政党助成は「民主主義のコスト」ではない!!

― 現行選挙制度の選挙結果に連動した政党交付金の配分基準と、 「政治資金の二重取り」の点から ―

政治改革オンブズパーソン 代表 小林 武(南山大学総合政策学部教授)

はじめに

1994年の「政治改革」によって、国民の税金を財源とした政党助成が新たに導入されたが、この政党助成については、憲法がそれを許容するのか否か、あるいは憲法政策的にその導入が適切であるか否かについて、わたしたち「政治改革オンブズパーソン」は慎重に検討する必要があると考える。 しかしこの度、別の声明において、同じく「政治改革」によって「改正」された、衆議院議員の選挙制度が、現実には民意を正確に反映するものとは言い難いとの内容を発表した。そこで、まず、これに関連して、現行の政党助成法が少なくともその配分基準の点で非民主性という重大な欠陥を抱えていることを論点に据えて、現行政党助成制度に批判を加えるものである。 そして、次に、わたしたちが総選挙(6月25日)前に実施した「政治改革についてのアンケート」に対する政党の回答を踏まえて、いまだに企業・団体献金の全面禁止が実現しておらず「政治資金の二重取り」が今後も行われようとしていることについて、再度の批判を付加するものである。

1.民意を正確に反映しない総額・配分方法の問題

政党助成法によると、政党交付金を受け取る資格を有し、かつ受け取るための手続きをした「政党」に対して、人口数に250円を乗じて算出した、政党交付金の総額310億円超を確保した上で、その総額から各「政党」の議員数と得票率(議員数割と得票数割)を基準に政党交付金の配分額が決定される仕組みになっている。 この仕組みは、第一に、選挙権を有しない未成年者や外国人を含めて総額を算出している点で、そもそも民意を反映した算出方法になってはいない。第二に、民意を正確に反映するわけではない選挙制度の選挙結果を基準にしてその総額が各「政党」に配分されている点で、民意を正確に反映して政党交付金が配分されているわけでもない。 第三に、日本共産党のように、政党交付金を受け取る資格を有する政党でありながら一切の手続きを行わないため、当該政党の分がその他の「政党」によって山分けされている点で、さらに第四に、前国会において比例代表選挙で選出された議員の党籍変更が禁止されたものの他の選挙で選出された議員の場合には党籍変更が放任されたままである点で、それぞれ同様の問題を抱えている。 以上の4つの問題点の重要性は、できるだけ民意を正確に反映する方法、例えば、衆参両院議員の各比例代表選挙における各「政党」の得票数を基準に政党交付金を配分した、別紙における私たちの試算からも、一目瞭然である。この試算が、顕著に示しているように、民意を正確に反映する比例代表選挙における各党の投票数を配分基準にした計算方法によると、政党交付金の総額は、現在のそれより200億円近くも減額されることになる。言い換えれば、受給「政党」は全体で200億円近くも過剰に給付を受けているということが明らかになるのである。 したがって、現行制度による政党交付金の配分は、民意を正確に反映して行われたものとは言えず、その意味で、「民主主義のコスト」にふさわしい配分とはなっていないという重大な欠陥を抱えている、と断ぜざるを得ない。 もっとも、わたしたちは、試算における計算方法が申し分なく全面的に民主的なものであり、本来採用されるべき計算方法である、と主張しているわけではない。というのは、たとえ比例代表制を採用したにせよ、国政選挙における投票者がすべて投票先の「政党」に政党助成したいと考える者ばかりではなく、国会議員に送り出すなら「この政党」に投票しようと思っていても、政党助成するなら「別の政党」にしたいとか、そもそも政党助成は「どの政党」にもしたくない、と思う投票者も存在するからである。しかし、現行制度の下では周知のようにこのような投票者の意思は全く尊重されていないのである。 要するに、わたしたちの試算で判断しても、現行政党助成法は、政党交付金の配分基準の点で「民主主義のコスト」を賄うとの建前に反することは明らかなのである。したがって、このような制度はこれ以上存続させてはならない、と結論づけざるを得ない。

2.「政治資金の二重取り」放置の問題

次に、現行政党助成制度が企業・団体献金を全面的に禁止しない中で継続されようとしているという問題点を取り上げる。これについては、すでに今年4月末にも声明を発表して批判しておいたが(参照、「憲法研究者による『政治改革オンブズパーソン』結成と声明」『法律時報』893号(2000年6月号)83‐85頁)、総選挙直前に実施した「政治改革についてのアンケート」に対する政党の回答を踏まえて、改めて批判を加えておく。 当時の政党助成導入の根拠は、政治や選挙をクリーンにするために企業・団体献金を禁止し、その代わりにこれを税金で賄う、というものであった。税金による政党助成によって政治や選挙がクリーンになっていないことについては別の声明で指摘したとおりであるが、ここで特に確認しておきたいことは、少なくとも当時の「政治改革の原点」として、日本の政治腐敗の根源に企業献金があるということを共通の前提としていた、ということである。 つまり、そもそも企業・団体献金は、政治腐敗の温床となってきたので、政党助成を新設した結果として「政治改革」のときに禁止されるはずであった。その是非はとりあえずおくとして、これが、当時の「政治改革」を支持した国民の多くの理解であり、「政治改革」を推進した政党の「公約」とでも言いうるものであった、と解されるのである。 ところが、それに依存しつづけてきた政党が即座に禁止することに抵抗を示したために、5年間の猶予が与えられたうえに、周知のように、法律の施行から5年後の2000年になっても、資金管理団体へのそれを禁止するにとどまり、政党へのそれまで含めた企業・団体献金の全面的禁止はいまだに実現されてはいない。 それどころか、政治資金規正法における政党への企業・団体献金の「見直し」規定を削除する法案が、廃案になったものの、前国会に提出されたほどである。また、わたしたちが総選挙前に実施した「政治改革についてのアンケート」に対する回答においても、企業・団体献金の禁止を明確又は暗黙に表明する回答(共産党、新社会党、社民党)が存在したものの、企業・団体献金の存続を明確又は暗黙に主張する回答(自由党、政党自由連合、自民党)、立場を明確に表明しない回答(民主党)、政党助成の増額が実現しない限り廃止しない旨の回答(保守党)さえあった。その上、アンケートに対して一切回答しない政党(公明党、改革クラブ、無所属の会)もあった。「公約」の重みを理解しない回答・態度であったといわざるを得ない。 以上のような今日の事態は、「政治改革の原点」をうやむやにしようとするものにほかならない。前述したような問題を抱える政党助成制度をこのまま存続させ、また、企業・団体献金の全面禁止を実現しないことは、明らかに「公約」違反であり、「政治資金の二重取り」として、わたしたち「政治改革オンブズパーソン」はこれを再度厳しく批判するものである。そして、与党であれ野党であれ現在の議会内政党が責任政党を標榜するのであれば、速やかに国会で適切な法的措置が講じられることを強く要求するものである。

2000年7月7日(金)

以上。

◇政治改革オンブズパーソン「声明」『法律時報』72巻9号(2000年8月号)に掲載。

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