■2004年5月1日(土) 歌舞伎座
十一代目市川海老蔵襲名披露 五月大歌舞伎 昼の部 |
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とうとうこの日がきた。十一代目市川海老蔵襲名披露初日。入口脇には「白雪」の積み物と大入袋。テレビカメラが何台も立ち並び、報道関係と思しき人々が行き交う。売店には襲名グッズ、ロビーにはお祝いの品々。賑々しい雰囲気に、こちらの気分も思わず浮き立つ。この場に立ち会えたことを心から感謝し、海老蔵襲名を共に見守ろうではないか!
あぁ、日本人に生まれて本当によかった。
と思っていたら、なんと、父・團十郎が病気休演。しかも、病名は急性前骨髄球性白血病だそうな。息子の大事な襲名披露興行を休演しなければならないとは、さぞかし残念なことだろう。
しかし、今はゆっくりと療養なさって下さい。そして、1日も早く舞台に復帰されることを心からお祈り申し上げます。 |
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【四季三葉草】 |
翁 中村梅玉
三番叟 尾上松緑
千歳 中村芝雀
歌舞伎には、能の『翁』を取り入れた“三番叟物”と呼ばれる舞踊がいくつかあるが、『四季三葉草』もそのひとつ。『式三番叟』をもじって、四季の草花で歌詞を綴った清元は名曲として知られている。
まず翁が舞い、翁と千歳の連舞、鈴を手にした三番叟の軽妙な踊り、三人揃っての賑やかな踊りと続き、最後は、翁が扇、千歳が面箱、三番叟が鈴を持って絵面に決まって幕。
このところバレエが続いていたので、歌舞伎モードに切り替えるのには、こういう開幕舞踊は打って付け。
しっかし、延寿太夫はどんどん下手になっていないか? 清元の艶っぽさが全然感じられないぞ。
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【暫】 |
鎌倉権五郎影政 市川新之助 改め 海老蔵
加茂次郎義綱 中村芝翫
那須九郎妹照葉 中村時蔵
鹿島入道震斎 坂東三津五郎
茶後見 市川段四郎
局常盤木 中村東蔵
成田五郎義秀 市川左團次
清原武衡 中村富十郎
月岡息女 桂の前 中村芝雀(雀右衛門体調不十分のため代役) 他
歌舞伎十八番の代表作。昼の部の海老蔵襲名披露狂言。荒事のエッセンスが満載で、いかにも市川家らしい演目だ。
物語は至ってシンプル。天下を狙う悪人・清原武衡が、加茂義綱や桂の前の首を刎ねようとしているところへ、加茂家の忠臣・鎌倉権五郎が「しばらく〜」の大音声と共に現れ、悪人達を成敗すると悠々と引き上げていく。
権五郎は少年の心で演じる役と言われ、理屈を超えた勇壮な存在感がなければ、この狂言は成り立たない。海老蔵は初日の緊張のせいか、揚げ幕からの第一声「しばらく〜」が勢いに欠けていたし、口跡、特に語尾の処理がイマイチ。ンが、終わってみれば、若々しいエネルギーに溢れた権五郎で、思いの外よかったような。
紅の筋隈に車鬢、柿色の素襖(本舞台でこれを脱ぐ時なんて、後見が4人っすよ、4人!
いやぁ、大変だわ)、長袴に2メートルを超す大太刀といった独特の扮装は、優に50kgはあると聞く。足捌きが覚束ないのは慣れの問題?
清原武衡の富十郎、セリフが入っていない。全編プロンプ付きで舞台に出ちゃうのも、立派と言えば立派。しかも、堂々としているし。だけど、何かモヤる。それで本当にいいのか?
照葉の時蔵、鹿島震斎の三津五郎が好演。
歌舞伎の役柄が勢揃いするし、奴や仕丁の役で三階さんもたくさん出演するし、本当に華やかだわ〜。
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【紅葉狩】 |
更科姫 実は 戸隠山の鬼女 尾上菊五郎
山神 尾上菊之助
従者 右源太 河原崎権十郎
従者 左源太 中村信二郎
侍女 野菊 尾上松也
腰元 岩橋 片岡亀蔵
局 望月 坂東秀調
局 田毎 中村東蔵
余吾将軍 平維茂 中村梅玉 他
能『紅葉狩』をもとにした作品で、河竹黙阿弥作、九代目市川團十郎振付。新歌舞伎十八番のひとつ。信濃の紅葉を描いた歌舞伎風の装置や、常磐津、長唄、竹本の三方掛け合いが舞台を盛り上げる。
信州戸隠山。従者を連れて紅葉狩に現れた平維茂を呼び止める振袖姿の更科姫。酒宴になり、見事な舞を披露する更科姫と酔って微睡む維茂。すると、姫は鬼女の本性を現わし、腰元を連れて幕の内に引っ込む。そこへ山神が登場し、維茂に危険を告げるが……。
すみません。食事のすぐ後だったので、山神登場場面の他はほとんど意識が飛んでいました(をいをい)。
山神の菊之助、キビキビとよく動き、爽快。維茂の代わりに、こっちが起こしてもらったよ。あはは。
しっかし、この季節に何故『紅葉狩』?
