声明
本日、東京地方裁判所民事第50部(菅野雅之裁判長)は、50名の原告らが、国や 東京都、神奈川県、埼玉県、静岡県、さらに財団法人地方自治情報センターなどを相手に、自己の個人情報の提供等の差止等を求めた「住基ネット差止訴訟」について、 原告らの請求は棄却したものの、現代社会におけるプライバシー問題に深い知見を示し、さらに、現在運用されている住基ネットシステムには重大な問題があることを指摘する判決を言い渡した。
2002年8月運用が開始された住基ネットは、@すべての国民の住民基本台帳に重複しない11桁の番号(住民票コード)をつけ、Aここから「本人確認情報」(住民票コード、氏名、住所、生年月日、性別およびこれらの変更履歴)を、各都道府県を通じて、総務省の外郭団体である「財団法人地方自治情報センター」に送信して集中させ、B国の機関等がここから「本人確認情報」の提供を受けて、Cこの本人確認情報の下に各機関のデータベースが作成されるようにした一大コンピュータネットワークシステムである。従来地方自治体や国の各機関が、それぞれの責任で管理していた国民の情報が、「住民票コード」の下に、コンピュータネットワークにより、一元的に管理され、「データマッチング」されうるようにしたシステムにほかならない。
これに対し、現在全国で約450名にのぼる人々が、住基ネットの構築による国民の監視・管理体制がつくられることに強い危慎をもち、住基ネットは憲法13条によって保障される国民のプライバシー権を侵害するものであるなどとして、自分の情報の提供等の差止等と損害賠償を求めて提訴し、全国の裁判所で、150名を超える弁護団とともに、闘ってきた。本件訴訟は、その魁として2002年7月26日起こされた第1次訴訟をはじめとし、4次にわたって提訴され、爾後4年にわたって、全国の訴訟のシンボルとして闘われてきたものである。
この訴訟において、原告側は、以下のように主張し、立証を尽くしてきた。すなわち、コンピュータ社会といわれる現代社会においては、個人情報の保護が重要であり、プライバシーの権利は自己情報コントロール権として具体的に保障されなければならないこと。住基ネットは、本人の同意なく(あるいは反対の意思を無視して)本人の与り知らない中で国民の情報をネット上に流通させ、利用するものであって、自己情報コントロール権を侵害するものであること。さらにそのシステムや管理の実態からすれば個人情報の漏洩等をもたらす重大な危険を有しているものであること。そして、何よりも住基ネットは、国民総背番号制の実現を目的としているものであり、権力者はこれによって国民個々人の情報を一元的に集約し、データマッチングすることによって国民を管理統制しようとしているものであること。他方これらの国民の権利の侵害の重大性に比べ、住基ネットの必要性、有用性は少なく、住基ネットへの強制参加を嫌忌するものを住基ネットから離脱させても行政になんらの支障も与えないこと等々。とりわけ本訴訟においては、住基ネットを切断している東京都国立市の上原市長の証人尋問を実現し、住基ネットが決して行政の効率化や住民の利便性に資するものではなく、また、住基ネットへの接続を拒否する原告らに関して住基ネットの運用を差し止めても住基ネット全体の運用には支障がないことなどをつぶさに立証してきた。
これに対し、国をはじめとする被告側は、プライバシーは憲法上の権利ではなく、自己情報コントロール権は権利として認められず、あたかも住基ネットで扱われる個人情報(本人確認情報)は保護に値しない、というような、現代社会におけるプライバシー問題をないがしろにするような主張を繰り返した。また、長野県の侵入実験などによって明らかにされた住基ネットの脆弱性や問題の所在を無視し、さらに、法規等によって、目的外利用や漏えい等が禁止されているなどという建前論をふりかざして、住基ネットの安全性を強調するとともに、データマッチングの危険性を否定し、もっぱら住基ネットは、電子政府・電子自治体実現のための不可欠な基盤であるとして、その利便性、必要性のみを強調する態度に終始した。
われわれはこれに対し、具体的な批判を加え、その主張のまやかしであることを明らかにしてきた。
そしてわれわれは、裁判所に対し、本訴訟は、国家理性が問われる裁判であるとして、住基ネットの問題点を抉り出し、誰もが納得できる裁判所の判断を求めてきた。
これに対し、東京地裁民事第50部は、プライバシー権が憲法上の権利であり、自己情報コントロール権はプライバシーの重要な内容として認められること、本人確認情報も保護されるべきことを認めるなど、プライバシー問題に関する被告側の主張を否定する判断を示した。また、現在運用されている住基ネットにはさまざまな問題があることをも指摘した。
本日の東京地裁の判決は、原告側の請求を棄却したことは遺憾ではあるものの、われわれの主張を一部受け入れ、何点かにわたって、被告の主張を斥け、また、住基ネットの問題性について指摘をしたことは重要であると考える。
われわれは、本判決に幾多の意義を認めつつも、住基ネットの差止めまでに至らなかったことについては承服することができない。われわれは、控訴をして、本判決によって、問題点が整理されたことをふまえ、控訴審において、本判決の理解が及ばなかった点について、さらには、政府が推し進めているコンピュータネットワークシステムの「最適化計画」によって、共通番号の付番と相まってデータマッチングを行うシステムが完成されようとしていることなどについて主張、立証を深め、住基ネットの危険性・違憲性を明確にするようつとめるものである。
政府・総務省は、住基ネットの問題性について指摘した本日の判決をふまえ、住基ネットの運用を直ちに中止するべきである。
2006年7月26日
住基ネット差止訴訟全国弁護団
(団長弁護士 山 本 博)
住基ネット差し止め訴訟を支援する会
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