Q2 地方公共団体と国の間で生じた紛争は、どのようにして処理されるのですか。

(1)国・地方の関係は対等

 地方公共団体は「その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定する」(憲法94条)権限=「自治権」をもちます(94条)。

 地方公共団体は国(中央政府)の下部機関でも出先機関でもなく、国と対等で独立した法人(法律上の権利・義務の主体となる団体)です。ですから地方公共団体の自治権は、国との関係においても十分尊重されるべきものです。自治権の行使をめぐり地方公共団体と国との間で意見の対立が生じた場合、国の見解が常に優先するということにはならないのです。

(2)自治権保障としての訴訟

 国が地方公共団体の自治権を侵害しているのではないか。このようなとき、両者間で話合っても解決しないなら、裁判所を活用することになります。

 これまで日本の裁判所は、地方公共団体が訴訟を起すことに消極的な姿勢をとってきました。しかし地方公共団体が裁判所に救済を求めることが認められなければ、自治権は実効性を失ってしまうでしょう。ドイツやフランスでは、地方公共団体が裁判所に訴えることは、当然の権限とされています。またヨーロッパ地方自治憲章(11条「地方自治体は、その権限の自由な行使及び憲法又は国内法に定められた地方自治の原則の尊重を確保するために、司法的救済に訴える権利を有するものとする」邦訳は杉原泰雄編『資料現代地方自治』)や世界自治憲章草案もそれを確認しています。

(3)訴訟の種類

 現行法制上、自治権保障のための訴訟にはいくつかの類型があります。

 @主観訴訟(抗告訴訟)

 一つは、公権力によって侵害された権利利益の救済をはかることを目的とした裁判=主観訴訟(抗告訴訟)の活用です。地方公共団体が国を相手に抗告訴訟をおこすことを肯定する見解は、支配的学説といってよいでしょう。

 抗告訴訟の一例として、日田サテライト事件(大分県別府市が同県日田市内に場外車券売場を設置しようとした件で、日田市が、通産大臣の行った設置許可処分の無効確認を求めた事件)があげられます。しかし一審の大分地裁は、日田市の法律上の利益が侵害されるとはいえず、日田市は裁判の原告になれないとしました(2003年1月28日)。

 古い街並みが残され、また毎年春になると雛人形があちこちの旧家で飾られる日田は、わたしが好きな町のひとつです。ここに車券場のようなギャンブル施設が建設されれば、まちづくりに大きな制約がかかり、また市が相当の財政的負担を負わなければならないという事態も予測されます。

 法律上の利益がないから原告たりえないという地裁判決は、日田市が負うであろう損害をせまく解した点で疑問も残ります。ギャンブル施設建設による自治権侵害の有無について、裁判所は実態まで踏み込んで審理を尽くすべきではないでしょうか。なお、のちに別府市が車券場設置を断念したため、日田市は訴訟を撤回しました。

A客観訴訟(機関訴訟)

もっぱら法律の公正さの保障を目的とした、客観訴訟を活用する手もあります。地方自治法(99年改正)は、地方公共団体が国を相手におこす客観訴訟(機関訴訟)の手続を具体的に定めました。

 しかし裁判に入るまえに、総務大臣が任命した5人からなる「国地方係争処理委員会」(以下、委員会)の審査を受けなければなりません。地方公共団体は、国が行った関与に不服があれば、委員会に審査の申出をします。審査の結果、関与が違法などであるなら、委員会は国に対し必要な措置を行う旨の勧告などを行います。

 現在までこの委員会で紛争処理がはかられたのは、横浜市勝馬投票券発売税条例事件(横浜市が馬券発売税を新設したが、総務大臣が不同意としたので、横浜市が、総務大臣は同意すべきである旨の勧告を求める審査の申出をした事件)が唯一の例です。

 委員会は総務大臣に不同意を取り消し、横浜市と改めて協議するよう勧告しました(2001年7月28日)。そしていま(2004年3月)も形式上は協議中の扱いのままです。

 委員会の審査結果や勧告に不服がある場合などは、地方公共団体の長が原告となって、国の行政庁を被告として機関訴訟を提起することができます(この訴訟は国側から起すことはできません)。裁判の一審は、原告が所属する区域の高等裁判所が担当します。

(4)いくつかの課題

 国と地方公共団体との間の法的紛争処理の手続が、どう定められているかを紹介してきました。さいごに憲法の観点からコメントをします。

 @裁判によって自治権を守ることは、それなりに有効だと思います。裁判所の姿勢および現行訴訟制度について、「地方自治の本旨」(憲法93条)との関係で批判的検討が必要です。

A地方公共団体が、別府のようにギャンブルに依存したり(お台場カジノ構想なんてのもありましたね)、横浜のように新税構想をたてる背景には、地方財政の疲弊・破綻状況があるのです。地方自治を実現するために、権限にみあう税財源の配分が必要であることはいうまでもありません。

 B新制度はまだ積極的に活用されていません。委員会の審査を義務づけた点など、地方公共団体にとって使いづらい面があるようです。また地方公共団体が国を相手に訴訟を遂行するには、職員の法務能力のいっそうの向上が欠かせないでしょう。

参考資料(本文中で示したもの以外)

国地方係争処理委員会のサイト(http://www.soumu.go.jp/singi/iinkai/index.html
『地域政策』第9号(特集「地方自治と司法判断」)所収論文
木佐茂男『「まちづくり権」への挑戦―日田市場外車券売場訴訟を追う』

永山茂樹