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平成19年(行サ)第152号 住民票不記載処分取消等請求事件
(原審 東京高等裁判所平成19年(行コ)第229号)
(第1審 東京地方裁判所平成18年(行ウ)第309号)
上告人 ○○○ △△△ 菅原 和之
被上告人 世田谷区
2007年 12月27日
上告人 ○○○
法定代理人親権者母 △△△ 印
上告人 △△△ 印
上告人 菅 原 和 之 印
最高裁判所 御中
頭書事件につき、上告人らは下記のとおり上告の理由を提出する。
原判決(2007年11月5日判決言い渡し 東京高等裁判所第15民事部 平成19年(行コ)第
229号 住民票不記載処分取消等請求控訴事件、以下原判決という)は、憲法解釈違反、な らびに最高裁判所の判例に相反する判断があるほか、法令の解釈適用を誤り、判断遺脱、理 由不備ないし理由齟齬の違法があり、かつ法令の解釈に関する重要な事項を含むので、原判 決を破棄し、さらに、相当なる裁判を求める。
第1 はじめに
1 事案の要旨
2 原判決の概要
3 上告審の審理に望むこと
4 上告理由の要旨
第2 事案の概要
1 本件事実関係の概要
2 上告人子の法令上の地位について
3 原判決と原々判決の主な判断の相違
4 小括
第3 居住実態のある住民が存する場合に職権で住民票に記載すべき法的義務を負っている
と解することはできないとする原判決の判例違反
1 原判決の判示
2 原判決の判例違反
第4 「住民票はできる限り統一的に記録が行われるべきものである」とした最高裁判例を本
件処分の根拠とした判例違反と原判決の理由不備ないし理由齟齬
1 原判決の判示
2 原判決の判例違反
3 小括
第5 原判決の法の下の平等(憲法14条1項)解釈違反その1
1 原判決の判示
2 戸籍法上の不備を住民基本台帳法上の不利益にまで及ぼすということの間違い
第6 原判決の法の下の平等(憲法14条1項)解釈違反その2
1 原判決の判示
2 出生届不受理が適法であることを本件処分の根拠とすることの間違い
第7 原判決の憲法14条1項解釈違反 その3
1 原判決の表示
2 「同一自治体内に、同一事由で戸籍の記載がないにもかかわらず、一方は住民登録さ
れ,他方はこれを拒否されるという事態が生じたとしても、法の下の平等に違反するという ことはできない。」ということの憲法解釈違反
第8 原判決は上告人父母の思想良心の自由を侵害している(憲法19条違反)
1 原判決の判示
2 親の信条が子の不利益に及ぶことに対する説示のないことの原判決の理由不備
3 戸籍法上の不備が住民基本台帳法上の不利益にまで及ぶことに対する説明のないこと
の原判決の理由不備
4 この処分を通して親の信条の自由を制限しようとすることの原判決の憲法19条違反
5 小括
第9 原判決の憲法98条2項(国際条約尊守)違反
1 原判決の判示
2 条約に違反、抵触しないことの説示がないことの原判決の理由不備
3 出生届の「父母との続柄」欄の記入が子を「嫡出子」と「嫡出でない子」と分けて表記する
ことは日本の批准している国際条約に違反する
4 小括
第10 婚外子の相続差別に関する原判決の最高裁判例違反
1 原判決の判示
2 最高裁大法廷決定は、立法府に対して差別撤廃を求めるものである
3 「民法の一部を改正する法律案要綱」から10年以上経過している
4 最近の最高裁小法廷判決は、婚外子の相続差別の憲法判断は、3対2で拮抗している
5 小括
第11 原判決は住民基本台帳法ならびに同施行令の解釈を二転三転させており、理由齟齬
の違法がある
1 原判決の判示
2 原判決の住民基本台帳法ならびに同施行例の解釈は、判決中に二転三転しており、理
由齟齬の違法を免れない
3 そもそも原判決は住民基本台帳法施行令12条の解釈を誤っている
4 小括
第12 原判決は住民基本台帳の記載に係る市町村長の責務についての法解釈を誤っている
(住民基本台帳法違反ならびに地方自治法違反)
1 原判決の判示
2 施行令の条項解釈のみによって上位法の規定を無視するという原判決の間違い
3 地方自治法ならびに住民基本台帳法における住民基本台帳に係る市町村長の責務
4 小括
第13 住民票の記載につきこれが世田谷区長の裁量事項であるかのように述べる見解は失
当とすることの、原判決の法令解釈違反
1 原判決の判示
2 世田谷区長は上告人子の住民票記載の裁量を有する
3 小括
第14 世田谷区長に裁量権の範囲を逸脱、濫用した違法があるといえないとした原判決の法
令解釈違反
1 原判決の判示
2 本件処分は世田谷区長の裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものであって違法である
3 小括
第15 本件義務付けの訴えは不適法とする原判決の間違い
1 原判決の判示
2 上告人子の住民票作成の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがある
3 上告人子の将来の選挙権について
4 住民票不記載による損害を避けるためには、本件義務付けの訴えの他に適当な方法が
ない
5 小括
第16 上告人父母の原告適格について
1 原判決の判示
2 上告人父母には上告人子の同居人としての原告適格を有する
3 原判決は上告人父母の「信条の自由」を侵害している
4 小括
第17 損害賠償請求について
1 原判決の判示
2 本件損害賠償請求は容認されるべきである
3 小括
第18 結論
第1 はじめに
1 事案の要旨
本件は、上告人である菅原和之(以下上告人父という)が上告人○○○(以下上告人子
という)の出生届出に当たり、「嫡出でない子」という表記を強制されることを回避しようと試 みたところ、当該出生届が不受理となって(以下前提事実という)、これを理由に住民票の 記載をしない処分(以下本件処分という)を世田谷区長にされたとして、当該子とその両親 である上告人らが、住民基本台帳法8条、憲法14条、地方自治法等違反等の違法を理由 に、
@本件処分の取消しを求めるとともに、
A当該子の住民票の作成の義務付けを求め、
Bさらに、本件処分により被った精神的損害につき、国家賠償法1条1項に基づき慰謝料
(上告人子は20万円、上告人父母は各10万円ずつ合計40万円)及び遅延損害金の支 払をそれぞれ求めた事案である。
本件事案第1審を担当した東京地方裁判所民事第2部は、上記請求のうち、上告人子の
@Aの請求を認め「市町村長は、出生届が受理されておらず、その戸籍が作成されていな いときであっても、・・・当該出生届出に係る住民の住民票を作成することができ、また、こ れを行う必要があるというべきである。」と判じ、子どもの利益を最優先して、住民票を作成 せよと命じた。
2 原判決の概要
原判決は、大要、以下のとおり判示して、原々判決(2007年5月31日判決言い渡し 東
京地方裁判所第2民事部 平成18年(行ウ)第309号、以下原々判決という)のうち上告 人子の@Aの請求を容認した部分を取消し、上告人子の@Bの請求を棄却し、Aの請求 を却下した。その上で上告人△△△(以下上告人母といい、ならびに上告人父と上告人母 を併せて上告人父母という)ならびに上告人父の@Aの請求を却下し、Bの請求を棄却し たものである。
(1)本件処分の適法性(原判決15〜22ページ、)
本件において、世田谷区長は、住民基本台帳法施行令12条2項1号の定めにしたがっ
て、本件出生届が受理されていないことを理由として、本件住民票を記載しないという本 件処分をしたものであり、本件出生届の不受理処分は違法なものでないのであるから、 本件処分理由に違法な点はなく、また、12条各項以外の場合において職権記載すること は予定されていないというべきであるから、本件処分が住民基本台帳法及び同施行令の 諸規定に反する違法なものと認めることはできない。
本件処分は、地方自治法、憲法14条1項ならびに国際人権A規約2条1、同B規約24
条1、子どもの権利条約2条1、世界人権宣言25条の2及び世田谷区子ども条例につい ても、何らこれらに違反、抵触するものではない。
(2)本件義務付けの訴えについて(原判決22〜23ページ)
本件住民票の記載をしない本件処分は上記のとおり適法なものと認められるのであり,
是正すべき違法状態が存在しないのであるから、上記義務付けを求める訴えに理由のな いことは明らかであるといわなければならない。また、住民登録あるいは住民票がなくて も手続において煩瑣な点があり得るとしても、これらがある者と同じ扱いがされる場合が 多いと認められるのであるとともに、選挙権の問題については、上告人子が現在2歳であ ってその不利益が現実化しているものではないからこの点で重大な損害は生じていない ので、本件義務付けの訴えを認める余地はないというベきである。
(3)上告人父母の原告適格について(原判決15〜16ページ)
本件処分取消し及び本件義務付けの各訴えにおいて、上告人父母にはいずれも原告
適格を認めることはできないと判断する。その理由は、原々判決説示のとおりであるから これを引用する。
(4)慰謝料請求について(原判決23ページ)
上記のとおり本件処分を違法とは認めることはできないのであるから,その余の点につ
いて判断するまでもなく、被上告人世田谷区に国家賠償法上の責任はなく、上告人らの 被上告人に対する慰謝料請求は理由がない。
3 上告審の審理に望むこと
(1)上告人子の住民票は作成されるべきである(本件処分の関係)
原判決は、実際に存在し明らかに日本国籍を有する者が当該市区町村内に住所を定
めその事実を当該市区町村長が認めかつ当事者も望んでいるにもかかわらず、戸籍が ない場合は住民票が記載されなくとも違法ではない、と述べるものである。しかしこれは、 憲法の定める地方自治の本旨に反し、住民基本台帳制度を逸脱する判断である。
後述する最高裁判例ならびに最高裁決定からしても「居住の実態があれば市区町村長
はこれを住民票に記載する責務を負い、居住の実態があるにもかかわらずこれを住民 票に記載しないことが許されるものではない。」のである。事実、住民基本台帳法ならび に同施行令に、戸籍のない者の住民票記載を禁ずる文言はない。
また、住民票は「住民の居住の事実があればそれを公証するために作成されるもの」で
あって、住民としての地方自治法上の権利は住民票がなくとも差別なく受けられるもので はあるが、実際上は原々判決の言うように住民票がないことにより「転出証明書の発行、 健康保険や、年金の各手続、さらには、都営住宅への入居手続のほか、民間の賃貸借 契約における添付など、およそ、その居住関係の証明を必要とする手続においては、住 民票の提出等を求められることは容易に想定できるところ、こうした日常の社会生活の 様々な場面における不利益の累積は、市民生活上看過できない負担」が生じるのであ る。また、「このまま住民票不作成の状態が継続すれば、選挙人名簿に記載されないとい う回避できない重大な問題が生ずることになる。」(原々判決10〜11ページ)
このような問題の重大性に対して原判決は何ら救済を講じようとはしていない。
住民としての当然の権利を得るためにも、上告人子の住民票は作成されなければなら
ない。
(2)上告人子は差別されてはならず、上告人父母の信条は侵されてはならない(前提事実の
関係)
婚外子の出生届において記載を求められる「嫡出でない子」という用語は、2001年9
月24日「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の最終見解:日本」パラ41で は「現代社会では受け入れ難い」、2004年2月26日「子どもの権利委員会の最終見解: 日本」パラ25では「差別的用語」として、日本が既に批准している国際人権A規約ならび に子どもの権利条約の専門委員会から改善の勧告が出されているものである。日本を含 む国際社会において「現代社会では受け入れ難い」「差別的」とされる「概念」「用語」であ る「非嫡出子・嫡出でない子」との表記を上告人らが強制される理由は全くない。上告人 らはこの「差別的」とされる「嫡出でない」という用語を出生登録において回避しようと試み たところ、上告人子の出生届は不受理となり、その出生届不受理を理由に、上告人子は 住民サービスの基本をなす住民登録さえ拒否されたのである。この世田谷区長による住 民票不記載処分の取消を求める上告人らの要請は、前記「経済的、社会的及び文化的 権利に関する委員会の最終見解」にある「婚外子に対するあらゆる差別をなくすための 立法上及び行政上の措置を早急にとり、さらに、損なわれた個人の規約上の権利(規約 第2条及び第10条)を回復させることを要求する。」との勧告と同じ趣旨の要請である。
原判決は、この「嫡出でない子」という差別的用語を拒否したことを、「父母の個人的信
条」と切り捨てている。しかし、なぜ父母の個人的信条によって子が不利益を被るのかと いうことへの合理的説示はない。しかもこの「信条」は「個人的」であることはもちろんだ が、上記のように国際的要請とも合致するとともに、後述するように最高裁の複数の裁判 官の意見とも合致するものである。
加えて、戸籍法上の出生届出による不備を理由とする上告人子の戸籍不記載という不
利益はすでに生じており、上告人らは上告人子の戸籍不記載による身分関係の公証が できないという不利益を受けている。にもかかわらず、さらに、別法である住民基本台帳 法上の不利益である住民票不記載まで被らなければならないのかという合理的な説示も 原判決にはない。
なぜ戸籍法上の届出の不備が、戸籍法を超えてまで住民基本台帳法上の、法務省管
轄を超えてまで総務省管轄の、法定受託事務を超えて自治事務までの、不利益に及ばな ければならないのか。なぜ「嫡出」「嫡出でない」の別を記載に必要としない住民票におい て不利益を及ぼすのか。ここに合理的な理由はない。したがって「嫡出でない子」なる差 別記載の拒否を理由としたときに、戸籍の不記載のみであればまだしも、住民票まで不 作成とすることは、上告人子に対する合理的理由のない差別であり、上告人父母の信条 を侵害するものである。
2003年7月23日に成立した少子化対策基本法の附帯決議には「少子化に対処する
ための施策を推進するに当たっては、・・・婚外子がいかなる差別も受けることのないよう に十分配慮すること。」と述べられている。原判決はこの国会決議の趣旨に応えるものと なっているだろうか。
国際社会ならびに国内司法の要請、そして深刻な少子化が進む国内情勢にかんがみ
ても、婚外子に対する差別はあってはならず、この点からも原判決は破棄されなければ ならない。
(3)個人の権利が損なわれたとき、それを回復することこそ司法の役割
今回上告人らは、行政交渉、不服申立ての手段を講じてもなお世田谷区長による住民
票不記載という権利侵害の行為から救済されず、最後の手段としてこの裁判を提起し た。また主に経済的事情から代理人を指定せず、本人訴訟により裁判を提起した。
代理人を指定しないことによる、上告人らの訴訟技術の稚拙さから、本上告理由書(以下
本書面という)においても表現が不十分であったり、用語・書式が不統一であったり、重複 が多いなど、裁判所にご迷惑をかけるかもしれない。しかし上告人らは、訴訟技術の稚拙 さが、上告人らの不利益になってはならないと考えるものである。
憲法第32条は「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」と定めてお
り、世界人権宣言は第8条で「すべて人は、憲法又は法律によって与えられた基本的権 利を侵害する行為に対し、権限を有する国内裁判所による効果的な救済を受ける権利を 有する。」と謳っている。
訴訟技術ならびにそれを補う経済力は万人に与えられているものではない。しかし「基
本的権利を侵害する行為に対し、権限を有する国内裁判所による効果的な救済を受け る権利」は万人に与えられているものなのである。
2002(平成14)年3月20日最高裁判所が公表した「司法制度改革推進計画要綱−
着実な改革推進のためのプログラム−」では「国民がより利用しやすく分かりやすい制 度,公正かつ適正な手続の下でより迅速,適切かつ実効性のある制度を構築するため, 以下のとおり,改革を推進する。」と謳っている。この「国民がより利用しやすく分かりやす い制度」を目指す司法制度改革の流れは、上告人らのように代理人を指定する経済力に 乏しく、勤労や子育てといった日々の生活に追われるものたちをこそ救済するものでなけ ればならない。
こういった要請を受けて第1審東京地方裁判所は5回の口頭弁論に加えて、2回の和
解に向けた話し合いの場を設けてくださり、丁寧に審理した結果、上告人子の「住民票を 作れ」という判断を導き出してくださった。
ところが第2審東京高等裁判所は、新たな証拠もないまま、また上告人らが申請した証
人尋問ならびに上告人らが被上告人に対して行った求釈明の必要性も認めず、わずか1 回の口頭弁論で結審したにもかかわらず、第1審の判断を覆し、「(住民票を作成しない という)本件処分を違法とは認めることはできない」と判じた。この第2審に於ける東京高 等裁判所の審理の進め方は、上記、最高裁判所の掲げる「国民がより利用しやすく分か りやすい制度」とは逆行するものであり、これをもって「迅速」ということは到底出来ない。
上告人らは日本の司法制度を信頼してこの裁判を提起した。代理人を指定しない本人
訴訟による訴訟技術の稚拙さが、決して上告人らの不利益とならないよう、また司法制度 改革の流れが国民の権利回復に逆行することのないよう、裁判所が適切に判断され、上 告人らが侵害された権利の回復がなされるよう、切にお願いするものである。
4 上告理由の要旨
原判決は、以下に述べるとおり、憲法解釈違反、ならびに最高裁判所の判例に相反する
判断があるほか、かつ法令の解釈に関する重要な事項について誤った判断があり、判断 遺脱、理由不備ないし理由齟齬の違法があるので、これらが判決に影響を及ぼすことが明 らかである。
