「ワイルドで行こう」パート1

〜グランドティートン&イエローストーン国立公園の旅〜

<写真=ここはアメリカで最も美しい場所と言われる>

 ステッペンウルフの「ワイルドで行こう」で始まるはずだ。曲はイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」や「ならず者」を経てカンサスの「伝承」へ続く。他にドゥービーブラザース、エアロスミス、カーペンターズなど大好きなアメリカン・ロック、ポップスをすし詰めにし、果ては「明日に向かって撃て」のサントラ版など西部劇テーマ曲も入れた。日本で出発前に厳選し時間をかけて作ったテープだ。いざ挿入しようとして、うろたえた。なんじゃ、こりゃあ〜。車にカセットデッキがついていないのだ。オリジナルテープを聞きながらアメリカの大自然の中をレンタカーで疾走する、という構想が音もないのに音をたてて崩れ去った。う〜む、と一呼吸をおく。ノープロブレムである。大自然が私たちを待っていることに変わりない。私は慎重に車を始動した。ユタ州都のソルトレイクシティ発、グランドティートンとイエローストーンという隣接する二つの国立公園を巡るオリジナル旅行がスタートした。合言葉は「ワイルドで行こう」。

 右側通行にはすぐ慣れた。いきなり高速道路へ入るが、びびりながらも突っ走る。時速80マイル(約130q)でびゅんびゅんに飛ばす。快適だ。やがて高速を降りて一般道へ入るが、まっすぐな田舎道だから、町中以外は時速60マイルは出せる。牧場の風景が延々と続く。羊の群が道路に飛び出すアクシデントもある。途中、小さな町のスーパーにトイレ休憩のため立ち寄った。店の裏手、従業員用のそれを借りる。店のおじさんが寄ってきて「サヨナラでござる」と笑わせてくれる。折角なのでパンとサラダと飲み物を買い、店の片隅でお昼をとる。隣で食事中の老人があいさつして去る。他の店員やお客も珍しいものを見るように私たちを眺めた。息子が「きっと家に帰って、日本人の男の子を見たよと話題になる」と言った。すかさず娘が「どうして男の子なの?自意識過剰」とやり込めた。

 牧場と田舎町のあとは、大草原となだらかな山が続く。やがて川沿いに美しい渓谷があらわれ長いドライブの終わりを予感させる。出発から6時間、私たちはグランドティートンの玄関口であるジャクソンの町に到着した。

 ジャクソンは西部劇から抜け出したようなレトロな町だ。夕刻、雨が降り出して楽しみにしていたロデオが中止になった。仕方ないのでホテル近くのレストランで夕食後、町を散策した<写真=ここはジャクソンの町の中心部>。土産物店はインディアンの手作り品や動物の剥製など面白いものが多い。いつになく長時間買い物を楽しむ。町の中心にあるタウン・スクウェア。すでに雨は止んでいる。鹿の角で作ったアーチをバックに記念撮影をする。横を駅馬車が観光客を乗せて走り去る。8時半を回っているが辺りはまだ明るい。緯度が高いから夏の日はなかなか暮れない。さて動物たちは朝早く行動するらしい。だから私たちも負けずに早起きするとしよう。

 霧が立ちこめる翌朝、弱く控えめな日差しの中に山々を見る。4197mのグランドティートンを中心に4000m近い峰が連なる<写真=左からミドルティートン、グランドティートン、Mt.オーエンの皆様>。国立公園はこれら連峰と、ジェニーレイク・ジャクソンレイクという二つの湖、その名の通りくねくねと蛇行を繰り返すスネークリバー、広々とした草原や沼地からなる。そこでは多くの動植物の生命が育まれている。


 さあ、動物との遭遇を求め行動開始だ。インターネットの旅行記で「ここが出るよ」というポイントを押さえていた。ムースウィルソンロード。だがここではメスのエルク(大鹿)を遠くに数頭見つけただけの結果に終わる。一旦ホテルに帰り朝食後、再び繰り出す。太陽が力強くふりそそぐとグランドティートンの山々は、きりりとした美しさを増す。天空を突き刺すような偉容。神々(こうごう)しいという形容がぴったりだ。大きなものに夢中になっていると小さな客人が現れた。ハチドリ(ハミングバード)だ。羽根を超高速回転させながらハチの様に飛び花の蜜をつつく。息を呑むような接写の瞬間である<写真=世界最小の鳥との出会いは最大の収穫の一つ>。


 午後からボートで川下りをした<写真=未知との遭遇に盛り上がる>。川はゆったりとした流れだからラフティングではない。シーニック・フロート(観光の川下り)であり、スネークリバーをおよそ2時間、ゴムボートを使って下るものだ。私たちのボートは、デービット船長と3家族の合計12名構成となった。もちろん日本人は私たちだけであり、デービットは「日本語がしゃべれなくてゴメンね」と言いながら、私たちの下手なカタコト英語の質問にも丁寧に答えてくれた。「川岸にある穴は何?」。「あれはスワローの巣だよ」と言いながら、彼はぼろぼろになった動物図鑑を見せてくれた。その本には、著者の直筆サインがされていて「それは著者がこのボートに乗った際のものさ」と誇らしげに言った<写真=デービットは船を操りながら場も盛り上げる>。

 彼は、白頭ワシを素早く見つけ、私たちが魚を捕る瞬間を見逃さないようフォローした。白頭ワシはアメリカの国鳥 だ。そのりりしい姿は鳥の王様である。もっと言えば、白い頭は白人のシンボルであり、アメリカはいつでもナンバーワンということだ。そして、ここワイオミング州は、地理的にも、歴史的にもまさに白人達の王国である。

 川の中にマス(トラウト)を見つけたし、なぜか白頭ワシと同じ枝にタカの姿も見た。川辺の森でエルクやバッファローに出会えて大喜びした。翌日のイエローストーンではそれが吹っ飛ぶくらい多くの野生動物が登場するが、美しい景色を背景に、閉ざされた空間の中で見知らぬアメリカ人たちと楽しいひとときを送るこのツアーは超オススメである<写真=同舟した銀行員一家の息子、ウォーリー君とともに>。

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