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2008年6月4日に最高裁大法廷は、国際婚外子について、出生後認知の場合に日本国籍を認
めない国籍法の規定は、憲法の定める平等原則に反し、違憲である、という旨の判決を出しま した。この大法廷判決を受けて、本件、住民票不記載処分との共通点を検討して、高裁判決と 世田谷区による住民票を作成しない処分が、大法廷判決と相反することを主張している上告 理由補充書です。なお、該当する大法廷判決は、最高裁判例検索システム http://www. courts.go.jp/hanrei/pdf/20080604174246.pdf に公開されていますので、ご参照ください。
平成20年(行ツ)第35号 住民票不記載処分取消等請求事件
上告人 ○○○ △△△ 菅原 和之
被上告人 世田谷区
2008(平成20)年10月1日
最高裁判所 御中
上告人 ○○○
法定代理人親権者母 △△△ 印
上告人 △△△ 印
上告人 菅 原 和 之 印
上記当事者間の当初事件について、上告人らは以下の通り上告理由を補充する。
第1 文字補正
第2 本上告理由補充書の提出にあたって
第3 大法廷判決多数意見に照らしての原判決の判例違反
1 日本国籍を保有しているにもかかわらず、権利が制限されることを容認する原判決の判例
違反
2 「父母の信条」が子の不利益につながることを容認することの原判決の大法廷判決違反
3 原判決の国際条約違反がより明確となった
4 本件処分は立法目的との間の合理的関連性を欠くものである
第4 大法廷判決補足意見に照らして原判決を検討する
1 泉徳治裁判官の補足意見に照らして原判決を検討する
2 今井功裁判官の補足意見に照らして原判決を検討する
3 田原睦夫裁判官の補足意見に照らして原判決を検討する
4 近藤宗晴裁判官の補足意見に照らして原判決を検討する
5 藤田宙靖裁判官の意見に照らして原判決を検討する
第5 大法廷判決反対意見に照らして原判決を検討する
1 横尾和子裁判官,津野修裁判官,古田佑紀裁判官の反対意見に照らして原判決ならび
に本件処分を検討する
2 甲斐中辰夫裁判官,堀籠幸男裁判官の反対意見と原判決ならびに本件処分の比較
第6 結論
第1 文字補正
(省略)
第2 本上告理由補充書の提出にあたって
2008年6月4日、国籍確認請求事件(事件番号 平成19(行ツ)164)について最高裁判所
大法廷は「・・・国籍法3条1項の規定が,日本国民である父の非嫡出子について,父母の婚 姻により嫡出子たる身分を取得した者に限り日本国籍の取得を認めていることによって,同じ く日本国民である父から認知された子でありながら父母が法律上の婚姻をしていない非嫡出 子は,その余の同項所定の要件を満たしても日本国籍を取得することができないという区別 が生じており,このことが憲法14条1項に違反する」とする判決を下した。これは、日本がその 問題を国連からも指摘されている婚外子差別について、その撤廃に向けた、画期的な判決で あると上告人らは認識するものである。
上記の大法廷判決(以下単に大法廷判決という)は、国際婚外子の国籍確認にかかわるも
のであるが、本件、婚外子の住民票不記載処分取消請求事件とも多くの点で共通するものが あると考える。したがって、大法廷判決は、本件上告後に下されたものではあるが、この大法 廷判決に照らして、本件原判決(2007年11月5日判決言い渡し 東京高等裁判所第15民 事部 平成19年(行コ)第229号 住民票不記載処分取消等請求控訴事件、以下原判決とい う)の違法性を、本上告理由補充書において明らかにするものである。
第3 大法廷判決多数意見に照らしての原判決の判例違反
本件の大前提として、上告人子については、国籍法2条による当然の日本国籍取得の地
位がある(出生証明書 甲12号)。にもかかわらず、住民票の記載がされていないために、将 来、選挙権の行使などが侵害される恐れがあることが大きな問題となる。
1 日本国籍を保有しているにもかかわらず、権利が制限されることを容認する原判決の判
例違反
(1)原判決の判示
原判決は「選挙権の問題については,1審原告○が現在2歳であってその不利益が現実
化しているものではないからこの点で重大な損害は生じていない」(原判決23ページ)など と判示した。
(2)原判決の大法廷判決違反
大法廷判決は「日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国にお