(1)原判決は、「市町村長が,一般的に住民票記載の裁量権限を有し,居住実態のある住
民が存する場合には,職権でこのことを住民票に記載すべき法的義務を負っていると解 することはできない。」(原判決17~18ページ)として上告人子の住民票不記載処分を適 法とする。しかしこれは、「新たに当該市町村(指定都市にあっては区)の区域内に住所 を定めた事実があれば、法定の届出事項に係る事由以外の事由を理由として転入届を 受理しないことは許されず、住民票を作成しなければならないというべきである。」という 最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決(判例タイムズ1128号368頁参照)、なら びに「居住の実態があれば市区町村長はこれを住民票に記載する責務を負い、居住の 実態があるにもかかわらずこれを住民票に記載しないことが許されるものではない。」と いう東京地方裁判所平成13年2月16日決定(平成12年(行ク)第111号)を「正当であ る」とした最高裁平成13年6月14日第二小法廷決定(判例地方自治217号20頁参照) といった各最高裁判例、最高裁決定の趣旨と明らかに相反する判断であり違法である。
(2)原判決は、「各市町村が独自の法令解釈に基づいて区々な事務処理をすることは望ま
しいとはいえず,できる限り統一的に記録が行われるべきものであるともいえる(最高裁 平成11年1月21日第一小法廷判決・裁判集民事191号27頁参照)」(原判決19ペー ジ)というが、同最高裁判例は、住民票を作成することを前提として、その記載方法につ いて「統一的に記録が行われるべき」というもので、住民票の不記載について言及するも のではない。したがって、同最高裁判例を本件処分の根拠とする原判決は、同最高裁判 例の解釈を著しく誤っているものである。
(3)また、上記(2)の最高裁判例が言及している住民基本台帳事務処理要領には、原判
決が戸籍のないままでの住民票記載を容認している「子が出生の届出を行うことによっ て,届出義務者や子が重大な不利益を被る場合で,かつ,戸籍法によって義務付けられ た出生届の提出を求めることが社会通念上,届出義務者に期待できないような場合に限 定される」(原判決19ページ)といった曖昧な基準に関わる記載はなく、むしろ原判決の いうような基準を設定することが、かえって住民票事務において統一的に記録が行われ ることを阻害することにもなりかねず、理由の齟齬を免れない。
(4)出生届不受理のため、戸籍がない状態となっていることを憲法14条1項の言う「社会
的身分」とし、自治体が住民票を記載することを「社会的関係」としたとき、戸籍がないと いう「社会的身分」につき社会的関係における差別である住民票不記載の状況を改善し ないことは、同条項に反し違憲である。また、同一自治体内で同一事由により戸籍がない にもかかわらず、一方は住民登録され,他方はこれを拒否されるという事態が生じる可 能性を認めながら、それが憲法14条1項に違反しないとする原判決(原判決21〜22) は、憲法の解釈を明らかに誤るものである。
(5)また、出生届の「嫡出でない子」なる差別記載を上告人父母が拒否していることについ
て、原判決は「(上告人)父母の個人的信条に基づくもの」(原判決19ページ)としている が、これにより出生届が不受理となり、上告人子が戸籍不記載となっていることによる不 利益は、すでに上告人らは受けている。法定受託事務である戸籍制度における不利益を すでに受けているにもかかわらず、自治事務であり法制度も異なる住民票制度について まで不利益を及ぼすことは、著しく不合理であり、憲法の容認するところではない。このよ うな取り扱いは、出生届を様式に従って提出した者とそうでない者を差別するものであり、 法の下の平等に反するものである。にもかかわらず、これを退けた原判決には明らかな 憲法解釈の間違いがあるというものである。
(6)上記、「父母の個人的信条」についての解釈は、出生届不受理による戸籍不記載につ
いては該当するにしても、戸籍法を超えて住民基本台帳法にまで及ぶとすることは、著し く不合理であるから、憲法14条1項に違反することはもちろん、憲法19条の保障する思 想・良心の自由にも反することは明らかである。
(7)また、「嫡出でない子」なる表記は、日本が批准している国際条約の専門委員会から、
「差別的」「現代社会に受け入れがたい」として、撤廃を求められているにもかかわらず、 「嫡出でない子」という記載の拒否を戸籍法の枠内のみならず、「嫡出子」と「嫡出でない 子」の別を記載に必要としない住民基本台帳法にまで及ぼそうというのは、国際条約の 尊守を定めた憲法98条2項に違反する。
(8)原判決は、「(上告人父母の)信条とは,出生届の「父母との続柄」欄の記入が子を『嫡
出子』と『嫡出でない子』と分けて表記すること自体が婚外子に対する差別に当たるという ものである。しかし,非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定める規定につ いてさえ,民法が法律婚主義を採用していることなどからすれば,合理的理由のない差 別とはいえず,憲法14条1項に反するものとはいえない(最高裁平成7年7月5日大法廷 判決・民集49巻7号1789頁参照)。」(原判決19ページ)とする。しかし、「嫡出でない 子」という表記は上記(7)でも述べたとおり、国連より撤廃を求められているものである。 また、原判決が参照している大法廷決定にしても、補足意見を合わせれば司法府をして 立法府に対して法改正を求める趣旨の内容になっており、本大法廷決定を直ちに本件処 分の適法性の根拠として採用することは失当である。さらに言えば、最近の最高裁小法 廷判決は、婚外子の相続差別の憲法判断は、3対2で拮抗している状況にある。
(9)原判決は、一方では「(住民基本台帳法)施行令12条各項は市町村長が職権で住民
票を記載しなければならない場合を列挙しているにとどまり,同条各項以外の場合に職 権記載することを禁止していない旨の主張は,・・・失当」(原判決18ページ)としながら、 他方では「戸籍の記載がないにもかかわらず,職権による住民票の記載をすべき場合が ある」(原判決19ページ)とし、さらには「出生届未済のまま住民票記載が行われている 自治体が存するとろ,・・・それは,各自治体が法の枠内で独自に行政を行った結果」(原 判決21〜22ページ)として、判決中における住民基本台帳法ならびに同施行令の解釈 が二転三転しており、原判決の理由不備ないし理由齟齬は明白である。
(10)また、原判決は「本件処分が(住民基本台帳)法に反しない・・の・・であり、したがっ
て,本件処分が地方自治法13条の2に反するということもできない。」(原判決21ペー ジ)というが、上記(8)に照らせば、原判決は出生届未済のまま住民票を記載することと 記載しないことの両方を適法というに等しい。また判断は、もっぱら住民基本台帳法の下 位に位置する同施行令のとりわけ第12条によるもである。同施行令の解釈により、出生 届未済のまま住民票を記載することと記載しないことの両方を適法とする判断が導かれ たのであれば、住民票記載に関わる市町村長の責務については、上位法である住民基 本台帳法ならびにさらに上位の地方自治法に照らして判断しなければならないのは明白 である。従って、本件処分が地方自治法13条2に反することは明らかであり、原判決の 判断は誤りである。
(11)さらに、地方自治法第2条13が「法律又はこれに基づく政令により地方公共団体が処
理することとされる事務が自治事務である場合においては、国は、地方公共団体が地域 の特性に応じて当該事務を処理することができるよう特に配慮しなければならない。」と定 めていることに加えて、住民基本台帳の正確性を担保するために住民基本台帳法第34 条で市町村長に調査権限が付与されていることをかんがみれば、自治事務であって、調 査権限まで市町村長が有する住民基本台帳事務に対して「住民票の記載につきこれが 世田谷区長の裁量事項であるかのように述べる(上告人らの)見解は失当」(原判決16 〜17ページ)とする原判決の判断こそ失当といわざるを得ない。これは原判決も「世田谷 区長に一定の裁量がある・・・」(原判決20ページ)としていることとも矛盾するものであ る。
(12)住民票不記載による「日常の社会生活の様々な場面における不利益の累積は、市民
生活上看過できない負担」(原々判決11ページ)であると原々判決が判じたとおり、本件 処分による上告人子の不利益は重大であり、「住民登録あるいは住民票がなくても手続 において煩瑣な点があり得るとしても,これらがある者と同じ扱いがされる場合が多いと 認められるのであるから,(上告人子に)・・・『重大な損害を生ずるおそれ』があるとまで はいえない。」(原判決23ページ)とする原判決は失当である。
(13)また原判決は、上告人子の将来にわたる選挙権について、「(上告人子が)現在2歳
であってその不利益が現実化しているものではないからこの点で重大な損害は生じてい ない」(原判決23ページ)として、住民票が作成されない状態が続けば必ず選挙権の問 題が生ずるにもかかわらず、世田谷区長に対してなんら措置を講ずることに言及してい ない。これは、自治体が当該住民の権利を将来も保障すべき責務があることを否定し、 世田谷区長の結果回避義務違反を助長するものであり、この判断は誤りである。
(14)よって、「世田谷区長は、本件処分時において、例外的な場合として、(上告人子の)
住民票の記載をすべきであったにもかかわらず、世田谷区長が・・・事情を基礎にした裁 量判断を何らせず、形式的に、出生届が受理されていないことを根拠として住民票に記 載しない処分に至ったことは、その裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものであって違法 である。」(原々判決13ページ)と判じた原々判決は正当であり、「例外的に許される場合 として裁量により職権で住民票の記載を認めるべき場合に当たるとはいえない。」(原判 決20ページ)とする原判決は失当である。
(15)上告人子の住民票作成については行政事件訴訟法37条の2が定める「一定の処分
がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるために 他に適当な方法がないとき」に当たるのであり、本件住民票作成義務付けの訴えは適法 である。
(16)上告人父母は、上告人子の同居者として、本件処分により家族関係の確認が困難に
なるといった、親として以外にも固有の不利益を被っているので、上告人父母の本件処分 取消請求ならびに本件住民票作成義務付け請求についても原告適格を認められるべき である。
(17)本件処分は国家賠償法上の違法もあるので、上告人らの損害賠償請求は認められ
るべきである。
(18)以上のとおり、原判決には、憲法解釈違反、ならびに最高裁判所の判例と相反する判
断があるとともに、法令に解釈適用を誤り、判断遺脱、理由不備ないし理由齟齬の違法 があり、かつ法令の解釈に関する重要な事項が含まれる。よって、原判決は破棄される べきである。
以下、理由を詳述する。
第2 事案の概要
1 本件事実関係の概要
上告人らは、本件につき、事実関係に争いはないので、原判決の「第2 事案の概要」
(原判決3〜15ページ)を引用する。
2 上告人子の法令上の地位について
その上で、本件当事者である上告人子について、その法令上の地位を検討する。
(1)上告人子は日本国民である
上告人子は、日本国民である上告人母が分娩しており(甲12)、同じく日本国民である上告人父が胎児認知(甲11)しているので、出生時において父ならびに母がいずれもが日本 国民であるので、「子は、次の場合には、日本国民とする。1 出生の時に父又は母が日本 国民であるとき。」と定める国籍法第2条1項により上告人子は日本国民である。
(2)上告人子は天皇または皇族ではない
上告人子は、皇室典範に定める天皇ならびに皇族の地位を有しない。
(3)上告人子は、住民基本台帳法の適用除外に該当しない
住民基本台帳法第39条は「この法律は、日本の国籍を有しない者その他政令で定める
者については、適用しない。」と定め、同施行令第33条は「法第39条に規定する政令で定 める者は、戸籍法(昭和22年法律第224号)の適用を受けない者とする。」としている。こ の「戸籍法・・・の適用を受けない者」は、天皇ならびに皇族と解されるから、上記(1)(2)に より上告人子は住民基本台帳法に適用される者であるといえる。
(4)上告人子は、東京都世田谷区の住民である
上告人子は、上告人父母ならびに同父母の第一子☆☆☆と共に、東京都世田谷区内に
居住している(原判決5〜6ページ)(以下その居住地を住所地ということがある)。世田谷 区長はその事実を認め、上告人父に児童手当を支給し、上告人子に乳幼児医療証(甲 16)を支給していることに照らせば、地方自治法10条が「市町村の区域内に住所を有する 者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。 2 住民は、法律の定める ところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、そ の負担を分任する義務を負う。」と定めるところにより、上告人子は東京都世田谷区民であ り、世田谷区の「役務の提供をひとしく受ける権利を有」する地位にある。
(5)上告人子の住民基本台帳法上の住所は住所地である
住民基本台帳法第4条が「住民の住所に関する法令の規定は、地方自治法(昭和22
年法律第67号)第10条第1項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるものと 解釈してはならない。」と定めるところにより、上告人子の住民基本台帳法上の住所は住所 地であることが確定している。
3 原判決と原々判決の主な判断の相違
原判決と原々判決は、同様の証拠と事実認定に基づいて判断しているにもかかわらず、
判断の内容に大きな相違がある。以下、主な判断の相違について述べる。
(1)住民基本台帳法ならびに同施行令第12条の解釈について
(原々判決9〜10ページ)
・・・住民基本台帳は,住民に関する各種行政の基本となる重要な公簿であり,また,住
民の個人情報を記録するものであることから,市町村長に住民基本台帳の整備及びその 記録の正確性の確保並びに住民記録の適正な管理をゆだね(住民基本台帳法3条),法 定の届出による場合のほか,職権による住民票の記載等を行う権限を与え(同法8条),そ の記載の正確性を担保するために調査権を与えていること(同法34)に加え,住民基本台 帳法施行令12条各項の文言にかんがみると,これらは,市町村長が職権で住民票を記載 しなければならない場合を列挙しているにとどまり,同条各項以外の場合に職権記載する ことを禁止する趣旨まで含むものではないというべきである。
(原判決16〜17ページ)
・・・子が出生したことにより住民票の記載がされるベき場合については,施行令12条2
項1号がその手続を定めているものであって,市町村長が出生届を受理することによ り, その後の手続は職権によって住民票に出生した子の記載をすることとされているもの と解することができる。・・・また,12条各項以外の場合において職権記載することは予定さ れていないというべきであるから・・・施行令12条各項は市町村長が職権で住民票を記載 しなければならない場合を列挙しているにとどまり,同条各項以外の場合に職権記載する ことを禁止していない旨の主張は,・・・失当であり採用できない。
(2)住民票の記載における世田谷区長の裁量について
(原々判決11〜12ページ)
・・・市町村長は,出生届が受理されておらず,その戸籍が作成されていないときであっ
て も,当該出生届出をする者が同届出に係る住民の住民票の記載をあえて望み,・・・住 民基本台帳法施行令12条2項1号の趣旨に反しないよう,市町村長に対して,住民票記載 事項については充足している出生届の提出行為があり,当該出生届出に係る住民の住民 票に記載すべき事項の正確性を添付資料等によって容易に確認できる状況にあって,当 該事項のうち身分事項につき・・・弊害が認められない揚合には,当該出生届出に係る住 民の住民票を作成することができ,また,これを行う必要があるというべきである。そして, 当該住民票作成の判断については,上記の要素に関して諸般の事情を総合考慮した上 で,個別・具体的な事案ごとに行われるべきものであって,住民基本台帳を管理し,また, その記載事項について調査権を有する市町村長の合理的な裁量にゆだねられていると解 すべきである。
(原判決16〜17、19ページ)
・・・住民票の記載につきこれが世田谷区長の裁量事項であるかのように述べる・・・見
解は失当といわなければならない。
・・・子が無戸籍の状態にある場合において,・・・なお,職権で住民票の記載をすべき場
合があるとしても,それは極めて例外的な場合に限られるというべきであり,せいぜい,1 審被告が主張するように,子が出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重大 な不利益を被る場合で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を求めるこ とが社会通念上,届出義務者に期待できないような場合に限定されるというべきである。
(3)本件処分の適法性について
(原々判決13ページ)
・・・事情を総合すれば,世田谷区長は,本件処分時において,例外的な場合として,・・
子の住民票の記載をすべきであったにもかかわらず,世田谷区長が・・事情を基礎にし た裁量判断を何らせず,形式的に,出生届が受理されていないことを根拠として住民票に 記載しない処分に至ったことは,その裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものであって違法 である。
