相承院の稚児 白菊丸/桜姫 坂東玉三郎
清玄阿闍梨/釣鐘権助 市川段治郎
入間悪太郎 市川右近
奴 軍助 市川猿弥
口上役 市川寿猿
局 長浦 市川笑三郎
吉田松若 市川笑也
粟津七郎 市川門之助
役僧 残月 中村歌六 他
文化十四年、江戸河原崎座で初演された鶴屋南北の傑作歌舞伎。昭和四十二年、郡司正勝が補綴・演出、国立劇場で上演した舞台が評判を呼び、現在の定本になっているそうな。今回は郡司版をふまえて、奈河彰輔が補綴・演出。昼夜に分けての通し上演で、昼の部は、桜姫の前世・白菊丸と清玄が心中を図る発端《江の島稚児ケ淵》から、桜姫と清玄が零落してさまよい歩く《三囲》まで。
『桜姫東文章』と言えば、玉三郎出世作のひとつ。しかも、白菊丸と桜姫を演じるのは十九年ぶり。まさにファン待望の上演なのである。ちなみに、私も観るのは初めて。
まずは発端。長谷寺の所化・清玄は相承院の稚児・白菊丸と深い仲になり、心中を決意する。ところが、白菊丸が海中に身を投じると、清玄は急に気後れし、結局、ひとり生き残ってしまう。
白菊丸の玉三郎、その真っ直ぐな視線で若さや一途さを出していたが、さすがに、こういう役は難しいね。なんつーか、身体の輪郭が滲むのよ、若者特有の固さが感じられないのよ。
清玄の段治郎、たぶん初見。今回の大抜擢にどこまで応えられるか? とりあえず、この場面は玉三郎の貫禄勝ち。あ、でも、死に損ないの情けな男には、これぐらいがちょうどいいのか?
それから十七年後の《新清水》。
長谷寺の高僧となった清玄のもとを、吉田家の息女・桜姫が訪れ、一家が没落したうえ、生まれながらに左手が開かない身を厭い、出家を願い出る。そこで、清玄が十念を授けると、桜姫の左手が開き、中から香箱の蓋が転がり落ちる。これを見た清玄は、桜姫が白菊丸の生まれ変わりと悟る。
《桜谷草庵》は、ある意味、今日一番の見せ場っすね(笑)。
かつて自分を犯した男、しかも、子まで生した相手、釣鐘権助と再会した桜姫は、欲望の赴くまま、権助にその身を任せてしまう。
桜姫の玉三郎、出家の志固い貞淑な姫かと思いきや、自分を犯した見ず知らずの男を忘れられず、男の腕の刺青と同じ刺青を自分の腕にも彫り、そのうえ、その男の胤を身籠り、子まで産み落としていた……という複雑なキャラクターを、天性の美貌と濃厚な色気でたっぷりと魅せる。
清玄と権助の二役は段治郎。何とか抜擢に応えようと奮闘していたが、清玄には高僧としての貫禄や死に損ないの屈折が足りないし、権助には迸るような色気が足りない。あれでは姫を骨抜きにできません。あ、でも、長身なので玉三郎とのバランスはよかったわ。
ところで、着物を脱がし脱がされ……の濡れ場は、演ってる方は結構たいへんそうね。最後の決めポーズなんて、えらい無理な体勢のような。
長浦の笑三郎(年増向きなのか?)と残月の歌六、共に好演。
悪太郎の右近、桜姫の許婚にしては老け過ぎ。それ以前に、何言っているか全然わからない(幸四郎かと思ったよ)。
続く《稲瀬川》から《三囲》。
共にさらし者となった清玄に、この身を救って欲しいと頼む桜姫。白菊丸に対する贖罪の気持ちが、やがて桜姫への執着に変わっていく清玄。春雨降る三囲の土手で、ひょんなことから桜姫の赤子を拾った清玄と古蓑に身を包んだ桜姫は、互いの存在に気がつかぬまま、その場をすれ違っていく。
哀れな男なのだ、清玄は。最初は白菊丸に対する罪の意識から桜姫を救おうとしていたのに、いつしか本心から桜姫を愛するようになり、やがて、その愛情が異様な執着へと変貌していく。しかし、子供を抱くことでしか愛する女との絆を確認できない。
段治郎の清玄、心壊れた男の孤独や悲哀が感じられない。でも、一生懸命に役を勤めている姿勢は好感持てるので、暖かい目で見守っていこうと思う(甘いかしらん?)。