隣には部下である男が気持ち良さそうに眠っている。
一般に大きいと言われるのには十分な体格に、鍛えられた筋肉。
皆が思い描く典型的な軍人体系だ。
ロイは自分の頭の下に置かれている腕に訓練を怠ってないことを確認し、上官として満足した。
ただ強いて言えば、
「この締まりのない顔はどうにかならんのか」
ロイはニヤニヤと口を開けて寝ている顔に眉を寄せた。
とりあえず寝てみた。
ただそれだけで他に意味なんてない。
男と寝るのは初めてではないから、特に戸惑いも恥じらいもなかった。
女性と寝る方が好きだし、回数も圧倒的に男と寝るよりも多いが、男と寝るのも嫌いじゃない。
気持ちいいことは好きだから。
そんな感じだから、ハボックと寝たのに深い意味なんてなかった。
もの欲しそうな顔でちらちらこっちを見ているのに気付いたのは結構以前のこと。
ハボックはロイをジーッと見てきては、浅いため息を漏らす。それの繰り返し。
最初のうちは、ハボックのその行動は不可解なものにしか思わなかったが、でも、
時折混ざる性的な雄の目に、ああ、そういうことか、とようやく意味が分かった。
こいつは自分とヤリたいのか。
「だったら寝てみればいいじゃないか」と思った。
部下からベッドに誘うのは難しいだろうと思い、自分から誘ってやった。
感想は?と聞かれたら、悪くなかったと答えるくらいには善かった。
熱心さは伝わった。
丁寧とは言えず、やや性急過ぎ。
いや、ガツガツしてた。たまにはこんなのもいいかな、なんて呑気に思った。
それだけなのに…。
まさかこんなことになるだなんて思ってなかった。
遊びのつもりが本気だったなんて。
「おはようございます」
寝起きでボーッとしてる目が、徐々に覚醒してくる内に隣にいるのが誰なのか、
はっきりと分かると、ハボックは穏やかに微笑んでまずは朝の挨拶をした。
「おはよう」
ロイは挨拶を返す。
すると、ハボックは嬉しそうに笑った。
「好きですよ」
昨晩、情事の最中何回も言っていたのをロイは思い出した。
(何だ。もっと無骨な男かと思ったが、そうでもないじゃないか)
一夜を共にして、翌朝別れるまでその雰囲気を保つのは大事なことだ。
特に、女性は甘い言葉、雰囲気を大切にする。
例え、ちょっとした戯れに過ぎなくても、それをおざなりにするかしないかで、男としての評価は大きく左右する。
ハボックはそれなりにルールをわきまえていると、ロイは判断した。
「時間だ。起きるぞ」
今日も仕事だ。そろそろ支度をしなければ遅れる。
ベッドから出て、床に散らばった軍服を拾い上げる。少し皺になっていた。
「ちゃんと吊しておけばよかったですね」
「そうだな」
「そこまで気が回らなくて。すいません」
ハボックもベッドから出て、ロイに倣い落ちている自分の軍服を拾う。
「シャワーを浴びてくるから、お前はその辺のモノを適当に食べてていいぞ」
シャワーを浴びる前に、皺を少しでも消そうと気休めにハンガーに軍服をかけた。
そして、ロイはそのままシャワーに直行した。
「朝食作っておきましたから」
シャワーから出てリビングに行くと、コーヒーとトーストの香ばしい薫りが漂っていた。
「気を遣わないでよかったのに」
テーブルにトーストとコーヒー、スクランブルエッグと軽く焼いたベーコンが並んでいた。
冷蔵庫内にある僅かな食材だけで作ったのだ。
「オレもシャワー使っていいですか?」
「ああ。かまわない。タオルは近くに置いてあるから、好きに使え」
「分かりました」
シャワーに向かうハボックと入れ替わるようにロイがリビングに入る。
すれ違いざま、ハボックはロイの頬に軽いキスをした。
「先に食べててください。すぐ出てきます。」
「あ、ああ…分かった」
筋肉質な背中を見送りながら、ロイは何か引っ掛かりを覚えた。
ハボックのしている事だけを見ていれば、よくある事だ。
ロイとて、こういった朝は女性に同じ事(食事は用意しないが)をしている。
ただ、何かが引っかかる。
「目・・・?」
ハボックの自分を見つめる眼差しが、昨日までと違う気がする。
肌を重ねた間柄だからというわけでなく、まるで、恋人のような…。
そこまで考えて、ロイはそれを打ち消した。
そんな馬鹿なことがあるわけない。
だって、ベッドに誘っただけだ。それ以上のことなんてあるわけがないのだ。
とりあえず、腹が減ってるから余計なことを考えるんだと思い、並んでいる皿にフォークをのばした。
こんな風に誰かの手料理を食べるなんて久しぶりだ。
もごもご口を動かしていると、ハボックがやってきた。
「よかった。ちゃんと食べてくれてますね」
「あれば食べる」
「毎朝ちゃんと食べなきゃ駄目ですよ。」
ハボックは肩にタオルをかけて、向かいに座った。
そのまま黙って口だけを動かしていた。視線を感じて、目を上げると、微笑みながらこちらを見つめるハボックがいた。
「何だ?」
「幸せだな〜って」
満面の笑みを向けられたロイは、「もしや」と思い、ハボックとは正反対の気持ちに襲われた。
背筋にじんわりと嫌な汗が滲む。
もっと早く気付くべきだった。
そう。
自分はとんでもない過ちを犯してしまったのだ。
ハボックが己のことを好きなのに、勘違いさせる行動を取ってしまった。
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