いて基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法 的地位でもある。」(大法廷判決4ページ ページ数表記は最高裁判所ホームページ「判例 検索システム」において公開されたPDFファイルに基づいている 以下同様)と判示してい る。また大法廷判決補足意見に「国籍は,国家の構成員たることを意味するものであり,日 本国籍を有する者は,我が国に居住する自由を有するとともに,憲法の保障する基本的人 権を享受し,職業を自由に選択し,参政権を行使し,また,法律が国民に認めた各種の権 利を行使することができる。」(大法廷判決21ページ)とあるように、大法廷判決のいう「基 本的人権」の中には、当然、選挙権も含まれていることになる。大法廷判決における当該 上告人らは、皆、20歳に満たない年齢であり、大法廷判決時点において、選挙権を行使 することはできない。しかし、大法廷判決は、補足意見中に、現時点においては「教育を受 ける権利や社会保 障を受ける権利の行使の可否がより重要である。」(大法廷判決21ペ ージ)との意見はあるものの、原判決のいうような「選挙権の問題については,1審原告○ が現在2歳であってその不利益が現実化しているものではないからこの点で重大な損害は 生じていない」として、将来の選挙権の重要性を退けるような意見は、多数意見のみならず 反対意見をも含めても、その全体の中に皆無である。
すなわち、国籍法2条1号により生来的に日本国籍のある上告人子に対して、将来、日
本国民として当然与えられるはずの権利を、年齢に達していないからといって、退けるよう なことはあってはならないのである。この点において、原判決は大法廷判決に明らかに違 反するものである。
2 「父母の信条」が子の不利益につながることを容認することの原判決の大法廷判決違反
(1)原判決の判示
原判決は「本件住民票の記載がされないことによって・・・不利益があるとしても,・・・その
不利益は専ら同○の父母である1審原告父母の信条によるものであ」ると判示した(原判 決20ページ)
(2)原判決の大法廷判決違反
大法廷判決多数意見は「父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということ
は,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係 る事柄である。したがって,このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生 じさせることに合理的な理由があるか否かについては,慎重に検討することが必要であ る。」(大法廷判決4ページ)とした上で、「子にはどうすることもできない父母の身分行為が 行われない限り,生来的にも届出によっても日本国籍の取得を認めないとしている点は, 今日においては,・・・不合理な差別を生じさせているものといわざるを得ない。」と判示し た。(大法廷判決8〜9ページ)これは、「子にはどうすることもできない父母の」事情によっ て差別を容認することはできないというものであり、前記原判決の判示は、大法廷判決とは 正反対の論理であり、したがって原判決は大法廷判決違反を免れないものである。
3 原判決の国際条約違反がより明確となった
(1)原判決の判示
原判決は、何の説示もないまま「1審原告○は,本件処分は,国際人権A規約2条1,同
B規約24条1,子どもの権利条約2条1,世界人権宣言25条の2及び世田谷区子ども条 例に違反する違法なものである旨主張するが,何らこれらに違反,抵触するものではなく, 上記主張は採用することができない。」と判示した(原判決22ページ)。
(2)原判決の大法廷判決違反
大法廷判決は「我が国における社会的,経済的環境等の変化に伴って,夫婦共同生活
の在り方を含む家族生活や親子関係に関する意識も一様ではなくなってきており,今日で は,出生数に占める非嫡出子の割合が増加するなど,家族生活や親子関係の実態も変化 し多様化してきている。」(大法廷判決6ページ)として国内情勢を考慮したうえで「諸外国に おいては,非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向にあることがうかがわ れ,我が国が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約及び児童の権利に関す る条約にも,児童が出生によっていかなる差別も受けないとする趣旨の規定が存する。」 (大法廷判決7ページ)と判示した。このように大法廷判決は、婚外子をとりまく国内外の情 勢、ならびに国際人権B規約,子どもの権利条約も判決の根拠として言及しているにもか かわらず、原判決が何の説示もないままに、世田谷区長による上告人子の住民票不記載 処分(以下本件処分という)について、これらの条約違反を退けることは、明らかに大法廷 判決に違反するものである。
4 本件処分は立法目的との間の合理的関連性を欠くものである
(1)原判決の判示
