噺の巧さはもちろん、役者さんのような顔立ちで様子がよく、きれいな高座で人気を集めている菊之丞師匠。入門から11年目の昨年、席亭推薦でただおひとり、真打に昇進されました。
噺家さんが真打になるまでどんな修行をするのか、そして菊之丞師匠ご自身の”真打への道”はどのようなものだったのか、お話を伺いました。
           (平成15年7月収録)





―小さい頃から落語がお好きだったんですか?

 中学の頃からですね。

―ご興味を持たれるきっかけは?

 中学の先生がまだ30代半ばの若い先生でしたが、落語と寅さんが大好きな方で、「寄席行って来い。おもしろいよ。」って。それで一人で行ったんですよ。一番最初に行った時はトリが小さん師匠でしたよ。なんておもしろいんだろう。不思議な世界だなぁと。

―それでハマりました?

 ええ。

―それまでは特にご興味はなかった?

 漫才のほうが好きだったですね。漫才ブームの頃で、ツービート、紳助竜助が大人気でしたから。

―では、ハマッた後は通って。

 通って通って。その時分はね、東京新聞だけ寄席の番組が出てたんですよ。木曜日の夕刊。親に頼んで、東京新聞の木曜日の夕刊だけ取ってもらって。いい新聞屋さんで、木曜の夕刊だけ届けてくれるのよ。で、それ見て。

―土日はもちろん?

 そうですね。土日、それから学校終わってから。

―学校終わってからも?

 ええ。行ったことありますよ。池袋演芸場なんて夜の部が5時開演。でも学校終わってから行くと6時くらいになっちゃうわけです。「進んじゃってるなぁ、番組が・・」と思いながら着くと、下足番のおばちゃんが 「はい、一番さん!」って下足札渡されて、「へっ?」って思って開けると誰もいない。座ったとたん、テンテンテンって幕開いて、「始まっちゃった〜」と思って。忘れもしませんよ。今の橘家仲蔵さん。お客がひとりってのは多分驚かない。のべつ池袋演芸場ではひとりってのがありましたから。その頼りのたったひとりの客が中学生ってのは驚いたと思います。「僕、どっから来たの?」って言われました。

―クラブ活動状態ですね。高校時代もやはり?

 高校時代も通ってましたね。

―いつごろから噺家さんになろうと思いましたか?

 本当になろうと思ったのは高校3年生ですね。進路決めなくちゃいけない。大学か就職するか。進学校だったんで、先生も当たり前のように「どこ受験すんの?」って。全然そんな気ありませんから、絶対受からない国立言ってみたんですね。「千葉大と茨城大です」 「お願いだから止めてちょうだい。絶対受かんないんだから。どっか私立受けてちょうだい」って言われて。「いいんです。シャレに受けるんですから」 「シャレで受けないでちょうだい。受験なんだから!」って。あわよくば受かっちゃったらおもしろいなと。もし受かっちゃったら落研なんか行ってたんでしょう。

―決め手は進路を決めなくちゃいけない、という切羽詰まった状態だったからですか?

 でも、そのつもりでいましたからね。

―ご家族の反応は?

 もうお袋は大反対。事後承諾。

―先にお願いに行ってしまったんですか。

 小島貞二先生って、こないだ亡くなった演芸評論家がいるんですけど、子どもの頃から知ってたんで、そこへ行ったんですよ。「先生、お願いします。私、圓菊師匠のところへ行きたいんです」って。「ああ、そうかい。いいよ。じゃ、しばらくうちにいていろんなこと勉強して行きなさい」
そこで2カ月くらいですかね。で、帰って来てお袋と話をして 「小島先生のとこへ行っちゃった」って言ったら、「あんた、なんで相談もしないでそんな勝手なことするの?」って怒られました。その後も 「あんたね、うまい人なんていくらでもいるんだから。自分でやれると思ってるかもしれないけど、あんたなんかモノにならないのよ」とはずっと言ってました。

―圓菊師匠を選ばれた理由は?

 それはやっぱ子どもの頃から観てて、なんて不思議な落語やる人だろうって。夏場、住吉踊りなんてやると、志ん朝師匠がツッコミでうちの師匠がボケ役なんですよ。毎回同じことやるんですけどね、おかしいんですよ。通いましたもん。この師匠、おもしれぇなぁと思ってね。この人だなぁと。

―圓菊師匠を選ばれたということは、古典をやっていこうと?

 古典なんですけど、ちょっとうちの師匠の場合は型破りな古典なんです。
師匠の高座を聞いてて、「あっ!」と思った瞬間があるんです。新宿の末広亭で、『唐茄子屋政談』。かぼちゃをかついで、気弱な若旦那がヨロヨロ出て行くところをね、おじさんが 「気を付けて行くんだよ、いいかい」って見送るところ。その 「気を付けて行くんだよ、いいかい」が、すんごく真に迫ってるって言うか、それまで 「馬鹿なやろうだ」とか言ってた、その最後の姿が見えなくなっちゃうと、本当に心配してね。他の人も同じセリフでやってるんだけど、師匠が言った、その 「気を付けて行くんだよ。いいかい」がね、すごくマジだったんですよ。「あぁ、すごいんだな。この人、優しいんだろうなぁ」って思っちゃったんです。

―学生の頃から圓菊師匠だなぁと思われてたんですね。入門のお願いはご自分で行かれたのではなくて、紹介状を書いていただいたんですか?

 小島貞二先生から師匠に 「こういう子が家に来てるんだけど、頼むよ」と。「じゃ、今度、うちに来させてください」って。

―じゃあ、なかなか会っていただけなかったとか、そういう入門時のエピソードはないんですね。

 なかったです。師匠に 「他の弟子は「弟子にしてください。お願いします」ってのを、断っても断ってもみんな来たんだぞ。だからおめぇ一生懸命やらなきゃダメだ」ってよく言われましたよ。