<2002京都>

古都で「オペラ座の怪人」
2002年11月2日〜3日

<写真=大沢の池は、大覚寺にある周囲1キロの庭池だ>


 今年5月、京都駅のホテル・グランビアに宿泊した際、隣接する京都劇場でロングラン中の「オペラ座の怪人」の看板を目にし、これを観なければと帰宅してすぐさま、インターネットでチケットを衝動買いしてしまった。新しい京都駅にぴったりとハマった京都劇場の「凄いらしい」というミュージカルに何故か惹かれた。半年後、私たちは秋の京都にやってきた。

 「オペラ座の怪人」は劇団四季のミュージカルの中では、最もオペラ的要素の強い作品だ。作曲は「キャッツ」のロイド・ウェバー。劇中、ウェバーが古典的なオペラの影響を強く受けているのが良くわかる。

 まずは劇中劇の初っ端(しょっぱな)、R.シュトラウスの楽劇「サロメ」。預言者ヨカナーンの生首を持ったサロメを髣髴させるかのようなパロデイで始まる。それがそのまま、「アイーダ」っぽい、中近東の古代歴史劇へと繋がる。モーッアルト的な貴族社会を模倣したシーンが出現したかと思えば、どうもR.シュトラウスの「バラの騎士」のようである。そして第二幕ではヴェルディの「仮面舞踏会」の世界が繰りひろげられる。ウェバーの音楽はとてもロマンティックでオーケストレーションが豊かである。音楽的に一番近いのは、プッチーニだと思う。いくつかの場面では、明らかに「ラ・ボエーム」に影響されたかのようなシーンも登場する。

 そんなオペラの知識が無かろうとも、そこには充分楽しめるだけのストーリーと舞台と音楽が詰まっている。「キャッツ」はT.S.エリオットという少々難解な現代詩人による作であり、猫の紹介でストーリー性が少ないため少しばかり散漫になってしまうのだが、こちらは文句なしに楽しむことが出来る。何しろ金田一少年の事件簿にも取りあげられているのだから。

 「醜いのは仮面の下にある焼けただれた顔ではない、心です」というわかり易いテーマ。スピーディに展開していく工夫された舞台場面。五重唱、六重唱が複雑に交差しながら盛り上げていく魅力的な音のアンサンブル。そして散りばめられた美しい珠玉の名曲の数々。どこをとっても楽しく魅力あふれるミュージカルであり、「凄いらしい」というキャッチ・コピーはまさに本物だった。私たちは日本の古都で、19世紀ヨーロッパの文化の香りを味わうことが出来た。


 紅葉の盛りには少しばかり早い。翌日は、秋の古都を楽しんだ。

 二条城は徳川家康が1603年、京都に建てた別荘である<写真=国宝の二の丸御殿内部には狩野派の手になる華麗な襖絵などが見られる>。平成6年に世界文化遺産に登録され、来年はいよいよ筑後400年を迎える。有名な二の丸御殿はその外観といい大広間や書院といい歴史と文化を感じさせてくれる。ここは豪華絢爛な桃山文化の象徴であり後の大政奉還の舞台にもなる。さすがに外国人観光客も多い。当然ながら陳列物が英訳されている。たとえば「年寄り」はヘッド・オブ・メイド・サーバント。この場合、日本人にとっても英訳の方がわかり易い。妻は小学校の教師をしていて、最近修学旅行でここを訪れている。私と娘にガイドよろしく説明してまわる。

 続いて金閣寺へ行こうとタクシーに乗る。この運転手さんがやたらとおしゃべり好きである。彼、いわく。「お客はん、京都、初めてかいなあ」と切り出し「今日はええ天気やさかい、金閣もきれいに輝いて見えるけど・・・・・」と皮肉をひとつ言い、「この時間は人ばっかりや。でも、京都には人があんまり行かん、ええ寺がぎょうさんありまっせえ」と少しばかり上級の観光解説が始まった。私たちは、それじゃあと、金閣の近くにある彼のお勧めのお寺をひとつ案内してもらうことにした。

 そこは源光庵という小さな曹洞宗のお寺だ<写真=禅宗である曹洞宗源光庵山門のまえで>。みどころは二点。ひとつはこじんまりと美しい庭。もう少し秋が深まれば見事な紅葉が楽しめる。特に二つ並んだ、丸い「悟りの窓」と四角い「迷いの窓」を額縁に見立てて、そこから見た庭園の眺めは絶品である<写真=残念、採光対策が不充分。角のとれた心の持ち主は悟りの窓で>。やはり二〜三週間訪れるのが早過ぎたようだ。もう一点は血天井。かつて徳川家康の忠臣、鳥居元忠が少兵で伏見桃山城を守るため石田光成の軍と戦い血を流して床に倒れた。その床を廃物利用したものがこの寺の天井に残されている。見れば黒ずんでなにやら人の手足のように見える。昔は何から何まで、それこそ釘一本にいたるまで廃物利用したそうである。血天井は他に、正伝寺、宝通院などで見られる。

 源光庵の後は金閣寺へ。そこには運転手さんが言ったとおり、きらきらと輝く舎利殿と人だかりの山があった。華道嵯峨流の発祥の地であり家元である大覚寺では嵯峨菊花展が催されていた。そして何度目の訪問だろうか、人の重みで崩れてしまいそうな渡月橋を起点に金閣寺を凌ぐ人だかりの嵐山を散策しあわただしい京都観光を終える。人だかりは遠慮した方がいい。今度からは少し事前研究してからやってくることにしよう。本来、京都は知れば知るほど見所が増えそうなところだから。

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