「調教って・・・あちーーーーっ!!」
瞬間的に後ろに下がったが、避けきれず前髪が焦げた。
「燃やされる覚悟はできてるんだろう?ハボック少尉」
「そ、それはできてますっ!!」
反射的に姿勢を正し、敬礼をする。
さっきまでの沈黙はどこへやら、現在のロイは凄まじい威圧感を背負っており、
敬礼よりも平伏した方がいいんじゃないか、と思わせるほどだった。
「ならば黙って燃やされろ。何を弁解するかと思って聞いてれば、ベラベラ好き放題いいやがって!!」
「あのー、オレ、何かまずいこと言いました?」
「自分の胸に手を当てて聞いてみろっ!!」
必死に謝罪と弁解をしていたため、言葉を選んでいたつもりだが、
ロイの琴線に触れるようなことを言っただろうか。白い発火布を視界に収めながら、
ハボックはつい先程の自分の話を思い返してみた。
「もしかして、初めてだったのくだりっすか?」
「繰り返すな、馬鹿者!!」
顔を真っ赤にさせて憤っているロイは再び炎を出そうとするが、
急に痛みが走り倒れかかるのを、反射的にハボックはロイを抱きしめた。
「放せーーーっ!!貴様、まさかここでも盛るつもりかーーーっ!!」
「違いますって!!倒れそうだったから抱きとめただけっす!!」
「私が倒れたのも、それもこれも全部お前のせいだーー!!」
「仰るとおりです!!大佐、きっと今すごく体調悪いんですよね?」
「悪くないと思うか!?私が朝からどれだけ苦労したと思っている!!」
「返す言葉もありません、申し訳ありませんでした。」
「ええいっ!!もう言い訳するな!!男に二言はなかろう!!
許してもらえるとは思ってないとさっき言ってただろうが!!」
「わ、分かりましたっ!!煮るなり焼くなり、お気の済むようにしてくださいっ!!」
「2人して何をなさっているのでしょうか?」
冷静な第三者の声がやけに大きく響いたのは気のせいではないだろう。
ぎぎっと顔を扉の方に向けると、ロイの副官、お目付け役の女性、階級は中尉のホークアイが書類を持って立っていた。
その目は冷たく光っている。
「痴情のもつれでしょうか?」
ハボックに抱きしめられているロイの図をじろじろと眺めると、次に抱きしめているハボックに目を移した。
日常ではなかなかお目にかかれない図だ。
「断じて違うぞ、中尉!!」
放せ、とばかりにロイはハボックの顎に拳をぶつけた。
油断したハボックは呻きと共に、ロイを抱きしめていた力を緩める。ロイは抜け出そうとしたが、
こちらも油断して腰から全身に広がる痛みに硬直し、うめき声と共に床に倒れた。
「大佐!!どうなさったんですか!?」
冷静沈着なホークアイは素早く駆け寄り、ロイを起こそうとするが、ロイはその手を取ろうとはしなかった。
「いや・・・心配ないよ、中尉。ちょっと足がもつれて・・・」
「そういう倒れ方ではありませんでした。どこか具合でも悪いのでは?」
「はははっ・・・どこも悪くないさ・・・」
「随分空元気な笑いですね」
「大佐〜すいません。オレのせいです・・・」
「ば、馬鹿っ!!お前は何も言うな!!」
「少尉のせい?」
冷えた視線がハボックに向けられる。
事情を説明しろ、と視線で促していた。
「何でもないんだ、中尉!!ハボックの言うことは気にしないでくれっ!!」
「少尉、大佐に何かしたの?」
「中尉、ハボックは関係ないんだ!座りすぎて腰を痛めてね、
倒れそうになった私をハボックが掴んだだけなんだ!そうだよな、ハボック!!」
「は、はい!その通りでありますっ!!」
ロイに殴られた顎を押さえながら、ハボックは慌てて賛同した。
説明できる事情ではないことくらい分かる。
もし、事態が女上司にばれたら只では済まないかもしれない。
なにしろ上官侮辱罪に問われるようなことをしてしまったのだから。
それに、自分は置いておいて、ロイにとっては女性に知られることなど不名誉もいいところにちがいないからだ。
「・・・そうですか」
釈然としないまま、ホークアイはそれ以上追求せず、
未処理の書類と処理された書類を交換して、部屋を立ち去った。
「貴様〜〜〜〜中尉に勘付かれるような発言はするな!!」
「す、すいませんでした!!」
条件反射的に頭を深々と下げて謝る。今日はロイを前にして謝罪ばかりだとハボックは思った。
当然といえば当然なのだだが。
無理矢理コトに及んでしまったことについて反省はしているものの、自分にも思うところがある。
「全部お前のせいだ」
ロイは発火布をはめた手を再び向けた。ホークアイによって中断された怒りが再燃したようだ。
座り込んだまま睨みつけられ、ハボックは悲しさで居た堪れない気持ちが湧き上がった。
「だって・・・こうでもしないと・・・大佐はオレのモノになってくれないじゃないですか」
だから、情けないと思っていても、本音が零れるのを止めることができなかった。
|