(原判決17、20ページ)
・・・本件において,世田谷区長は,・・定めにしたがって,本件出生届が受理されていな
いことを理由として,本件住民票を記載しないという本件処分をしたものであり,本件不受 理処分が違法なものでないことは確定しているのである(前提事実)から,本件処分理由に 違法な点はなく,また,12条各項以外の場合において職権記載することは予定されていな いというべきであるから,本件処分が法及び施行令の諸規定に反する違法なものと認める ことはできない。
・・・仮に職権により記載すべきかどうかについて,世田谷区長に一定の裁量があるとし
ても,前記したところからして,同区長に裁量権の範囲を逸脱,濫用した違法があるといえ ないことは明らかである。
(4)住民票記載がされないことから生じる不利益について
(原々判決10〜11ページ)
・・・住民票の記載がない者であっても,その実現自体が妨げられるものではないこと
が認められる。しかし,現実的には,・・世田谷区の例においても,別途申立書や申出を必 要としたり(区立幼稚園への入園承認(乙5),区立小学校への入学(弁論の全趣旨)),世田 谷区に「住民票の記載がないことにつきやむを得ない理由があると認め」てもらう必要があ ったり(私立幼稚園児の保護者に対する補助金等。乙16),他の方法で区内在住の事実や 使用者との家族関係を確認する必要がある(区営住宅の入居。乙20)など,差し当たり問 題となり得る行政手続において,・・・出生した子の住民票の記載が行われないならば,代 替手段として,その手続の都度必要な申出を行い,また,要求に応じて居住関係を証明す る必要な手段を講じなければならないことになる。その他,転出証明書の発行,健康保険 や,年金の各手続,さらには,都営住宅への入居手続のほか,民間の賃貸借契約におけ る添付など,およそ,その居住関係の証明を必要とする手続においては,住民票の提出等 を求められることは容易に想定できるところ,こうした日常の社会生活の様々な場面にお ける不利益の累積は,市民生活上看過できない負担ということができ,・・・さらに,将来的 なことではあるが,出生した子が選挙権を行使し得る年齢に近くなれば,重要な基本的な 人権である選挙権の行使の前提としての選挙人名簿に登録されるため,住民票が作成さ れるべき必要性は極めて高くなり(住民基本台帳法15条1項,公職選挙法21条1項,42条1 項参照),この点は住民票不作成の状態が継続すれば,いずれ回避できない重大な問題 になるといわざるを得ない。
(原判決20、23ページ)
・・・住民票の記載がされないことによって・・・,仮に不利益があるとしても,・・・その不
利益は専ら・・父母の信条によるもの・・である。
・・・選挙権の問題については,・・・現在2歳であってその不利益が現実化しているも
のではないからこの点で重大な損害は生じていないし,その他の点については,証拠(乙1 ないし6,9,10,13ないし20)及び弁論の全趣旨によれば,住民登録あるいは住民票が なくても手続において煩瑣な点があり得るとしても,これらがある者と同じ扱いがされる場合 が多いと認められるのであるから,・・・「重大な損害を生ずるおそれ」があるとまではいえな い。
4 小括
以上、本件事実関係の概要に加えて、上告人子の法令上の地位、ならびに、原判決と
原々判決の判断の相違を踏まえたうえで、原判決が破棄されるべき理由を詳述する。
第3 居住実態のある住民が存する場合に職権で住民票に記載すべき法的義務を負っている
と解することはできないとする原判決の判例違反
1 原判決の判示(原判決16〜18ページ)
原判決は「住民基本台帳に係る市町村長の責務((住民基本台帳)法3条,6条)である
住民票の記載に関し,法8条は『住民票の記載,消除又は記載の修正は,第30条の2第 1項及び第2項,第30条の3第3項並びに第30条の4の規定(住民票コードの記載)によ るほか,政令で定めるところにより,この法律の規定による届出に基づき,又は職権で行う ものとする。』と定め,上記『政令で定めるところにより,・・・職権』で住民票を記載する場合 について,施行令12条1項は『市町村長は,法の規定による届出に基づき住民票の記載 等をすべき場合において,当該届出がないことを知ったときは,当該記載等をすべき事実 を確認して,職権で,第7条から第10条までの規定による住民票の記載等をしなければな らない。』と,同条2項本文は『市町村長は,次に掲げる場合において,第7条から第10条 までの規定により住民票の記載等をすべき事由に該当するときは,職権で,これらの規定 による住民票の記載等をしなければならない。』と,同条2項1号は『戸籍に関する届書,申 請書その他の書類を受理し,若しくは職権で戸籍の記載若しくは記録をしたとき,又は法第 9条第2項の規定による通知を受けたとき。』と定めている。・・・上記各規定からすれば, 子が出生したことにより住民票の記載がされるベき場合については,施行令12条2項1号 がその手続を定めているものであって,市町村長が出生届を受理することにより,その後 の手続は職権によって住民票に出生した子の記載をすることとされているものと解すること ができる。したがって,住民票の記載につきこれが世田谷区長の裁量事項であるかのよう に述べる1審原告○の見解は失当といわなければならない。・・・本件において,世田谷区 長は,上記定めにしたがって,本件出生届が受理されていないことを理由として,本件住民 票を記載しないという本件処分をしたものであり,本件不受理処分が違法なものでないこと は確定しているのである(前提事実)から,本件処分理由に違法な点はなく,また,12条各 項以外の場合において職権記載することは予定されていないというべきであるから,本件 処分が法及び施行令の諸規定に反する違法なものと認めることはできない。」と判じた。
その上で原判決は(住民基本台帳)「法1条は同法の目的を,法3条1項は市町村長の責
務を,法5条は市町村は住民基本台帳を備えるといった一般的な事項を定めているものに すぎないし,施行令12条3項は住民票に脱漏,誤載等があった場合のことを定めているの であって,法8条が職権で住民票の記載を行うことがあることを定めていることの法解釈は 前記のとおりであるから,上記諸規定から,市町村長が,一般的に住民票記載の裁量権 限を有し,居住実態のある住民が存する場合には,職権でこのことを住民票に記載すべき 法的義務を負っていると解することはできない。」と判じた。
2 原判決の判例違反
しかし、原判決の判断は、最高裁第一小法廷「平成14年(行ヒ)第189号・転居届不受
理処分取消等請求事件」2003年6月26日判決(判例タイムズ1128号368頁)(以下最 高裁2003年判決という)ならびに、最高裁第二小法廷「平成13年(行ト)第37号」2001 年6月14日決定(判例地方自治217号20頁参照)(以下最高裁2001年決定という)の各 最高裁判例、決定に明らかに相反するものであり違法である。
(1)居住実態を伴う転入届を不受理処分にすることはできない
最高裁2003年判決は「住民基本台帳に関する法令の規定及びその趣旨によれば、
住民基本台帳は、これに住民の居住関係の事実と合致した正確な記録をすることによっ て、住民の居住関係の公証、選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基 礎とするものであるから、市町村長(地方自治法252条の19第1項の指定都市にあって は区長)は、住民基本台帳法(以下「法」という。)の適用が除外される者以外の者から法2 2条(平成11年法律第133号による改正前のもの)の規定による転入届があった場合に は、その者に新たに当該市町村(指定都市にあっては区)の区域内に住所を定めた事実 があれば、法定の届出事項に係る事由以外の事由を理由として転入届を受理しないこと は許されず、住民票を作成しなければならないというべきである。」と判示した。この判例 は、転入届不受理処分に対するものであるが、ここに述べられた住民基本台帳制度の本 旨は、「区域内に住所を定めた事実」のある住民については「住民票を作成しなければなら ない」と読み取れる。
(2)居住実態があるにもかかわらず、当該市町村長によって住民票を削除された処分の効
力停止を求めた申立に対して、最高裁2001年決定は、「本件(住民票)消除処分により抗 告人に回復の困難な損害が生ずるおそれがあり、これを避けるため緊急の必要があると 認められる。したがって、本件執行停止の申立ては、理由があるというべきである。・・・ そ うすると、・・・(抗告人に係る住民票の記載は消除されるべきものであるとした)原決定は 裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるものとして破棄を免れず、本件消除処 分の効力を停止する旨の原々決定は正当である」と判じたので、この最高裁2001年決定 が「正当である」と判じた「原々決定」の判断も以下検討する。
(3)居住実態のある住民の住民票を職権で削除することはできない
最高裁2001年決定が「正当である」とした「原々決定」の1つである東京地裁「平成12
年(行ク)第114号」2001年2月16日決定(以下東京地裁2001年決定という)は、「・・・ 市町村長が住民票を調整し、これに記載をする行為は、あくまで住民が新たに市町村の区 域内に住所を定めたという事実が存在する場合に、その居住関係の公証、選挙人名簿へ の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とし、併せて住民に関する記録の適正な 管理を図るという目的から行われるものであって、・・・住民基本台帳に記録されるべきか 否かは、当該住民の住所が当該市町村の区域内にあるかどうかという事実、及び、住民 基本台帳に登録して管理すべき者かどうかのみを基準として判断されるべきものと解すべ きであり、市町村長には、当該住民が新たに市町村の区域内に住所を定めたという事実 が存在するにもかかわらず、・・・住民票の調整、記載を拒否したり、消除等を行うべき権 限が与えられていると解すべき根拠は存しないというべきである。」としたうえで「・・・住民票 を全部消除すべき事由として、住民基本台帳法施行令8条に明示的に規定された当該住 民の転出又は死亡という事由のほかに、同条に規定する『その他その者についてその市 町村の住民基本台帳から除くべき事由』に当たるのは、これらに準ずべき事由、つまり、転 入の事実がないこと、国籍の喪失、皇族の身分取得等の客観的事実に基づくものに限ら れると解すべきである。」と判じた。この東京地裁2001年決定によれば、居住実態のある 住民の住民票を職権で削除することはできないのであり、同時にここに述べられた住民基 本台帳制度の本旨は、「居住の実態があれば市区町村長はこれを住民票に記載する責務 を負い、居住の実態があるにもかかわらずこれを住民票に記載しないことが許されるもの ではない。」(同じく「原々決定」であるところの東京地方裁判所平成13年02月16日決定 「平成12年(行ク)第111号」。同「平成12年(行ク)第120号」も同様に判事している。)と いうものである。
(4)これら、最高裁2003年判決、最高裁2001年決定および同決定が正当とした東京地
裁2001年決定に照らせば、現に生きて存在し、住所が当該市町村の区域内にあり、国籍 法第2条に照らした日本国籍が明らかであり、皇族の身分取得のない上告人子について、 世田谷区長は住民基本台帳に記載すべきなのであって、「本件住民票を記載しないという 本件処分・・・が(住民基本台帳)法及び施行令の諸規定に反する違法なものと認めること はできない。」とした原判決の判断は、最高裁判例に相反する違法なものといわざるを得な い。
第4 「住民票はできる限り統一的に記録が行われるべきものである」とした最高裁判例を本
件処分の根拠とした判例違反と原判決の理由不備ないし理由齟齬
1 原判決の判示(原判決18〜19ページ)
(1)原判決は「・・・住民票は,住民に関する記録として様々な手続に広く利用される書類であ
るから,各市町村が独自の法令解釈に基づいて区々な事務処理をすることは望ましいとは いえず,できる限り統一的に記録が行われるべきものであるともいえる(最高裁平成11年 1月21日第一小法廷判決・裁判集民事191号27頁参照)」と判じた。
(2)その上で原判決は「子が無戸籍の状態にある場合において,・・・職権で住民票の記載
をすべき場合があるとしても,それは極めて例外的な場合に限られるというべきであり,せ いぜい,1審被告が主張するように,子が出生の届出を行うことによって,届出義務者や子 が重大な不利益を被る場合で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を求 めることが社会通念上,届出義務者に期待できないような場合に限定されるというべきで ある。」と判じた。
2 原判決の判例違反
しかし、原判決が判断の根拠として挙げた上記最高裁第一小法廷「平成7年(行ツ)第11
6号・住民票記載処分取消、損害賠償請求事件」1999年1月21日判決(裁判集民事19 1号27頁参照)(以下最高裁1999年判決という)は、住民票を記載することを前提とした 上で、内容の記載方法の統一性をいうものであり、原判決は最高裁1999年判決の解釈 を明らかに誤っている。
(1)最高裁1999年判決は住民票の記載自体はすることを前提としている
最高裁1999年判決は、「市町村長が住民基本台帳法7条に基づき住民票に同条各
号に掲げる事項を記載する行為は、元来、公の権威をもって住民の居住関係に関するこ れらの事項を証明し、それに公の証拠力を与えるいわゆる公証行為であり、それ自体によ って新たに国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する法的効果を有するもので はない。もっとも、同法15条1項は、選挙人名簿の登録は住民基本台帳に記載されている 者で選挙権を有するものについて行うと規定し、公職選挙法21条1項も、右登録は住民票 が作成された日から引き続き3箇月以上当該市町村の住民基本台帳に記録されている者 について行うと規定しており、これらの規定によれば、住民票に特定の住民の氏名等を記 載する行為は、その者が当該市町村の選挙人名簿に登録されるか否かを決定付けるもの であって、その者は選挙人名簿に登録されない限り原則として投票をすることができない (同法42条1項)のであるから、これに法的効果が与えられているということができる。しか し、住民票に特定の住民と世帯主との続柄がどのように記載されるかは、その者が選挙人 名簿に登録されるか否かには何らの影響も及ぼさないことが明らかであ(る)」と判じた。す なわち、最高裁1999年判決は、住民票を記載すること自体を前提とした上で、世帯主と の続き柄についての記載方法について「できる限り統一的に記録が行われるべきものであ る」と判断しているのみで、住民票の作成自体に関して判断するものではない。むしろ最高 裁1999年判決は住民票記載については当然に行われるべきことをいうに等しい。
(2)よって、最高裁1999年判決を根拠として本件処分を適法と判断する原判決は、判断の
根拠を逸しているのであり、最高裁判例の違反を免れない。
(3)さらに原判決は(住民基本台帳法施行令)「12条各項以外の場合において職権記載す
ることは予定されていないというべきである」と述べながら、一方で「子が無戸籍の状態にあ る場合において,・・・職権で住民票の記載をすべき場合がある・・・」とも述べることは理由 の齟齬にあたり違法であると同時に、最高裁1999年判決にも反する。
(4)最高裁1999年判決は「住民票は、選挙人名簿の作成の基礎資料となるほか、住民に
関する記録として様々な手続に広く利用される書類であるから、各市町村が独自の法令解 釈に基づいて区々な事務処理をすることは望ましいとはいえず、できる限り統一的に記録 が行われるべきものである(住民基本台帳法一条参照)。そのため、国が市町村に対し住 民基本台帳に関する事務について必要な指導を行うものとされている(同法31条1項)とこ ろ、被上告人武蔵野市長が上告人甲野二郎の住民票に世帯主との続柄の記載をした昭 和60年8月当時、国により住民基本台帳の記載方法等に関して住民基本台帳事務処理 要領(以下「事務処理要領」という。)が定められていたのであるから、各市町村長は、その 定めが明らかに法令の解釈を誤っているなど特段の事情がない限り、これにより事務処理 を行うことを法律上求められていたということができる。」と判じているので、以下現在(200 6年9月15日改正以降)の住民票基本台帳事務処理要領(昭和42年10月4日法務省民 事部甲2671号、保発第39号、庁保発第22号、42食糧業第2668号(需給)、自治振第 150号。以下事務処理要領という。)の内容を原判決と比較して検討する。
(5)事務処理要領にしたがえば統一的に住民票を記載できる
ア 事務処理要領は第1総説において「第1の1の(1)住民基本台帳制度の運用に当た
っては、住民基本台帳法第1条の趣旨にのっとり、住民の利便の増進及び行政の合理 化に資することを旨とし」、「第1の1の(2)市町村長(特別区の区長を含む。以下同 じ。)は、・・・住民基本台帳が住民に関するあらゆる行政の基礎であることに鑑み、」 「第1の1の(3)住民基本台帳の記録が正確であることは、この制度の生命ともいうべ きものであるが、最も重要なことは、その記録の基本的な内容が住民の実態と合致して いることである。したがって、あらゆる手段を講じてその内容の正確性を確保することに 努めなければならない。」と定めている。すなわち事務処理要領からすれば、住民基本 台帳は、「住民に関するあらゆる行政の基礎」であり、「最も重要なことは、その記録の 基本的な内容が住民の実態と合致していること」であって、市町村長には、「あらゆる手 段を講じて・・(住民基本台帳の)内容の正確性を確保することに努め(る)」責務があ る。このことから、住民票の記載に重要な意義があること、住民は実態に即して住民票 の記載がされるべきことは明らかである。