原判決は「1審原告○は,住民登録は,就学のほかに,転出証明書,選挙,国民健康
保険,年金などの事務の基礎とされているし,子の住民登録が要件とされている事項とし て,私立幼稚園児に対する補助金,印鑑登録,区立小中学校の『指定校変更』があり,住 民票が要求される場合として,自動車運転免許証の取得,都営住宅への入居等の諸手続 があるところ,住民票が作成されないことによりこれらの諸手続に支障を生じることが重大 な損害を生ずるおそれであると主張する。しかし,上記のうち,選挙権の問題については, 1審原告○が現在2歳であってその不利益が現実化しているものではないからこの点で重 大な損害は生じていないし,その他の点については,証拠(1ないし6,9,10,13ないし2 0)及び弁論の全趣旨によれば,住民登録あるいは住民票がなくても手続において煩瑣な 点があり得るとしても,これらがある者と同じ扱いがされる場合が多いと認められるのであ るから,1審原告○に・・・訴訟要件としての『重大な損害を生ずるおそれ』があるとまではい えない。」と判示した。(原判決23ページ)
(2)大法廷判決の該当部分
ここでは大法廷判決が判示した「日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,
父から出生後に認知された子についても,国籍法8条1号所定の簡易帰化により日本国籍 を取得するみちが開かれている。しかしながら,帰化は法務大臣の裁量行為であり,同号 所定の条件を満たす者であっても当然に日本国籍を取得するわけではないから,これを届 出による日本国籍の取得に代わるものとみることにより,本件区別が・・・立法目的との間 の合理的関連性を欠くものでないということはできない。」(大法廷判決9ページ)との説示 を原判決と比較して検討する。
尚、上記大法廷判決引用部分にある「本件区別」とは「国籍法3条1項の規定が,日本国
民である父の非嫡出子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した者に限り 日本国籍の取得を認めていることによって,同じく日本国民である父から認知された子であ りながら父母が法律上の婚姻をしていない非嫡出子は,その余の同項所定の要件を満た しても日本国籍を取得することができないという区別」(大法廷判決3ページ)のことであっ て、以下同じである。
(3)本件処分は住民基本台帳法の立法目的との間の合理的関連性を欠くものである
住民基本台帳法の立法目的はいうまでもなく「・・・住民に関する記録を正確かつ統一的
に行う住民基本台帳の制度を定め、もつて住民の利便を増進する・・・」ことである(住民基 本台帳法第1条)。
ところで、本件第一審である原々判決(第1審 東京地方裁判所平成18年(行ウ)第309
号 以下原々判決という)は、原判決の該当部分について「現実的には、・・・世田谷区の例 においても、別途申立書や申出を必要としたり(区立幼稚園への入園承認(乙5)、区立小学 校への入学 (弁論の全趣旨))、世田谷区に『住民票の記載がないことにつきやむを得ない 理由があると認め』てもらう必要があったり(私立幼稚園児の保護者に対する補助金等。乙 16)、他の方法で区内在住の事実や使用者との家族関係を確認する必要がある(区営住 宅の入居。乙20)など、差し当たり問題となり得る行政手続において、原告子のように出生 した子の住民票の記載が行われないならば、代替手段として、その手続の都度必要な申 出を行い、また、要求に応じて居住関係を証明する必要な手段を講じなければならないこと になる。その他、転出証明書の発行、健康保険や、年金の各手続、さらには、都営住宅へ の入居手続のほか、民間の賃貸借契約における添付など、およそ、その居住関係の証明 を必要とする手続においては、住民票の提出等を求められることは容易に想定できるとこ ろ、こうした日常の社会生活の様々な場面における不利益の累積は、市民生活上看過で きない負担ということができ、被告による上記主張はこのような負担の問題には何ら応えて いない、さらに、将来的なことではあるが、出生した子が選挙権を行使し得る年齢に近くな れば、重要な基本的な人権である選挙権の行使の前提としての選挙人名簿に登録される ため、住民票が作成されるべき必要性は極めて高くなり(住民基本台帳法15条1項、公職 選挙法21条1項、42条1項参照)、この点は住民票不作成の状態が継続すれば、いずれ回 避できない重大な問題になるといわざるを得ない。」(原々判決10〜11ページ)と判示して いる。
実際に平成20年8月8日付で上告人母宛の、世田谷区子ども部こども家庭支援課によ
る通知によれば、上告人子が「住民登録を有しない理由を記入」した「申立書の提出」がな ければ、「補助金の交付対象と」ならない旨が記載されている(甲第60号証)。
