『転ばぬ先の杖』

「お元気ですか」

第253回鎌倉ケーブルテレビより・・・

番組の冒頭・・・

浜田 淑子 アナウンサー

「昔から、転ばぬ先の杖と言いますが、お年寄りの間では転倒・骨折・寝たきり・・というパターンが大変多くなっているようです。そこで今回は、どうしたら転倒・骨折を防止できるのか、長谷にある鎌倉病院・院長の泉清高先生にお話を伺ってみたいと思います。」

○ 浜田アナ

「先生、よろしくお願いします。

お年寄りの場合、転ぶと骨折しやすいというのはどこに原因があるのでしょうか?」

● 泉院長

「ご高齢になられますと、骨が弱くなります。いわゆる骨粗しょう症と言われるものです。それが原因で転んだりひねったりすると、骨がそれに耐えられなくなって骨折してしまいます。また結果として、寝たきりへとつながってしまうのです。」

「65歳以上の方の寝たきりの原因で一番多いのは、脳梗塞・脳卒中などの脳血管障害です(30.3%)。

これに比べ転倒・骨折が占める割合は11.7%です。

いろいろな原因の中で、転倒・骨折が原因の寝たきりは何とか防げることなので、それについてお話します。」

○ 浜田アナ

「骨粗しょう症の方は骨折しやすいということですが、転びやすいというのは何故なのでしょう?」

● 院長

「お年寄りの転倒原因は大きく分けて3つあります。

1番目は、白内障などによる視力の低下です。見えにくいことによって障害物:石や階段に足をひっかけて、転んでしまいます。

2番目は、筋力低下。下半身の筋力が落ちることで、歩行パターンが崩れてしまい、足が上がらない・足を引きずる・・ことになり、段差を乗り越えられずに転倒します。

3番目は、巧緻性(バランス)の低下です。若い人は、多少バランスを崩しても立ち直れますが、お年よりはバランスを崩すと、そのまま転んでしまうことが多いのです。」

○ 浜田アナ

「では、転びやすい歩き方というのはどのような歩き方でしょうか?」

● 院長

「背中が曲がってくることによって、視線が下がります。視線が下がると障害物の見分けが遅れたり、見落としたりします。

また足の筋力が落ちますと、ひざが上がらなくなり、足先も下がってしまいます。その結果として歩幅が狭くなってしまい、ごく些細なでこぼこや階段で転ぶということになります。」

「後ほどお示しする運動や訓練によって、正しい歩き方になっていただき、転倒を予防していただきたいと思います。」

○ 浜田アナ

「骨折しやすい部位というのはあるのでしょうか?」

● 院長

「それは、骨が弱いところです。また、転んだときにダメージを受けやすいところです。

まず、上腕骨の付け根。ここは手をついたときに骨折しやすいです。

次に、太ももの付け根。ここは大腿骨頚部と云いますが、転んだときに折れやすい場所です。ここを骨折してしまいますと入院・手術が必要となってきます。

また、手首の骨折も転倒によって起きます。

この他、背骨の圧迫骨折もあります。

これは骨が弱くなることによって自然に起きることがあり、若いころに比べ、身長が5cm〜10cm低くなった方は、腰椎の圧迫骨折の疑いがあります。」

○ 浜田アナ

「太ももの付け根の骨折予防が重要ということですね?」

● 院長

「そうです。この骨折を防ぎたいと国中で努力しています。」

○ 浜田アナ

「転倒しやすい場所というのはあるのでしょうか?

また、屋外・屋内の比率はいかがでしょうか?」

● 院長

「比率は、圧倒的に屋外での転倒が多いようです。割合としては、屋外が63.4% 屋内が31%という統計があります。(不明5.6%)

屋外ですと、平らな道(23.3%)・坂道(5.3%)・階段(5.4%)など、あらゆるところで転倒の可能性があります。

また屋内ですと、居間(9.7%)・玄関(4.3%)・食堂(3.6%)・廊下(3.5%)と、やはり生活空間での転倒が多いようです。

ですが屋内の場合は、ご家族の工夫で転倒を未然に防ぐことも出来ます。」

○ 浜田アナ

「その方法はどのようなものでしょうか?」

● 院長

「まず寝室ですが、床に着くときなどにその暗さから、転倒につながります。それを防ぐために足元照明を付けるとよいでしょう。

また、立ち上がるときのために手すりを取り付けます。

和室と洋室を比べると、どちらかといえば、洋室にベッドを置くほうがその動線(体の動きの範囲)が少ないということからよいと考えられます。

玄関は、日本家屋の特徴として段差があります。

その段差解消のため、踏み台を置きましょう。また、玄関マットなどは、滑らないように四隅を固定していただき、手すりもつけましょう。

居間では、電気コードに足を引っ掛けて転びやすいので、コードは固定しましょう。またじゅうたんなども固定しましょう。

浴室は、排水の関係で段差が生じます。それをスノコなどで解消し、浴槽と洗い場との段差はイス・バスボードなどに一回腰掛けてから出入りするようにしましょう。当然、手すりも必要です。このようなものは、システムとして出来上がっているのもありますが、あとから改造することも可能ですので、ぜひやっていただきたいと考えます。

