう」と言わんばかりの表情を客席に向ける。そりゃ確かに、「スワニルダにそっくりの人形コッペリアを作り、タキシードを着込んでシャンパングラスを傾け、一緒に食事をしたり、踊ったりする」姿をリアルに見せられたら観客も引くだろう。ンが、だからと言ってすべてを笑いにしてしまっては、“コッペリア=愛する女の似姿”という前提が壊れてしまうわけで。「そこに愛はあるのか、愛は」と、ボニーノを小一時間ほど問い詰めたい気分。ったく、誰がキャスティングしたンだよ……って、プティ御大か。
う〜む、どうでしょう? 若過ぎるかも知れないし、無駄にノーブルかも知れないが、小嶋直也の方がまだプティの雰囲気に近づけたンじゃ?「脚の不調」による降板が、返す返すも残念だわ。
終幕も、心配してそっと肩を触れるスワニルダに対し、どつかれたようなリアクションをしたり、癇癪を起こした子供みたいに人形を壊したり。ちなみにプティの場合は、スワニルダを静かに拒絶し、まるで指の間から零れ落ちる砂のように壊れていく人形を前に、為す術もなく佇むだけ。あの寒々しさが堪りません。
そう言えば、新国立劇場2007年5月公演案内[Stage Note No. 93]には「人形はバラバラと地上に崩れ落ちてしまう」とあり、公演プログラムには「コッペリウスが人形コッペリアを壊し」とある。どっちが正しいのさ?(「自分の選んだ悪夢」が潰えた瞬間なんだから、「崩れ落ちてしまう」方がワタクシ的にはしっくりくる)。
スワニルダのルシア・ラカッラは、ただただ溜息。美しい軌跡を描く長い腕、高々と掲げられた脚。彼女が踊り出した瞬間の幸福感と言ったら!
首を傾げる、肩を竦める、お尻を突き出す、腰を振る……といったプティ独特の振付も堂に入ったもの。
衣裳もよく似合っていて、最初に着ている花柄チュチュも、人形に化けた時の黒いチュチュも、フィナーレの真っ白なチュチュも、どれも素敵。
本島美和はプティっぽくなかったですね〜。スワニルダの友人に長身組(普通は背の高い海外ゲストに組ませる)をキャスティングしたのは何故?
と思っていたが、湯川麻美子や真忠久美子といったプティを踊り慣れている人を周りに配することで、主役に足りない部分を補う意図があったのかしらん?
あるいは、先輩たちを参考にしなさい、とか? ただ、女同士、仲良さそうな雰囲気はよく出ていた。
踊りはちょっと波あり。最初は調子悪そうに見えたが、途中からノッてきて、そのまま終わると思いきや、フィナーレのフェッテであちゃ〜(最後で大きくよろめいて、オケピに落ちるンじゃないかとヒヤヒヤしましたよ)。
あとは、メイクをもう少し工夫しましょう。あそこまで目を強調すると、性格キツそうな可愛気のない女に見えてしまいます。スワニルダはひたすら「好きなンだもの(はあと)」で突き進んでいくわけで、少々オツムが弱くても見た目が可愛けりゃいいのよ。考えてみれば、コッペリウスの“知”をスワニルダの“無知”が滅茶苦茶にしてしまうわけで、そういう意味では、本島はスワニルダにしては知的過ぎたのかも。もっと思い切って弾けちゃえばよかったね。
フランツのシリル・ピエールは、踊りは重いわ、アン・ドゥオールは甘いわ、かなり不調。ラカッラ専属サポート要員だとわかってはいるものの、ちょっと納得しかねるキャスティング。あれなら新国立劇場のソリストに踊って欲しかったぞ(ま、それはそれで、パートナーシップに問題ありかも)。
コッペリアに投げkissする際、盛大に音を立てていたのには笑った笑った。
サラファーノフは幕開けの煙草を吸う姿が激しく似合わねー。中学生の隠れ煙草ですか?
体型的なこともあるかも知れないが(頭が大きい幼児体型)、とにかく子供っぽい。男の色気といったものが皆無で、恋の駆け引きになっていない。ってゆうか、本当にスワニルダを嫌っているようにしか見えない。
踊りも何か違う。たぶん、ちょっとしたニュアンスの付け方だと思うが、ピエールはやはりプティをよくわかっていたのね……難易度の高い振付をこなしながら男女の機微も表現するのは、決して簡単なことじゃないのね……と、改めて思ったり。
とは言え、テクニックは素晴らしかったです〜。涼しい顔で超絶技巧をバシバシ決めていく。特に、美しいトゥール・ザン・レールの連続にはマヂで感嘆しました。
スワニルダの友人では、湯川麻美子と真忠久美子が一日の長って感じ。さいとう美帆、寺島まゆみ、川村真樹あたりも可愛かったし、遠藤睦子も意外にハマっていた。あと、研修所2期生の寺田亜沙子が溌剌とした笑顔で印象に残る。年末の『くるみ割り人形』では主役デビューが決まっているし、今後の活躍に期待しましょう。
衛兵は帽子と髭でほとんど区別がつかなかったが、マイレン・トレウバエフと貝川鐵夫と吉本泰久は確認できた。特に、トレウバエフはすぐわかる。踊りの端正さやキレの良さが、ひとりだけ別格なのよね。
それにしても、プティのコッペリウスをLIVEで観たかったな……。