![]() |
バイオリンの音程と音律の疑問を解くために |

![]() |
まえがき |
|
バッハの組曲第二番の「ブーレー」では、フルートとバイオリンがユニゾンでアウフタクトのf♯を弾きますが、普通に弾くと音が濁る、モーツアルトの「アイネクライネ」の最初のレ・シ・ソの三重音は、シをいつもより低くおさえないと音が濁る、ピアノ協奏曲K.238の第一バイオリンの第一楽章最初の6度の重音が濁るといった経験、それらは私がバイオリンの音律に疑問を持ったきっかけでした。 |
![]() |
「音程」と「音律」 |
|
バイオリンから実際に出ている音の高さは「音程」ですが、心の中でこうあるべきだと感じている高さのドレミフアの音列が「音律」です。音程が悪いといわれる原因は、不注意などによってその人の音律からずれた音になっていることが多いのですが、ここでは、音律そのものに潜む問題のみをとりあげます。 |
![]() |
音律の表し方 |
|
心の中の音律は、子供の頃からいろいろな人が歌ったり、弾いたりした音を聴いているうちに自然に身についたドレミファです。バイオリニストの場合は、先生の「一寸高い」とか「低いよ」の指摘の繰り返しによって、できあがったものでしょう。いずれにしても、そのままでは掴み所がないのですが、幸い、音の高さは、単位をヘルツとする一秒間の振動数で表すことができます。しかし、心の中の音律は、一つの音ともう一つの音の高さの比でできているので、ドからレ、レからミの高さの変化が重要です。したがって、音律は、ある音を1.0としたときの振動数比で表します。 |
![]() |
分散音の音律の必要条件 |
|
純正五度で調弦された開放弦やそのハーモニックスはバイオリンの魅力ですし、演奏技術上必要なものでしょう。そのため、純正五度の開放弦の音を使った音律であることが条件になります。また、アンサンブルでは、曖昧な心の中の音律ではなく、誰でも理解でき、皆が同じ方法で音をとることができることも条件になります。 |
![]() |
平均律 |
|
平均律は、1オクターブが12個の同じ半音で作られています。半音の振動数比Xは、Xの12乗=2.0から求めます。両辺の対数をとると、12LogX=Log2となり、 |
![]() |
純正な関係 |
|
二つの音の振動数比は、次の時に純正な関係です。 |
![]() |
平均律ではオクターブ以外純正和音はとれない |
|
ドより純正5度高いソは、ドの振動数比を1.0とすると、1.0×3/2=1.5000ですが、平均律では、1.122455×1.122455×1.05948×1.122455=1.498302となり、5度の純正和音から少しずれます。 |
![]() |
二つの純正律 |
|
開放弦と純正な関係をもつA線のb'は、E線の開放弦から純正狭4度下にとった音と、D線の開放弦から純正広6度上にとった音の二つが存在します。 |
![]() |
純正律とピュタゴラス音律 |
|
純正律という用語は、音律の専門家の間では、9/8の大全音と10/9の小全音からなる音律を指しているようです。純正律とは、純正和音だけを使って作る音律だとすると、そのような音律も定義に合致しますが、二つの異なる全音からなる音律は、どうみても音楽的ではなく、バイオリニストの頭に混乱をもたらすだけで、全く有害無益なものです。これを音律と呼ぶことには抵抗を感じます。 |
![]() |
和音を使う純正律の音のとりかた |
|
幅の広い全音と狭い半音で作る純正律は、開放弦と純正8度、5度、4度の和音を直接あるいは間接的に使って全ての音をとることができます。 |
![]() |
和音でとった純正律の振動数比と音の間隔 |
|
和音でとった純正律の音が、全て、9/8の全音と、256/243の半音でできていることを、計算で確かめると次のようになります。以下、gの振動数比は1.0とします。 |
![]() |
純正律の振動数比一覧 |
|
今までの計算ででてきた振動数比をまとめました。 |
![]() |
3度、6度の和音をとるときの音律の調整 |
|
「アイネクライネ」の冒頭のd,b',g"の三重音は、純正律のb'を使うと、音が濁ります。dと純正な広6度のb'は、gを1.0とすると、(3/2)×(5/3)=2.5000ですが、純正律のb'は、(3/2)×(3/2)×(3/2)×(3/4)=2.53125ですから、b'は、それより約5.5ヘルツ低めに押さえる必要があります。 |
![]() |
純正律と異名同音 |
|
平均律の半音は、全音の半分ですから、e♭とd♯は同じですが、純正律の半音は、半分より狭いので注意が必要です。 |
![]() |
より簡便な純正律の音のとりかた |
|
先に、和音でとる方法を説明しましたが、♯や♭がつくと手間か゜かかったり、誤差が増えるし、ハイポジションでは使えないので、もっと簡便な方法が必要になります。 |
![]() |
アンサンブルで主音がずれる問題 |
|
よくやるように、ピアノのa'440ヘルツにバイオリンのa'をあわせて、b'♭が主音となる曲を弾くと、バイオリンのb'♭は、ピアノのb'♭より、約2.6ヘルツ低くなります。 |
![]() |
平均律と純正律の比較 |
|
cを1.0としたときのハ長調の振動数比の一覧です。 |
![]() |
振動数比のセント表示 |
|
振動数比は、1オクターブを1200等分した、セント値で表すと便利な場合があります。1オクターブの振動数比は2.0ですから、1セントの振動数比xは、xの1200乗=2.0から求めます。両辺の対数をとると、1200Logx=Log2.0から |
![]() |
バイオリニストと音律 |
|
有名なカール・フレッシュの「バイオリン奏法」には、「音律」にふれた記述はありません。しかし、#や♭のとりかたの説明から、彼は、おそらく純正律(ピュタゴラス音律)で弾いていたと推定されます。 |
![]() |
あとがき |
|
以上の説明で、5度の純正和音で調弦されたバイオリンでは、平均律で弾くことは原理的に不可能であり、純正律がバイオリンには相応しい音律であること。また、純正律には、二つの音律があるが、幅の広い全音と幅の狭い半音で構成される純正律が明らかに音楽的に優れていること。和音、主音のずれ、異名同音には注意が必要なことが納得していただけたと思います。 |
![]() |
参考文献 |
|
クリスティーネ・ヘマン著 竹内ふみ子訳 「弦楽器のイントネーション」 |
![]() |
改訂記録 |
|
07/11/23 変更 |
