鎌倉紀行−鎌倉ハイキングと観光ガイド−


エッセイ鎌倉紀行 第17回 梅薫る早春の鎌倉を歩く


1月も中旬になると、鎌倉の古寺の境内にほのかに梅が薫りはじめます。あの梅の甘い香がすると、「ああ、もう少しで春だな」という思いがしますね。

日本では「花見」というと桜を見ること、御所に植えられるのも「左近の桜、右近の橘」ですが、中国では古来より桜より梅が好まれたとのこと。ですから、中国王朝の伝統を受け継いだ日本の宮廷でも、当初は左近には梅が植えられたのですが、これがいつのまにか、桜に変わってしまいました。
「中国の花」というイメージの強い梅から、パッと咲いてパッと散る日本人好みの桜に植え替えられたのでしょうか。

さて、鎌倉の梅の名所として、ぜひ歩いておきたいのが、荏柄天神社、瑞泉寺、東慶寺の三ヶ所です。


1.荏柄天神


鶴岡八幡宮から鎌倉宮を指して歩いていく途中、左手に見えるのが荏柄天神社。天神様ですから、ご祭神はもちろん菅原道真公。頼朝の鎌倉入府以前から鎮座する古社で、九州の大宰府天満宮、京都の北野天満宮とともに、日本三大天神(※1)のひとつとされています。

荏柄天神社の境内では、年明けて間もなくの1月25日、古筆や鉛筆を燃やし、学力の向上と文字の上達を祈願する「筆供養」という行事が行われます。この頃になると、朱色の社殿両脇の紅白の梅が、少しづつ花を開きはじめます。
旧暦の1月25日は、ライバルの藤原氏に陥れられ、道真公が大宰府に左遷された日。その時、都の自邸の庭の梅を詠んだのが、この歌。

 東風吹かば にほひをこせよ 梅の花 主なしとて 春を忘るな

「東風(こち)」とは、春風のこと(※2)。本来、春の訪れを告げる風も、この和歌のせいか、どこか淋しさを感じる言葉です。

※1 日本三大天神については、諸説あります。
※2 陰陽五行説で、春・夏・秋・冬はそれぞれ、東・南・西・北に対応する。東風は、必ずしも
    東の方角から吹く風というより、春風と解すべき。

荏柄天神社殿と紅白の梅

道真公の和歌に詠まれた梅は、大宰府に流された主を慕って、一夜にして京都から大宰府に飛んで行ったと伝わる(「飛梅」の伝説)。

また、社殿の左手には「絵筆塚」という供養塔が立っていますが、これも是非見ておきたいところ。

絵筆塚

高さ三メートル二十センチもある筆の形をしたオブジェで、フクちゃんで有名な漫画家、故・横山隆一さん(生前鎌倉在住)の奉納。漫画家154名が描いた、かっぱ絵のレリーフが表面に貼り付けてある。(なぜ、かっぱの絵なのか? 河童絵で有名な、小島功さんが奉納実行委員長だったようだが。)
154枚のレリーフを見ていくとどれも個性的。藤子・F・不二雄さんの河童姿のドラえもんのレリーフも。


2.瑞泉寺

荏柄天神から鎌倉宮の前を過ぎ、二階堂の奥へと入っていくと、やがて瑞泉寺にたどり着きます。 鎌倉の「花の寺」として知られる瑞泉寺は、四季折々の花を楽しむことができますが、早春の梅の季節が一番よいかもしれません。

瑞泉寺の梅

やはり、古寺の境内に咲く梅は美しさもひとしお。
瑞泉寺の梅の見頃は比較的遅く、2月下旬頃から。

瑞泉寺の梅

梅には、春の訪れを告げる「春告草(はるつげくさ)」や、春風が吹くのを待って咲くことから「風待草」の別名もある。
早春のポカポカ陽気に、着ていた上着を手に散策するカップルも。


3.東慶寺

さて、鎌倉の梅の名所、最後は北鎌倉の東慶寺
茅葺の山門をくぐると、道の両脇に紅白の梅が咲き誇っています。梅の花に「咲き誇る」という表現は変かも知れませんが、まさにそのような感じなのです。


東慶寺の梅

東慶寺の境内は、のどかな山里の雰囲気。とても穏やかな気持ちになる。

枝垂れ梅と水仙

枝垂れ梅と水仙。

東慶寺に行かれたら、境内の松ヶ岡宝蔵もご覧になるとよいでしょう。東慶寺は江戸時代の「駆込み寺」として知られ、女性から離婚請求のできなかった封建時代、この寺に駆け込んだ多くの女性を救いました。宝蔵に収蔵される多くの離縁状など縁切関係の古文書は、「駆込み寺」の歴史を今に伝えています。
また、拝観には事前予約が必要ですが、「鎌倉の美女」とも呼ばれる、水月観音堂の優美な仏さま「水月観音」も、ぜひ拝観したいですね。

そのほかの鎌倉の梅の見所を3ヶ所ほど挙げておきたいと思います。
宝戒寺
  「萩寺」として有名な宝戒寺ですが、梅もなかなか見事。
十二所果樹園
  数百本の梅が花を咲かせる梅園は、まさに絶景。
常立寺
  鎌倉のお隣の藤沢市になりますが、江ノ電「江ノ島」駅が最寄。枝垂れ梅が見事。

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