疑問と怒気を湛えた榎本が迫ってくる。浅羽はそんな榎本に、
「いえ、実は伊里野、部室で再会した時に戻ってたんです」
「「何!?」」
「でもね、それを榎本さん達に知らせたら、また伊里野、連れてかれちゃうじゃないですか。
 ...だから、今日だけでも、1日だけでも、こっそり2人で楽しもう、って...」
「...ごめんなさい。榎本、椎名。...私、これで十分。浅羽、ありがと」
そう言って2人に向き直る。
「加奈ちゃん...!!」
怒るかと思いきや、椎名が伊里野に抱きついた。
「いいの、もう。...加奈ちゃん、加奈ちゃんはもう、自由に生きて、いいの」
「しいな...」
「あなたはもう、ブラックマンタのパイロットじゃない。ただの中学生。これからあなたは、浅羽君と一緒に園原中に通うの」
「「え...」」
浅羽と伊里野が同時に声を上げた。
「...ったくよぉ。...さんざん振り回してくれたもんだぜ。...でもな」
榎本が頭を掻きながら言う。
「楽しかったぜ」
そして浅羽に向き直り、胸元に軽い一発。そして、
「強くなったな」
 
 
今、伊里野は園原中に通っている。
予備役となった榎本、椎名と同じアパートに住んで。
中学を卒業するまでに生活能力を身に付けて、
一人暮らしするのだという。
晶穂は嬉しいような悔しいような表情で伊里野の復学を迎えた。
 
夕子は何の冗談か、今は水前寺と付き合っている。
「ほ兄ちゃん」と水前寺に呼ばれた時、浅羽直之は本気で恐怖に囚われた。
 
今、浅羽直之は本気で床屋を継ぐつもりで頑張り始めた。
それが「どう足掻いても学問で身を立てられない」事に気が付いた故か、
それとも「南の島」で開業することを夢見てのことか、
それは本人しかわからない。
 
いずれにせよ、この夏は浅羽直之と伊里野加奈、2人の夏だった。
見上げた空は、2人の空だった。
空は何処までも蒼く何処までも広がっていた。
(完)
 
 
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