正月二日に年始周りをした。昨年六月以来、着ていなかった僧衣で回った。
もちろん、経を上げにいったわけじゃない。背広の代わりに僧衣にしただけだ。
街がすいているせいか、タクシーはすぐにつかまった。僕は乗り込んだ。
すると運転手は、ちらちらこちらを見ながら何かしきりにうなずいている。
僕は知らんふりして外を見ていた。正月早々、僧衣姿の者を乗せたことが気分
悪いのか?
たまかねたように運転手が口を開いた。
「おたくさん、坊さんだよね」
「イヤー、得度はしているけど、仕事にしているわけじゃない」
「そうですか、、、じゃ、ダメかなあ、、」運転手はため息をついている。
「何?何なの?」僕は興味引かれて聞いてみた。
「いや、いいですよ。止めときますよ」
「いいじゃない。何か奥歯にものがはさまったような気分だなあ、。坊さんで
なきゃダメなのかい?、、、、死んだ人間でも出て来るってわけじゃないだろうけど、」
「そっ、それなんですよ」
話を聞いたら、こうだった。
少し前に運転手は、師走の町でしょぼくれた様子の男性を拾って乗せたそうだ。
妙にしんきくさくて、金持っているのかなあ、と心配した位の客だったが、それでも、
タクシー代は払ってくれて、とある住宅街のはずれの住宅の前で降りて行った。。
ところが、数日後、やはり同じその住宅街まで客を乗せたとき、その客から、聞かされ
た。「いやーね。この住宅街でも死人が出たのよ」
「へえ、殺人か何か?ですか」
「違うわよ。首吊り自殺よ、、。ほら、あそこの角から二軒目で、、、」
そこは、数日前に運転手が冴えない男性を降ろした家だった。
運転手は、ドキッ、となり、その前に食べていたそばを戻してしまったらしい。
「それ以来なんですよ。お客さんの座っているそのあたりに、いつもあの客の気配を
感じるんですよ、、」
「やっ、止めてよ」僕も思わず叫んだ。運転手さんはその話をするのにしんみり話した
から、まるで目の前に現実にその男性がいるかのようだった。
「幽霊タクシーじゃないか。それじゃあ、、、売り上げに響いているんでしょうね、、」
とまあ、行きがかり上、僕はタクシーの後部座席をお祓いする羽目になった。
お祓い料?はっはっは、、、安いタクシー代でちょん、でした。坊さんが乗ったら、経の
一つも上げて貰おう、彼はそう狙っていたようです。