花組芝居にとって新たな財産となった『和宮様御留』。公演終了後、加納さんにお話を伺いました。加納さんの寛大なご配慮によりその模様をこちらにアップさせていただきます。(いつもありがとうございます!) なお、以下の文章の文責はすべて大原にあります。 また、もしよろしかったらお読みになった感想をお書き頂けるとたいへん嬉しく思います。ご記帳所が設けてありますので、感想などを一言書き残していって下さいませ。よろしくお願いいたします。 ●まず、『和宮様御留』という作品を取り上げるようになったいきさつを教えて下さい。 この作品を初めて見たのは約20年前、フジテレビでスペシャルドラマ化されたものだったんです(1981年・大竹しのぶ主演)。「すごい作品があるものだ」という印象がありましたね。劇団を始めてからも、ある方から本をプレゼントしていただいて「これをあなたのところでやったら?」と言われたことがありました。そのときは「ええっ、こんな大変な作品はうちではできないよ」と思ってお蔵入りしていたんです。 一昨年新派で有吉(佐和子)さんの本を演出させていただいたときに(有吉さんの『芝桜』『木瓜の花』を原作とした『花たち女たち』)、娘さんの玉青さんにもお会いしてお話をさせていただきました。 『花たち女たち』を作ったことで、有吉さんの作品を演出するという一段階を踏んだかなと思ったので、玉青さんに「『和宮様御留』をやらせてもらえないだろうか」とお伺いを立てたら「どうぞ」とご快諾いただいたんです。 「『和宮様』は私(玉青さん)自身も大切ににしている作品です」ということだったので、「じゃあ、ちゃんと作ろう」という意気込みがまずありましたね。「いつもの花組じゃないぞ」という作り方をしようかと思ったんです。 ●『和宮様御留』を花組でやってみたいなと思ったところはどこでしょうか? 僕は基本的に実在の人物とか歴史上の物語を一般の人が見るような面じゃなく横から見るとか裏から見るという作品が好きなんですよ。例えば『アマデウス』は、「モーツァルトは殺されたんじゃないか」という噂話を人間ドラマとして説得力のある書き方をしているところが好きなんですよね。『和宮様御留』はそれにすごく当てはまっているし、内容がすごくスキャンダラスな内容じゃないですか。和宮様がこういう人物だと一般に言われているものが「なんだ、裏はこんなになってるぞ」という。ちょっと覗き趣味的なんですけど(笑)。和宮という人物が実は人間くさいドラマの渦中にいる人だったんだという、ワクワクするようなスリリングな感じが好きだったんですよね。 ●原作は長編小説ですが、その中でどの部分を取り上げようとするかが加納さんの視点になっているかと思いますが。 まず、小説の最後のほうの明治維新以降の話はやめようと思ったんです。それと、原作では(和宮様の第二の身代わりである)宇多絵(大井靖彦)があまり出てこないんですが、フキ(植本潤)と和宮(嶋倉雷象)と宇多絵の3人を同等な扱いで仕上げたいと思ったんですよね。それぞれに悲劇ですから。有吉さん自身が本のあとがきに書いてらっしゃいますが、「高田村の地主さんの家で和宮さんが首をくくったんだ」という話を聞いて、その衝撃から書かれている本ですからどうしてもその高田村の家の蔵で死んだ和宮と言われている人物(=フキ)の話が中心になってしまうんですね。でも、結果は違うにしても宇多絵は宇多絵もひどい目に遭ってると思うんで、これは3人を同じような形にしたいなというのがありましたね。 ●宇多絵の婚約者の重五郎(橘義)も大きく書き加えた役柄のひとりですよね。 そうですね。宇多絵を大きくするとそれに付随して重五郎さんや、岩倉(具視)さん(原川浩明)、岩倉さんとやり取りをする酒井忠義(水下きよし)も膨らませざるを得なくなるし、膨らませたほうがうちの劇団としてもいいかなと思いましたので。普通の考え方でいったら酒井忠義や岩倉具視はベテランの俳優さんがご馳走みたいにしてワンシーンだけ出てきて終りということになるのかもしれないけど、うちは劇団ですので皆がバランスよく絡まないかなというのがありました。その点でも宇多絵を膨らませることで一石二鳥に出来ちゃうんでいいかなと思いまして(笑)。 ●重五郎が宇多絵に和宮の身代わりになるように説得する場面の台詞も印象に残っています。 あの台詞はふと思いついたんですよ。実はフジテレビでドラマ化されたときには、原作にない宇多絵と重五郎のシーンがワンシーン挿入されてたんですね。それは重五郎が「君が受けてくれないなら俺は死ぬ、一緒に死のう」と言ってお互い相打ちみたいにして死のうとするところで、宇多絵が自分の愛する人を自分の刃で殺してしまうことに抵抗があって嫁入りを承諾するという形でした。 僕がなんとなく思ったのは、「感情が劇的になるやりとりがあったとしても、最後は静かな気持ちで自分たちの状況を受け入れていくという感じにしたほうがいいかな」と。