| 初演から18年、再演から14年……花組芝居の『泉鏡花の夜叉ケ池』は、劇団の節目ごとに上演されてきたようです(あるいは、上演したから節目を迎えるのでしょうか?) 2009年1月上演された『泉鏡花の夜叉ケ池』再々演について、加納幸和さんに振り返っていただきました。 「再演から14年目に上演したのは、良いタイミングだったんじゃないかと思います」とおっしゃる加納さん。 加納さんの外部出演(『BASARA〜謀略の城〜』)を経て、公演から時間は空いてしまいましたが(お話を伺ったのは2009年3月末)、その分、しっかり振り返っていただくことができたのではないかと思います。 改めて、時間を作ってお答え下さった加納さん&花組芝居さんに感謝いたします。 なお、以下の文章の文責はすべて大原にあります。 ――14年目の再演となった『泉鏡花の夜叉ケ池』。今回の再々演ではどんな手応えがありましたか? 初演時のままの形で上演しましたが、改めて、今上演しても、刺激的な芝居だったんだなと思いましたね。『夜叉ケ池』ほど、「あんなのもあり、こんなのもあり」と演劇的な可能性を広げて作った作品はなかったですから。客席とのコミュニケートも究極な形で、客席と役者の壁を取り払って、芝居の中に係わった状態にしてしまった。夜叉ケ池の魑魅魍魎が大集合するときは、「お客様を魑魅魍魎にしちゃえ」って(笑)。鹿見村の村民が出てくるときは、周りを囲んでいるお客様も村人たちにしてしまいましたから。 円形という劇場の条件があったからこそできたことですが、それは今も有効なことなんだなと思いましたね。 ――今回、ダブルキャストで初演以来の持ち役の方と新配役の方が並びました。今まで花組芝居が培ってきたものを継承させていきたいというお考えもあったんでしょうか? 『夜叉ケ池』というのは劇団にとってエポックな作品で、我々の原点みたいなところがある作品だから、継承とは言わないまでも、若い連中にやってもらいたいというのはありました。若い役者も、比較的自分に自由な連中が入ってきてくれましたからね。 前のとおりの配役でいくか、全部ひっくり返すかというのは悩んだんです。どうしても、長年劇団をやっていると年上の連中ばかり使うことになって、劇団の感性に新しい花が咲くということは起こりにくくなってしまうんですね。劇団の早い時期から、才能の入れ替えみたいなことは意識はしてたんです。でも、後から入ってきて、追々(劇団の役者陣の中の)芯になるということもあったけれど、一気に芯になる役者が入れ替わるということはなかったんですね。 ここのところ、20代〜30代の連中が稀有な偶然で集まってくれたので、せっかく集まったその連中を生かしたい、というのがありました。 ただ、いきなり彼らばかりを生かしても花組芝居にならない。 以前からのものを残しつつ、新しくしていくという形にしたいなと思ったんです。それで、僕や水下(きよし=萩原晃)、大井(靖彦=大蟹五郎)、溝口健二(=穴隈鉱蔵)を残して、後は変えたと。 ――『夜叉ケ池』の百合は、女形として演じるにはとても難しいお役ではないかと思うのですが、堀越涼さんと二瓶拓也さんが演じてらっしゃるのを見てどう思われましたか? 変な話、器用ではあったんですよね。初演の松本文彦や再演の植本潤よりも器用だった。器用な分、こんなことを僕が言うとよくないけど、ちょっと小粒なところもあったかもしれない。そこがこれからの彼らの課題かなとも感じてます。 堀越も二瓶もカラーの違いがはっきり出たし、良い経験にはなったと思います。潤の場合は、百合役がブレイクするきっかけの一つだったのは確かです。百合をやったことで、悩んでいた霧のようなものが晴れて、劇団の中でも弾け出して、それが外部にアピールし始めたというのもあるので。堀越も二瓶も今はまだいろんな問題点があると思うけど、これをきっかけに自信を持ってもらって、劇団で一皮も二皮もむけてくるといいかなと思いますね。 ――萩原晃役は初演以来の水下きよしさんと小林大介さんで、これも対照的でしたね。 晃という役のキャラクターは野に分け入っていく人だし、「貴族といっても文武両道だろうし、三男坊だから無頼で自由人な人もいただろう」と僕が考えて、水下きよしにやってもらったんです。 今回は水下以外の人に演じてもらうということで、歴代僕の相手役をしてくれた立役の中で、ちょっと野性味がある小林大介を配役しました。18年前の初演時の水下の年齢と今の小林が同い年ということで、それも何か数字が良いなと思って。やってみると、二人はだいぶイメージが違いましたね。最初は双方とも、どう持っていこうか悩んだみたいです。 僕の白雪姫のこしらえを変えようと思ったのも、稽古が始まるか始まらないかのころだったと思います。大介の晃と秋葉(陽司)の学円の組に僕が出るので、今までとはイメージが変わってくるな、それだったら、もう変えちゃってもいいかと思ったんです。 学円は佐藤誓と、グローブ座版では岡本健一さんがやったんですが、彼らの知的なイメージと違う……秋葉が知的じゃないというわけでなく、秋葉は懐が広い学円になると思ったんです。