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はじめに

藤原 勝

 原因不明でいちど罹患すると根治が難しく、治療が長期に及ぶものを社会通念的に難病と言っています。ではどうすれば良いかですが、いちばん良いのは病気に罹らないことだと思います。これがわかれば、すでに罹った人でも、予防から治療に導ける方法が見えてくるかもしれません。とはいっても、ほとんど原因も予防もわからないから難病なのですが。それでも炎症性腸疾患の場合、そのヒントになることはいくつかあるようです。2007年度京都市委託医療講演会での仲瀬先生の環境因子をテーマにした話は、そういった意味でたいへん興味深いものがありました。

 特に最近いろいろなことで言われるようになってきたのが、衛生管理が行き届き身の回りがきれいになったことによる落とし穴です。きれいになるのは良いことですが、行き過ぎると人間の免疫力が低下してアトピーやいろいろな病気になりやすいといわれるようになりました。今や洗剤から消臭剤、靴下に至るまで、企業の「きれいはお金になる」という商魂に煽られて除菌、殺菌、抗菌は一種のブームのようになっています。10年ほど前に病原性大腸菌O157が出現して以後、学校給食の衛生管理も行き過ぎではないかと思えるほど徹底されるようになりました。しかし、O157は、米国、日本、イギリス、カナダなどいわゆる先進国だけに出現し、インドネシアやフイリピンなどの発展途上国にはまったくといっていいほど出現しなかったそうです。大腸菌がお腹の中にちゃんといれば、O157を飲み込んでも発症しないそうです。そういえばビフィルス菌などの善玉大腸菌には炎症性腸疾患などの病気を抑える作用があるといわれています。しかし、プロバイオティクスだとかいってサプリメントやヨーグルトで大腸菌を食べて、一方で除菌だ抗菌だといったグッズを使っているのも、どこか矛盾しているというか笑い話のように思えてなりません。

 また、殺虫剤も今は農地だけでなく、街路樹や公園、ビル、学校、電車、バスなであらゆるところで使われ、化学物質過敏症の人も増えているそうです。国土交通省の電車内の殺虫剤、消毒の実態調査(06年)では、毎月定期的に殺虫剤を散布する電鉄会社が75%もあります。はたしてそんなに殺虫剤を使うほどダニなどの害虫がいるのか疑問です。散布をしていない業者は、その理由を「特にダニなどの苦情はないから」としています。

 それから私たちは大人から子どもまで、あまりにきれいな社会を求めるあまり、汚いものは目につくのもいやといわんばかりに排除するようになっていないでしょうか。こういった潔癖や画一的なものを求める社会は、障害や難病を持つ者にとって居心地はどうなのでしょうか。いや、障害や難病者だけの話ではありません。

 今、「超清潔症候群」や「プリック病」、「自己臭症」といった心の病が増えているそうです。私たちは文明の進歩にともなって、「より清潔な」「より快適な」「より便利な」環境を作り出してきましたが、「きれい」もほどほどぐらいが良いのかもしれません。

 ちなみに私は、自分の部屋を春の連休と年末の年2回ぐらいしか掃除をしない、めったに手も洗わない不精ものなのですが、それでもUCになりました。炎症性腸疾患予防のヒントはいろいろありますが、原因は一つとは限らないので実際の予防法に結び付けるにはまだ難しいようです。しかし、そういったことが少しずつわかってきただけでも前進しているように思います。

 

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