あの台詞を重五郎自身が喋ることによって自分で納得するというか自分自身も気持ちを落ち着かせていくし、それを聞いた宇多絵も自分たち個人の思いと今日本が置かれていく状況とを呼応させていって、自分のこれからの状況を受け入れていくふうにならないかなと思ったんです。「未来に添いましょう」という、日本人的な考え方ですけれども、そういうことにだけ望みを託していくというふうにならないかなと思いましたんで。 あそこで重五郎の長い台詞を書いたんですが、あれは自分個人の今の思いが込められてるんですね、実は。今、世界情勢が妙なことになっていて、国と国というのがいつまでもややこしい関係になっている、その恐ろしい部分というのかな。人間はきっと滅亡するまでこんなことやってるんだろうなという思いをあの台詞に込めたんで、だからわざとあそこの重五郎の台詞は平易な文章にして、しかも侍言葉を使わないという書き方をしたんです。 ●最後の場面では、攻め入ってくる大砲の轟音が鳴り響く中、人間という生き物の愚かさのようなものを感じたんですが。 実は、舞台装置の周りを全部大砲で囲んでるようにしようかなと思ったんですけどね(笑)。和宮のドラマをやっている日本人たちの周りを全部大砲に囲まれていると。でも予算が(笑)。 ●舞台装置も巨大な障子が開け閉めされて、どんどん迷宮に踏み込んでいくような感じがして、面白いものでしたね。 初めは御殿雛を考えてたんです。ちまちまとミニチュアなところでもってあのころの日本人が右往左往してるというのをやろうかなと思ったんですけど、脚本を書いていくうちにシーン数が30いくつになっちゃって「これはダメだ、そんなんじゃ」と。何もない舞台で考えていく内に、「お雛飾りのバックにある屏風が動いたら楽しいね」と思いついたんです。装置家の川口(夏江)さんもあんな装置をデザインしたことないし大道具製作の会社もそんなのは作ったことがないって言って、皆で「ああでもないこうでもない」ってギリギリまてやってましたね(笑)。 ●かかっている音楽も不思議な感じのものでしたね。 これもたまたまなんですけどね。『高野聖』を今年の夏に演出させていただいたときにどんな曲を使おうかなといろいろ調べて民俗音楽系のものを使ったんですが、そのときたまたま中近東の民俗音楽、楽器とかメロディを生かしながら活動している最先端なポップスのCDを聴いたんです。これが意外と面白かったんですね。中近東は東洋と西洋がぶつかり合うところだし、ちょっとエキゾチックな感じもするので、そのあたりを中心に選曲しました。僕自身もこんな感じの曲は初めてだなというのが多かったですね。 ●『和宮様御留』をやるに当たって一番苦労されたところはどこでしょうか? そうですね、大きくは御所言葉の言い回しとどんな装束を着せるかということでしょうかね。いろいろ本を手に入れて「実はああなってる、こうなってる」というのを調べたんですが、公家の装束は難しいきまりごとがあるけれどそのとおりにやってたらちっとも面白くない。だから、多少追いつつもわりと勝手にアレンジはしちゃいました。 ●衣装の生地もちょっとエキゾチックな感じがしましたね。 日本だと生地のバリエーションに限界があるものですから、今年は香港に買い付けにいっていろんな柄の生地を手に入れてくれたんですよね。あのあたりは日本的な柄が案外あったりして、うまく配色して使えたなと思います。 ●今回の舞台は多くの登場人物の生き方が描かれる群像劇のようでもありましたね。たまたま北沢洋さんと話したときには「こういうじっくりした芝居は『泉鏡花の草迷宮』以来」とおっしゃってましたが。 そうですね。ギャグをやらない、お客さんが笑わないでもいいというのは『草迷宮』以来かもしれないですね。あのときはホントにこだわってそういうふうに作ったんで。 ●花組としてはとても珍しいけれども、すごく花組らしい舞台だったかなと思います。 ようやくですけれど、どんな作り方をしても「花組でしか見られない」「花組でしか作れない」ものになるようになりましたね(笑)。僕らもそうですけれど、お客様も僕らが作ってる芝居に対して「あ、花組だったらこんなのもあるよね」と思ってくれるようになってきてくれたんじゃないかと思います。 ●お客さんとの関係が徐々に築き上げられていくのも、劇団の良いところですよね。 そうですね。お客さんの目もいろいろ広がってきて、長期的に考えていけるので。 ●この次の花組芝居の本公演は来年の6月ですね。 竜小太郎さんが出て、小池竹見くんのホンなので、全然違う感じになるとは思います。まだ内容は内緒ですが(笑)。 ●(笑)ちょっと先ですが、楽しみです。 長いインタビューを最後までお読みいただき、ありがとうございました。 よろしければ、下のリンクボタンをクリックして感想などを記帳していって頂けたら幸いです。 ご記帳所はこちらです |