忘 れ も の

 



泥棒、ある家に入ったがめぼしい物は何もなく、
 あげく米びつも、味噌がめも空っぽだった。
 部屋を見廻すと、夫婦と小さな子供二人が
 一枚の布団にくるまって眠っている。
 気のいい泥棒、気の毒になり、夫婦を揺り起
 こし、なけなしの二百文ばかりを与えると、夫
 婦、涙を流して喜び何度も礼をを云う。
 良い気持でその家を出て二町ばかり行くと、
 あとから亭主が「待て!待て!......」と追って
 来た。
    ”おのれ恩を仇で返すのか!”
 と立ち止まれば、亭主が息を切らしながら、
    「お煙草入れをお忘れです」
 と云ってさし出した。




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   原辛わら江選