大法廷判決は、住民基本台帳法ではなく国籍法を問題にしているという違いはあるものの
「簡易帰化により日本国籍を取得するみちが開かれている」としても「帰化は法務大臣の裁 量行為であり,同号所定の条件を満たす者であっても当然に日本国籍を取得するわけで はないから,これを届出による日本国籍の取得に代わるものとみることにより,本件区別 が・・・立法目的との間の合理的関連性を欠くものでないということはできない。」というのだ から、同じように「住民登録あるいは住民票がなくても手続において煩瑣な点があり得ると しても,これらがある者と同じ扱いがされる場合が多いと認められる」としても、そのために は「世田谷区に『住民票の記載がないことにつきやむを得ない理由があると認め』てもらう 必要があったり・・・代替手段として、その手続の都度必要な申出を行い、また、要求に応じ て居住関係を証明する必要な手段を講じなければならないことになる。」のであって、当然 に「住民登録あるいは住民票が・・・ある者と同じ扱いがされる」わけではないから、住民基 本台帳法に照らせば、本件処分は立法目的との間の合理的関連性を欠くものであると言 わざるを得ない。
第4 大法廷判決補足意見に照らして原判決を検討する
1 泉徳治裁判官の補足意見に照らして原判決を検討する
(1)原判決の判示
原判決は何ら説示のないまま「1審原告○は,本件処分は,国際人権A規約2条1,同B
規約24条1,子どもの権利条約2条1,世界人権宣言25条の2及び世田谷区子ども条例 に違反する違法なものである旨主張するが,何らこれらに違反,抵触するものではなく,上 記主張は採用することができない。」(原判決22ページ)と判示した。
(2)泉徳治裁判官の補足意見と原判決の比較
泉徳治裁判官の補足意見は「・・・すべての児童が出生や父母の性別により差別されない
ことを規定した市民的及び政治的権利に関する国際規約24条及び児童の権利に関する 条約2条を遵守すべき日本の国会・・・」(大法廷判決15ページ)と述べ、国際人権B規約2 4条および子どもの権利条約2条を日本は遵守すべきであることを説示している。にもかか わらず、これらの条約違反に関して、何ら説示のないままに「違反,抵触するものではな」 いとする原判決は、泉徳治裁判官の補足意見の説示に著しく反するものである。
2 今井功裁判官の補足意見に照らして原判決を検討する
(1)原判決の判示
原判決は「子が無戸籍の状態にある場合において,・・・職権で住民票の記載をすべき場
合があるとしても,それは極めて例外的な場合に限られるというべきであり,せいぜい,1 審被告が主張するように,子が出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重大な 不利益を被る場合で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を求めることが 社会通念上,届出義務者に期待できないような場合に限定されるというべきである。」と判 示した(原判決19ページ)。
(2)今井功裁判官の補足意見と原判決の比較
今井功裁判官の補足意見は「国民に権利利益を与える規定が,権利利益を与える要件
として,A,Bの二つの要件を定め,この両要件を満たす者に限り,権利利益を与える(反 対解釈によりA要件のみを満たす者には権利利益を与えない。)と定めている場合におい て,権利利益を与える要件としてA要件の外にB要件を要求することが平等原則に反し,違 憲であると判断されたときに,A要件のみを備える者にも当該権利利益を与えることができ るのかが,ここでの問題である。このような場合には,その法律全体の仕組み,当該規定 が違憲とされた理由,結果の妥当性等を考慮して,B要件の定めのみが無効である(すな わちB要件の定めがないもの)とし,その結果,A要件のみを満たした者についても,その 規定の定める権利利益を与えることになると解することも,法律の合憲的な解釈として十分 可能であると考える。」と説示している(大法廷判決17〜18ページ)。
この部分の説示を本件処分に対応させるならば、住民票の記載は、上告理由書に述べ
たとおり、国民の権利利益に直結するものである(上告理由書24ページ及び同書全趣旨) から、同じように「子が無戸籍の状態にある場合」において、住民基本台帳法および同施行 令が定める適用除外(住民基本台帳法39条、同施行令33条)にあてはまらない、つまり 住民基本台帳法の適用を受けるということ、すなわちそれは当該住民が日本国民であって かつ皇族の身分を有しないことが「A要件」とした場合、原判決が「A要件」の外に「子が出 生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重大な不利益を被る場合で,かつ,戸籍 法によって義務付けられた出生届の提出を求めることが社会通念上,届出義務者に期待 できないような場合に限定される」という「B要件」をあえて要求することは、国会で議決され た基本法である住民基本台帳法が要求しない要件を司法が法外に要求するものであっ て、平等原則に反するといわざるを得ない。したがって、法定されている「A要件」のみを有 した者も当然に住民登録されるべきである。