またトイレですが、和式・洋式を比べますと、これは完全に洋式の方が安全です。あとは手すりを付けるだけでよいでしょう。

また階段ですが、滑り止めと手すり・照明を取り付けていただきましょう。

手すりは、なるべく手前から先まで長めに取り付けてもらって、あらかじめ手すりにつかまって上がって、上がり終わってから一息つくまで手すりがあるようにしましょう。たいてい転ぶのははじめの一段か終わりの一段ですから。

各段には滑り止めを付けていただき、足元照明も付けましょう。」

「家の内外に関係なく、歩きやすい服装を心がけていただき、外では杖の使用をお勧めします。」

○ 浜田アナ

「杖の高さの調整は必要でしょうか?」

● 院長

「杖にはいろいろな種類があります。一番基本的な形のT字杖の場合、グリップ(握りの部分)は腕を自然に下げたときの手首の高さ、もしくは太ももの骨の付け根部分(大腿骨の大転子)に合わせてください。また杖の先には必ずゴムの滑り止めキャップを付けましょう。

杖の長さが長すぎますと、肩が上がってしまいますし、低すぎると背中が曲がって視線が下がってしましますので、ちゃんと調整しなくてはいけません。

また買い物などされるときには、ウォーカーと云われる、買い物かご・イスが付いている歩行補助具の利用などをお勧めします。これは介護用品を扱っているお店などに売っています。」

○ 浜田アナ

「痴呆などがあり、杖や手すりの使用が難しいときなどはどのようにすればよいのでしょうか?」

● 院長

「いまはそのようなことに対しての工夫もあります。

それは、プロテクトパンツと云いまして、転んだときに一番骨折しやすく、また寝たきりの原因となってしまう、大腿骨頚部骨折を予防するパンツです。

痴呆などで手すり・杖などの使用が困難な方でも、これを着用していれば、もし転んでしまってもその折れやすい部分をカバーしてくれるプロテクターが入っています。

これによって、3割以上の骨折が防げるというデータがあります。

この商品も介護用品専門店などで購入できます。」

○ 浜田アナ

「寝たきりにならないために、患者さん自身が出来ることはどのようなことでしょうか?」

● 院長

「それは、先ほどお話した転倒原因のうち、2番目の筋力低下と3番目のバランス低下は何歳になってもある程度補えるということが分かっていますので、そのための運動・訓練をやっていただくことです。」

○ 浜田アナ

「では、その運動法をお願いします。」

● 院長

「ではこれからお教えいたします。」

「まず、腰掛けた状態で・・・

1. ゆっくりとひざを伸ばしてゆき、ひざが水平位まで伸び切ったところで、足首の曲げ伸ばしを左右各10回行います

2. 上腕骨を外旋(前へならえの姿勢から段々腕を横に広げる)し、息を吸いながら、胸を開きます(背中の肩甲骨と肩甲骨をくっつけるイメージで)」

「次に立った姿勢で、タンスの引き出しなどにつかまって・・・

1. 背筋を伸ばして背伸び運動を10回

2. ひざを高くあげて足踏み運動を10回

3. 足の横振り上げ運動を左右各10回

4. 足の後ろ振り上げ運動を左右各10回

以上、座った姿勢・立った姿勢で合わせて6つの運動を行います。

これら6つの運動を1セットとし、朝・昼・晩に1回ずつ、毎日行ってください。」

○ 浜田アナ

「先生、いま運動指導をしていただきましたが、家の中のいろいろな工夫や運動など、ご本人とご家族で転倒予防に気をつけなくてはいけないということですね?」

● 院長

「そうですね、ご本人の努力と、おうちの方のケアーで、転倒による寝たきりは防げるということがはっきりしていますので、それに向けてご家族で力を合わせていただきたいと考えています。」

○ 浜田アナ

「本日はありがとうございました。」

編者注:KCCお元気ですか第253回「転ばぬ先の杖」VTRを元に編集したものです。

編集 鎌倉病院リハビリテ-ション科 山縣 隆雄

監修 財団法人 鎌倉病院 院長 泉 清高