ここまでイメージが違うなら、白雪も違うほうがいいかなと。僕とダブルキャストの山下(禎啓)も僕の女形とは趣が違うものですから、山下と僕が違う形にしてもよいかなと思ったんです。 ――今の加納さんがやられるのだったら、今回やられた形の、原作に近いこしらえで美しい白雪姫がピッタリだったかなと思います。 どうでしょうかね(笑)。 ――学円という役は、初演以来の佐藤誓さんがやられたイメージが強いのですが。 僕が最初に見たのは橋爪功さん、映画では山崎努さんで、知的な渋いイメージだったので、当時の劇団では佐藤誓かなと思って配役したんです。最近は市川右近君の恰幅の良い学円というのもありましたから、そこからのイメージというわけでもないですが、僕は「秋葉の学円はあり≠セな」と思ったんです。周りはビックリしちゃったみたいですが。佐藤誓は配役を聞いたとき「秋葉の学円はあり≠セな」と言っていたそうなので、それは嬉しかったですね。 桂(憲一)の学円は、「晃と一緒につるんで遊んでた間柄じゃないかな」と思わせるような感じでしたね。晃との親しさが出ていたというか。誓や秋葉の学円は、兄貴分的で晃が喧嘩を始めたら「やめろ」と抑える感じだけど、桂の学円だったら一緒になって喧嘩をするという(笑)ところはあるかもしれませんね。 ――今回の再演を拝見して、花組芝居の『泉鏡花の夜叉ケ池』というのは、戯曲で書かれている本質の構造に非常に忠実に作られてるものだったんだな、ということを改めて感じました。学円が円形劇場の外から現れて、物語が始まって、また学円が外に帰っていくというのも、能の舞台形式に近い(注・泉鏡花は母方の親族が能楽師で、作品に能の影響が強いといわれている)ものだったのだな、とか。 初演のときは僕も半分無意識だったかもしれません。「お能の世界に近い」というところより、「カーニバルみたいな演出で、一般的な泉鏡花とは違う舞台だ」という印象がお客様にもあったのかも。 初演から18年たって、皆さんの泉鏡花に対するイメージも変わってきたんだろうなと思います。(能でいうところの)ワキが出てきて、物語の発端をしゃべり、そこにシテが出てくる。前シテと後シテがあって、話の結末がつくと、ワキが止め拍子を踏んで演能が終わるという感覚は、初演と同じ演出だけれど、前より印象は強かったんじゃないかなと思います。 ――今回は、ゲスト出演者が博徒の伝吉と、百姓の与十を演じましたね。 伝吉は映画だと唐十郎さんが着流しで長ドスを持って出て来て(ご馳走出演)「たたんじまえ」と言うだけなんですよね(笑)。初演のときは、木原実という非常に特殊なポジションの役者がいたということもあり(注・日本テレビの気象予報士の生出演をしながら花組芝居公演に出ていたため、午後8時半からしか舞台に出られない「8時半の男」として舞台出演していた)、伝吉はああいう(最後に突然出てきて場をさらっていく)形にしたんです。今回は14年ぶりということもあって、お祭り的な部分も入れたいなということもあって、ゲスト出演をお呼びすることにしたんです。 ゲストが出演する作品は『怪誕身毒丸』のバケツ親父以来ですね。劇団としては、本公演は純血主義でやっているもので、こういう機会でないといろんな才能の方が花組の舞台に立つ機会はないですから。 ――今回やってみて、泉鏡花作品をまたやってみたいと思われましたか? やりたいですね。鏡花は皆が知ってる作品は知ってて、知らない作品は皆知らない(笑)というふうに偏りが大きいので、作品のチョイスの仕方が難しいとは思いますが、今後もやっていきたいことは確かです。 ――こうして振り返ると、今回の『夜叉ケ池』は花組芝居としては大きな節目の作品になったかと思います。 そうですね。 ――さて、次の公演は花組ヌーベル第2弾の『盟三五大切』ですね。 『盟三五大切』は江戸期に初演、再演されたんですが、2回とも不入りで、そのまま上演が途絶えてたんです。戦後、青年座が取り上げて作品が再評価されて、郡司正勝先生が国立劇場の小劇場で実験的な公演として上演したのが、明治以降初めての歌舞伎上演となったんです。国立劇場で復活されたものが歌舞伎座で上演されるものは珍しいんですけれど、『盟三五大切』はかなり上演回数が多いですね。 花組芝居は『いろは四谷怪談』を取り上げているものですから(同じく忠臣蔵の後日談である)『盟三五大切』をやるのはどうかな…と初めは思っていたんです。 リーディング(花組HON-YOMI芝居 2005年)で一度取り上げてみて、これは本公演でない形でやってみるほうが足回りがよいかなと思い始めました。登場人物が多い芝居ですが、リーディングでは登場人物をカットして、それでも一人二役、三役を演じる形でやったんです。今回のヌーベルでもそれ(一人複数役)でやってみようかと思います。 ――前回の花組ヌーベル『恐怖時代』は皆さん浴衣で演じてらっしゃいましたが、今回は? 今、まさに「考え中!考え中!」です。 ――楽しみにしています! ありがとうございました。 |