よって、原判決は、今井功裁判官の(同時に那須弘平,涌井紀夫の両裁判官が同調す
る)補足意見の説示に著しく反するものである。
3 田原睦夫裁判官の補足意見に照らして原判決を検討する
(1)原判決の判示
原判決は「1審原告○は,住民登録は,就学のほかに,転出証明書,選挙,国民健康保
険,年金などの事務の基礎とされているし,・・・住民票が作成されないことによりこれらの 諸手続に支障を生じることが重大な損害を生ずるおそれであると主張する。しかし,・・・住 民登録あるいは住民票がなくても手続において煩瑣な点があり得るとしても,これらがある 者と同じ扱いがされる場合が多いと認められるのであるから,1審原告○に・・・訴訟要件と しての『重大な損害を生ずるおそれ』があるとまではいえない。」と判示した。(原判決22〜 23ページ)
(2)田原睦夫裁判官の補足意見と原判決の比較
田原睦夫裁判官の補足意見は「教育を受ける権利」について「憲法26条は,1項で国民
の教育を受ける権利を定め,2項でその裏面として保護者にその子女に対して普通教育を 受けさせる義務を定めるとともに,義務教育はこれを無償とする,と定める。そして,この憲 法の規定を受けて教育基本法は,国民に,その保護する子に普通教育を受けさせる義務 を定め,国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については,授業料を徴 収しない,と規定する(旧教育基本法4条,教育基本法5条1項,4項)。また,学校教育法 は,保護者に,その子女に対する小学校,中学校への就学義務を定める(平成19年法律 第96号による改正前の学校教育法22条,39条,同改正後の学校教育法16条,17 条)。そして,学校教育法施行令は,この就学義務を履行させるための事務として,市町村 の教育委員会は,当該市町村の住民基本台帳に基づいて,当該市町村の区域内に住所 を有する学齢児童及び学齢生徒について学齢簿を編製し,就学予定者の保護者に対し, 翌学年の初めから2月前までに小学校又は中学校の入学期日を通知しなければならない (学校教育法施行令1条,5条)等,様々な規定を設けている。これらの規定は,子女の保 護者の義務の視点から定められているが,それは,憲法26条1項の定める当該子女の教 育を受ける権利を具現化したものであり,当該子女は,無償で義務教育を受ける権利を有 しているのである。ところが,日本国民以外の子女に対しては,それらの規定は適用され ず,運用上,市町村の教育委員会が就学を希望する外国人に対し,その就学を許可する との取扱いがなされているにすぎない。」と述べている。(大法廷判決22ページ)
つまり「当該市町村の住民基本台帳に基づいて,当該市町村の区域内に住所を有する
学齢児童及び学齢生徒について学齢簿を編製」することも「憲法26条1項の定める当該子 女の教育を受ける権利を具現化したもの」であり、すなわち住民基本台帳への記載が教育 を受ける権利に直結するものであることを説示しているのである。
上記説示に照らせば、「住民登録あるいは住民票がなくても・・・『重大な損害を生ずるお
それ』があるとまではいえない。」と判ずる原判決は明らかに不当なものである。
さらに同補足意見は、上記に続けて「・・・社会保障の関係では,生活保護法の適用に関
して,日本国民は,要保護者たり得る(生活保護法2条)が,外国人は同法の適用を受ける ことができず,行政実務において生活保護に準じて運用されているにすぎないのであ る。・・・このように,現行法上,本件上告人らのような子女においては,日本国籍を取得す ることができるか否かにより,教育や社会保障の側面において,その権利を享受できるか 否かという点で,大きな差異が存するのである。」(大法廷判決22〜23ページ)と述べてい る。
上記の田原睦夫裁判官の補足意見と照らせば、同補足意見が「日本国籍を取得するこ
とができるか否か」を問題にしており、原判決は「住民登録あるいは住民票があるか否か」 を問題にしていることの違いはあるにしても、「教育や社会保障の側面において,その権利 を享受できるか否かという点で,大きな差異が存する」ことについては同様である。たとえそ れが「行政実務において」「同じ扱いがされる場合が多いと認められる」としても、そのことで 「『重大な損害を生ずるおそれ』があるとまではいえない。」ということは到底できない。
