躊躇いを一瞬も見せない目。
彼の中で何がきっかけとなってこのような行為に及んだのかはロイには分からない。
記憶の中の穏やかな男は表面だけの存在で、今自分を苛む男こそが本当のハボックなのかもしれない。
見抜けなかっただけだ。
目の端から零れ落ちていく涙と共に零れた。
何がなんだか分からず助けて欲しくて親友兼恋人の名を力なく心の中で呼んだ。
今最も顔を合わせたくない相手。だが、今最も助けて欲しい、手を引っ張って欲しい相手。
「ロイ」
己の名に反応してピクッと肩を揺らす。
しかし、願い虚しく名を呼んだのはハボックだ。優しい微笑みと共にヒューズは穏やかに愛しさを込めて自分の名を呼ぶ。
ロイはそれが好きだった。ヒューズから名を呼ばれると安心する。
あえて台詞にしなくても名を呼ばれるだけで愛されている実感が湧くから。
だからたやすく自分の名をヒューズ以外の人間に口にされたくない。
「お前が呼ぶな!!」
「愛しのヒューズ中佐以外には呼ばれたくない?」
「うるさい!!」
怒鳴った己を揶揄るハボックにカッと血が昇った。
図星だった。
息がかかる位置に顔を近づけている男は、ロイの見せる表情、行動全てがおかしく笑えるものだと
言いたげだ。その証拠に、気分が悪くなる笑みを張り付けている。
睨み返したところでその笑みは深まるばかりで、余計不快になるだけだ。
さっきのハボックの見せた表情なんて嘘だ。
愛してるなんて嘘だ。
ヒューズはこんなことしない。ヒューズはこちらが愛されてるって実感できるコト以外しない。
本当に相手のコトが大事だったら、何故傷つける真似しかしないのか。
ハボックのしている事は全てロイが嫌がることばかりで、傷つくことしかしていない。
泣いて叫んで喚いている様を見て面白がっているとしか思えず、ハボックへの殺意が湧いた。
でも、今自分ができることがただ泣いて行為に耐えることだけなのだ。
「助け呼びます?」
「え・・・?」
まるで心の内を読んだかのような台詞に驚き、涙で滲む視界で男を捉えた。
だが、依然と表情を崩さずに、ニヤニヤと此方を見ているのにロイは嫌な予感がした。また何か企んでる。
これ以上何をされるのだろうか分からず恐怖に襲われた。
「中佐に助けて欲しいんでしょ?いいっすよ、今電話かければいいじゃないですか」
「どうやって・・・」
反射的に間抜けなことを言ったと思うが、ハボックが何でこんなことを言い出したのか分からず戸惑うばかりだった。
「オレが電話のトコまで連れて行ってあげますよ」
ハボックは子供をあやすような口調で告げた。
苛んでいたハボックのモノが一気に抜かれ圧迫感が消える。
息をつく暇もなく、両膝の裏に腕を差し入れられ、もう一方の腕で背中を支えられ、ベッドから体が持ち上げられた。
一歩一歩電話がある場所に近づく。
本気なのか?
ハボックはヒューズの番号など知らない筈だ。できるわけがない。
電話のある場所で先程までの扱いと対照的に壊れ物を扱うかのように下ろされ、その頭上でハボックは電話の操作をしている。
「中佐の番号知らないって思ってるでしょ」
また心を読んだかのような台詞にロイは動揺を隠せなかった。
助けてほしいと確かに願ったが、ヒューズに何と言って助けを乞えばいいのか。
部下に犯されたから助けて欲しい、など恥ずかしくて、情けなくて言えない。
「知ってますよ。オレ調べましたから」
考えていたよりも用意周到な男だったようだ。
今日の計画実行のために調べたものだったのかは分からないが、ロイを追い詰めるためのモノを抑えることはしていることは伺えた。
自分が何をしたというのか。
ただ自分はヒューズと恋人同士の関係で、ハボックは自分の部下で、それだけだったのに。
トゥルー
トゥルー
電話の向こうの呼び出し音が聞こえる。本気でかけたのだ。
「早く出ないかな」
「や、止めろっ!!」
「何でですか?だって中佐に助けて欲しいんでしょ?ほらっ、受話器」
「頼むから止めてくれっ!!」
目の前に突き出された受話器からはまだ呼び出し音が鳴っている。
「助けてほしくないから!!いいから切ってくれ!!」
「そうっすか?」
ガタッと受話器を置く音に、ロイは安堵の溜息をついた。
「せっかくかけてあげたのに」
芝居がかった溜息とその恩着せがましい響きに、ロイの体は怒りで震えた。
「ふざけるなっ!!もうお前のこんな身勝手な行為に付き合いたくない!!これをほどいて、どこかに消えろ!!」
「まだそんな口がきけるんですね」
床に座るロイに合わせ、ハボックも身を屈めると、ロイの両足の合間に体を割り込ませた。
押し付けられた壁のひんやりとした感触に気を取られる時間はなく、身体を貫く衝撃に耐える以外何もできなかった。
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