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【伊勢音頭恋寝刃 −油屋/奥庭−】 |
福岡貢 市川團十郎
料理人 喜助 市川新之助 改め 海老蔵
油屋 お紺 中村魁春
油屋 お岸 中村芝雀
藍玉屋北六 実は 岩次 市村家橘
徳島岩次 実は 北六 片岡市蔵
油屋 お鹿 澤村田之助
仲居 万野 中村芝翫 他
実際にあった殺人事件をもとに近松徳三が書いた夏狂言。初演は寛政八年。白絣や浴衣、団扇などが効果的に使われている。
遊廓を舞台に、名刀・青江下坂の探索と折紙の入手に奔走する伊勢の御師(伊勢神宮で神事に関する諸行事の他、参宮の団体の世話もした神職)福岡貢が、満座の中で恋人の遊女・お紺から愛想尽かしをされ(実は、折紙を手に入れるためのお芝居なのだが、貢はそのことを知らない)、思わず逆上、そのまま妖刀の魔力に引きずられ殺しを重ねていく姿を描く。
かなり血腥い。でも、どういうわけかハッピーエンド。わけわかんない。ってゆうか、歌舞伎ってそういうの多いよな。
もともとは武家の生まれで、御師・福岡家に養子になった福岡貢。色男なんだけど強さもある。團十郎だと、もっさりしちゃってダメダメ。油屋で万野、お鹿、お紺に苛められる姿を観ていても、「可哀想だけど、でも、二枚目が苛められる姿に萌え〜」って気分にならないじゃん。
万野の芝翫、憎々しさは出ているが、万野は万野なりに貢に惚れているわけだから、そういう色気も欲しい。
お紺の魁春、地味。お岸の芝雀の方がよっぽど目立つぞ(それはそれで、マズい気もするが……)。
喜助の海老蔵、スッキリしていてカッコいい。でも、少しヤンキー入っているような。貢の家来筋に当たる者なんだから、それじゃダメでしょう。
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■2004年5月1日(土)&20日(木) 歌舞伎座
十一代目市川海老蔵襲名披露 五月大歌舞伎 夜の部 |
筋書に寄せた永山武臣松竹会長の言葉によると、團十郎と海老蔵、このふたつの名前が看板に並ぶのは幕末以来のことで、実に百五十年ぶりだそうな。それも、團十郎の病気休演のため、たった九日間で終わってしまったことを考えると、何とも切ないものを感じる。
と同時に、急な代役を見事に勤めた三津五郎に、心から感謝の気持ちを捧げたい。 |
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【碁太平記白石噺 −新吉原揚屋の場−】 |
傾城宮城野 中村時蔵(雀右衛門体調不十分のため代役)
宮城野妹 信夫 尾上菊之助
大黒屋 惣六 中村富十郎 他
由井正雪の乱(三代将軍家光の死に乗じて浪人を集めて倒幕を企てるも、事前に露見し失敗)と奥州白石であった姉妹の仇討を仕組んだ全十一段の長編だが、現在は七段目の《揚屋》が上演されるのみ。
父の敵を討つために奥州から江戸に出てきた信夫は、廓の主人・惣六に助けられ、連れて来られた大黒屋で幼い頃に別れた姉の宮城野に再会する。全盛を極める花魁と奥州訛の田舎娘という対照的な姉妹が、再会を喜び、父の死を嘆き、敵討の決意を固めるまでを描いた一幕。
宮城野の時蔵、代役とは思えないほどの出来。今月は、昼夜共にいい。
信夫の菊之助、利発そうなところはいい。ンが、田舎娘には見えないのよ。
血気に逸る姉妹を、曽我兄弟の敵討話になぞらえ、時節を待つよう諭す惣六に富十郎。侠気に富んだ惣六はピッタリなンだけど、昼の部同様、プロンプ付き(をいをい)。20日に観た時は、さすがにセリフも入っていたような。
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【十一代目市川海老蔵襲名披露 口上】 |
市川新之助 改め 海老蔵
○
中村雀右衛門
中村芝翫
中村富十郎
尾上菊五郎
中村梅玉
市川團十郎 他
いよいよ口上。柝が入り、客席の緊張も一気に高まる。
幕が開くと、ずらりと並んだ幹部俳優たち。他の演目は休演した雀右衛門も、この幕だけは出ている。海老蔵を中心に、上手に向かって雀右衛門、菊五郎、彦三郎、三津五郎、松緑、芝雀、段四郎、芝翫、下手に向かって團十郎、梅玉、魁春、友右衛門、菊之助、権十郎、時蔵、左團次、富十郎。後見は男寅。
柿色に三升の紋の裃、まさかり髷の新海老蔵が目の前にいる。今回は最前列中央という超良席に恵まれたものだから、まさに眼福。ありがとうー!>番頭さん
誰の挨拶の時だったろうか。ふと気がつくと、海老蔵が泣いている。俯きながら、そっと目頭を押さえているのだ。それを目にした瞬間、思いっきり舞い上がってしまったワタクシ。彼の来し方行く末を思い、こちらまで泣きそうになる。もう、そこから先は記憶が曖昧。最後に海老蔵のにらみがあったのだが、よく覚えていない。意外と迫力なかった気もするンだけど、緊張していたのかしらん?
