『いかにも有能そうな編集者さんへ』

 20年ほど前に初めてワープロを買い(確か三洋のサンワードというワープロでした)、その時に書いた小説です。当時、自宅録音で曲作りをしており、ワープロは詞の作成・管理のために買ったものでした。せっかくだから小説でも書いてみるかと書き始めたら次々と話がふくらんでいき、どうにか「おわり」までこぎつけることが出来ました。以来3台のワープロと4台のMacのフロッピー&ハードディスクの中を生き延びて今に至っています。

 今読み返してみると、若さと勢いがありますね(笑)。それから色々と「時代」を感じます。歌を歌うためにカラオケスナックにいくシーンがありますが、当時はカラオケボックスがまだ無かった頃なんですね。(確か、カラオケボックスって当初は貨物の空きコンテナを利用していたのでしたよね。ぽつぽつと出始めた頃、群馬の実家に帰ると、近所のおじさんやおばさんが結構通っていてびっくりしたものでした)

 読んだ人の感想では、ほとんどの人が最後の部分は「よくわからない」とのことのようで、今回改稿もちらと考えたのですが、一応作者の私にはよくわかっているし、10数年経っても思いは変わらないので、とりあえず手直しはせずそのままのアップです。

『髪』

 いわゆる「本格ミステリ(推理小説)」です。
 子供の頃に読んだ江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズ以来、ずっとミステリファンでした。ありがちなパターンですが、ミステリ好きが高じて自分でもミステリを書いてみたくなり、書き始めたのが「居酒屋かすみ亭シリーズ」という連作。当時埼玉県の川越市に住んでおり、そこで行きつけの居酒屋を舞台にさせていただきました。これは「松本裕司」というペンネームで書いていて、探偵役もその松本裕司(ミステリ作家志望のアルバイター)となっています。作者と同名のミステリ作家が探偵というのはエラリイ・クイーンを意識した設定ですが、「ミステリ作家志望」となっているところに奥ゆかしさが感じられます(笑)。
 書いてみてわかったのは、ミステリという小説はある意味色々な「制約」があり、実に難しいということ。謎の提示・手がかりの配置・論理的な推理による解決……等々ミステリに必要不可欠な要素を盛り込みつつ自分らしい「物語」を展開していかなければならないのですが、結局100%満足のいくミステリはいまだ書けないでいます。

 この作品は東京創元社主催の第一回創元推理短編賞の最終選考に残ったものです。

『銀の短剣』

 『髪』に続いて「居酒屋かすみ亭シリーズ」です。
 この小説のアイデアのきっかけとなったのは何かの用事で水道橋にいった時に見た、ロックバンドのコンサートに集まった「なりきりファン」達の群でした。ちなみにそのロックバンドはあの(笑)河村隆一の「Luna Sea」。もちろんこの小説のように皆が同じ格好だったというわけではありませんが、駅周辺を埋める「なりきりファン」達の光景はとても印象的でした。
 これは東京創元社主催の第三回創元推理短編賞の一次選考を通過した作品を改稿したものです。『髪』と同じく「ミステリ」という制約に苦労した一作です。

『時計』

 かのミステリー純文学作家(←自称)奥泉光氏が自作の『蛇を殺す夜』を評して「書いた本人は傑作だと思っているのに、読者、批評家からは一顧だにされない小説の典型のような作品である」と述べていますが、この『時計』という小説は私にとってそういう作品です。あまりに自分以外に理解されないので少しづつ妥協して改稿していったら、何だかバランスが悪くなってしまったような気がします。ということで、往生際悪く、もう少し改稿を重ねようかとも思っているところです。
 物語の舞台となっているのは、自分が当時アルバイトしていた写真の現像所です。いわゆる「翌日仕上げ」のプリントを行う夜勤作業だったのですが、最近はデジタルカメラがかなり普及して来ましたし、紙焼写真も「ミニラボ」で即日仕上げというのが当たり前になったので、あの現像所もつぶれないで生き残っているのやら…。

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