いろは四谷怪談2004(観劇日)2004年5月14日……世田谷パブリックシアター 花組芝居を見始めて15年になりますが、私にとっては今回の『いろは四谷怪談』が一番「不思議」な作品でした。 『四谷』は3演目にあたる1990年のものから観ていますが、非常にインパクトが強く鮮明な印象が残っています。歌一つ一つまで(笑)。忠臣蔵と四谷怪談をないまぜにして、信じられないくらいの狂騒の果てに討ち入りが終わり、最後に取り残されたお岩さんと伊右衛門の静けさ。ふっと「また夏は来るさ」と言う台詞。ごちゃまぜのパワーと加納さんの卓見とが光る、大変な作品でした。 21世紀になった『いろは四谷怪談』は、まさか作品テーマから違うものになるとは思わなかったー! とびっくりしました。前回と台詞が同じ部分も結構ありますが(今までなかったところも3分の1くらい?)同じ台詞でありながら違う意味合いになってるのがすごいですね。 前回『四谷』はある意味お岩さんと伊右衛門に集約していた話であった気がしますが、今回は様々な人達の生き方、死に方がそれぞれに際立っていた舞台のように思います。 舞台上で大きく飾られているのが真っ赤な曼珠沙華の花。「彼岸花」ですね。今「マンジュシャゲ」の字を確認しようと思って検索したら、何でもリコリンなどアルカロイド系の毒が含まれているのだそうで。なんだか、舞台上から毒が撒き散らされているようで、この芝居にはピッタリすぎかも(?)。 人間が生きることはいつも何かの毒にさらされているのかもしれませんね。 (お岩さんは実際に毒盛られてしまいますが) 毒……ある者は強欲で、ある者は嫉妬に目がくらんで、ある者はただただ心が闇で…。そんな心の毒が彼岸花に象徴されるように真っ赤に咲き誇る。 それを恨んで仇を取ったとしても(お岩さんにしても赤穂浪士にしても)、決してスカッとするものではなく、もしかしたら毒による苦しみはもっと増してしまうのかもしれない。 ラストに触れますが、お岩さんが増殖して、それが赤穂浪士の討ち入りと重なり、伊右衛門が高師直となって討たれるというのは、ホントにすごいラストシーンだと思いました。でも、自分の中では「どういうことなんだろ?」という結論がまだ出ていませんが。(また後の観劇のときに、考えて、感じてみたいと思います。何度か観て感じることがあるってのも、アリですよね(^^;ゞ) 最後に横たわる伊右衛門に重なっていくお岩の姿がとても切なく哀しく美しかったです。 いろんな登場人物がいる中で、特に小玉田左衛門の印象が強かったです。最初に高師直と塩冶判官の忠臣蔵冒頭の部分が演じられますが、その後の民谷家の話に展開していく中でストーリー的に忠臣蔵部分をずっと引き続いてもっている人物が、赤穂浪士である小玉田左衛門。彼なりの気持ちで一生懸命行動して、でも最後は結局挫折してしまうのがとっても哀れで、でもちょっとだけ滑稽でもあって「人間ってそうだよね……」となんだか思ってしまう。(小玉田が際立っているから、忠臣蔵と四谷怪談の連結が明確になるというところもあると思う)多分、桂さんが演じたから今回の小玉田がここまで引き立ったのだと思うし、私にとってはここ1、2年の桂さんのお役の中でも一番好きな役かもしれません。 何はともあれ、こんな舞台は花組芝居でしか見られない! それだけは間違いないです。 (観劇日)2004年5月17日……世田谷パブリックシアター 本日2回目を拝見してきました。どこか固唾を飲んでみていたような初日に比べて、すべての内容が頭に染み入るように入ってきて……、うー、この舞台がすごく好きだーーー! と思ってます、今。 なんだかね、今も自分の頭上に赤い毒の華があるような気がしてならないんですよ。常に毒を撒き散らしている赤い華…。人間は同じ菌に触れても免疫力の高い人は感染しないけど、免疫力の低い人は病気になっちゃうというのがありますよね(^^;(小玉田左衛門は免疫不全だそうですが)。降り注ぐ毒に感染してか、悪に走る伊右衛門や伊藤喜兵衛。毒の華の悪には感染してないんだろうけど、結局感染している人によって死に至らされるお岩、小平、破滅に向かわされる小玉田……。死した後に復讐を果たしても決してそれは「よかったよかった、めでたしめでたし」ではないし。 今も戦争という毒の華に掛かれば人を殺せるようになってしまうのが人間で、そう思うと決して現在と切り離された話ではないと思う。人間という存在の弱さとか哀しさとか切なさとかをいっぱいに見せているのに、でも舞台はすごく面白くて美しくてゾクゾクさせられる。ホント、「不思議」としかいいようがない稀有な舞台に仕上がっていると思います。 お岩さんもすごく可愛らしくて、伊右衛門を愛している姿がいじらしくて……、愛しているからこそ恨みが強いのですね。最後はやっぱりとても哀しい……。 (観劇日)2004年5月20日23日 すごーく好きな場面があります。 伊藤喜兵衛が田宮家にきて、喜兵衛が持ってきたお膳の前に6人(伊右衛門、お熊、宅悦、伊藤、小玉田、小平)が横並びに座るところの直前。 だんまりふうに6人横並びで踊る、というか振りをする短いシーンなのですが、ホントに美しい。その一瞬で6人の人となりがばーっと浮き上がってくるのも素晴らしいけれど、無条件に「きれいだな、すごいな……」と思わされるのです。 人生いろんなことがありますけれど(大げさ)、こういう無条件に「すごいな…」と思えるものに出会える時間ってそうそうないから、勢いに任せて(笑)大阪まで行って来ます。 (観劇日)2004年5月26日……大阪・シアター・ドラマシティ 普段宝塚の公演を年に1、2回やってる小屋なので、最後のタカラヅカ風フィナーレは妙にピッタリなのがなんだかおかしかった(ちょっとタカラヅカな気分になり、それぞれの歌い出しのところで拍手したい気持ちになってしまったわ)。 私の中では20世紀版の「四谷」が明確に印象に残ってるので「生まれ変わった四谷を見て、どういうふうに自分は感じるんだろう?」というのが、開演前は正直不安でもありました。 V でも、私は今回の「四谷」がとても好き。今の花組芝居に合っているのは21世紀版だと思うし、今の花組芝居だからこういう四谷になったんだと思うのです。 特別企画「加納幸和さんに聞く『いろは四谷怪談』」をご覧になりたい方はこちらへ |