イ 事務処理要領は「第1の3 住民基本台帳法上の住民の住所は、地方自治法第10
条の住民としての住所と同一であり、各人の生活の本拠をいうものである(法第4条)。 住所の認定にあたっては、客観的居住の事実を基礎とし、これに当該居住者の主観的 居住意思を総合して決定する。」と住民の住所を規定している。
ウ 戸籍と住民票のそれぞれの意義にについて、事務処理要領は「第1の5 戸籍は、身
分関係を公証する唯一の公簿であり、住民票は居住関係を公証する唯一の公簿であっ て、いずれも刑法第157条第1項にいう『権利、義務二関スル公正証書』の原本に該当 する。」としており、戸籍の記載ならびに住民票の記載が住民の権利に関わるものであ ることは明らかである。
エ 住民票の記載方法について、事務処理要領は「第2の1の(2)ア(氏名は)戸籍に記
載又は記録がされている氏名を記載(字体も同一にする。)する。・・・本籍のない者又 は本籍の不明な者については、日常使用している氏名を記載する。」とし、「第2の1の (2)オ(戸籍の表示は)本籍および筆頭者の氏名を記載する。本籍のない者および本 籍の明らかでない者については『本籍なし』または、『本籍不明』と記載することとなる が、これらの者については、戸籍法上による出生届または就籍手続を行なうよう指導す るのが適当である。」として、戸籍に記載がないものであっても、実務上統一的に住民 票が記載できるよう定めている。なお「本籍のない者および本籍の明らかでない者につ いては・・・、戸籍法上による出生届または就籍手続を行なうよう指導するのが適当であ る。」との規定があるが、これは戸籍のない者の住民票記載を禁止するものではないこ とは明々白々であり、上告人らが一審にて検討した「1960年6月15、16日第13回栃 木県連合戸籍事務協議会決議」(乙7)ならびに「昭和36年8月7日付戸甲第1053号 東京法務局長照会・同年9月8日付民事甲第2192号民事局長回答」(甲33)と合致す るものである。
オ さらに「第2の2の(3)イ(住民基本台帳法施行令第12条第3項については)法第14
条第2項の規定により自己又は自己と同一の世帯に属する者に係る住民票に誤記又 は記載漏れがある旨の申出があったとき、その他住民基本台帳に脱漏若しくは誤載が あり、又は住民票に誤記若しくは記載漏れ(住民票コードに係る誤記及び記載漏れを除 く。)があることを知ったときは、当該記載等をすべき事実を確認して、住民票の記載等 をするとともに、その住民票に『○○につき職権記載』等の例により記載等の事由を記 入し、さらにその記載等をした年月日を記入する。」として、住民基本台帳法が定める届 出によらない職権での記載が必要な場合で、かつ同施行令12条2項の定める場合以 外に、職権記載する場合(同施行令12条3項)の記載方法も定めている。
カ また、「第1の4 ・・・世帯主との続柄は、当該世帯における世帯主と世帯員との身分
上の関係をいうのである。したがって必ずしも戸籍に記載又は記録がされた父母との続 柄と一致するものではない。・・・」としていることに加えて、 「平成6年12月15日自治 振第233号」による事務処理要綱の改正「住民票における世帯主との続柄の記載方法 の変更に伴う事務の取扱いについて」には、「1 今般の『世帯主との続柄の記載方法』 の改正は、近年におけるプライバシー意識の高揚等社会情勢の変化に即し、世帯主の 嫡出子、特別養子及び養子並びに世帯主である父に認知されている嫡出でない子につ いて、住民票における世帯主との続柄の記載の区別をせずに、一律に『子』と記載する ものであり、嫡出子についても長幼性別に関する記載は行わないものとするものであ る。・・・」とされていることにより、住民票の記載には子の「嫡出」「嫡出でない」の別は必 要としない。
キ 上記これらの定めを鑑みれば、原判決の「子が無戸籍の状態にある場合におい
て,・・・職権で住民票の記載をすべき場合があるとしても,それは極めて例外的な場合 に限られるというべきであり,せいぜい,・・・,子が出生の届出を行うことによって,届出 義務者や子が重大な不利益を被る場合で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生 届の提出を求めることが社会通念上,届出義務者に期待できないような場合に限定さ れるというべきである。」などという基準を無理に住民基本台帳事務の中に規定しようと することは、何をもって「子が出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重大な 不利益を被る場合」というのか又何をもって「戸籍法によって義務付けられた出生届の 提出を求めることが社会通念上,届出義務者に期待できないような場合」というのかが 不明であり、かえって住民基本台帳事務において統一的に記録が行われることを阻害 するものである。
ク 上記キのような原判決のいう基準を検討する場合があるとすれば、むしろ住民票記
載をしたうえで「本籍のない者および本籍の明らかでない者について・・・、戸籍法上によ る出生届または就籍手続を行なうよう指導する」場合において配慮すればよいといえ る。
3 小括
以上、第3、第4にわたって検討した最高裁判例は、いずれも居住実態のある住民につ
いては住民票を記載することを前提に判断しており、原判決はこれら最高裁判例に相反す るものであり破棄を免れない。とりわけ最高裁1999年判例については、原判決が自ら引 用しているにも関わらず、その文意を曲解しているといわざるを得ず、同判例の言及する 事務処理要領に照らしても、本件処分の違法は明らかなのであって、原判決が同判例を本 件処分の適法の根拠としていることは明らかに理由の齟齬であって、この点からも原判決 は破棄されなければならない。
第5 原判決の法の下の平等(憲法14条1項)解釈違反その1
1 原判決の判示(原判決21ページ)
原判決は「1審原告○は,本件処分は,同○が住民登録されていない状況を世田谷区長
が解消しないことであり,これは社会的身分による同原告に対する差別であるが,同主張 を採用し得ない・・・。」と判じた。
2 戸籍法上の不備を住民基本台帳法上の不利益にまで及ぼすということの間違い
憲法14条1項は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身
分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と定める。 この「社会的身分」を戸籍がない状態となっていることとし、自治体が住民票を記載すること を「社会的関係」としたとき、戸籍がないという「社会的身分」につき社会的関係における差 別である住民票不記載の状況を改善しないことは、憲法の同条項に違反する。
上告人らはすでに出生届出における戸籍法上の不備によって、上告人子が戸籍不記載
となり、上告人子の身分関係を公証することができないという不利益を受けている。
上記第4に照らせば本籍のない者も適法に住民票記載ができるにもかかわらず、またその
ことは原判決も「出生届未済のまま住民票記載が行われている自治体が存するとこ ろ,・・・,それは,各自治体が法の枠内で独自に行政を行った結果」として認めている。
にもかかわらず、戸籍法上の不備によって戸籍法上の不利益をすでに受けていることのほ
かに、戸籍法を超えて、別法である住民基本台帳法上の不利益にまで及ぼすことは著しい 不合理といわざるを得ず、原判決は憲法14条1項の解釈違反を免れない。
第6 原判決の法の下の平等(憲法14条1項)解釈違反その2
1 原判決の判示(原判決19、21ページ)
原判決は「子が無戸籍の状態にある場合において,・・(住民基本台帳法施行例)の規定
にもかかわらず,なお,職権で住民票の記載をすべき場合があるとしても,それは極めて 例外的な場合に限られるというべきであり,せいぜい,1審被告が主張するように,子が出 生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重大な不利益を被る場合で,かつ,戸籍 法によって義務付けられた出生届の提出を求めることが社会通念上,届出義務者に期待 できないような場合に限定されるというべきである。」としたうえで「さらに,1審原告○は,本 件処分は,出生届を様式に従って提出した者とそうでない者を差別するものであり,法の 下の平等に反するものである旨主張するが,・・・嫡出子と嫡出でない子の別は,法律婚主 義を採用していることによるものであって,そのことが直ちに法の下の平等に反するとはい えないし,本件において,結果として1審原告・・が主張する結果となったとしても,そのこと が憲法14条1項に違反するものでないことは明らかである。また,そもそも本件処分は, 本件不受理処分を前提としているところ,本件不受理処分が違法なものでないことは確定 しているところである。」と判じた。
2 出生届不受理が適法であることを本件処分の根拠とすることの間違い
原判決のいう「子が無戸籍の状態にある場合において,・・(住民基本台帳法施行例)の
規定にもかかわらず,なお,職権で住民票の記載をすべき場合」としてあげる「1審被告が 主張するように,子が出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重大な不利益を 被る場合で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を求めることが社会通念 上,届出義務者に期待できないような場合に限定されるというべき」事例は、第1審被告で ある被上告人の主張と合わせれば「・・・足立区の事例(甲53ないし58)は、母親が離婚後 に妊娠し出産したが、当該子が離婚した前夫の子でないことが客観的に明らかであるにも かかわらず、出産が離婚後300日以内であったため、『婚姻の解消若しくは取消しの日か ら三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する』とする民法772条2項 の規定により、子が離婚した前夫の子と推定されてしまい、現夫の子としての出生の届出 をなすことはできない、という親子関係にとって極めて重大な問題に直面した事案」であると 解される(平成19年7月31日付 第1審被告世田谷区 控訴理由書9〜10ページ)。
それにしても、原判決のいう「子が出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重
大な不利益を被る場合で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を求めるこ とが社会通念上,届出義務者に期待できないような場合」という定義は前記のとおり曖昧で あり、民法規定においても772条2項の場合のみ該当するというのか、その場合でも離婚 前懐胎を含むのか、また同772条1項をも含めて該当するのか等の基準も曖昧である。 民法772条規定に関連する事例の救済のため、2007年5月21日より法務省通達(法務 省民一第1007号 平成19年5月7日 婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた 子の出生の届出の取扱いについて〈通達〉)(以下「300日規定関係通達」という)が適応さ れているが、この「300日規定関係通達」でも該当する事例の約1割しか救済することがで きないと指摘されており、離婚後の懐胎が認められない場合などは出生届不受理の事例も ある。
戸籍法34条2項の「市町村長は、特に重要であると認める事項を記載しない届書を受理
することができない。」なる規定が存する限り、「300日規定関係通達」で救済されないもの は、出生届が適法に不受理となる事例も当然あり得る。
そうすると原判決のいう「子が出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重大な
不利益を被る場合で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を求めることが 社会通念上,届出義務者に期待できないような場合」において、適法に出生届が不受理と なったとしても「子が無戸籍の状態にある場合において,・・(住民基本台帳法施行例)の規 定にもかかわらず,なお,職権で住民票の記載をすべき場合」もあり得る。実際、上記足立 区の事例は、2007年2月の住民票記載当時、出生届は未済であり、それによって「子が 無戸籍の状態」にあっても適法といわざるを得なかった。そうすると本件処分の前提事実で ある本件出生届不受理処分が適法であることは、本件処分の根拠とはなりえない。
このように、民法772条の規定に関連して戸籍のない状態である場合と本件「嫡出でない
子」なる差別記載拒否のため戸籍のない状態である場合を比較しても、適法に出生届が不 受理となったとしても、一方は住民票記載をされ、一方は住民票記載をされないという、相 反する状態になるのであり、「そもそも本件処分は,本件不受理処分を前提としているとこ ろ,本件不受理処分が違法なものでないことは確定している」として本件出生届不受理処 分が適法になされたことを本件処分の根拠とする原判決の判断は失当である。
よって、同じように出生届が適法に不受理処分となった場合でも、住民票記載がされる場
合と、住民票記載がされない場合があることは、憲法14条1項の定める法の下の平等に 違反するのであり、「1審原告○は,本件処分は,出生届を様式に従って提出した者とそう でない者を差別するものであり,法の下の平等に反するものである旨主張するが,・・・本 件において,結果として1審原告・・が主張する結果となったとしても,そのことが憲法14条 1項に違反するものでないことは明らかである。」とする原判決の判断は間違いである。
第7 原判決の憲法14条1項解釈違反 その3
1 原判決の表示(原判決21〜22ページ)
原判決は「1審原告・・は,出生届未済のまま住民票記載が行われている自治体が存す
るところ,これら者が世田谷区に転入した場合に住民登録 しなければならないことは明 白であり,そうすると,本件処分によって,同一自治体内に,同一事由で戸籍の記載がない にもかかわらず,一方は住民登録され,他方はこれを拒否されるという事態が生じる可能 性があり,このような事態が・・・生じたとしても,それは,各自治体が法の枠内で独自に行 政を行った結果なのであって,そのような事態が生じたからといって法の下の平等に違反 するということはできない。」と判じた。
2 「同一自治体内に、同一事由で戸籍の記載がないにもかかわらず、一方は住民登録さ
れ,他方はこれを拒否されるという事態が生じたとしても、法の下の平等に違反するという ことはできない。」ということの憲法解釈違反
原判決がここでいう「出生届未済のまま住民票記載が行われている自治体」とは、「東京
都練馬区,三鷹市及び府中市等」(原判決13ページ)であって、これらの事例は、民法77 2条関連ではなく、本件と同様、「嫡出でない子」なる差別記載を拒否したことを含む出生届 不備のため、戸籍の記載がなされていないものであり、本件と同一事由で戸籍の記載がな いものといえる(甲38〜47)。
ところで、原判決は「同一自治体内に,同一事由で戸籍の記載がないにもかかわらず,
一方は住民登録され,他方はこれを拒否されるという事態が生じる可能性」を認めている。 前述の最高裁2003年判決により、「居住実態を伴う転入届は不受理にできない」のであ るから当然である。上告人らは、「同一自治体内に,同一事由で戸籍の記載がないにもか かわらず,一方は住民登録され,他方はこれを拒否されるという事態が生じる可能性」の あること自体が憲法14条1項の法の下の平等違反に該当すると考えるものである。
しかし原判決は、「それは,各自治体が法の枠内で独自に行政を行った結果なのであっ
て,そのような事態が生じたからといって法の下の平等に違 反するということはできな い。」としている。もしもこのような論理が成り 立つとするならば少なくとも、
ア 住民票記載が、住民にとって一切の権利性を伴わない場合
イ 住民票を記載することによって当該住民の重大な不利益生ずる場合
ウ 当該住民の住民票記載が憲法13条の規定する「公共の福祉」に反する場合
エ 当該住民が住民票の記載をあえて希望しない場合
などの要素が考えられるかどうか説示されてしかるべきであるのに、原判決には何の説示
もなく理由不備が甚だしい。
だが、本件においては上記ア〜エの事項はいずれも該当しない。
まず上記アについては、「公務員が職務上作成する文書であって,権利義務に関するあ
る事実を証明する効力を有する文書は刑法第157条1項にいう『権利義務ニ関スル公正 証書』であり,住民登録法による住民票は同条項にいう『権利義務ニ関スル公正証書』に 当たると解するのを相当とする。」(昭36・6・20最高裁第三小法定判決〔要旨〕)のだか ら、住民票記載自体が、住民の権利性を伴うものである。同時に、住民基本台帳法が第1 条で「この法律は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)において、住民の居住関係の公 証、選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住 所に関する届出等の簡素化を図り、あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るた め、住民に関する記録を正確かつ統一的に行う住民基本台帳の制度を定め、もつて住民 の利便を増進するとともに、国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とす る。」としているのであり、この「住民の利便を増進」が住民の権利であることは明白であ る。あわせて、「選挙人名簿の登録」についてもかんがみれば、住民票の記載が住民にと って権利を伴うものであることに疑いはない。
