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OCCI 様 (2/88)  <耕起>

1通のメールから始まりました。

  「小さな田んぼがあるのですが、もしよかったらやってみますか?田植え、草取り等すべての作業をお任せしたいのですが?」

やってみたい! でも「すべての作業をお任せ・・・」出来るだろうか? 『小さな田んぼ』だし、専門家がついているし。 「兼業農家」っていう人もいるのだから、出来ない事はないだろう。やるからには、途中で「やめた!」って言う事は出来ないぞ! ん〜!? やりたい けど 「不安」の2文字が・・・まあ、『小さな田んぼ』だから。

  1. 「ぜひ、やってみたいです。でも出来るかな? ご迷惑なのでは?迷惑かけても良かったら、やらせて下さい。」

  2. 「せっかくですが、ごめんなさい。自信ないです。他のお手伝い、何でもやりますから、もう少し自信がついてからお願いします。」

2つの返信を書いて、「どっちを送ろう?」 さんざん悩んだあげく、1. の送信を押す。直後、頭の真ん中で「不安」の文字が「ボン!」と10倍くらいに膨らんだ。この選択を「後悔」にはしないぞッ!



後日、「面積は約100坪位で小さな草が生育していますが、水はすぐに出ます。」と、メール。

ひっ、100ツボっって・・・『小さな田んぼ』??だよね。庭にナスの苗2〜3本植えるのは、畑なんて言わないよなぁ。20畳のリビングなら広いけど、10坪の田んぼなんて言わないよなぁ。200畳。330平方メートル。正方形なら18m×18m。長ければ10m×33m。(広そう)



2/88 耕起

私は仕事上、週1回くらい当直(夜勤)があるので、明けを利用して作業しようと思う。(やはり、休日はのんびり休みたい)とは言っても、朝9時までの勤務で、日勤者への引継や後片付けなどで、職場を出るのは10時近くになってしまう。いちど家へ帰り、お昼を食べて成東へ向かうと早くても1時くらい。まあ、出来なかった分は日曜日か休みを取ってやるとして・・・。とりあえず



5月24日(土)

昨夜は夜中に起こされる事もなく、ぐっすり眠れた。(宵っ張りな人間なので、家にいる日よりも当直の方が睡眠時間長いかも?) しかし、昼間のガラ空き電車で、ボックス席を1人占めしてウトウトするのは気持ちが良い。そのウトウトがだんだん 熟睡→爆睡→仮死状態(?) zzzz フッと蘇生(覚醒とも言う)すると降りる駅。おー!危ない危ない。乗り過ごすとこだった。変な格好で寝ていたせいか、寝違えたらしく、首を動かすと痛い。首だから農作業には影響ないだろう。家に寄って、着替えて、お昼を食べて、長靴持って車で成東へ向かう。

「とりあえず、現場を見に行ってみましょう。」と川島さん。

「ここなんだけど。」(広い!隣の田んぼと比べると確かに『小さな田んぼ』だけど・・・)水の出し方などを教わり、「どこからやります? 私の方で耕起して田植えが出来るようにしても良いし、生えてる草は畑の草だからこのまま水を入れても、すぐ田んぼになると思うけど。」

「最初からやってみたいです。」

「じゃあ、まず、回りの畔にだいぶ草が生えてるからそれを刈って、手前の方の畔がちょっと低いから、あと5〜10p位高くしておいた方が良いかも。あとは中を耕して下さい。」

「タガヤスって?」(きっと、小さな耕耘機があって、芝刈りでもする様なものなんだろうな?)

「鍬で表面の土をひっくり返して行けば・・・」(クワ?!あの鉄のフォークに柄が付いたの1本で??)

「もしかして、田植えも『手』ですか?」

「そう。ここ、機械入らないんだよね。手前に水路があるし、隣の畑を横切っていかないと。」(・・・え゛〜っ!! 耕耘機、担いで入れるからぁ。 田植え機入れる橋作ってぇ。 無理だよね。)

いったん川島さん宅に戻り、

「鍬、このあいだ小さい方だったっけ?」

「大きいのお借りします。」

「手でも草抜けると思うけど、鎌も持ってってみて。あと、水栓を開けるスパナ。じゃあ、よろしくお願いします。」

「行ってきまーす」(って、川島さんは来ないんだぁ。シオシオノパー(←ブースカでした。ヤバッ!年がばれる))

さーて、気合を入れてがんばるぞー! ファイトォー!!



まず、畔の草。なんだ、簡単にスポスポ抜けるや。これはちょっと太いから鎌で。サクッ!おー!良く切れる。やっぱ、プロの使う道具は違うね。物も良いんだろうけど、よく砥いで手入れしてある。うちで買った安物の鎌なんか、ちょっと使ったらすぐ刃が欠けてしまい、砥ごうと思ったら、どうもこの三日月形にうまく砥げない。でも、この鎌の刃もまっすぐになっているから、使っているうちにそうなっていくものなのか。

終了! 草刈なんて、お茶の子さいさい!

