■2006年12月15日(金)&25(月) 歌舞伎座
十二月大歌舞伎 夜の部
ただでさえ師走は忙しいのに、マリインスキー・バレエの日本公演があったものだから、結局、昼の部はパス。菊之助の八重桐や時蔵の滝夜叉姫も観ておきたかったな……。
【神霊矢口渡】

渡し守 頓兵衛        中村富十郎
新田義峯           大谷友右衛門
傾城うてな          尾上松也
下男 六蔵          市川団蔵
娘 お舟           尾上菊之助      他

明和七年、江戸外記座で初演された全五段の時代浄瑠璃。作者の福内外鬼は、本草学、蘭学、発明、絵画など多岐にわたる活動で知られる平賀源内の筆名。全部で九作の浄瑠璃を執筆しており、本作はその処女作だそうな。

武蔵国の国境、六郷川の矢口の渡し。その近くに住む渡し守の頓兵衛は、先の足利と新田の争いで、褒美の金欲しさに足利方の手先となって新田義興の殺害に加担。そこへ今度は、義興の弟・義峯が愛妾の傾城うてなを伴ってやって来る。応対した頓兵衛のひとり娘・お舟は、一夜の宿を乞う義峯の姿にひと目惚れ。連れの女性は妹だと聞くと、義峯に恋心を明かし、思いの丈をかき口説く……。

時に物足りなく感じることもある菊之助の生硬な色気が、今回のお舟では十二分に生きた。登場場面の華やかさ、ひと目惚れの熱情、苦しみながらも太鼓を打ち鳴らす壮絶な幕切れ。可憐な娘の短い一生が鮮やかに浮かび上がる。
頓兵衛の富十郎は、竹藪から出てきた姿が何とも古怪。憎々しげで大きくて、実にいい頓兵衛。ただ、蜘蛛手蛸足の引っ込みで鳴鍔をじゃらじゃら鳴らし過ぎるのは如何なものか。マヂで手が震えているのかと思ったよ。

どうしても納得できないのが義峯の友右衛門。あれにひと目惚れするかなぁ???

江戸女草子 出刃打お玉】

出刃打お玉          尾上菊五郎
おろく            中村時蔵
どんでんの新助        大谷友右衛門
座敷女中 おかね       市村萬次郎
三井平之助          河原崎権十郎
僧 宗円           坂東亀三郎
おふさ            尾上松也
茶屋女 お金         中村歌江
居酒屋亭主 甚五郎      片岡市蔵
桔梗屋 伊兵衛        市川右之助
近江屋 与兵衛        市村家橘
森藤十郎           市川団蔵
住職広円和尚         澤村田之助
増田正蔵           中村梅玉       他

昭和五十年、歌舞伎座初演。七世尾上梅幸の依頼に応じて、『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』といった時代小説で知られる池波正太郎が書き下ろした世話物の名作(その割に、上演回数は少ない)。

その昔、“出刃打ち”の曲芸で人気を取った女芸人お玉も、今では谷中の岡場所・近江屋で客を取る日々を送っている。そんなある日、年若い笊売りがお玉を買いに現れる。男は今でこそ笊売り風情だが、以前は武士で、父の仇討のために江戸に出てきた増田正蔵だと名乗る。その姿に心を打たれたお玉の手助けで、無事、正蔵は本懐を遂げる。それから二十八年後……。

今回新たに手を入れたという幕切れがいい。自分に出刃を打ったのがお玉だと気づきながら、彼女を斬らずに去っていく正蔵。その背を見送るお玉が、正蔵にも良心が残っていたことに気づいて呟く「正蔵さん……」。何ともほろ苦い結末だ。
江戸の庶民の情や侠気がさり気なく描かれているあたりも、池波ファンには堪らない。

菊五郎が男勝りで気だてのいいお玉を、梅玉が純朴な青年から好色な中年男へと変貌する正蔵を、共に好演。おろくの時蔵、おかねの萬次郎、お金の歌江、森藤十郎の団蔵、広円和尚の田之助など、脇役も揃っている。近いうちに再演希望!

【紅葉狩】

更科姫 実は 戸隠山の鬼女  市川海老蔵
山神             尾上右近
侍女 野菊          市川ぼたん
腰元 岩藤          片岡亀蔵
従者 左源太         坂東亀三郎
従者 右源太         片岡市蔵
局 田毎           市川門之助
余吾将軍 平維茂       尾上松緑       他

能の『紅葉狩』をもとにした作品で、作者は河竹黙阿弥、作曲は鶴澤安太郎(義太夫)と六世岸澤式佐(常磐津)と三世杵屋正治郎(長唄)、振付は九世市川團十郎。初演は明治二十年の東京新富座。その時の配役は、更科姫に九世團十郎、平維茂に初世市川左團次、山神に四世中村芝翫。

紅葉の季節を迎えた戸隠山を従者を連れた平維茂が歩いていると、紅葉狩に興じる一行の姿が目に留まる。邪魔をしないよう立ち去ろうとする維茂を、侍女や腰元を従えた美しい女性が呼び止め、宴席に誘う。

困ったなぁ。いや、別に困ることでもないンだが(笑)。面白いのよ、次どうなるかわからないハラハラドキドキがあって。明らかにこれまでの『紅葉狩』とは別物なのに、「これもありかも知れない」と思わせてしまう海老蔵の迫力。あー、もう何だかよくわからなくなってきた。

……ってのが、初見の感想。千穐楽近くに幕見したら、これまた全然違った感想になったわけで。

四階席から観ていると、海老蔵はシャープな鼻梁ばかりが目立って妙に男っぽい。鬼になっての引っ込みは大股開き。いくら何でも、あれは大仰です。本性を現してからは、見得の度に唸る唸る。なんつーか、鬼女というより怪獣? そもそも、あんなに変えていいのかしらん? 一応、九世團十郎が初演した新歌舞伎十八番だぞ。

う〜む、舞台から距離がある分、クールになってしまったのかも。とにかく、最近の海老蔵はやたら大仰なので、筋書にある本人の言葉通り、「きちんと、しっかり」やっていただきたい。

維茂の松緑、局の門之助が好演。左源太の亀三郎、目がキョロキョロと落ち着かない。山神の右近は踊りこそしっかりしているものの、声が酷い(変声期?)。