よって、原判決は、田原睦夫裁判官の補足意見の説示に著しく反するものである。
4 近藤宗晴裁判官の補足意見に照らして原判決を検討する
(1)原判決の判示
原判決は「・・・子が無戸籍の状態にある場合において,・・・,なお,職権で住民票の記
載をすべき場合があるとしても,それは極めて例外的な場合に限られるというべきであ り,せいぜい,1審被告が主張するように,子が出生の届出を行うことによって,届出義務 者や子が重大な不利益を被る場合で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提 出を求めることが社会通念上,届出義務者に期待できないような場合に限定されるという べきである。」と判示した(原判決19ページ)。
(2)近藤宗晴裁判官の補足意見と原判決の比較
近藤宗晴裁判官の補足意見は「・・・その目的を達成するために準正を要件とすること
は、もはや立法目的との間に合理的関連性を見出すことができないとしたのである。」(大 法廷判決26ページ)として、大法廷判決多数意見を支持している。大法廷判決は、国籍取 得要件にかかわるものであるが、住民票記載要件にかかる本件に照らして検討するなら ば、住民票記載を定めた住民基本台帳法の立法目的とその法を運用する行政裁量との間 に合理的関連性を見出すことができるか、ということが争点となる。
住民基本台帳法の立法目的はいうまでもなく「・・・住民に関する記録を正確かつ統一的
に行う住民基本台帳の制度を定め、もつて住民の利便を増進する・・・」(住民基本台帳法 第1条)ことであるから、法によって記載を禁じていない「無戸籍の状態にある場合」につい て、行政裁量で住民票記載を制限することは、立法目的との間に合理的関連性を見出す ことはできない。更に、住民基本台帳法の上位に位置する地方自治法は「市町村の区域 内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。」(地方 自治法10条1)のであり、「市町村は、別に法律の定めるところにより、その住民につき、 住民たる地位に関する正確な記録を常に整備しておかなければならない。」(地方自治法1 3条の2)のである。その地方自治法の立法目的は「地方公共団体は、住民の福祉の増進 を図ること」(地方自治法1条の2)なのだから、住民基本台帳法上、その記載を禁止してい ない「無戸籍の状態にある場合」についても制限することなく記載してこそ、立法目的を達 成するというものである。そのことこそが、大法廷判決も言及しており、住民基本台帳およ び地方自治法の更に上位にある、憲法14条、国際人権B規約24条、子どもの権利条約2 条の定める平等原則にも合致するものである。
にもかかわらず、「無戸籍の状態にある場合」について住民票記載を制限すべきである
かのように述べる原判決は、近藤宗晴裁判官の補足意見に著しく反するものである。
加えて、近藤宗晴裁判官の補足意見も検討しているが、大法廷判決が「立法府に与えら
れた立法政策上の裁量権を不当に制約するものであって許されない」か否かという問題に 本件を照らした場合、本件において処分の違憲ないし違法を宣言したとしても、それは立 法府の権限を何ら制約するものではなく、法解釈を誤った行政府の法運用に対して違憲な いし違法を言うのみであるので、たとえ本件処分を違憲であると宣言したとしても、司法権 の越権行為とならないことは、いうまでもない。
5 藤田宙靖裁判官の意見に照らして原判決を検討する
(1)藤田宙靖裁判官の意見の該当部分
藤田宙靖裁判官の意見は「日本国籍は、我が国において基本的人権の保障,公的資格
の付与,公的給付等を受ける上で極めて重要な意味を持つ法的地位であり,その意味に おいて,基本権享受の重要な前提をなすものということができる。」としたうえで「・・・本人の 意思や努力の如何にかかわりなく存在する様々の線引きが交錯する中で,その谷間に落 ち込む結果となっているが故なのである。その交錯の上に・・・置かれている者が個別的な 訴訟事件を通して救済を求めている場合に,・・・,考え得る立法府の合理的意思をも忖度 しつつ,法解釈の方法として一般的はその可能性を否定されていない現行法規の拡張解 釈という手法によってこれに応えることは,むしろ司法の責務というべき・・・」と述べている。 (大法廷判決31〜32ページ)
(2)藤田宙靖裁判官の意見と原判決の比較
前述の通り、上告人子は当然に日本国籍を取得していながら、住民票の記載がないため
