「伊里野、ぼくは誰?」
「−−−−−浅羽」
「伊里野...ぼくがわかる?」
「浅羽...浅羽だ...あさば...」
「...おかえり、伊里野」
「...ただいま、浅羽」
 
 
 *   *   *
 
まずは部室へ連れて行った。そこで伊里野に元部長ーーー水前寺邦博の作ったブラックマンタの子機を見せてみた。
でも、伊里野は反応しなかった。
むしろ榎本が反応した。
「なんだよおい、これ...」
「あ...水前寺前部長が作った...」
「細部はちょっと違う所もあるが不完全な情報でここまで再現するとはな...」
「ちょっと、感心してないで加奈ちゃんのこと考えなさいよ」
「そうだ」
浅羽が思いついたように叫ぶ。
「榎本さん、椎名さん、セミの死骸探してきて下さいよ」
「「はあ!?」」
浅羽は伊里野がここでセミの死骸を見つけた時の事を話した。蝉のお墓まで作ったことを。
「加奈ちゃん、自分を重ね合わせてたのね...」
「何で俺がこんな事...」
そう言いながら、二人は探しに出ていった。
 
ようやく二人が見つけてきたセミの死骸を見せても伊里野は何の反応も見せなかった。
「それじゃあ次は...釜藤ボウルに行ってみます?」
「どこそれ」
「...伊里野が連絡しないでぼくらとボウリングしてたら榎本さんがやってきて伊里野を殴って連れ出した所」
「...お前、その表現はひでえな」
「客観的な事実です」
「つーか、お前、たくましくなったよな」
「去年の夏、鍛えられましたからね、榎本さん達に」
「ちっ、また皮肉かよ...」
そういうわけで、榎本の運転で釜藤ボウルにやって来た。
4人でボウリングをする。一応榎本は西久保と花村の、椎名は晶穂と清美の代役だ。
伊里野は、指示をすればボールを投げる。ストライクも出たしスペアも取った。スコアは1度目が127、2度目が156だった。
(浅羽は1度目89、2度目91だった)
しかし反応は変わらない。
釜藤ボウルにいる間、椎名が連れ添ってトイレを済ませてきた。
 
「ちくしょー、次はどこへ行く?こうなったらどこだって連れてってやるぞ!」
榎本が吠えた。半ばヤケに聞こえる。
「それじゃ、「鉄人屋」」
「なにそれ」
「行けばわかりますよ」
園原銀座商店街、その奥右手。花屋と薬屋の間。
「何この軽トラ」
椎名が指差した軽トラには「喧嘩上等」と書かれていた。
「シャレですよ、シャレ」
中に入る。壁の一角を探すと...あった。40人の「鉄人定食完食者御名前」。
その最後の部分。本来ならポラロイド写真が貼られているはずの場所には、同じ大きさの白いボール紙が貼られ、マジックで名前が書かれている。
「須藤晶穂 伊里野加奈」と。
「ここ...聞いたことあるぞ。基地の猛者が何人も病院送りになった伝説の定食屋だ」
「そういえば何とかいう陸曹が担ぎ込まれたとか何とか、前担当から聞いたわね」
その鉄人屋に入ったが、伊里野の反応は相変わらずであった。
「鉄人定食を食べろ」と指示したら食べてしまうかも知れないが、そこまでする気にはなれなかったので、普通の定食を食べて出てくるつもりだった。
だったのだが、椎名真由美が突然、
「鉄人定食一丁!!」と声を張り上げた。
それからの光景は描写することも出来ないほど。
とにかく椎名真由美が鉄人定食を歴代1位の速さで完食した事だけを述べておこう。
「よ、四次元胃袋...」
それが榎本の素直な感想であった。
 
 
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