次は畔を高くね。 これは、この間の要領で。 あんまり田んぼの土を取っちゃうと、こっちの方ばかり低くなるから、こんなものかな? 5cmは高くなっただろう。

終了!朝めし前だね。まだ1時間も経ってないや。(ずいぶん荒っぽい仕事だけど、ま、いっか。)



さて、大仕事。

で? これだけ広い所をどうやって耕せば良いんだ?

ザクッ! ホイッ 前に進みながら耕すべきか? それとも後退りしながらやるのか?

ザクッ! ホイッ

んー?! 前に進みながらやると、前に掘った所にその先の土を入れて、そのまた先の土を前の穴に入れて・・・って出来るから、これが正解だな。でも、自分の足跡にボッコリ穴が開いてるけど? そのくらいは良いか。1鍬の幅で、ずーっとまっすぐ行って、また1鍬の幅で戻って来て、って何往復もするべきか? それとも横に4〜5鍬分やって前に進むのか?

ザクッ! ホイッ  ザクッ! ホイッ  ザクッ! ホイッ  ザクッ! ホイッ

前に進んで、

ザクッ! ホイッ  ザクッ! ホイッ  ザクッ! ホイッ  ザクッ! ホイッ

これが正解だね。1鍬の幅で何往復もしてたら、いつ終わることか。どっちみち、これだけの広さをやるんだから、「こうしなくては、いけない。」って事は無いんだろうけど。

それにしても、重い。 鍬だけでも鉄アレイ位あるだろうに。それに土がまた重い。こんなに深くまで「ザクッ!」って掘らなくても、もっと表面だけやれば良いのかな?

サク ホッ  サク ホッ  サク ホッ  サク ホッ

これで良いのかも。



鍬って言う物も、良く考えて作ってあるんだ。柄の付いている角度にしたって、直角でもなく、鋭角過ぎず、ちょうど土にサクッと入り、土をひっくり返しやすい角度や大きさに計算してあるのか? 経験上こうなったのか? 良く出来てる。 

こんなにやってると、絶対手にマメが出来たり、水脹れになったり、手の皮剥けたりしそうだけど、なんともないや。 鍬が良く手に馴染んでるって言うか、ピッタリ手に吸い付いてくるって言うか。 やっぱりこれも、プロ仕様なのか、それだけ良く使い込んで、良く手入れしているからなのか、とても使いやすい。 って、鍬なんかほめててどうする!? どうせなら、「この耕耘機は、小回り利くし、軽くて扱いやすいし、エンジンだって1発でかかる」て言いたいよなあ。

でも、耕耘機なんて無かった頃の昔の人たちは、こうやって苦労して田んぼを耕したんだろうな? いーや! そんな事は無い!! 昔の人たちには牛がいた!!! 今やってる事は牛の仕事? まあ、似たようなもんか。

Kさん達は良いよなあ。 田植え機に乗って楽しそうで。 それに比べて、こっちは鍬1本で。 こっちの方がよっぽど『デフラグ』っぽいですよ、Kさん。

だんだん、愚痴っぽくなってきている。 だいぶ疲れたのだろうか? でも心地よい疲れだ。 アドレナリンが大量に分泌されているのか? これはもう、β‐エンドルフィン(「ランナーズハイ」や「火事場のバカぢから」を起こす体内麻薬の一種)が出ているのかも・・・?

今日はこの位にしておこう。まだ三分の一位しかやってないけど。

OCCI 様 耕起

「んーッ!!」身体を思いっきり伸ばして、ノビをする。 あれ? さっき寝違えた首が治ってる。 やっぱり、身体を動かすのは良い事なのかな?

川島さん宅に戻り、声をかけるが留守のようだ。 外の水道を借りて、鍬の土を落とし手を洗わせてもらう。「ウィーン!」 懐かしい音。 井戸のポンプだ! 私の実家は都内だが、井戸があった。 水質検査もしてないし、水道局に届けも出していなかったので、飲用には出来ない(事になっていたが、水道水よりもずっとおいしい)。 夏には冷たく、冬でも凍るような冷たさは無いので、けっこう重宝していた。(特に洗車などは)

車に乗って家路につく。 家で車庫入れしようと、頭を大きく後ろに回すと、やはりまだ首は痛かった。 さっき治っていたのは? β‐エンドルフィン?