に基本的人権の一部を制限されている状態にある。しかもその住民票不記載は、「本人の 意思や努力の如何にかかわりな」い出生届不受理に起因するものである。そして、出生届 不受理の者の住民票記載を禁ずる旨の規定は住民基本台帳法上に存在しない。原判決 の全趣旨ならびに本件処分は、現行法規をあえて狭めて解釈したうえで、上告人子の基本 的人権の一部を、結果として制限するものとなっている。原判決は、「現行法規の拡張解釈 という手法によってこれに応えることは,むしろ司法の責務」とする藤田宙靖裁判官の意見 に著しく反していることは明白である。
第5 大法廷判決反対意見に照らして原判決を検討する
1 横尾和子裁判官,津野修裁判官,古田佑紀裁判官の反対意見に照らして原判決ならび
に本件処分を検討する
(1)上記反対意見の該当部分
横尾和子裁判官,津野修裁判官,古田佑紀裁判官の反対意見は「国籍が基本的人権の
保障等を受ける上で重要な法的地位であるとしても,特定の国の国籍付与を権利として請 求することは認められないのが原則・・・。また,無国籍となるような場合は格別,いずれの 国の保障を受けるか,例えば我が国の保障を受けるか,それとも他国の保障を受けるかと いうことは,各国の主権にかかわることであり,法的な利益・不利益も,それぞれの国籍に 応じて,居住国あるいは事柄によって相違し,時には反対にもなり得る相対的なものである ことも考慮すべきである。」と述べている。(大法廷判決32〜33ページ)
(2)上告人子は日本国籍を有しながら、日本国籍に応じた保障の一部が受けられていな
い。
上記3名の裁判官の反対意見においても、「国籍が基本的人権の保障等を受ける上で重
要な法的地位であ」り、その「国籍に応じて」保障を受けることを説示している。
上告人子は、国籍法2条1項により,当然に国籍を取得している。にもかかわらず、本件
処分によって、住民票の記載がないことにより、前述の通り、将来の選挙権や教育を受け る権利の一部等々が侵害されている状態にある。上記3名の裁判官の反対意見の全趣旨 を通じても「我が国の保障を受けるか,それとも他国の保障を受けるか」によって差異が生 じることは認めても、同じ国籍の中において、「基本的人権の保障」についての差異を認め るものではない。
さらに同反対意見は「もとより,私たちも,これらの子についても,必要に応じて,適切な
保護等が与えられるべきことを否定するものではない。しかし,そのことと国籍をどのような 条件で付与するかは,異なる問題である。」(大法廷判決36〜37ページ)として、届出によ る日本国籍を付与すべきではないという旨の説示をする「これらの子」についても「適切な 保護等が与えられるべき」と述べており、であるとすれば、日本国籍を当然に有している上 告人子が日本国民の基本的な人権の保障を受ける当然といってよい。しかも「これらの子」 についても大法廷判決によって日本国籍が付与されたのである。
上記を鑑みれば、本件処分ならびに原判決は、横尾和子裁判官,津野修裁判官,古田
佑紀裁判官の反対意見に照らしても、不当である。
2 甲斐中辰夫裁判官,堀籠幸男裁判官の反対意見に照らして原判決ならびに本件処分
を検討する
(1)上記反対意見の該当部分
甲斐中辰夫裁判官,堀籠幸男裁判官の反対意見は「司法の使命は,中立の立場から
客観的に法を解釈し適用することであり,本件における司法判断は,『本件区別により不 合理な差別的取扱を受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正す ることが国籍法3条1項の解釈・適用により可能か』との観点から行うべきものであるから である。」(大法廷判決41ページ)としたうえで「多数意見は,国籍法3条1項の規定自体 が違憲であるとの同法の性質に反した法解釈に基づき,相当性を欠く前提を立てた上, 上告人らの請求を認容するものであり,結局,法律にない新たな国籍取得の要件を創設 するものであって,実質的に司法による立法に等しいといわざるを得ず,賛成することは できない。」(大法廷判決42ページ)と述べている。
また、「法律にない新たな国籍取得の要件を創設するもの」という説示については、横
尾和子裁判官,津野修裁判官,古田佑紀裁判官の反対意見の中にも同趣旨の意見が ある。
(2)甲斐中辰夫裁判官,堀籠幸男裁判官の反対意見と原判決ならびに本件処分の比較
まず、上記二裁判官の反対意見は国籍法を問題にしており、原判決ならびに本件処分
は主に住民基本台帳法を問題にしていることの違いはあるものの「司法の使命は,中立 の立場から客観的に法を解釈し適用することであり,・・・『・・・不合理な差別的取扱を受 けている者の救済を図り,・・・違憲の状態を是正すること・・・可能か』との観点から行うべ きものであるからである。」ことは同様である。この観点から、本件処分を考えるならば、 上告人子は日本国籍を有し、かつ地方自治法上の世田谷区の住民であることは明白で あることから、住民基本台帳法上の適用要件を満たしており、記載事項についても、住民 基本台帳事務処理要領に基づき、本籍欄に「本籍なし」などと記載することにより適法に 記載することができる。したがって、甲斐中辰夫裁判官,堀籠幸男裁判官の反対意見が 説示する「司法の使命」を果たすことは「中立の立場から客観的に法を解釈し適用するこ と」により、上告人子の不利益な状態を是正することが可能である。