次に上記イについては、本裁判の1審2審に渡って、住民票不記載による当該上告人子
の不利益については争点となったが、住民票を記載することによって、当該上告人子に不 利益が生ずるという判断は原判決、原々判決ともに示さなかったので、住民票を記載する ことによって上告人子に重大な不利益が生ずる恐れはない。
続いて上記ウについては、上告人子の住民票が記載されることによって、憲法13条のい
う「公共の福祉に反する」状態が生ずるという判断を原判決、原々判決ともに示さなかっ た。よって、上告人子の住民票記載が「公共の福祉に反する」ということはない。
最後に上記エについては、上告人らが上告人子の住民票作成を求めて、本裁判を提起し
ていることからすれば、当該上告人子が住民票の記載をあえて希望しないということは一 切ない。そもそも住民票は、当該住民の希望ではなく、住民の居住実態によって記載され るものであるから、この問い自体が無効なものである。住民の希望が考慮される余地とし ては、事務処理要領第1の3の「住所の認定にあたっては、客観的居住の事実を基礎と し、これに当該居住者の主観的居住意思を総合して決定する。」というところの住所の認定 に当たって、当該住民の「主観的居住意思」が配慮される場合があっても、住民票の記載 自体は当該住民の希望で不記載にすることはできない。なお「住民基本台帳の一部の写し の閲覧及び住民票の写し等の交付並びに戸籍の附表の写しの交付におけるドメスティッ ク・バイオレンス及びストーカー行為等の被害者の保護のための措置」が、事務処理要領 にとられているが、これはドメスティック・バイオレンス等の加害者に対して被害者の住民票 の写しの閲覧等の制限をする措置であって、被害者である当該住民の住民票不記載をい うものではない。
したがって、「同一自治体内に,同一事由で戸籍の記載がないにもかかわらず,一方は
住民登録され,他方はこれを拒否されるという事態が生じる可能性」のあることは、憲法1 4条1項が許容する範囲を超えるものであることは明らかであり、著しく合理性を欠くもの で、法の下の平等違反を免れない。
よって、原判決の「それは,各自治体が法の枠内で独自に行政を行った 結果なのであ
って,そのような事態が生じたからといって法の下の平等に 違反するということはできな い。」とする判断が間違いであることは明々白々である。
第8 原判決は上告人父母の思想良心の自由を侵害している(憲法19条違反)
1 原判決の判示(原判決19〜20ページ)
原判決は「本件において出生の届出がされていないのは,前記認定事実によれば,1審
原告父母の個人的信条に基づくものであり,他に同○が住民票に記載されるのに何らの 支障もないといえるのである。そして,その信条とは,出生届の『父母との続柄』欄の記入 が子を『嫡出子』と『嫡出でない子』と分けて表記すること自体が婚外子に対する差別に当 たるというものである。・・・本件は,届出義務者である1審原告父母が届出をしようと思え ば容易にできる状況にある,すなわち法律上届出をすることに支障はないにもかかわら ず,その信条によって法が何人に対しても予定している手続をあえて拒否し届出を懈怠し ているものである。したがって,本件において,出生届の提出を求めることが社会通念上, 届出義務者に期待できないような場合に当たるとはいえないというべきであるから,上記例 外的に許される場合として裁量により職権で住民票の記載を認めるべき場合に当たるとは いえない。」としたうえで「本件住民票の記載がされないことによって同○に不利益が生じる 旨主張するのであるが,仮に不利益があるとしても,前記のとおりその不利益は専ら同○ の父母である1審原告父母の信条によるものであり,同原告らに思想信条の自由があるこ とはもちろんであるが,その信条に基づいて行った本件不受理処分の 適法性は前記 のとおり既に確定しているのである。このような状況の下で,なお1審原告○(現在2歳)の 無戸籍状態を継続させることが,社会的存在としての同原告の長い将来にわたって求めら れる健全な成長に資するものといえるのか疑問なしとしない。」と判じた。
2 親の信条が子の不利益に及ぶことに対する説示のないことの原判決の理由不備
原判決は、上告人子の住民票不記載は、上告人父母の信条に起因するものであるとい
うに等しい。しかしながら、親の信条に起因する処分が、その親を超えて子に対してまで不 利益が及んでいることの合理性について何ら説示をしておらず、理由の不備を免れない。
3 戸籍法上の不備が住民基本台帳法上の不利益にまで及ぶことに対する説明のないこと
の原判決の理由不備
原判決は、上告人父の出生届出の不備により上告人子の住民票不記載処分がなされて
いる旨を述べているが、戸籍法上の届出不備が、戸籍法上の不利益を超えて、住民基本 台帳法上の不利益にまで及ぶことの合理性についてなんら説明しておらず理由の不備を 免れない。
4 この処分を通して親の信条の自由を制限しようとすることの原判決の憲法19条違反
上告人父母は、原判決の判ずるとおり「出生届の『父母との続柄』欄の記入が子を『嫡出
子』と『嫡出でない子』と分けて表記すること自体が婚外子に対する差別に当たる」という信 条を有している。だからこそ、出生届出において自らの子を差別したくないという思いから、 上告人父は「嫡出でない子」なる差別的用語を拒否した。原判決は、この親の信条に対し て、戸籍不記載のみならず住民票不記載までも適法と判じ、しかも「同原告らに思想信条 の自由があることはもちろんであるが,・・・無戸籍状態を継続させることが,社会的存在と しての同原告の長い将来にわたって求められる健全な成長に資するものといえるのか疑 問なしとしない。」とさえ述べている。これは、上告人子の住民票を作成したくば、上告人父 母の信条を変えよというに等しく、子への処分を通して親の信条の自由を制限しようとする ものである。後述するが、「嫡出でない子」なる差別用語を拒否することは、上告人父母の 主観的信条であることはもちろんであるが、国連からの要請など客観的理由もある上での 信条であり、思想であり、良心である。これを子への処分を振りかざして親の信条を変えよ あるいは曲げよと言わんばかりの原判決は、「思想及び良心の自由は、これを侵してはな らない。」とする憲法19条に明らかに違反するものである。
5 小括
以上、第5ないし第8の各項では、本件処分が上告人らの憲法上の基本的人権、とりわ
け第14条1項の「法の下の平等」ならびに第19条「思想、良心の自由」の侵害に当たり、 本件処分を適法とする原判決には重大な憲法解釈の違反があることを述べた。世界人権 宣言に照らしても、司法の役割は、基本的権利を侵害する行為に対し、司法に与えられた 権限を持って効果的な救済をし、損なわれた個人の権利を回復させることにあるといえる。 原判決はこの司法の役割に逆行するものであって、破棄されなければならないのである。
第9 原判決の憲法98条2項(国際条約尊守)違反
1 原判決の判示(原判決22ページ)
原判決は、上告人らが「本件処分が出生届出における『嫡出でない子』という差別記載を
拒否したことによる出生届不受理を理由としていることなどからすれば,本件処分は,国際 人権A規約2条1,同B規約24条1,子どもの権利条約2条1,世界人権宣言25条の2及 び世田谷区子ども条例に違反する。」旨の主張であることを認定した上で、「・・・本件処分 は,国際人権A規約2条1,同B規約24条1,子どもの権利条約2条1,世界人権宣言25 条の2及び世田谷区子ども条例に違反する違法なものである旨主張するが,何らこれらに 違反,抵触するものではなく,上記主張は採用することができない。」と判示した。
2 条約に違反、抵触しないことの説示がないことの原判決の理由不備
上告人は、1審2審を通して、一貫して「出生届の『父母との続柄』欄の記入が子を『嫡出
子』と『嫡出でない子』と分けて表記すること自体が婚外子に対する差別に当たる」と主張し てきた。これは、個人的信条であると同時に、国際社会や国内世論ならびに国内司法の要 請である。それを立証するために、上告人らは本書面第1の3の(2)に引用した2001年9 月24日「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の最終見解:日本」パラ41、20 04年2月26日「子どもの権利委員会の最終見解:日本」パラ25等を何度も示してきた。
にもかかわらず、原判決は、これら日本の批准した国際条約の専門委員会からの勧告に
なんら言及することなく、これらの条約に「違反、抵触するものではな」いと判示した。
国際条約と専門委員会の勧告との関連性、また批准した条約の国内法上の取り扱い、専
門委員会からの勧告の国内法上の位置づけ等を明確に説示し、上告人らの言及した各国 際条約の条項ならびに専門委員会からの勧告を検討したうえで、国際条約の違反を排除 するのであればまだしも、何ら説示のないまま「違反、抵触するものではな」いとすること は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必 要とする。」と定める憲法98条2項に明確に違反する。
これは別の条約の専門委員会からの勧告ではあるが、2001年3月20日付け「人種差
別の撤廃に関する委員会第58会期 人種差別の撤廃に関する委員会の最終見解」の9で 「委員会は、憲法第98条が、締約国によって批准された条約が国内法の一部であると定 めているにもかかわらず、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の規定が、 国の裁判所においてほとんど言及されていないことにつき、懸念をもって留意する。条約の 規定の直接適用は、その規定の目的、意味及び文言を考慮して、個別のケース毎に判断 されるとの締約国からの情報に照らし、委員会は、国内法における本条約及びその規定の 地位につき、締約国から明確な情報を求める。」としているとおりである。
したがって、裁判所が上告人らの挙げる各国際条約に照らして本件処分の適法性を審
査するときには、この勧告に応えるべく「国内法における・・条約及びその規定の地位につ き、」明確に説示する必要があることは言うまでもない。
3 出生届の「父母との続柄」欄の記入が子を「嫡出子」と「嫡出でない子」と分けて表記する
ことは日本の批准している国際条約に違反する
(1)世界人権宣言第25条違反
1948年12月10日に第3回国連総会で採択された世界人権宣言は第25条2に「母と子
とは、特別の保護及び援助を受ける権利を有する。すべての児童は、嫡出であると否とを 問わず、同じ社会的保護を受ける。」と定めており、「同じ社会的保護を受ける」べき「嫡出 子」と「嫡出でない子」を人生で初めて行政に提出されるはずの出生届上で、あえて分けて 表記することは、同宣言に抵触するものである。
(2)国際人権A規約2条ならびに同10条違反
1966年の第21回国連総会において採択され、1976年に発効し、日本が1979年に
批准した国際人権A規約は2条1に「この規約の締約国は、この規約に規定する権利が人 種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、 財産、出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約 束する。」と定めており、「嫡出子」と「嫡出でない子」と分けて表記することは、ここでいう 「出生・・・による差別」と解される。また同10条3には「保護及び援助のための特別な措置 が、出生の他の事情を理由とするいかなる差別もなく、すべての児童及び年少者のために とられるべきである。」と定めている。したがって、出生届の「父母との続柄」欄の記入が子 を「嫡出子」と「嫡出でない子」と分けて表記することは、同規約に違反する。これは、同条 約の国連専門委員会が、2001年9月24日に「経済的、社会的及び文化的権利に関する 委員会の最終見解:日本 パラ41」として「委員会は、締約国に対し、現代社会では受け入 れ難い『非嫡出子』という概念を立法及び慣習から取り除き、婚外子に対するあらゆる差別 をなくすための立法上及び行政上の措置を早急にとり、さらに、損なわれた個人の規約上 の権利(規約第2条及び第10条)を回復させることを要求する。」と勧告していることからも 明らかである。
(3)国際人権B規約24条ならびに同26条違反
上記国際人権A規約同様日本が1979年に批准した国際人権B規約は24条に「1 すべ
ての児童は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、国民的若しくは社会的出身、財産又は出 生によるいかなる差別もなしに、未成年者としての地位に必要とされる保護の措置であって 家族、社会及び国による措置について権利を有する。2 すべての児童は、出生の後直ち に登録され、かつ、氏名を有する。3 すべての児童は、国籍を取得する権利を有する。」と 定めるとともに同26条に「すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに 法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため、法律は、あらゆる差別を禁止し 及び人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的 出身、財産、出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果 的な保護をすべての者に保障する。」と定めている。出生届の「父母との続柄」欄の記入が 子を「嫡出子」と「嫡出でない子」と分けて表記することは、ここにいう「出生・・・による差別」 であり同規約違反である。これは、同規約の国連専門委員会である市民的及び政治的権 利に関する国際規約(B規約)人権委員会が第64回会期において1998年11月19日付 で出した「規約第40条に基づき日本から提出された報告の検討 B規約人権委員会の最 終見解」のパラ12で「委員会は、特に国籍、戸籍及び相続権に関し、婚外子に対する差別 について引き続き懸念を有する。委員会は、規約第26条に従い、すべての児童は平等の 保護を与えられるという立場を再確認し、締約国が民法第900条第4項を含む、法律の改 正のために必要な措置をとることを勧告する。」と「・・・戸籍・・・に関し、婚外子に対する差 別について引き続き懸念を有する。」としていることからも明白である。(ちなみに世田谷区 長が上告人子の住民登録を拒否していることは同規約24条2に抵触することは明らかで ある。)
(4)女性差別撤廃条約違反
1979年の第34回国連総会において採択され、1981年に発効し、日本が1985年に
批准した女性差別撤廃条約は、第16条1に「締約国は,婚姻及び家族関係に係るすべて の事項について女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとるものとし、 特に,男女の平等を基礎として次のことを確保する。・・・(d)子に関する事項についての親 (婚姻をしているかいないかを問わない。)としての同一の権利及び責任。あらゆる場合に おいて、子の利益は至上である。」と定めており、したがって出生届の「父母との続柄」欄の 記入が子を「嫡出子」と「嫡出でない子」と分けて表記することは同条約に抵触する。このこ とは同条約の国連専門委員会である女性差別撤廃委員会が2003年7月8日付で出した 「条約第18 条に基づく締約国により提出された報告の審議(女子差別撤廃委員会第29 回会期報告関連部分)」における最終コメントのパラ35で「・・・委員会は、また、戸籍、相 続権に関する法や行政措置における嫡出でない子に対する差別及びその結果としての女 性への重大な影響に懸念を有する。」と勧告していることからも明白である。
(5)子どもの権利条約2条違反
1989年の第44回国連総会において採択され、1990年に発効し、日本が1994年に
批准した子どもの権利条約は第2条1に「締約国は、その管轄の下にある児童に対し、児 童又はその父母若しくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その 他の意見、国民的、種族的若しくは社会的出身、財産、心身障害、出生又は他の地位に かかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する。」と定 めており、出生届の「父母との続柄」欄の記入が子を「嫡出子」と「嫡出でない子」と分けて 表記することは、ここにいう「出生・・差別」にあたり同条約違反である。このことは、同条約 の国連専門委員会である子どもの権利委員会が2004年2月26日付で出した「児童の権 利委員会第35回会期 条約第44 条に基づき締約国から提出された報告の審査最終見 解:日本」のパラ25で「委員会は、締結国が婚外子に対するあらゆる差別、特に相続や市 民権、出生登録における差別や『非嫡出』なる差別的用語を法律及び規制から撤廃するた めに法律を改正することを勧告する。」としていることからも明白である。
4 小括
したがって、何ら説示しないまま「・・・本件処分は,国際人権A規約2条1,同B規約24条
1,子どもの権利条約2条1,世界人権宣言25条の2及び世田谷区子ども条例に違反する 違法なものである旨主張するが,何らこれらに違反,抵触するものではなく,上記主張は 採用することができない。」と判示した原判決は、明らかな理由の不備があると同時に、日 本が批准した国際条約の尊守を定めた憲法98条2項に違反するので、破棄を免れない。
第10 婚外子の相続差別に関する原判決の最高裁判例違反
