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14時にマース・ヒューズ中佐が東方司令部に到着する。
ロイの直属の部下達は全員そのことを知っていた。
何故なら、ロイの様子を見れば分かるからだ。
待ち遠しくて落ち着かないとか、嬉しそうな表情を浮かべているとか、
そういうあからさまな様子ではない。
しかし、ロイに少しでも近しい者が見れば簡単に一発で見通すことが可能であり、何も聞かずともロイの様子だけで、
『ヒューズ中佐の訪問』が知れ渡るのだった。
「大佐、ばればれだって気付いてねーよな」
「そうですね」
ハボックはブレダとファルマンの会話に参加することなく、ただ黙って机に向っていた。
仕事など上の空で、字面の存在は分かっていてもそれが意味をなさない。
ヒューズの東方司令部訪問が何を意味するのか。
(仕事だと言っているけど、絶対大佐に会いに来てるんだろ)
実際のところ、本当に仕事で訪れているのだが、その仕事時間は短く、大半がロイと会っているように
思えるのだ。
それは、ハボックだけでなく、他のロイ直属の部下達の全員が思うところだった。
「中佐は大佐に会いに来てるみたいですよね」
2人の会話にフュリーが加わる。
「そうじゃねーか、やっぱり。あの人達親友同士だし」
「中佐が来るということは・・・またアレですね」
「・・・アレだな」
「また娘さんの写真無理矢理見せられて、話を延々と聞かされるんですかね」
面々はげっそりした表情をみせた。
「親馬鹿だよな、本当」
「大佐が仕事で中佐のお相手ができないと、我々の元にやって来ますから、
大佐のお仕事次第じゃないでしょうか」
「娘さんは可愛いんですが、あの自慢話をずっと聞くのは結構辛いですよね」
「今回は誰が犠牲になるかな・・・」
「前回は僕でしたから」
3人はちらっとハボックに目をやる。
「オレだって嫌だっつーの」
仕事に集中できなくても、ブレダ達の会話は聞こえていたハボックは、向けられた視線の意味を感知
し、すぐに答えた。
(あーおもしろくねー)
ハボックはヒューズとロイの関係を疑っている。
あれはただの親友の域を超えている。ハボックの勘がそう告げるのだ。
だが、まだ現場を見たわけでも、確証を得たわけでもないので、これはあくまでもハボックの勝手な推測にすぎない。
自分の勝手な想像で、ヒューズをライバル視しているだけだが、
それだけに、恋敵だと思い込んでいるヒューズがやって来て、思いを寄せているロイと会うことを考えると、苛々が増し、さらに
仕事に手がつかない。
そして、そのヒューズを迎えに行くのはいつもハボックの役割だった。
仕事の内とはいえ、迎えに行きたくもない男を迎えに行くことを考えると気が滅入ってくる。
気がつくと昼の時間だった。
昼休憩はローテーションなので、この時間に普通に仕事をする者は多数いる。今日のハボックの昼休憩は
正午からだった。
少し頭を冷やすためにも外で休もうと考え、席を立つ。
ハボックは仕事をしている他の人間に一声かけて、司令部の敷地内の中庭に向った。
空は快晴で、雲ひとつない。
それとは対照的なハボックの心はこの快晴を疎んだ。
中庭の芝生の上に座り、食堂で買ったテイクアウトのハンバーガーとポテトの入った袋を開けると、一気に匂いが広がる。
大して空腹ではないが、何かを入れておかなくてはいけない。
軍人である以上、食べれるときに食べておかねば、何時起こりかねないの事態に対処できない。
美味しいと感じない食事を機械的に胃に放り込むと、食後の一服とばかりに胸ポケットから煙草を一本取り出す。
不味い。
いつも美味しい筈の煙草が不味いのは何が原因なのか。
考えなくても分かることなので、ハボックはそんな自分自身に苦笑する。
まだ、推測の域を出ていないというのに。
何故、こんなにも想像だけで落ち込んだり、苛々しているのか。
自分はいよいよ病気かもしれない。
ハボックは思いっきり白い煙を吸い込んだ。
迎えに行って、そのままどこかに置いていこうか。
それともヒューズが座る後部座席に瞬間接着剤でも塗っておいてやろうか。
できるわけもない子供のような悪戯を思いつき、実行したことを想像したら、少しすっきりした気がして笑った。