にもかかわらず本件処分の適法を判じた原判決は、甲斐中辰夫裁判官,堀籠幸男裁判
官の反対意見に照らせば、「司法の使命」を果たしていないといわざるを得ない。
(3)原判決は「法律にない新たな・・・要件を創設するもの」である
原判決は「子が無戸籍の状態にある場合において,・・・職権で住民票の記載をすべき
場合があるとしても,それは極めて例外的な場合に限られるというべきであり,せいぜ い,1審被告が主張するように,子が出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が 重大な不利益を被る場合で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を求め ることが社会通念上,届出義務者に期待できないような場合に限定されるというべきであ る。」と判じている。
しかし、これまで述べたように、住民基本台帳法および同施行令が定める住民票の記
載要件は、日本国民であることと皇族の身分を有しないことであって、記載事項は住民基 本台帳事務処理要領に基づいて記載すれば、「無戸籍の状態にある」か否かにかかわら ず、適法に記載できるのであって、戸籍記載の有無やましてや原判決の言うような「子が 出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重大な不利益を被る場合で,かつ, 戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を求めることが社会通念上,届出義務者 に期待できないような場合に限定される」などという要件は一切ない。
このように、国会の議決した基本法である住民基本台帳法にない要件を、あえて司法
や行政が要求することは「法律にない新たな・・・要件を創設するもの」であって、司法ない し行政の裁量権限を逸脱するものであり、立法権の侵害である。大法廷判決多数意見 も、同様の点については、慎重の上にも慎重を期して検討したうえで判示したものであ る。
ところが、原判決は大法廷判決のような司法裁量の検討もなく、しかも、大法廷判決が
平等原則に基づいて権利擁護のために判じたのに対し、原判決は平等原則を検討する こともなく権利を制限する方向で判じられたものであって、重ね重ね「司法の使命」を冒涜 するものであるといわざるを得ない。
尚、住民基本台帳法はその細部について多くの部分を総務省令に委ねる構造となって
いるが、省令にあたるもののどこにも「戸籍のない者は住民票の記載をしない」ないし「記 載するにしても・・・極めて例外的な場合に限られるというべきであり,せいぜい,・・・子が 出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重大な不利益を被る場合で,かつ, 戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を求めることが社会通念上,届出義務者 に期待できないような場合に限定されるというべき」と読み取れる記載はない。また、一部 で原判決の示した要件があるかのごとく読み取れる文書があったとしても、それは、地方 自治法第245条の4第1項の規定に基づく助言でしかなく、もしも省令ないし施行規則さえ 改正せずに、地方自治法上の助言のみであたかも「法律にない新たな・・・要件を創設す る」ような運用を行ない、しかもそれが国民・住民の権利を侵害する方向で運用されること があれば、それは行政裁量の逸脱であり立法権の侵害であることは言うまでもない。前 述田原睦夫裁判官の補足意見に照らしても、住民の権利擁護のために法をその目的に 即して拡張して運用することは認められても、住民の権利を制限する方向で縮小して運 用することは、憲法14条の定める平等原則からしても、許されてはならないことである。
したがって、甲斐中辰夫裁判官,堀籠幸男裁判官の反対意見に照らしても、原判決な
らびに本件処分は、甚だしく不当なものである。
第6 結論
よって、大法廷判決の多数意見、補足意見、反対意見を合わせた全趣旨に照らしても、原
判決は大法廷判決違反であることは明白である。
したがって上告人らは、原判決の破棄、被上告人の控訴棄却、本件処分の取消ならびに上
告人子の住民票記載の義務付けを、強く強く求める。
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