1 原判決の判示(原判決19ページ)
原判決は「・・・本件において出生の届出がされていないのは,・・・1審原告父母の個人的
信条に基づくものであり,他に同○が住民票に記載されるのに何らの支障もないといえる のである。そして,その信条とは,出生届の『父母との続柄』欄の記入が子を『嫡出子』と 『嫡出でない子』と分けて表記すること自体が婚外子に対する差別に当たるというものであ る。しかし,非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定める規定についてさえ,民 法が法律婚主義を採用していることなどからすれば,合理的理由のない差別とはいえず, 憲法14条1項に反するものとはいえない(最高裁平成7年7月5日大法廷判決・民集49巻 7号1789頁参照)。」と判示した。
2 最高裁大法廷決定は、立法府に対して差別撤廃を求めるものである
原判決が引用した「最高裁平成7年7月5日大法廷決定・民集49巻7号1789頁参照」
(以下大法廷決定という。原判決は「大法廷判決」としているがこれは「大法廷決定」と解す る。)は、婚外子の相続分を婚内子の2分の1と定めた民法900条4号ただし書前段の規 定(以下「本件規定」という。)は裁判官15名中10名の多数意見と5名の反対意見で、婚 外子に対する相続差別の違憲性が排斥されたが、多数意見に同調する裁判官の内4名は 明確に立法によって差別が解消されることを求めている。これは、立法による改正がなさ れることを前提に、裁判所として違憲を宣言することを猶予しているものと解される。
憲法14条1項に違反するとはいえない旨の多数意見に同調する千種秀夫、河合伸一両裁
判官の補足意見は「・・・本件規定も制定以来半世紀を経る間、非嫡出子をめぐる諸事情 に変容が生じ、子の権利をより重視する観点からその合理性を疑問とする立場の生じてい ることは、理解し得るところである。しかしながら、これに対処するには、立法によって本件 規定を改正する方法によることが至当である。」として立法解決を求めている。
また同じく多数意見に同調する大西勝也裁判官の補足意見は「・・・我が国を取り巻く国
際的な環境の変化もまた見逃すことはできない。市民的及び政治的権利に関する国際規 約(昭和54年条約第7号)24条は、すべての児童は、出生によるいかなる差別もなしに、 未成年者としての地位に必要とされる保護の措置であって家族、社会及び国による措置に ついての権利を有するとし、同26条は、法律は、出生又は他の地位等のいかなる理由に よる差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する、と定め、さらに、 児童の権利に関する条約(平成6年条約第2号)2条は、児童に対し、出生又は他の地位 にかかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する、と規 定している。・・・また、ヨーロッパ諸国の大部分は、非嫡出子の増加現象が一つの契機と なって、おおむね1960年代ころまでに、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分と同等とす る法改正を行ったし、最近でも、嫡出家族保護の伝統が強くて平等化を図る法改正が実現 しなかった国もあるが、完全な平等には至らないとしても、配偶者や嫡出子の権利との調 整を図りながら、平等化に向かっている国も存在する。」としたうえで「本件規定の対象とす る非嫡出子の相続分をめぐる諸事情は国内的にも国際的にも大幅に変容して、制定当時 有した合理性は次第に失われつつあり、現時点においては、立法府に与えられた合理的 な裁量判断の限界を超えているとまではいえないとしても、本件規定のみに着眼して論ず れば、その立法理由との関連における合理性は、かなりの程度に疑わしい状態に立ち至っ たものということができる。」とし、この補足意見に園部逸夫裁判官も同調している。
また中島敏次郎、大野正男、高橋久子、尾崎行信、遠藤光男各裁判官は、大法廷決定
の多数意見に反対し「私たちは、民法900条4号ただし書前段が非嫡出子の法定相続分 を嫡出子の法定相続分の2分の1と定めていることは、憲法14条1項に違反して無効」と するとともに「市民的及び政治的権利に関する国際規約26条は『すべての者は、法律の前 に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。この ため、法律は、あらゆる差別を禁止し…出生又は他の地位等のいかなる理由による差別 に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。』と規定し、さらに我が国が 平成6年に批准した、児童の権利に関する条約2条1項は『締約国は、その管轄の下にあ る児童に対し、児童又はその父母若しくは法定保護者の…出生又は他の地位にかかわら ず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する。』と規定してい る。」と意見した。
このように、大法廷決定を読み込むならば「非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分
の1と定める規定」は違憲の可能性が濃いのであって、これを引用して、「『父母との続柄』 欄の記入が子を『嫡出子』と『嫡出でない子』と分けて表記すること自体が婚外子に対する 差別に当たる・・・憲法14条1項に反するものとはいえない」との結論を安易に導いている 原判決は、大法廷決定の趣旨に反するというものである。また、大法廷決定の補足意見、 反対意見双方で上告人らが引用した国際条約が言及されていることにかんがみても、原判 決がこれらの国際条約を何ら検討することなく、本件処分の国際条約違反を排斥している ことは、理由の不備を免れない。
しかも、本裁判において争点とされているのは、相続の問題ではなく、記載に「嫡出」「嫡
出でない」の区別を必要としない住民票の記載である。その住民票を記載しないという本件 処分の適法性の根拠を、「非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定める規定」 の違憲性を辛うじて排しているのみの大法廷決定に求めることは、はなはだしい理由不備 ないし理由齟齬であり、原判決は破棄を免れないものである。
3 「民法の一部を改正する法律案要綱」から10年以上経過している
上記大法廷決定を受ける形で、法制審議会は1996(平成8)年2月26日の総会におい
て民法の一部を改正する法律案要綱(以下民法改正要綱という)を決定した。この民法改 正要綱は、「第10(相続の効力)嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分と同等 とするものとする。」とともに「第11(戸籍法の改正)民法の改正に伴い、戸籍法に所要の 改正を加えるものとする。」としている。この「戸籍法の改正」には、出生届に「嫡出子又は 嫡出でない子の別」を記載しなければならないとしている戸籍法第49条2項1の改正も含 まれると解される。
法務大臣の諮問機関である法制審議会の答申から10年余の時間が経過しているにも
かかわらず、民法改正がなされないのは立法不作為に他ならない。この経過をかんがみて も、原判決が「『父母との続柄』欄の記入が子を『嫡出子』と『嫡出でない子』と分けて表記す ること自体が婚外子に対する差別に当たる・・・憲法14条1項に反するものとはいえない」 と判じた根拠は失われつつあるのであり、ましてやそれを戸籍不記載ではなく、住民票不 記載にまで及ぼそうという原判決は破棄されなければならない。
4 最近の最高裁小法廷判決は、婚外子の相続差別の憲法判断は、3対2で拮抗している
さらに、最高裁第二小法廷の2003(平成15)年3月28日判決(判例時報1820号62
頁)、最高裁第二小法廷の2003(平成15)年3月28日判決(判例時報1820号62頁)、 最高裁第一小法廷の2003 (平成15)年3月31日判決(判例時報1820号62頁)、最 高裁第二小法廷の2003(平成15)年6月20日判決(法学教室2003年8月275号135 頁)、最高裁第一小法廷の2004(平成16)年10月14日判決(判例時報1884号40頁、 法学教室2004年12月291号136頁) においても「民法900条4号但書前段は、憲法1 4条1項に違反しない」としているものの、常に多数意見3に対し2人の裁判官が反対意見 を出しており、多数意見のうち少なくとも1人の裁判官は立法府による法改正を要請する旨 の補足意見を出している。
上記小法廷判決のうち第一小法廷2003(平成15)年3月31日判決「平成14年(オ)第
1963号 預金返還請求及び預金返還等請求当事者参加事件」(判例時報1820号62頁) では、多数意見に賛同する島田仁郎裁判官が補足意見の中で「・・・非嫡出子であるという ことは,親の一方的な都合によって決まることであって,子自らの意思や努力によって変え ることができないことであるから,憲法14条1項に定める法の下の平等の精神に照らす と,そのことによって嫡出子に比べて不利益を受けることは必要最小限にとどめるべきであ る。・・大法廷決定の多数意見は,嫡出子と非嫡出子の法定相続分の区別は,我が国の 伝統,社会事情,国民感情などを総合的に考慮した上で定められたものであり,著しく不合 理なものではなく,いまだ立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていないと 判断したが,同決定及びその後の判決においても,傾聴すべき補足意見や反対意見が表 明されてきたところであり,その判断の正当性は,その後の社会事情や国民感情などの変 遷を踏まえて,絶えず吟味していくことが必要であろう。・・・大法廷決定からいまだ7年余り しか経過していないとはいえ,その間の少子高齢化に伴う家族形態の変化,シングルライ フの増加,事実婚・非婚の増加傾向とそれに伴う国民の意識の変化には相当なものがあ る。我が国の伝統は別として,立法した当時に存した本件規定による区別を正当化する理 由となった社会事情や国民感情などは,現時点ではもはや失われたのではないかとすら思 われる状況に至っている。・・・また,同多数意見は,法定相続分は親による遺言のない場 合の補充的なものであるということも合憲性の一つの根拠とするが,遺留分を考えると必 ずしも補充的であるとばかりはいい切れない側面もあると思われるし,また,非嫡出子が本 件規定によって受ける不利益は,単に相続分が少なくなるという財産上のものにとどまら ず,このような規定が存在することによって,非嫡出子であることについて社会から不当に 差別的な目で見られ,あるいは見られるのではないかということで,肩身の狭い思いを受け ることもあるという精神的な不利益も無視できないものがある。・・・以上の観点から,私 は,少なくとも現時点においては,本件規定は,明らかに違憲であるとまではいえないが, 極めて違憲の疑いが濃いものであると考える。・・・上記のように本件規定が極めて違憲の 疑いの濃いものであることに加えて,大法廷決定から約半年後には,法制審議会により非 嫡出子の相続分を嫡出子のそれと同等にする旨の民法改正案が答申されていること,今 や世界の多くの国において法律上相続分の同等化が図られていること,国際連合の人権 委員会が市民的及び政治的権利に関する国際規約40条に基づき我が国から提出された 報告に対して示した最終見解においても,相続分の同等化を強く勧告していること等にか んがみ,本件規定については,相続分を同等にする方向での法改正が立法府により可及 的速やかになされることを強く期待するものである。」と述べ立法府による速やかな法改正 を強く要請している。
同じ判例において深澤武久、泉コ治の2裁判官は「・・・民法900条4号ただし書前段の
規定が,非嫡出子の法定相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めていることは,憲法1 4条1項に違反して無効であると考える・・・」旨の反対意見を出しており、このうち泉コ治裁 判官は「・・・本件が提起するような問題は,立法作用によって解決されることが望ましいこ とはいうまでもない。しかし,多数決原理の民主制の過程において,本件のような少数グル ープは代表を得ることが困難な立場にあり,司法による救済が求められている・・・」として 司法の責務を強調している。
5 小括
原判決は「・・・非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定める規定についてさ
え,・・・,合理的理由のない差別とはいえず,憲法14条1項に反するものとはいえな い・・・」というが、大法廷決定ならびに法制審議会による民法改正要綱ならびに2003~20 04年の最高裁各小法廷判例に照らせば「非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の 1と定める規定についてさえ」「極めて違憲の疑いが濃いものである」のであり、ましてや「嫡 出」「嫡出でない」の別を記載に要しない住民基本台帳の記載につき、「親の一方的な都合 によって」上告人子が不利益を被ることは、甚だしい不合理といわざるを得ず、原判決の破 棄は免れない。
第11 原判決は住民基本台帳法ならびに同施行令の解釈を二転三転させており、理由齟齬
の違法がある
1 原判決の判示(原判決16、18、19〜20、21〜22ページ)
原判決は「・・・子が出生したことにより住民票の記載がされるベき場合については,(住
民基本台帳法)施行令12条2項1号がその手続を定めているものであって,市町村長が 出生届を受理することにより,その後の手続は職権によって住民票に出生した子の記載を することとされているものと解することができる。」(原判決16ページ)としたうえで「・・・施行 令12条各項は市町村長が職権で住民票を記載しなければならない場合を列挙しているに とどまり,同条各項以外の場合に職権記載することを禁止していない旨の主張は,・・・失 当であり採用できない。」(原判決18ページ)と判じつつ、「子が無戸籍の状態にある場合 において,前記の規定にもかかわらず,なお,職権で住民票の記載をすべき場合があると しても,それは極めて例外的な場合に限られるというべきであり,せいぜい,1審被告が主 張するように,子が出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重大な不利益を被 る場合で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を求めることが社会通念 上,届出義務者に期待できないような場合に限定されるというべきである。」(原判決19~2 0ページ)とし、また一方では「・・・出生届未済のまま住民票記載が行われている自治体が 存するところ,・・・それは,各自治体が法の枠内で独自に行政を行った結果」(原判決21~ 22ページ)であると判示した。
2 原判決の住民基本台帳法ならびに同施行例の解釈は、判決中に二転三転しており、理
由齟齬の違法を免れない
原判決が「施行令12条各項は市町村長が職権で住民票を記載しなければならない場合
を列挙しているにとどまり,同条各項以外の場合に職権記載することを禁止していない旨 の主張は,・・・失当」とするからには、原判決は住民基本台帳法施行令12条各項につい て「同条各項以外の場合に職権記載することを禁止」していると解釈するというものである。
ところが原判決はその後「子が出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重大
な不利益を被る場合で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を求めること が社会通念上,届出義務者に期待できないような場合」には「職権で住民票の記載をすべ き」であるというのである。
この「子が出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重大な不利益を被る場合
で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を求めることが社会通念上,届出 義務者に期待できないような場合」というあいまいな規定を設けることによって、原判決は、 住民基本台帳法施行令12条が「同条各項以外の場合に職権記載することを禁止」してい るとする自らの判断を翻して住民基本台帳法施行令12条が「同条各項以外の場合に職権 記載することを禁止していない」とする解釈の変更をわずかの行数のうちにしていることと なる。
また「・・・出生届未済のまま住民票記載が行われている自治体が存するところ,・・・それ
は,各自治体が法の枠内で独自に行政を行った結果」と述べるに至っては、出生届未済の まま住民票記載を行うことを「法の枠内」というものであって、そこには例外規定も示されて おらず、住民基本台帳法施行令12条が「同条各項以外の場合に職権記載することを禁 止」しているとする自らの法解釈を、原判決は同一文書中において完全に変更したに等し い。ここでいう「出生届未済」事例は、前述したように上告人子と同様「嫡出でない子」の表 記拒否によるものである。
3 そもそも原判決は住民基本台帳法施行令12条の解釈を誤っている
住民基本台帳法施行令は、住民基本台帳法の定めを市町村長が実施するために、その
具体を定めたものである。であるとすれば同施行令の条文を解釈するに当たっては、同法 の定めを実施するためのより詳細な取決めである事務処理要領についても検討する必要 がある。この事務処理要領は同施行令と同様国会の議決を経ないものであるが、本書面 第4において検討した最高裁1999年判決の中でも引用されている重要な取決めであるこ とに変わりはない。
