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 『綺陽堂』さま
「松喰鶴」3

彼をその背で庇う者、彼のその背を護る者
 きっかけは、掲示板で皆さんとお喋りしていた時のこと。蕾と一番「仲良し」は天風軍四天王のうち誰か、という話題になった時のことです。私はてっきり北風王野重だと思っていましたので、南風王九赤句説の方が多そうなのに、眼からウロコが落ちたのです。野重と蕾の関係は「仲良し」というより、野重が蕾に惚れたこんだ主従関係に近いのでは、というご指摘は確かにその通り。やっぱり「仲良し」、というニュアンスではないのですよね。南風王と蕾の関係も興味深いのですが、それはまた別の機会につっつくとして(ごめんね、花将さま。笑)、私にはなんで野重さまがそんなに気になるのだろう、と我知らず自分の思いこみを問い直してみました。
 
 そうすると、浮かび上がってくるあるコマが。そうか、このコマのおかげで私は北風王と蕾の仲(やましい意味ではありません。読むのは大好きですが、ごにょごにょ。笑)がそんなに気になっていたんだ、と再確認したのは、第22話「異寄坐」(コミックス8巻)の98頁、真ん中のコマ。姉、妃夜の方の必殺の剣から蕾を庇って、その間に割って入った北風王の姿、そのたくましい背中。そしてそれに庇われた蕾がなんて華奢で可憐に見えることか。ここに実は深層心理でぐっさり、ざっくり、北風王ファンになっていた秘密があったらしいです。だからこそ北風王が蕾と一番仲良しに違いない、そうあってほしい、と思いこんでいたのではないでしょうか(って自問自答ですが)。

 実は、身を挺して蕾を庇ってくれるもうお一方が、羽矢房だったりします。第55話「風都伝説」前編(コミックス18巻)、48頁。兄、風の雄士呂の放った気に打たれて背中をえぐられながら、蕾を身体を張って庇い、その後も抱きかかえて吐血しながら蕾を必死に攻撃から庇っている。ここのところ、羽矢房ファンの私はぐっとくるところなんですが、このシーンでも蕾がほんとに小さく、決して弱くはなくても、必死に見えるんですね。見るからに痛そうだし(涙)。

 そうするとどうも私は、実は最強の可憐な御大花将殿が、精悍な背中に庇われていると、ぐぐぐっっとなんかクルというか萌えるらしい・・・(笑)。それで、蕾のことを我が身に代えても守ってくれる、そんなアニキな方々のファンになるらしいのですね。北風王野重も風の賊と名乗っている羽矢房も、どちらも冷酷な姉、非道の兄に負い目を持って蕾を庇っているのですが、そもそも蕾にとても惹かれてしまっている(北風王が本格的に蕾ファンになるのはこれからですが、まあ一目惚れしたと思いたい。笑)からこそ、ここまで身を挺して庇うのではないか、と確認してます。それでそういうシーンに無意識にごっつ萌えてるからこそ、蕾の一番仲良し=近しい、は野重なのではないか、と思ってしまったらしいのですね。
 「風都」では、蕾の封印が解けたときに、自分のまとっていた布を脱いで持ってきて、身体を隠してくれるしね♪ (第55話「風都伝説」コミックス18巻p.104) ここもポイント高かったかもしれません(笑)。

