(やべーな・・・)

朝起きて、布団から出るよりも、まずしたことは、布団を軽く捲り、股間で存在を主張している己を 確認することだった。
しばらく経ったらおさまるだろうが、出勤時間に余裕を持って起きる習慣はない。
これだったらヌイた方が早いだろうと判断すると、ベッド近くの棚に置いてあるティッシュに手を伸ばす。
生理的な勃起とはいえ、今日見た夢は凄まじかった。 凄まじかったの一言に尽きた。
まだ身体の関係がないロイとヤッている真っ最中の夢で。具体的にはロイが騎上位で、ハボックの上に跨り、 気持ちよさそうに喘ぎながら腰を上下に動かしているといった内容だった。
最高の夢から目が覚めた原因は、セットしてある目覚まし時計のアラームで、 全部夢だったことが分かったものの、下半身で元気になっている自身に感覚に気付いた。
夢精していなかったのが不思議なくらいだ。

「・・・オレ、溜まってんのかな」

己のツボは心得ているので、ソコを刺激すればすぐ始末できる。
夢の続きでも妄想しながら、自身を刺激したかったのだが、時間がない。
ティッシュで綺麗に拭き取り、それをゴミ箱に投げ捨てると、即顔を洗いに洗面所へ向った。

ここのところ、よくロイの夢を見る。

司令室で書類にサインをしていたり、サボり中、中尉に睨まれていたり、と日常よく見るロイだった。
だが、それも最初の内で、最近はキスの最中に目を瞑っている顔であったり、自分の腕に収まって甘えていたり、 実際に見たことのないロイの妄想が夢の中で具現化した。
その中で、どんどん自分との絡みがエスカレートして、コトの最中にまで発展するようになり、 今日に至っては積極的なロイとの情事だった。
そのため、ここ数日はずっと完全に主張している自身を処理する朝が続き、ロイとの夢を見れて嬉しいのやら、 虚しいのやら複雑な朝を迎えているのだ。

「こんなこと知れたら、『発情してる犬か!!』って燃やされるよな〜」

顔を洗い、歯を磨き、髭も剃り終わった。 簡単に朝飯のパンを頬張り、牛乳で流し込む。
朝飯を食べないと、仕事に身が入らないハボックは、余程のことがない限り朝飯を抜くことはしない。
ロイの夢を見ることが多い最近は、支度の間にいい夢を見た、と思い返してみたりする。
今日も頭を占めるのは、今日の夢の内容だ。

「・・・これ以上はヤバイかも・・」

軍服に着替えて、後は出勤するだけなのに、夢の内容を思い出すと、再び股間が刺激される。
勃ってしまった己に目をやり、ハボックは自己嫌悪の溜息をついた。





「おはようございます、中尉」
「おはよう、ハボック少尉」

廊下でホークアイに遭遇し、挨拶を交わす。

「少尉、どうしたの?朝から少し疲れているように見えるけど」
「いえ・・・気のせいっすよ」

ハボックは朝飯の最中に元気になってしまった己を静めるために、再び処理する羽目になった。
朝から短時間の間に2回ヌき、そのため出勤時間に遅刻しそうになったため、全速力で司令部まで来たのだ。
肉体的のみならず、その原因を作った夢の内容が頭を離れないことが大きかった。
仕事場で思い出して、また勃起したら大変だ。さらに問題なのはロイを見て平然としていられるか分からない。
数日間、運良くロイは朝からの会議やら期日直前の書類で執務室に篭もっていて、早目に仕事が終わると女性とのデートで、 なかなかロイと会うチャンスに恵まれなかった。
寂しく物悲しいことだったが、ある意味よかった。
もし目の前で醜態を晒したら、どんな目で見られるか分からない。
笑われるだけで済めばいいが、侮蔑の目を向けられ、「二度と私の半径3m以内に近づくな」などと完全拒絶されたら、 立ち直れなくなる。 それだけは嫌だった。
悶々とし、司令部に着いた頃には、肉体的精神的に疲労が積もっていた。

「おはようございます、大佐」
「おはよう、中尉」

直面している問題は回避できずに、さっそくやって来た。 今日は機嫌がいいのか、朝はいつも不機嫌そうにしているのに、にこやかにしている。

「おはようございます、大佐」
「おはよう、少尉」

自信に満ちた話し方、所作は、常に前を行くロイの内面がまさに滲み出ていると言うべきもので、いつもと変わらない。
数日間会っていなかっただけなのに、ずっと会っていなかったようにさえ感じる。
まじまじとロイを見つめていると、夢の中のあられもない痴態がパッと脳裏を過ぎった。 そして、夢の人物が目の前にいる。

(ヤバイっ!!)

