「悪女クレオパトラ」公演中の10月14日、電話で加納さんにお話を伺いました。
公演真っ最中のお忙しいところにも関わらず「悪女クレオパトラ」についていろいろお話し下さった加納さんに心より感謝しております。どうもありがとうございました。
(文中「 」でくくった太字の部分は、加納さんがおっしゃった内容の大意、グレーの字の部分は、私=大原の書いている部分です。文責は大原にあります)
一番最初に書いた台本とは大分違うものになったということですが
「最初に書いた台本は起承転結があったんですけど、それじゃ面白くないってことで今やってる形に変わっていきました。クレオパトラ(加納幸和・植本潤)とアントニウス(桂憲一)、アポロドロス(水下きよし)カルミオン(八代進一)とオクタヴィアヌス(大井靖彦)の5人の関係が全然変わっちゃったんです。
最初は史実どおりの結末だったんですけど、それではつまんないし、『そんなことだったら他(の劇団)でもやるな』ということで、まずそこをいじりたいな、と。
僕が気になったのは、まずオクタヴィアヌスという存在がよくわからない。どういうことでアントニウスと関わっていったか、そして、クレオパトラは戦いに負けた後オクタヴィアヌスに一緒にやろうと持ちかけてるんだけど、オクタヴィアヌスは拒絶してるんですね。クレオパトラ側にしたらカエサル、アントニウス、オクタヴィアヌスと順番にいけば都合がよかったんだけど、それを拒絶した。それがどうしてか、ということ。
クレオパトラとアントニウスが行き違いがあって自害をしたというのも、本によって記述が違う場合があってすごく曖昧なんです。クレオパトラがアントニウスの後を追って自殺したのは愛していたから、というのもどうもそれも眉唾だし僕にはピンと来なかったんです。
クレオパトラの今残ってる話っていうのは、戦勝国のローマが文句をつけて作ったものと、逆に後世のエジプトが『実はあれはこうだった』と言う話とが妙に膨れ上がって複雑なものになってしまってる。だったら伝わってる話は嘘かもしれないし、嘘で固めてるから矛盾が生じているのかもしれない。
それならこういった人間関係が僕らなりにわかるように、何かショッキングで、でも納得がいくようにしたいなと思ったんです。
その思いつきは宮尾登美子さんの本なんです。宮尾さんの本では(姉弟の)クレオパトラとプトレマイオス13世がSEXしてない、ということになっている。現代では近親相姦は忌み嫌われる畜生道だからこそそういう設定にしてるんだろうけど、知らない人が読めば『SEXしてない』ということが『史実』になっちゃうんですよ。そのときの人々の思いでもって史実が変わるんだなっていうことに気づいたときに、あのクレオパトラの物語は作られたものかもしれない、と思って、じゃあ、カルミオンとイラス(=アポロドロス)という侍女が作ったことにしても面白いかなと。それでジャン・ジュネの『女中たち』のような話もちょっと入れてやってみました。」
最後は「奥女中たち」の終わり方みたいな感じですね。
「そうですね。だから、最後のカルミオンは宮尾登美子さんなんですよ(笑)。稽古場では冗談で『ミヤオトミオンにしようか』とか言ってたんですけどね(笑)。最初の台本では『カルミオンが最後に原稿用紙を取り出して執筆する』という終わり方だったんです」
根底に流れるものが「あやつり仁侠館」に似てるかな、と思ったんですけど
「それぞれがそれぞれを殺し合って、という感じのところではちょっと似てるかもしれないですね。」
クレオパトラの宦官・アポロドロスという人は実在の人物なんですか?