5月26日(月)

当直はだいたい週に1回位なのだが、都合の悪い日は他の人と交換したり、あげたり貰ったりする。 私は、特に変わられやすいようで(暇人だから)最初の当直予定はほとんど残っていない。 交換するのも、あまり日にちが近すぎると「身体が辛いから」と断るのだが、今回はなぜか1日置きになってしまった。 休日の当直は「日当直」と言って、日勤(朝9時から)と当直(翌朝9時まで)の24時間分の仕事を1人でやる。

幸い、夜中に起こされなかったのが救いだが、月曜の朝と言うのはとても忙しい。 朝6時から始めて、結局9時までに終らず、10時過ぎまでかかってしまった。 職場を出たのは11時近く。 急いで帰り、着替えて成東へ。 途中のコンビニでおにぎりと飲み物を買って運転しながら昼食。

「すみません遅くなって」

「時間は気にしなくて良いですよ。都合の良い時に来て、適当な時間に帰れば」

ホッ

「じゃ、一昨日の続きやってきまーす」

まだだいぶ残ってるなぁ。 仕方ない、始めるか。 やらなきゃ終わらないし。

サク ホッ  サク ホッ ・・・

だいぶ要領が分かってきたから、おとといよりは楽だけど、結構キツイ。

こんなに大変なんだったら、「自分でやります」なんて言わないで、川島さんに頼めば良かった。 でも川島さんも鍬1本でやるんだろうか? 実は、かついで来れるくらいの耕耘機があったりして? だったら貸してくれるだろうな。 Kさんは田植え機にだって乗せてもらってるんだから。

実は、牛を飼っている?きっとそうだ。 オートバックスへ牛キャリア探しに行ってみたんですが、扱っていませんでした。 って、そんな事あるわけないでしょう!? 人間、疲れてくると、色々面白い事を考えるものですね。) 自分でやる時は牛小屋から牛を連れ出して・・・ でも、牛は車に乗れないか。 ご自慢のレガシーの屋根の上に「牛キャリヤ」付けて走っているのは想像できない。 川島さんが牛にまたがってやって来る。 カッコイイかもしれない。 でもあり得ないな。 近くの家に「牛貸してくれない?」って声をかければ「どうぞ」ってすぐ貸してくれる・・・? 野鳥の声は良く聞こえるけれど、牛の鳴き声は聞いた事がない。 近所で牛は飼っていないようだ。 簡単にできるウラ技があるんだろうか?  伊藤家の食卓で「たったの鍬1本で、小さな田んぼをあっという間に耕してしまうウラ技」 なんてやってなかったかな? もっと良く見ていれば良かった。

実は、川島さんは魔法使いだったりして? 魔法の杖を一振りすれば、あっという間に耕してしまう。 非現実的! でも、ある意味で、お百姓さんて魔法使いかもしれない。 何にもない土の中に小さな種を蒔いて、魔法の杖の代わりに鍬を振って、呪文の代わりに肥料をまくと、何にもなかった所に、いろんな色、いろんな形、いろんな味の野菜や果物が出来てしまう。 「そんな簡単なものじゃないぞ」って怒られそう。

きっと、川島さんも鍬1本で耕すんだろう。 こんな大変な事を頼んでしまって、きれいになった田んぼで「どうぞ、苗を植えてください」って言われたら、こんな苦労を知らずに過ぎてしまう。 まだ苗も植えていないから、秋に米が収穫出来るかどうかも分からないけれども、植える前からこんなに大変だって事が分かっただけでも大きな収穫だ(と、思う事にしよう)



よーし! あと少しで終わるぞー! という時、魔法使い(じゃなくて)川島さん登場。 (「実は私、ホグワーツ魔法学校の卒業生なんですよ」 とは言いませんでした。) 助手席に牛は乗っていないようだ。 もちろん屋根の上に「牛キャリヤ」もない。

「もう少しで終わります。こんなんで良いんですかねー。ずいぶん凸凹してるし、あちこち草も飛び出てる」

「んー。 本当はもう少し平らな方が良いんだけど。 水入れてみて、高い所だけ植えても良いし。」(エーッ! もっと早く言ってくれればもう少し丁寧にやったのに!)

「これで、水入れればいつでも苗植えられますけど、いつやります? 次のお休みは?」

「一応、明日も休み取ってあるんですけど・・・」

「じゃぁ、明日やっちゃいますか?」

「いや、明日は天気悪くなるみたいだし(イイワケ)、お休みにしましょう(疲れたぁ)。 次は30日(金)が明けなんですけど、遅いですか?」

「大丈夫。じゃ、それまでに水入れておきますから。」  川島さん退場。

そうだよなあ、こんな凸凹じゃ低いところは苗が潜っちゃう。 まだ明るいから、出来るところまで直していこう。

始める前に「このまま水を入れても・・・」って言われたけど、そのままやっていればこんな苦労はしなかったのに。 かえって手を加えて凸凹に荒らしてるようなものか。 「大きな収穫だ」なんて思うよりも、素人が下手に手を出すより、プロに任せておけば良かった。 川島さんに頼めば良かった。

6時30分。 辺りがだんだん暗くなってきたので、中途半端だけど終わりにする。



川島さん宅に戻る。

「今までやってたの?」

「少しだけ平らにしてみました。あんまり変わってないけど。」

「明日はゆっくり休んでください。お疲れ様」



家に帰り車庫入れ。一昨日の首がまだ治ってない。おまけに肩の方まで痛みが広がっている。 筋肉痛? 五十肩?(まだちょっと早いか。)


(斜字の部分は、川島の心の声です)

3/88  田植えへ