事務処理要領は、その第1総説の1 住民基本台帳制度の運用の方針の中で(3)に
「・・・住民基本台帳の記録が正確であることは、この制度の生命ともいうべきものである が、最も重要なことは、その記録の基本的な内容が住民の実態と合致していることである。 したがって、あらゆる手段を講じてその内容の正確性を確保することに努めなければなら ない。」とした上で「・・・ウ あらゆる行政事務の処理に当たって、住民基本台帳の記録の 誤りを発見し、是正する体制を整備すること。・・・」と定めている。このように事務処理要領 が「あらゆる行政事務の処理に当たって、住民基本台帳の記録の誤りを発見し、是正する 体制を整備すること」に照らせば、住民基本台帳法施行令12条各項は「市町村長が職権 で住民票を記載しなければならない場合を列挙しているにとどまり,同条各項以外の場合 に職権記載することを禁止していない」と解釈しなければならず、これを「失当」とする原判 決は住民基本台帳制度の本旨を無にするものであるといわなければならない。
また原判決は「・・・施行令12条3項は住民票に脱漏,誤載等があった場合のことを定め
ているのであって,・・・上記諸規定から,市町村長が,一般的に住民票記載の裁量権限を 有し,居住実態のある住民が存する場合には,職権でこのことを住民票に記載すべき法的 義務を負っていると解することはできない。」(原判決17~18ページ)と判じているが、上告 人子については、記載すべき事項全てが住民基本台帳から脱漏しており、記載すべき事 項全てが住民票の記載から漏れている状態であるから、住民基本台帳法施行令12条3項 の「市町村長は、住民基本台帳に脱漏若しくは誤載があり、又は住民票に誤記・・若しくは 記載漏れ・・があることを知つたときは、当該事実を確認して、職権で、住民票の記載等を しなければならない。」の定めに基づき、世田谷区長は上告人子の住民票記載をしなけれ ばならないことは明白である。これも事務処理要領に照らせば「あらゆる行政事務の処理 に当たって、住民基本台帳の記録の誤りを発見し、是正する体制を整備すること」が必要 なのだから、施行令12条2項1号に当たらないとしても、世田谷区長は同施行例12条3項 に従い、上告人子の住民票を記載しなければならないのは明々白々である。原判決はこ の住民基本台帳法施行令12条3項についての説示を何らしておらず、理由の不備甚だし いものである。
また、住民基本台帳法施行令は全文を通しても、出生届未済のまま住民票記載を行うこ
との禁止を規定する文言は皆無である。これは、事務処理要領に照らしても第2住民基本 台帳の1住民票(2)記載事項で「ア 氏名・・・本籍のない者又は本籍の不明な者について は、日常使用している氏名を記載する。・・・オ 戸籍の表示・・・本籍のない者および本籍 の明らかでない者については「本籍なし」または、「本籍不明」と記載することとなる・・・」と 規定していることからも明らかである。そもそも住民基本台帳法第7条(住民票の記載事 項)で「・・・5 戸籍の表示。ただし、本籍のない者及び本籍の明らかでない者について は、その旨」との定めがあるのだから当然である。
よって、原判決は理由不備のみならず法令解釈の明確な誤りがあるというものである。
4 小括
このように原判決は、「子が出生したことにより住民票の記載がされるベき場合について」
出生届未済のまま住民票記載が行うことについて、「禁止」「条件付で許可」「法の枠内とし て許可」の3通りの解釈を同一文書中で述べていることになる。結局のところ原判決は、住 民基本台帳法施行令12条に照らして、出生届未済のまま子の住民票記載を行っても行わ なくても違法ではないというに等しく、理由齟齬が甚だしい。また、そもそも原判決は同施行 令12条の解釈自体に誤りがあり、破棄を免れないものである。
第12 原判決は住民基本台帳の記載に係る市町村長の責務についての法解釈を誤っている
(住民基本台帳法違反ならびに地方自治法違反)
1 原判決の判示(原判決17〜18、21ページ)
原判決は「(住民基本台帳)法1条は同法の目的を,法3条1項は市町村長の責務を,法
5条は市町村は住民基本台帳を備えるといった一般的な事項を定めているものにすぎない し,施行令12条3項は住民票に脱漏,誤載等があった場合のことを定めているのであっ て,法8条が職権で住民票の記載を行うことがあることを定めていることの法解釈は前記 のとおりであるから,上記諸規定から,市町村長が,一般的に住民票記載の裁量権限を有 し,居住実態のある住民が存する場合には,職権でこのことを住民票に記載すべき法的義 務を負っていると解することはできない。」(原判決17~18ページ)とするとともに「(地方自 治)法13条の2は, 自治行政の基礎となる住民の記録に関する市町村の責務に関する基 本を定めた規定であって,同条を根拠として定められた法律が法である。そして,本件処分 が法に反しないことは前記のとおりであり,したがって,本件処分が地方自治法13条の2 に反するということもできない。」(原判決21ページ)と判じた。
2 施行令の条項解釈のみによって上位法の規定を無視するという原判決の間違い
原判決が「本件処分が法に反しないことは前記のとおり」という判断を導き出しているの
は、本書面第11の通り、住民基本台帳法施行令12条各項の解釈によるものである。原 判決の同条解釈自体に誤りがあることも前述したが、いずれにしても前記本書面第11の4 小括で述べたとおり、原判決は住民基本台帳法施行令12条に照らして、出生届未済のま ま子の住民票記載を行っても行わなくても違法ではないというに等しいのである。
であるとすれば、たとえ本件処分が住民基本台帳法施行令12条に照らして違法とはいえ
ない旨の判断を導き出したとしても、住民基本台帳に係る市町村長の責務については、国 会の承認を要さない施行令のみの解釈に終始することなく、上位法である住民基本台帳法 ならびにさらに上位である地方自治法の規定を検討しなければならないことは言うまでもな い。
そもそも住民基本台帳法は、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自
治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」とした憲法第92条に基づいて制定された地方 自治法の第13条の2「市町村は、別に法律の定めるところにより、その住民につき、住民 たる地位に関する正確な記録を常に整備しておかなければならない。」の定めによって制 定された住民登録法(昭和26年法律第218号。1967年(昭和42)11月10日廃止。)に 代わって制定されたものである。その制定時には「地方自治の本旨を尊重し、かつ、住民 基本台帳の本来の趣旨にのっとり、この制度の適切な運用を期すること」(S42615参議 院地方行政委員会付帯決議3)との国会決議があったことも忘れてはならない。
国会での議決を得たのは、住民基本台帳法ならびに付帯決議までであって、施行令は国
会の承認を経ないものである。同施行令は同法の第8条「住民票の記載、消除又は記載 の修正・・は、・・規定によるほか、政令で定めるところにより、この法律の規定による届出 に基づき、又は職権で行うものとする。」との定めにより、国会の議決を経ずして内閣が定 めたものである。
国会の議決を経ていない施行令の解釈に終始した結果、たとえ本件処分が住民基本台
帳法施行令12条に照らして違法とはいえない旨の判断を導き出したのだとしても、そのこ とを理由として国民から選出された国会議員による議決を得た住民基本台帳法ならびに地 方自治法といった上位法の規定の検討を排除するようなことは、司法としてあってはならな い。
この点のみでも、原判決は、司法としての役割を果たしておらず、理由不備の違法を免
れず、破棄されなければならない。
3 地方自治法ならびに住民基本台帳法における住民基本台帳に係る市町村長の責務
そこであらためて、地方自治法ならびに住民基本台帳法における住民基本台帳に係る世
田谷区長の責務を本件に照らして検討する。
地方自治法は、第10条に「市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれ
を包括する都道府県の住民とする。2 住民は、法律の定めるところにより、その属する普 通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負 う。」と定めるとともに、第13条の2で「市町村は、別に法律の定めるところにより、その住 民につき、住民たる地位に関する正確な記録を常に整備しておかなければならない。」と市 町村の責務を定めている。
上告人子の住所地を確定した上で、世田谷区長が児童手当、乳幼児医療券等の支給を
行っていることからすれば、上告人子の地方自治法10条1項にいう住所は確定されてい る。それはすなわち、上告人子が地方自治法上、世田谷区の住民たる地位にあり、世田 谷区長は、同法13条の2が定める責務を免れることはできないのであって、これに反する 本件処分が地方自治法に違反することは明らかである。
また、住民基本台帳法は、第1条に「・・・住民に関する記録を正確かつ統一的に行う住
民基本台帳の制度を定め、もつて住民の利便を増進する・・・ことを目的とする」と法の目的 を明らかにし、第3条1項に「市町村長は、常に、住民基本台帳を整備し、住民に関する正 確な記録が行われるように努めるとともに、住民に関する記録の管理が適正に行われるよ うに必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」と市町村長の責務を定め、第5条に は「市町村は、住民基本台帳を備え、その住民につき、第7条に規定する事項を記録する ものとする。」とし、記載の仕方については、第8条で「住民票の記載、消除又は記載の修 正・・・は、・・・規定によるほか、政令で定めるところにより、この法律の規定による届出に 基づき、又は職権で行うものとする。」として届出のほか市町村長が職権で記載することも 定めている。また、住民の住所については、第4条に「住民の住所に関する法令の規定 は、地方自治法・・第10条第1項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるもの と解釈してはならない。」と規定している。
よって、地方自治法上、世田谷区の住民たる地位を有する上告人子の住所は、住民基
本台帳法上も確定しており、世田谷区の「役務の提供をひとしく受ける権利を有し」ている 上告人子は、住民基本台帳法制定の目的である「住民の利便を増進」を受ける権利も同 時に有するのであるから、住民基本台帳法第3条1項ならびに同法5条に定められた責務 により、世田谷区長は上告人子の住民基本台帳の記載をしなければならないことは明らか である。またその記載は同法第8条により届出によらなくとも職権によって記載することもで きるのである。
住民基本台帳法施行令は、地方自治法ならびに住民基本台帳法で保障されている住民
の権利を保護し、市町村長の法律上の責務を果たさせるために内閣が制定したものであ って、間違っても、同施行令の解釈に終始することで上位の法律が定めている住民の権利 や市町村長の責務を損なうことがあってはならないのである。
このことからも原判決は法令の解釈適用を誤るものである。
4 小括
以上のように原判決は、国会の決議を経ない住民基本台帳法施行令の解釈に終始する
あまり、その施行令の上位にある住民基本台帳法ならびに地方自治法が規定する住民の 権利や市町村長の責務に関する定めを無にするものであり、法令の解釈適用を誤り、理 由不備ないし理由齟齬の違法は明らかであって、破棄を免れない。
第13 住民票の記載につきこれが世田谷区長の裁量事項であるかのように述べる見解は失
当とすることの、原判決の法令解釈違反
1 原判決の判示(原判決16〜18、20ページ)
原判決は「・・・子が出生したことにより住民票の記載がされるベき場合については,施行
令12条2項1号がその手続を定めているものであって,市町村長が出生届を受理すること により,その後の手続は職権によって住民票に出生した子の記載をすることとされているも のと解することができる。したがって,住民票の記載につきこれが世田谷区長の裁量事項 であるかのように述べる1審原告○の見解は失当といわなければならない。」(原判決16 〜17ページ)としたうえで「・・・諸規定から,市町村長が,一般的に住民票記載の裁量権限 を有し,居住実態のある住民が存する場合には,職権でこのことを住民票に記載すべき法 的義務を負っていると解することはできない。」(原判決17~18ページ)と判じ、加えて「仮に 職権により記載すべきかどうかについて,世田谷区長に一定の裁量があるとしても,・・・同 区長に裁量権の範囲を逸脱,濫用した違法があるといえないことは明らかである。」(原判 決20ページ)と判示した。
2 世田谷区長は上告人子の住民票記載の裁量を有する
そもそも住民基本台帳事務は、法定受託事務ではなく市町村の自治事務であり(地方自
治法第2条9ないし10)、したがって地方自治法第2条12の「法律又はこれに基づく政令に より地方公共団体が処理することとされる事務が自治事務である場合においては、国は、 地方公共団体が地域の特性に応じて当該事務を処理することができるよう特に配慮しなけ ればならない。」との定めがあることに合わせて、前述の「S42615参議院地方行政委員 会付帯決議3」が「地方自治の本旨を尊重し、かつ、住民基本台帳の本来の趣旨にのっと り、この制度の適切な運用を期すること」としていることを考慮すれば、住民基本台帳事務 における一般的な裁量権を世田谷区長は有しているというべきであって、これを否定する かのような原判決は、地方自治の本旨を損なうものであり違法である。
自治事務においても、こと住民票の記載についは、住民基本台帳法施行令7条が、「市
町村長は、新たに市町村の区域内に住所を定めた者…があるときは…その者の住民票を 調整しなければならない」と定めており、さらに市町村長に対して、住民に関する正確な記 録が行われるよう努める責務を課し(住民基本台帳法3条1項)、正確性を担保するため市 町村長に調査権限を与えている(同法34条)のだから、市町村長の住民票記載にかかる 裁量は、その責務と合わせて当然に有するものと考えられる。とりわけ住民基本台帳法34 条は「市町村長は、定期に、第7条に規定する事項について調査をするものとする。2 市 町村長は、前項に定める場合のほか、必要があると認めるときは、いつでも第7条に規定 する事項について調査をすることができる。3 市町村長は、前2項の調査に当たり、必要 があると認めるときは、当該職員をして、関係人に対し、質問をさせ、又は文書の提示を求 めさせることができる。・・・」とする調査についての強い権限を市町村長に付しているので あり、これは市町村長の住民票記載にかかる裁量を担保するための権限に他ならない。
これは、原々判決が「・・・当該住民票作成の判断については、・・・諸般の事情を総合考
慮した上で、個別・具体的な事案ごとに行われるべきものであって、住民基本台帳を管理 し、また、その記載事項について調査権を有する市町村長の合理的な裁量にゆだねられ ていると解すべきである。」(原々判決12ページ)とした判断こそが正当なのであって、「住 民票の記載につきこれが世田谷区長の裁量事項であるかのように述べる・・・見解は失当 といわなければならない。」とする原判決の判断は失当といわなければならない。このこと は、原判決自身が「・・・仮に職権により記載すべきかどうかについて,世田谷区長に一定 の裁量があるとしても・・・」として実質的に住民票記載について「世田谷区長に一定の裁量 がある」ことを認めていることとも矛盾する。
3 小括
以上のように、上告人子の住民票記載にかかる裁量を世田谷区長が有しており、それを
否定するかのような原判決には明らかな法令解釈の誤りがあることを確認したうえで、次に 本件において世田谷区長に裁量権の範囲を逸脱、濫用した違法があるかどうか検討す る。
第14 世田谷区長に裁量権の範囲を逸脱、濫用した違法があるといえないとした原判決の法
令解釈違反
1 原判決の判示(原判決19〜20ページ)
原判決は「・・・子が無戸籍の状態にある場合において,・・・なお,職権で住民票の記載を
すべき場合があるとしても,それは極めて例外的な場合に限られるというべきであり,せい ぜい,1審被告が主張するように,子が出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が 重大な不利益を被る場合で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を求め ることが社会通念上,届出義務者に期待できないような場合に限定されるというべきであ る。」としたうえで、出生届の「届出義務者である1審原告父母が届出をしようと思えば容易 にできる状況にある,すなわち法律上届出をすることに支障はないにもかかわらず,その 信条によって法が何人に対しても予定している手続をあえて拒否し届出を懈怠しているも のである。したがって,本件において,出生届の提出を求めることが社会通念上,届出義 務者に期待できないような場合に当たるとはいえないというべきであるから,上記例外的に 許される場合として裁量により職権で住民票の記載を認めるべき場合に当たるとはいえな い。」とし、さらに「以上の次第であるから,本件処分は適法である。なお,仮に職権により 記載すべきかどうかについて,世田谷区長に一定の裁量があるとしても,前記したところか らして,同区長に裁量権の範囲を逸脱,濫用した違法があるといえないことは明らかであ る。」と判じた。
2 本件処分は世田谷区長の裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものであって違法である
まず、本書面第4で述べたとおり、原判決が示した「・・・子が無戸籍の状態にある場合に