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【勧進帳】 |
富樫左衛門 市川新之助 改め 海老蔵
源義経 尾上菊五郎
亀井六郎 市川團蔵
片岡八郎 尾上松助
駿河次郎 片岡市蔵
常陸坊海尊 片岡芦燕
武蔵坊弁慶 市川團十郎 他
夜の部の襲名披露狂言は『勧進帳』。歌舞伎十八番の中で最も上演回数の多い人気作。新之助と出会ったのも『勧進帳』だし、おまけに、團十郎と海老蔵が本作で共演するのは「嘉永五年以来百五十二年ぶり」とのことで、こちらも気合が入る。
ンが、一番気合入っていたのは團十郎でした。泣いてます。花道の出から鼻水垂れてます。いや、なんつーか、すんごい舞台を見せてもらいました。山伏問答がどうとか、判官御手がどうとか、延年の舞がどうとか、もう関係ないっす。最初から最後まで、ただただ團十郎の気迫に圧倒された『勧進帳』でした(今にして思えば、為所も多く体力のいる弁慶は、病気の身にはかなり応えただろうに……)。
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武蔵坊弁慶 坂東三津五郎(團十郎病気休演のため代役)
三津五郎の弁慶。その風格、その落ち着き。小柄な身体が大きく見える。スッキリとした口跡と端正な演技、そして、延年の舞の面白さ。急な代役とは思えないほど立派な弁慶だ。
いやいやいやいや、こんなお手本のような弁慶と対峙すると、海老蔵の未熟さが際立つなぁ(苦笑)。前より口跡が悪くなっているような気がするぞ。ってゆうか、團十郎も口跡悪いから、親子で舞台に立っていると何が正しいンだか、正直、わからなくなるのよね。なんつーか、カオスに投げ込まれたような感じ?
だから、もしかすると、以前からこんな状態だったのかも知れない。
頼むから、口跡に関しては父を見習わないでくれ。>海老蔵
最後、幕外の飛び六方で客席が手拍子している。手拍子? それって、ありなのか? |
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【新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎】 |
魚屋宗五郎 坂東三津五郎
小奴 三吉 尾上松緑
磯部召使 おなぎ 尾上菊之助
宗五郎 女房おはま 中村芝雀
磯部主計之助 市川新之助 改め 海老蔵
家老 浦戸十左衛門 坂東彦三郎 他
河竹黙阿弥が、五代目菊五郎から生世話の酒乱の役をやりたいとの頼みを受け、怪談皿屋敷を下敷きに書いた世話物の名作。今回は、三津五郎はじめ、芝雀、松緑、菊之助、海老蔵という新鮮な顔合わせ。
魚屋宗五郎は、磯部主計之助の屋敷に妾奉公に出た妹のお蔦が、濡れ衣を着せられ殺されたことを、屋敷の召使おなぎから知らされる。酒乱のために禁酒していた宗五郎だが、怒りのあまり酒に手をつけ、酔った勢いで磯部の屋敷に暴れ込む……。
宗五郎の三津五郎、前半の分別をわきまえた人物像の見せ方、後半の酒を飲んで次第に人柄が変わっていく過程、共に巧い。後は、ここに男の色気や悲哀が滲み出てくるようになれば言うことなし。
と思っていたら、20日に観た時はかなりよくなっていた。「親父も笑や、こいつも笑い、わっちも笑って暮らしやした」のセリフが泣けたよ〜。
おはまの芝雀、最高! 世話物の女房がこんなに似合うとは思っていなかった。この路線いいかも。頑張って下さい。
三吉の松緑、何とも今っぽい。彼がひとりで芝居を壊しているような気がする。
そして、海老蔵が磯部主計之助で襲名披露の一日を締めくくる。清々しい殿様に、思わず惚れ惚れ〜。
それにしても、日本語の再確認という意味でも、世話物の存在って貴重よね。
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