| 隔日更新小説 第1弾 妖精の騎士 蒼き瞳の姫君 (妖精の騎士 白亜の大地・番外編) (三百五十八) 第九章 ノマ(十五) 辺りは静まっていましたが、足元から何やら地鳴りのようなものを感じ取りました。それは周囲に広く満ちていて、徐々にアルセナのところにまで迫っているような感じがしました。 これは、何? 何が起こっているの? 不安を煽られたアルセナは、警戒しながら通路を歩いていきました。普段と同じような薄暗い通路でも、この時に限っては不気味な殺気のようなものを表面に湛えています。何時もならほとんど揺れることのない松明の灯は、先に進に連れて大きく揺れ動いていました。風ではなく、通路全体が揺れているようでした。 何かが、起こっている。これは、危険、だわ。 アルセナはそう結論付けました。本能なのか、それとも老婦人の元での修行の成果なのか、それは確信と呼べるほどはっきりとしたものでした。 急いでリリンのところに戻らなきゃ! それにサイラさんやリュディアさんにも会わないと! そう思って引き換えそうとした瞬間、女性の悲鳴が耳に入りました。反響が酷くて何処から聞こえてくるのか判りません。しかも悲鳴はひとつではありませんでした。間髪入れずに違う悲鳴、それも複数が折り重なるように響いてきます。そして悲鳴と悲鳴の間には、金属が激しくぶつかる音や荒々しく石畳を踏み荒らす音が混じっていました。 それは混沌に満ちていて、あちこちからアルセナを襲うかのような大きなうねりとなっていました。そして間違いなくアルセナの元へと向かっていたのです。 アルセナは自分の部屋に駆け戻ろうとしました。しかし、ほの暗い先に不意に人影が現れ、足を動かすことが出来ませんでした。 誰? 地下街の人? しかし、その人影は手に持っていた長いものを突き出すと鋭い声で、捕えろ! と叫びました。一瞬だけぎらりと光ったそれが、長剣だと直ぐに判りました。 ガツガツと地面を踏み鳴らし、人影の後ろにさらに何人かが連なります。 アルセナの感じた危険はもう目の前に迫っていました。逃げなきゃ! 状況がよく判らないまま、しかしアルセナに出来ることはそれしかありません。 踵を返し、通路を駆けます。背後からはアルセナを追う足音が続き、それだけでなく足音はあらゆる方向から迫っていました。 〈続く〉 |