おいて,・・・,職権で住民票の記載をすべき場合があるとしても,それは・・・子が出生の届 出を行うことによって,届出義務者や子が重大な不利益を被る場合で,かつ,戸籍法によ って義務付けられた出生届の提出を求めることが社会通念上,届出義務者に期待できな いような場合に限定される」というような基準を設けることは、何をもって「子が出生の届出 を行うことによって,届出義務者や子が重大な不利益を被る」のか、また何をもって「戸籍 法によって義務付けられた出生届の提出を求めることが社会通念上,届出義務者に期待 できないような場合」というのかあいまいであり、事務処理要領で示されている住民票記載 の実務の統一性を阻害するものであり、原判決のこの判断は失当である。
上告人子については、氏名も住所など住民基本台帳の記載に必要な事項も確定してお
り、「子が無戸籍の状態にある場合において」も事務処理要領にしたがえば住民票記載は 容易に行えるのであって、事実、被上告人も「住民票そのものを記載すること自体について は確かに特段の支障はない。」と認めている(平成19年7月31日付 第1審被告世田谷 区 控訴理由書 10ページ)。
したがって、「・・・子が無戸籍の状態にある場合において,・・・,職権で住民票の記載を
すべき場合があるとしても,それは・・・子が出生の届出を行うことによって,届出義務者や 子が重大な不利益を被る場合で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を 求めることが社会通念上,届出義務者に期待できないような場合に限定される」というよう な基準を設けること自体が無効であるから、原判決のこの判断が世田谷区長の裁量を制 限するには当たらない。
次に、原判決は、出生届の「届出義務者である1審原告父母が届出をしようと思えば容
易にできる状況にある,すなわち法律上届出をすることに支障はないにもかかわらず,そ の信条によって法が何人に対しても予定している手続をあえて拒否し届出を懈怠している ものである。したがって,本件において,出生届の提出を求めることが社会通念上,届出義 務者に期待できないような場合に当たるとはいえないというべきである」としているが、前述 のように「出生届の提出を求めることが社会通念上,届出義務者に期待できないような場 合」といった基準を設けること自体が無効であることに加えて、上告人父母の「信条」である 「出生届の『父母との続柄』欄の記入が子を『嫡出子』と『嫡出でない子』と分けて表記する こと自体が婚外子に対する差別に当たるというもの」であって、出生届出において「嫡出で ない子」なる表記を拒否していることについては、本書面第9ないし第10で詳述したとおり、 相当の理由があるのであるから、原判決のこの判断も、上告人子の住民票記載を妨げる ことはできない。
以上のようであって、「世田谷区長は、本件処分時において、例外的な場合として、原告
子の住民票の記載をすべきであったにもかかわらず、世田谷区長が上記事情を基礎にし た裁量判断を何らせず、形式的に、出生届が受理されていないことを根拠として住民票に 記載しない処分に至ったことは、その裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものであって違法 である。」(原々判決13ページ)とした原々判決こそ正当なのであって、「同区長に裁量権 の範囲を逸脱,濫用した違法があるといえない」とした原判決の判断は失当といわざるを 得ない。
3 小括
よって、本件処分は住民票記載にかかる世田谷区長の裁量権の範囲を逸脱又は濫用し
たものであって違法であり、本件処分を「違法があるといえない」とした原判決は破棄されな ければならない。
ここまで、本件処分の取消請求に関わる原判決の違法について、その理由を述べた。次
に、上告人子の住民票作成の義務付け請求に関わる、原判決の違法の理由を述べる。
第15 本件義務付けの訴えは不適法とする原判決の間違い
1 原判決の判示(原判決22〜23ページ)
原判決は「1審原告○は,本件処分が違法であって取り消されるべきことを前提として,
本件住民票の作成の義務付けを求めている。しかし,本件住民票の記載をしない本件処 分は前記のとおり適法なものと認められるのであり,是正すべき違法状態が存在しないの であるから,上記義務付けを求める訴えに理由のないことは明らかであるといわなければ ならない。
なお,義務付け訴訟は,『一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれが
あり』,かつ,『その損害を避けるために他に適当な方法がないとき』に限り認められるもの である(行訴法37条の2第1項)ところ,1審原告○は,住民登録は,就学のほかに,転出 証明書,選挙,国民健康保険,年金などの事務の基礎とされているし,子の住民登録が要 件とされている事項として,私立幼稚園児に対する補助金,印鑑登録,区立小中学校の 『指定校変更』があり,住民票が要求される場合として,自動車運転免許証の取得,都営 住宅への入居等の諸手続があるところ,住民票が作成されないことによりこれらの諸手続 に支障を生じることが重大な損害を生ずるおそれであると主張する。しかし,上記のうち, 選挙権の問題については,1審原告○が現在2歳であってその不利益が現実化しているも のではないからこの点で重大な損害は生じていないし,その他の点については,証拠(乙1 ないし6,9,10,13ないし20)及び弁論の全趣旨によれば,住民登録あるいは住民票が なくても手続において煩瑣な点があり得るとしても,これらがある者と同じ扱いがされる場合 が多いと認められるのであるから,1審原告○に上記訴訟要件としての『重大な損害を生 ずるおそれ』があるとまではいえない。また,1審原告○が上記損害を回避するために法律 上の支障がないことは前記したところから明らかであり,したがって,本件義務付けの訴え を認める余地はないというベきである。
そうすると,本件義務付けの訴えは不適法なものというべきである。」と判じた。
2 上告人子の住民票作成の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがある
まず、これまで述べたように、本件処分は違法なのであるから「本件住民票の記載をしな
い本件処分は前記のとおり適法なものと認められるのであり,是正すべき違法状態が存在 しないのであるから,上記義務付けを求める訴えに理由のないことは明らかであるといわ なければならない。」とする原判決の判断は誤りである。
加えて、原判決は「住民登録あるいは住民票がなくても手続において煩瑣な点があり得る
としても,これらがある者と同じ扱いがされる場合が多いと認められる」として「訴訟要件とし ての『重大な損害を生ずるおそれ』があるとまではいえない。」というが、「住民登録あるい は住民票がなくてもこれらがある者と同じ扱いがされる場合」として被上告人が示したもの は、区立保育園の入園、区立幼稚園の入園、就学、私立幼稚園児に対する補助金、区営 住宅への入居といった例示のみであり、例えば、印鑑登録、自動車運転免許証の取得、都 営住宅への入居等といった原判決が列挙した例示や1審2審にて上告人らが挙げた栄養 士免許申請、調理師免許申請、UR賃貸住宅への入居、遺族年金、障害特別給付金、介 護保険、賃貸住宅契約、一部の奨学金等々については、1審2審にわたって被上告人から の説明はなかった。
また「住民登録あるいは住民票がなくても・・・これらがある者と同じ扱いがされる場合が
多い」にしても、原々判決が「上記世田谷区の例においても、別途申立書や申出を必要とし たり(区立幼稚園への入園承認。乙5)、区立小学校への入学(弁論の全趣旨))、世田谷 区に『住民票の記載がないことにつきやむを得ない理由があると認め』てもらう必要があっ たり(私立幼稚園児の保護者に対する補助金等。乙16)、他の方法で区内在住の事実や 使用者との家族関係を確認する必要がある(区営住宅の入居。乙20)など、差し当たり問 題となり得る行政手続において、原告子のように出生した子の住民票の記載が行われない ならば、代替手段として、その手続の都度必要な申出を行い、また、要求に応じて居住関 係を証明する必要な手段を講じなければならないことになる。その他、転出証明書の発 行、健康保険や、年金の各手続、さらには、都営住宅への入居手続のほか、民間の賃貸 借契約 における添付など、およそ、その居住関係の証明を必要とする手続においては、住 民票の提出等を求められることは容易に想定できるところ、こうした日常の社会生活の 様々な場面における不利益の累積は、市民生活上看過できない負担ということができ、被 告による上記主張はこのような負担の問題には何ら応えていない」(原々判決10〜11ペ ージ)と断じたとおり、住民票が記載されないことによる不利益は「市民生活上看過できな い負担」であり、行政事件訴訟法37条の2が定める「重大な損害を生ずるおそれ」に当た るのであって、本件義務付けの訴えは適法なものである。
3 上告人子の将来の選挙権について
原判決は「選挙権の問題については,・・(上告人子)・・が現在2歳であってその不利益
が現実化しているものではないからこの点で重大な損害は生じていない」として将来の選挙 権剥奪にもつながりかねない本件処分を適法と判じている。
しかし、原々判決が「出生した子が選挙権を行使し得る年齢に近くなれば、重要な基本的
な人権である選挙権の行使の前提としての選挙人名簿に登録されるため、住民票が作成 されるべき必要性は極めて高くなり(住民基本台帳法15条1項、公職選挙法21条1項、4 2条1項参照)、この点は住民票不作成の状態が継続すれば、いずれ回避できない重大な 問題になるといわざるを得ない。」(原々判決11ページ)と断じたように、選挙権は憲法上 の重要な権利である。「平成13年(行ツ)第82号、平成13年(行ヒ)第76号、平成13年 (行ツ)第83号、平成13年(行ヒ)第77号 在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件」 の2005(平成17)年9月14日大法廷判決は「・・・日本国民の投票を全く認めていなかっ たことは,憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書に違反する。」と断じている。同 大法廷判決は立法不作為の違憲を言うものであるが、本件住民票不記載処分により上告 人子の将来にわたる選挙権を剥奪することは、違法処分であり違憲であることは言うまで もない。
上告人子が現在2歳であり、年齢的に選挙権の問題が発生していないとしても、同じ住民
票不記載の状態が長期に及べば、上告人子の選挙権を侵害することは明白であって、世 田谷区長には住民票不記載という人権侵害に加えて選挙権侵害というさらなる重大な人権 侵害を犯すことにつながる。この上告人子の将来の選挙権侵害について「重大な損害は生 じていない」とする原判決は、自治体が当該住民の権利を将来も保障すべき責務があるこ とを否定し、世田谷区長の結果回避義務違反を助長するものであり、誤りである。
したがって、この将来の選挙権が侵害されるという可能性も、行政事件訴訟法37条の2が
定める「重大な損害を生ずるおそれ」に当たるのであって、この点においても、本件義務付 けの訴えは適法なものである。
4 住民票不記載による損害を避けるためには、本件義務付けの訴えの他に適当な方法が
ない
本書面第1の3で述べたとおり、上告人らは、行政交渉、不服申立ての手段を講じてもな
お世田谷区長による上告人子の住民票不記載という権利侵害の行為から救済されず、最 後の手段としてこの裁判を提起したものである。
また原々判決が示したとおり「住民基本台帳法においては、住民が、出生届とは別個に
住民票の記載のみを市町村長に対して求める申請手続を法定しておらず」(原々判決15 ページ)、また本裁判は、住民基本台帳法第31条の4「この法律の規定により市町村長が した処分に不服がある者は、都道府県知事に審査請求をすることができる。この場合にお いては、異議申立てをすることもできる。」定める異議申立てと審査請求を経ており、上告 人子の住民票記載のためには、住民基本台帳法施行令第12条2項6号のイがいう(同法 第31条の)「処分についての訴訟の確定判決」が必要とのであり、住民票不記載による損 害を避けるためには、本件義務付けの訴えの他に適当な方法がない。
5 小括
以上のように、上告人子の住民票作成については行政事件訴訟法37条の2が定める
「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避 けるために他に適当な方法がないとき」に当たるのであり、本件義務付けの訴えは適法で ある。
したがって、「本件義務付けの訴えは不適法なものというべきである。」と判じた原判決は
破棄されなければならない。
第16 上告人父母の原告適格について
1 原判決の判示(原判決15ページ)
原判決は「当裁判所も本件処分取消し及び本件義務付けの各訴えにおいて,1審原告父
母にはいずれも原告適格を認めることはできないと判断する。その理由は,原判決説示 (同7頁16行目から8頁8行目まで及び14頁4行目から13行目まで)のとおりであるから これを引用する。」と判じた。よって以下、原々判決の該当部分も表示する。
原々判決は「原告父母においては、本件処分を争うについて、親であることに由来する事
実上の利益を超えた個有の利益があるわけではない。また、住民基本台帳法又はその関 係法令が、本件処分の名あて人たる原告子を離れて原告父母固有の利益を保護すべきも のとする趣旨を含むということもできない。」としたうえで「原告父母は、原告子の住民票を 記載しない処分の取消しを求める法律上の利益(行政事件訴訟法9条1項)を有していると はいえず、本件処分の取消訴訟における原告適格を有しないといわざるを得ない。」(原々 判決7〜8ページ)と判示している。
2 上告人父母には上告人子の同居人としての原告適格を有する
住民票が必要になる場合の中には、賃貸住宅への入居など使用者との家族関係を確認
する必要がある場合が含まれる。
であるとするならば、「家族関係の確認」は上告人子のみならず上告人父母にも日常生活
上の利益と直結しており、例えば上告人子の住民票不記載が原因となって、賃貸住宅に入 居できない事態などが生じた場合は、その不利益は上告人子だけではなく同居人としての 上告人父母にも及ぶことが容易に想像できるのであり、本件処分が及ぼす不利益が「親で あることに由来する事実上の利益」、それらは上告人父母としての固有の利益であるか
ら、「事実上の利益を超えた個有の利益があるわけではない。」と言うことは到底できない。
したがって、本件処分取消請求ならびに本件義務付け請求においても上告人父母の原
告適格は当然認められなければならない。
3 原判決は上告人父母の「信条の自由」を侵害している
本書面第8に述べたとおり、原判決は憲法19条に定められた「思想良心の自由」を侵害
するものである。それは上告人子の信条ではなく、上告人父母の信条に関わるものであ る。また原判決の該当部分は、損害賠償請求ではなく、本件処分取消請求についての説 示部分である。よって、本裁判を提起した当初よりもさらに、原判決によって、上告人父母 の原告適格が容認される理由は大きくなったといえる。
4 小括
したがって、本裁判の本件処分取消請求ならびに本件義務付け請求においても上告人
父母の原告適格は認められるべきである。
第17 損害賠償請求について
1 原判決の判示(原判決23ページ)
原判決は「前記認定のとおり本件処分を違法とは認めることはできないのであるから,そ
の余の点について判断するまでもなく,1審被告に国家賠償法上の責任はなく,1審原告ら の1審被告に対する慰謝料請求は理由がない。」と判じた。
2 本件損害賠償請求は容認されるべきである
しかしながら、これまで述べたように、本件処分は違法を免れないものである。
そして、本件処分によって、上告人らには、今後、上告人子が、年齢を重ね、就園・就学等
さまざまな手続きをしようとするとき、住民票が記載されていないという状況が、住民サービ ス支給制限につながらないかどうかという不安が、常につきまとっている。さらには、上告人 子の選挙権を侵害することになりかねないかという重大な懸念を持たざるを得ない。
また、本件の経過に沿えば、被上告人の主張は、住民票記載の条件として、国連勧告をし
て「差別的用語」と指摘されている「嫡出でない子」という用語の使用を上告人らに強制する ことに他ならない。
これは、本件処分の差別性を本裁判において、上告人らが丁寧に説明し、1審において
は、上告人子の住民票作成の命令が出たにも関わらず、いまだ、住民票作成に至ってい ない事実からすれば、本裁判を提起した当初よりもさらに、本件処分における国家賠償法 第1条にいう「公権力の行使に当る公務員」による「故意又は過失」の性格は高まったとい える。
このことが、上告人らにもたらす精神的苦痛は著しいものがあり、また、前記のように本
件処分は国家賠償法上の違法にも当たるので、上告人らの本件損害賠償請求は容認さ れるべきである。
3 小括
以上のように本件処分は国家賠償法上も違法であるので、被上告人に「国家賠償法上
の責任はな」いとした原判決は破棄されなければならない。
第18 結論
以上のとおり、原判決には、憲法解釈違反、ならびに最高裁判所の判例に相反する
判断があるほか、法令の解釈適用を誤り、判断遺脱、理由不備ないし理由齟齬の違法 があり、かつ法令の解釈に関する重要な事項を含むものである。
よって、原判決の判断は、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反で
あり、原判決は破棄されるべきである。
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