 身を挺して蕾を庇うのなら、何よりもまず名前の挙がるあの方はどうでしょうか(笑)。実は最初の頃は、東雲は、自分の背中に蕾を庇ったりはしていません。精悍な北風王、たくましい羽矢房の兄貴分たちと違って、東雲自身は攻撃的でない華奢な皇子さま。戦闘能力も余り無いから、身体を張って、というのは直接的にはなりえなかったのでしょう。
 むしろ蕾と共闘態勢の時、一歩控えて背後から蕾の背中を護っているのが印象的なんです。第20話「妖孤島」(コミックス7巻)の133頁、「花炎」「森玄霊玉」、と声を合わせてそれぞれの力を呼びながら、声を合わせて「祓濯」するシーン。ここでも東雲は微妙に蕾の背後にいる位置関係。
 第43話「口迎春」(コミックス14巻)では、68頁、地味なコマですが、蕾が蕗の薹の花を持ち東雲がその背後から神樹の杖を構えて二人で春を呼んでおります。これには相当にぐさりときたです。一緒に春を呼んでるんですよっ。二人の共同作業がっ。なんか違うことで共同作業しても(なんのことでしょう。笑)春が呼べるんじゃないか、という私の腐った妄想はともかく、ここでも東雲は蕾の背後に立っている。そして、その立ち位置の自然さは、いかにも、これがいつもの蕾と東雲の関係、という気を起こさせるほどです。身分から言えば東雲の方が上だから、主従関係ではありえない。二人の性格からそうと決まってしまったことでしょうが、東雲自身は、蕾の背中を護る役割を誰にも譲らないだろうなぁとも思います。そう妄想しています(笑)。
 
 背中を預けて貰うことに甘んじていた東雲が、蕾と向かい合ってその背で、その身体全体で、蕾を庇い守ったとき。それは「風都伝説」(コミックス18巻)の88頁。「ぎゅっ」とその腕に抱きしめたすっぽり感は、待ち受けた腐女子の、きたきた〜という喝采を受けたものでしたが、これが一番直接的でしょうね。あの時、東雲がああしていなかったら、蕾の封印はあっという間に解かれて、巨大な力が蕾を蝕んだことでしょう。なんの説明もないけれど、東雲はときには「私には何もできないのか」という無力感に苛まれつつ、いつもこうして蕾を護り、ことここにいたってとっても素直に直接的に護っているように思えます。
 実はこの部分の解釈、最初は私は明確にそうとは思っていなかったのですね。ある方の書かれたものを読みまして、「こんな風に、そうと傍からは分からないけれど、東雲はいつも蕾を護っている」と分析してあるのに、眼からウロコがばりばりとはがれ落ちまして。蕾だけが分かっていればいいのよね。このとき最初は蕾も、「東雲?」って怪訝そうなんだけれど、きっとすぐに東雲が風の力から封印を守る盾になっていることに、気づいたんだと思います。後でも神樹に願った東雲の祈りの力が杖に宿るのを、蕾はちゃんと分かっているし。

 東雲の方は、この後の危機の連続に、タガが外れてしまいます。もしかして、正面切って向かいあってこなかったかもしれない自分の気持ちを、隠す余裕もないというか。以下、蕾を護るための神樹への「私の生命力のすべてを注ぎ込んででも・・・」という祈祷(第55話「風都伝説」前編コミックス18巻178頁)から、第58話「呪久歌」の氷棘を引き受けて生命力の半分を失ってしまったところ(コミックス19巻147頁)まで、自分の命と引き替えにでも蕾を護りたいと、なりふり構ってはいられなくなります。それは背中を預ける、預けられるという同志愛的な(同性愛じゃなくて。笑)感情から、さらに数歩踏み込んでいて、そうまで追い詰められた東雲に胸きゅんでもあり、そこまでさせる蕾に、さすがは蕾だからと溜息でもあり。

 私は、BUDの中に流れる時間の中で、確実に二人の仲は変わってきている説を持っていますので(大げさな。笑)、東雲が蕾の背中を見てるのか向かい合ってるのか、それはとっても気になるんです(笑)。でも19巻あたりの直接的な庇い方は、ものすごく胸を打つのですが、実は腐女子的感興に限っては、なぜか萌え萌え度が、間接的背中護りシーンより低いんです。なんで〜? と自問するけど、むしろ大切そうに背中を護っているもどかしさが、一層の萌えなんですね。決して視線の交わらない切ない護り方。だからこそ、東雲に似合ったのかもしれません。背中、漢はやっぱり背中の魅力かも。風の方々のがっちりたくましい背中を見て、ぽ〜となる私です。でも東雲はしなやかなその背中で、直接的に蕾を庇うのでなくてもいいわ。思いを秘めた東雲の、蕾が決して見ることのない背後からの眼差しが、祈りのように蕾のすべてを守ることでしょう。