「お前、一人で何を笑っているんだ?」
「大佐!?」
そこにはロイが立っていた。
「大佐も今が昼ですか?」
「いや」
「いやって・・・またサボりですか?」
「それも違う。小休止だ。」
何かと理由をつけてさぼるロイは、今日も普段と変わらず仕事を抜け出してきたようだった。
「いいんですか?今日は残業したくないでしょうに」
「するつもりなどない。さっきまでずっと仕事をしていて疲れたのだ。
少しくらい休んだっていいだろう。」
これからヒューズが来るというのに、仕事が終わらなかったらどうするのだろうか。
それはつまり、ヒューズと会う時間が短くなることを意味するというのに。
だが、思えばいつも、ヒューズと会う日のロイは机の上に溜まっている書類をそのままにして、定時きっかりに消えてしまう。
それでもロイの仕事の監視をしているホークアイに捕まらないのは、最低限の仕事はきっちり終わらせているからだろう。
残っている書類はまだ期日に余裕があるものばかりなのにちがいない。
ハボックは落ち込んだ。
結局のところロイはヒューズと楽しむために、仕事をそつなくこなしている事実を確認してしまったからだ。
「何だ、その顔は。落ち込んでいるのか?」
「・・・何でもないですよ」
「部下の悩みなら聞くぞ。お前はよい上司を持ったな」
「自分で言わんでください」
「どうせ、お前のことだ。くだらんことで悩んでいるんだろう」
「オレにとってはくだらなくないんで」
知らず知らず口調がぶっきらぼうになっていく。
「それは悪かったな」
ロイはわざとらしく肩をすくめる。
小憎らしいポーズでさえも、ロイなら妙にはまっているのは自分の欲目だけではないはずだ、とハボックは思う。
「ハボック少尉。」
「はい?」
急に改まって名前を呼ばれたので、ハボックは何事かと思い、姿勢を正す。
ロイ特有の笑みが浮かんでいて、何を言われるのかと待っていると、
「いくら犬だからといって、客に悪戯はするなよ」
「っ・・・・!!しませんよ!!」
ばれてるのか。
ハボックはさっき思いついた悪戯が読まれていたことに焦った。
「どうだかな」
ロイはそのまま立ち去っていった。
果たして、ロイは自分の気持ちに気付いているのか、いないのか。
ロイは今のように、微妙な素振りをたまに見せるので、全く気付いていないわけではないと思う。
だが、どうもロイの様子から察するに、どこか軽くあしらわれているような気がしてならない。
つまり本気に捕らえられていないということで、それはまるで、犬がご主人様を慕うかのような
意味合いでしかないような気がするのだ。
そこまで考えたところで、ハボックは再び落ち込んだ。
上官から命令を下されたら従わなくてはいけないのが軍人だ。
駅で煙草片手に待っていると、時刻通りにヒューズは姿を現した。
「お、ハボック少尉!久しぶりだな!!」
「まだ1ヶ月しか経ってないっす」
「1ヵ月も経てば十分久しぶりだろうが」
できれば1ヶ月と云わず、ずっと会いたくない。
このままどこか別の場所に連れて行ってしまおうか。
一度考えた悪戯の衝動が再び湧く。
「なーに暗い顔してんだよ!辛気くせーぞ、少尉」
「はぁ。こういう顔なんで悪かったっすね」
「そんな顔してっと幸せが逃げるぞ」
お前が逃がしてるんだよ。
ハボックは喉元まで出掛かった一言をぐっとこらえた。
ハボックは後部座席をバックミラーで見る。
ヒューズの口から出るのは相変わらず、娘と妻の話だ。
運転中だから写真を見せられないのが残念でならないと言われ、
ハボックは安心したが。
(奥さんも娘さんもいるんだよな、この人)
取り越し苦労なのかもしれない。
こうしてロイとヒューズの関係を疑うのは行き過ぎた猜疑心のせいで、
本当は2人の間には親友という絆しかないのかもしれない。
今更ながら、そう思うのは、妻と娘自慢を一気に捲くし立てる様子から、
ロイとも関係を持っているとは想像しにくい。
そうだったら何も言うことはないのに。
ハボックはヒューズの妻娘自慢を背景音楽にしながら、そう願った。
14時。
ヒューズが到着した。
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