「はい。でもいろいろな説があって、アントニウスの家来という本もあったり、年齢も若者というのもおじいちゃんというのもありますね。何しろ2100年前のことですから、回りの人間がよってたかって話をくっつけちゃったというところがあるみたいです」
今回は「エロス」というものが前面に出てくるような作りだったんですが
「当時の人にとってはSEXがお風呂に入るくらいのものだったと思うんですよ。貞節を保つということより、動物的に恋愛が行われていた。同性愛も認められてましたしね。だから、今考える価値観とは全然違うんです。キリスト教以前ですから。
今回SEXシーンが多くて『吐きそう』(笑)というアンケートもあったんですけど、今の感覚ではそうですけど当時としては当たり前のことだったんです。カエサルも実は品行が乱れてましたしね。今のイメージではアントニウスが淫乱でカエサルは質実剛健ということになってますけど、当時は『カエサルが来たら自分の女房隠せ』って言われてたり、逆に負けた国を守るために王妃をカエサルに差し出したりしてたんですよ。
だから今回は(エロスについて)逃げないでちゃんとやろうよ、ということでああいう描き方をしてみました。それもいろんな形で、様式的に演じたりとかもしてます。」
クレオパトラを突き動かすものの一つにはエロスがあったような…
「エジプトというのは資源は豊富だったけれども兵力が劣ってたんです。だから攻めて来る国に対して女を武器にして相手をたらしこんでいた、というところもありました。後世から見ると『あれは国を守るために仕方なくてやってたんだ』『辛いと思いながらも、女の武器で世の中を渡って行かなければならなかった、ああ、哀れな女王よ』というふうになってますけど、それは違うんじゃないかなーと。そんなセンチメンタルなものではないんじゃないかと思うんです。男達が人を殺して首を揃えたことで「勝った」というカタルシスを得るのと同じくらい、SEXで男を征服する喜びがクレオパトラにはあったんじゃないかと思いますね。」
クレオパトラはそういうエロス的なものを国を征服することの中に感じてたような気がするんですが
「そうだと思いますね。」
そのクレオパトラを加納さんと植本さんの二人で演じてらっしゃいますが。
「言っちゃえば、僕の書いたクレオパトラが僕一人だけだと演りきれないと思ったんですよ(笑)。一人でやるより二人でやった方がクレオパトラのいろんな面が出る。逆に一人で演じるにはいろんな面がありすぎて、『芸尽くし』みたいな感じになるのでどうにかならないかなと。それで二人で演じることにしたんです。
だから、(二人で演じているのも)クレオパトラの善と悪ということでなく、もっと複雑な感じ。考え方が違うんじゃなく見え方が違うということで、同じシチュエーションでも対応の仕方が違う、というふうに演じてます。クレオパトラはいろんな面を男に対して見せていただろうと。悪女のような恋をしたり女の可愛らしさを出したり、媚薬も使ったりしただろうから。わざと一つの流れの中で同じ行動をしてもそれぞれが泣いたり笑ったり怒ったりするするように組み立ててるんです。」
対照的といえば、加納さんと植本さんのお化粧の色も対照的ですものね。
「そうですね。
(二人一役としては)今までにないやり方で、お客さんはとまどってるみたいですが(笑)。
はじめは他の役も二人で演じようか、という話も出たんですが、そうすると複雑になりすぎちゃうので、それはやめました。」
実際に二人でやってらしてどうですか
「いや、僕が最初にやりにくかった、個人的に演りきれないところは植本がやってますから(笑)僕は楽なんですけどね。でも植本は僕に合わせないといけないから大変かもしれない。」
アントニウスという人物もとても不思議なんですけど。
「史実でも元々とても刹那的な人物だったらしいんですよ。クレオパトラがいるのに、すぐオクタヴィアを好きになったり、またすぐオクタヴィアを捨てたり。性格が子供だったんでしょうね。でも非常にいい男だったそうです。」
今回のアートディレクター・辻村ジュサブローさんと作品の関わり方は
「ホンを書き出す前のゼロの段階からジュサブローさんにご相談したんです。まず『クレオパトラを取り上げます』というと『クレオパトラは大きい人物だから、そのままやるとその大きさに負けちゃうから和物にしなさい』と。『それで和物で百鬼夜行なのよ』と聞いたんで『百鬼夜行…? じゃあミイラにしちゃおう』いうのが生まれて来て。それから『ボロボロの着物を着て』というふうにどんどん膨らんでいったんです。
お衣装、小道具、大道具のプランチェックから色味まで考えて戴いて。大道具も『シンプルで柱が8本で』って言って、普通使わない色味で、初めは紫って言われたんですけど、ちょっとそれはということで金にしました。手間は大分かかったんですけど、それぞれのプランナーが相当刺激を受けたみたいですね。」
義太夫とSMAPやPUFFYのような雰囲気の今風の音楽と両方使ってますが
「義太夫も今まで『怪誕身毒丸』などで使って来たんですけれども、もっと僕たちの好きな形で使ってみたいな、というのがもともとあって、それが義太夫三味線の田中悠美子さんと今年初めて出会って実現したんです。
クレオパトラを前衛劇にしたい、というのは初めからあったんですけど、前衛劇だからこそ、耳に馴染みのある曲を使いたいな、と思ってたんです。でも僕(今の音楽を)知らないんで(笑)教えて貰って、耳に心地よいSMAPとかシノラーみたいな感じの曲にしました。」
今回の公演のお客さんの反応はいかがでしょうか
「『よくわかんない』というのもありますし、『今まで加納が書いたものの中で一番いい』というのもありますしね、いろいろですね。実際出来るまでは僕自身もこんなになると思わなかったんで(笑)。」
これからの花組としては
「僕としては『ごてごてしたものはやり尽くした』という感じが今回のクレオパトラでしたんで、もっとすっきりしたものがやりたいね、ということで次回は『泉鏡花の日本橋』をやります。」
なんとなく意外な作品ですが
「そうですか? 5、6年前から『日本橋』をやったらどうか、という話が座内で出てたんですけど、僕らが新派の真似みたいのをしてもしょうがないかな、と思ってやっていなかったんです。でも今だったらいいかな、と。」
芸者さんがいっぱい出て来る話ですよね
「殆どの人が女形をやることになるでしょうね。もう一度花組芝居の『女形』というものを根本から見つめ直してみたいと思います。」
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