 ・・・でもですね、実は戦闘には向かないその東雲が、腕を広げてその背に庇った例外的な存在があります。皆様、すぐと思い出されていらっしゃいますね。そう、第58話「呪久歌」(コミックス19巻)、154頁。蕾の露冠の一撃を、両手を広げて止めているのです、なんと余音を庇うために。
 しかしその姿を見ていても、どうしても「余音を大切に思っているので止めた」というよりも、「蕾を大切に想っているので止めた」感じがしますよね(強引。笑)? そう、あれはどう見ても、蕾に余音を討たせたくなくて、止めたんです! 庇う姿勢も背中というより必死で両手を広げて立ちはだかっているし。しかもその後160頁以降は、どう読んでも、蕾と東雲の二人だけの世界(笑)。余音が怒るのも無理ありません。
 余音はもともと、聖仙ごときに「哀れまれること」に耐えられない半神ですが、あの緊迫した場面で、眼前で蕾と東雲に、自分そっちのけで会話されると、さらにねぇ。余音のことはほっといて第九皇子の自己犠牲について、話題にしたりして。余音の怒りに、「私のことは眼中にないくせに〜」という気持ちが混じっているのではないかと、不遜な腐女子はここまで考えます(笑)。ああ、余音に恨まれそう・・・。

 本当の事を言うと、私自身は「オトコに守られたい」と思う気持ちが薄いタイプで、守ってくれる、護ってくれる愛の形だけでは、ちっとも胸きゅんになりません。それでも独断専行で風のように飛んでいってしまう蕾を、絶対にフォローしてくれる存在というのは、とても嬉しい。しかも、護っていることを押しつけない、恩に着せない、保護と引き替えの従属を要求しない、パターナリズム(家父長制的温情主義支配?)にも無縁。・・・でもこれって、都合がよすぎかなぁ? したい放題して、後始末は誰かがやってくれる、という無責任は蕾らしくないし。ある点でとても義理堅い蕾は、あんまり一方的な庇われ方は「また借りができたな」という訳で、重荷かもしれないし。
 ・・・というように考えてきて、もしかして蕾は、東雲「だけ」には借りを作っても仕方ないな・・・と思っているのかもしれない、と感じます。もっと蕾的にいうと、「ちっ仕方ない。借りをつくらせてやるか」というか(笑)。借りをかえすだの義理が立たないだの、もうお前さんにはそんな水くさいことはいわないよ、という昔の遊女の「世話せられても恩にきぬ」とかいう世界でしょうか(笑)。ほんの少し、他の者より東雲に甘えることを自分に許してしまうのではないか、と思うのですが。・・・どり〜むでしょうね(笑)。

 でも実際は最強の蕾さまに聞いてみたい。「護られるのってどんな気持ち?」 
もちろん、蕾なら言うでしょう、「逆だ。守るのは、オレの仕事だ」って。「オレはすべてを守りたいんだから」と。でも蕾も当然自覚しているのですよね。「何も守れはしていない・・・・・・」、「オレ一人では何も・・・・・・」と(第58話「呪久歌」コミックス19巻177頁)、調伏のための力を放とうと露冠を構えて自問している時に。蕾は、何もかも守りたいと思っている自分を支えてくれる、沢山の力があることを知っているのですね。東雲の力もその一つで、もちろん最たるものなのですが。その注がれる気持ちが蕾の重荷にならず、借りにならず、単なる感謝にとどまらず、だんだんほだされてくるといいのになぁ〜(熱望)。自分の背中を護ってくれるその眼差しの持ち主に、ほだされたりしてくれないのかなぁ〜(切望)。しかも、特別にただこの一人にだけ、貸し借りなんか踏み倒して甘えてくれたらいいのになぁ〜(願望)。
 蕾が背中を護ってくれる者を振り返るとき。その時が新しい関係の始まりのような気がするのですが、いつかそんな日が来てくれるのでしょうか。