情欲に濡れた目で、腰を振っていた図が本人に重なる。 このままでは、トイレに駆け込む事態になりかねない。
何とかして、頭を占めている妄想を散らそうと、ロイを見ながら、顔を赤くしたり青くしたりとせわしなく 色を変えていると、ロイは眉間に皺を寄せた。

「私の顔に何か付いてるか?」
「いえ。違います」

慌てて否定すると、ロイはもう此方を見ずに、そのまま執務室に向っていった。

「私達も行きましょう、少尉」
「Yes, Mam」

軍施設で自慰をする羽目に陥られなくて胸を撫で下ろしたが、つれないロイの背中に名残惜しさを感じる。
だが、いつまでも司令部の廊下に突っ立っていられない。
仕事を始めるため、ハボックはホークアイの後ろに続いた。




「なあ。今晩飲みに行かねー?」
「ああ、いいけど」

隣のブレダが仕事の合間に声をかける。 ロイは今日もデートで送る必要はないという。 ハボックは特に断る理由もなかったので、何も考えずに相槌を打った。

「適当に女でも引っ掛けねーか?お前知り合いいないの?」
「そんな知り合いいねーよ」
「お前、モテないわけじゃねーだろ?誰か紹介しろよ」
「あのな〜オレを頼るなよ。」
「お前だって彼女日照りだろ?この気持ちは同士のお前なら分かるはずだ」
「勝手に同士にすんなって。別にオレは困ってね―から、お前の気持ちは分からん」
「何だ〜その言い分は?困ってないって・・・さてはお前、オレに隠れて女作ってんだろ!!」
「だから、勝手に決め付けんなって!!昼真っから酔っ払ってんのか!?」

グリグリ肘を押し付けて詰問してくるブレダに、ハボックはやや引き気味だ。

「確かに、ハボック少尉が彼女がいないのに落ち着いてるのは妙ですね」

そう広くない部屋で、共に仕事をするファルマンにハボックとブレダの会話が聞こえないわけがなく、 会話に入ってきた。
ちなみに、ブレダはファルマンを既に今晩の飲みに誘っていたが、夜勤のため断られた。 フュリーは今日は休みだ。

「ファルマン准尉・・・オレを何だと思ってるんだ?常に飢えてるみたいじゃねーか・・・」
「あまり違わないだろ?まあ、いいってこった。夜まで、その話はおあずけだ。 根掘り葉掘り聞いてやるよ」
「勘弁してくれよ・・・」

今更、飲みに行かないと言った所で、無理矢理連行されるのは目に見えたので、断るのを止めた。





「お疲れさん」
「お疲れ」

波々とビールが注がれたグラスをお互いに軽くぶつけ、短くて軽い音を鳴らす。 一気に煽り、喉を潤すと、疲れがどっと開放される。
ロイはデートの約束の時間に遅れる、と言い早々に帰ってしまった。 ホークアイは有能なので、ロイの決済待ちや、膨大な量の書類がどっと押し寄せてきたり、テロ厳戒態勢でない限り、 残業など滅多にしないので帰宅した。
ハボックとブレダは持分の仕事が終わらずに残業していて、司令部を出たのは定時の3時間後だった。 満足そうに、ブレダは半分まで減ったグラスを置くと、さっそく本題に入った。

「今度はどんな女なんだよ?」
「だから違うって」
「年下か?年上か?お前のことだから巨乳なんだろ?」
「少しはオレの話を聞けよ」
「こうやって聞いてやってるだろ?ファルマンも言ってたじゃねーか。 可愛い子を見つけては鼻の下伸ばしてたお前が、今はその素振りがない。 これはもう決定だろ?あ、それとも枯れたか?」
「枯れてねーよ!!」

冗談だと笑うブレダに、ハボックは何とかして上手く話を逸らせないかと考える。

「片思いなのか?」
「?」

ブレダが急に声のトーンを落とした。
ニヤニヤ笑っていたブレダの様子がガラリと一変し、真剣な面持ちで、此方を見ている。

「お前、ここ最近溜息ばかりついてるよな」
「・・・そうだったか?」

言われてみれば、そうだったかもしれない。
特に意識していなかったが、最近見る夢のせいで、仕事中も悶々していたのは事実だ。

「お前らしくねーよ。振られても淡白で、すぐ次の女を追っ掛けるお前はどこに行った?」
「おい・・」
「いい歳した男が朝から辛気臭い溜息ついて、感じ悪いぞ」
「それは悪かったな・・・オレそんなに溜息ついてたのか?」
「何だ、自覚なしかよ。しっかり、ついてたぞ。中尉も気になってはいたみたいだが、 一応仕事に支障はないみたいなんで咎めなかったみたいだ。」
「そっか。」
「オレもよ、恋愛相談なんて柄じゃねーから、相手の背中を押すなんて真似は性に合わねーんだわ。 本心を言えば、お前の恋愛成就なんて祈りたくないんだけど」
「お前、友達だよな?」
「バーカ。男の友情なんて所詮こんなもんだろーが。だけどよ、お前がいつになく悩んでるっぽかったから、 ついな」

からかう気にならなかったのだ、と言う。
内心、ハボックは複雑だった。 とても、自分達の上官の夢を見て悶々してましたとは言えない。

「オレの見解に何の反論もしてこないところを見ると、やっぱりそっちの話なんだな」
「・・・お前、誘導尋問してたのか?」
「気付けよ。」

ブレダのあっさりとした返しに、乗ってしまった自分に悔やむ。

「困ってるのか?」
「・・・それなりに」
「はっきりしねーヤツ!お前、それでもナニついてんのか?」
「うるせーなっ!オレだって悩むことがあるんだよ!!」

この話に終止符を打とうと、話すつもりがない意思表示をして、顔を横に向けた。
中央寄りの席に座っていたが、そんなに広くない店内では、ここからでも窓から外が見える。ふわふわした雪がゆっくりと舞っていた。
店に入る前、空は白い雲で覆われていて、雪でも降りそうだと話していたばかりだった。

「!?」
「あ?ハボ、どうした?」
「悪い、ブレダ。今日のところはこれで帰るわ。急用ができた」
「え、待て!お、おい」

ブレダが止めるのを振り切り、ハボックはそのまま店を駆け足で出て行った。

「お前・・代金置いていけよ・・・」

追おうにも、ハボックの足は速く、今更追ったところで追いつかないのは分かっていた。
取り残されたブレダは注文した酒と料理を見て、一言漏らした。




「大佐!!」

道路に飛び出て、前を行くロイの背中に駆け寄りながら呼びかけると、ロイは 無表情で振り返った。

「うるさい、ここでは目立つから階級で叫ぶな。」
「デートじゃなかったんすか?」
「ああ。さっき、送ってきたところだ。」
「随分早かったんすね。」

言外に、寝なかったのか、と問う。
女関係が激しいロイが、まさか食事だけで済ませるとはハボックには信じられなかった。
当然、食事の後はベッドまでエスコートしているに違いないとハボックだけでなく、 軍部内でロイを知る誰もがそう思っていたことを代弁したにすぎない。

「食事をご一緒しただけだ。私は即物的ではないんでね」

お前らはそれしか頭にないのか。
あきれたように、ロイは肩をすくめた。

「それにしても、雪の中一人で帰るなんて無防備すぎです!もし襲われたらどうするんすか!?」
「まだ降り始めだ。発火布は使える」
「そうは言っても、この雪すぐ積もりますよ。ほら」

ハボックはロイの肩に薄ら積もった雪を払った。
ロイの髪に付いている雪も払うと、髪が濡れていて指に絡みついた。

「風邪引きますよ。家まで送ります」
「だが、お前、飲んでたんじゃないのか?」

ハボックの体から軽くアルコールの臭いがする。 付近の酒場で飲んでいたであろうことは簡単に予想がついた。

「もう帰るところだったんでいいんです。さあ、こうしてる間に、また濡れるじゃないっすか。 早く帰りましょう」

背中に手をやり促すと、ロイは特に文句も言わず、ハボックの言うままに帰路を辿った。




(up.05.02.25)

back